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第一話

注 これは6月を擬人化した小説です。決して、この月の生まれの人の性格判断ではなく、登場人物に月のイメージを独断と偏見で重ねたものです。



 水無月さんはため息をついた。薄暗いバーのカウンターで一人カクテルを飲む彼女は梅雨時の空の色のようにドンヨリとした空気を発していた。


「今日は特に暗いね。水無月さん」


「仕方ないでしょ。私なんか月のほとんどが梅雨よ。ジメジメして、かび臭くて、みんな俺を嫌っているはずよ。おまけに湿気が多いから髪に癖がついて直らないのよ」


 この時期は特に酷い落ち込み方を見せる水無月さん。そんな彼女の髪の毛はピョコンと立っている。


「でも、水無月さんは肌質がいいって評判だよ。乾燥肌で悩んでいる子も多いのに」


「湿気を含んでいるのが肌だけならね」


 そう言って、水無月さんはため息をついた。彼女の場合、肌以外に性格も多量の湿気を含んでいるらしい。そして彼女はテーブル席に座るグループを悩ましげに見つめた。テーブル席では五月病を抜けて本来の明るさを取り戻した皐月さんが、陽気に仲間たちと飲んでいた。


「彼女はいいわよ。いくら五月病があるとはいえ、みんなに愛されるゴールデンウィークがある。それに引き替え、私は・・・・」


 本当に梅雨時の空のような落ち込み方だ。


「でも、梅雨の雨は農作物に必要なものだし、みんな恵みの雨だと思っているさ」


 僕はフォローのつもりで言った。しかし、水無月さんの憂鬱はもっと根深いものだった。水無月さんは僕に冷たい視線を向ける。


「私だけ・・・」


「は?」


「私だけ、祝祭日がない・・・・」


 確かに6月には祝祭日はない。8月は大半が夏休み、社会人にとっても盆休みという長い休みがあるので、本当に休みと呼べるものがないのは彼女だけになる。


「でも、それって、そんなに重要なことかな?」


「この重要さが分からないこと自体、私が期待されていないことの証じゃない?」


 僕は月ではないからよく分からないが、これは彼女にとってはとても重要なことらしい。まあ、他の月にあるのに自分だけないのは疎外感があるのかもしれないが。


「でも、僕は嫌いじゃないよ。6月だって、いいじゃないか」


 僕はフォローをする。しかし、水無月さんは眉を寄せる。


「例えば?」


「例えばって、・・・・まあ、そんなもの、例に出すようなことじゃないさ」


 苦し紛れの言葉では全くフォロー出来ないらしい。僕は頭を抱えた。そして、僕は周りを見てみる。こういう場合、誰か、頼りになる月はいないだろうか?すると僕の目にやけに陽気に映る月があった。


「見なよ、葉月さんはまだ先の月なのにあんなに明るいよ」


 皐月のテーブルで8月の葉月さんが陽気にはしゃいでいた。


「知らないの?ゴールデンウィーク後、すぐに観光地のホテルは夏休みの予約がかなり入るのよ。今のうちに予定を立てとかないといけないんだよ」


「そうなのか・・・・」


 そうなると、水無月さんが先の月よりもテンションが低くなるのは仕方ないのか。


「大体、6月はイベントが全くないんだよ!」


 水無月さんはそう言って、カウンターを叩いた。そんなことはないとは思うが、しかし、今の水無月さんはかなりナーバスになっているようだ。ここは慎重に言葉を選んだ方がいいかもしれない。


「そうだ、6月と言えば、父の日があるじゃないか」


 これはいいかもしれない、そう思ったのだが、見返した水無月さんの目はまだ冷たかった。


「父の日なんて、母の日と比べると地味で、ついでみたいなものよ」


 それは言いすぎだと思うが、少し否めない気もする。今の日本は何だかんだと言っても、父に対する尊敬の念は弱くなっているのかもしれない。それに若い女性にとっては父の存在は煙たいだけの相容れないものなのかもしれない。


「でも、冬とかに比べると暖かいし、日も長いし、いいことだと思うけどな。それに夏至も6月だ。一年で一番、日が長いなんてすごいじゃないか」


 しかし、それにも水無月さんは眉を顰める。


「今日は夏至だから、何かイベントをするの?ケーキやご馳走を食べたり、プレゼントをもらったり、若い男女がホテルで部屋をとってデートしたり」


 そこまでやったら、クリスマスだ。降誕と言えば、ダミアンしか思い浮かばない6月には厳しすぎる現実だ。


「秋分や春分は休むのに、夏至や冬至は休まない。夏至は冬至のようにパンプキンすら食べないのよ!」


 何故、そこでカボチャと言わずにパンプキンなんて言ったのは定かではないが、確かに意識しないとスルーされそうなのが夏至だ(ちなみに6月21日、今日である)。大体、今年は台風が来たおかげで空は薄暗く、本当に一番、日が長いのかもよく分からないくらいだ。


「でも、雨が降らなければ快適じゃないか」


 僕は話を切り替える。夏至では問題の解決にならないからだ。しかし、それにも水無月さんは渋い顔をする。


「降らなければ降らないで、農作物に影響が心配されるって、恨まれるんだよ。基本的には夏だから、晴れれば真夏日になって、暑さになれていない人からすごく文句を言われるんだよ」


 どこまでもマイナス思考。外が雨だから、余計にそう感じてしまうのだろうか?僕は腕を組んで何かいい方法はないか考える。

そして僕はあることに気づいた。これならば、水無月さんのマイナス思考を解消する絶好のアイデアを。


「水無月さん、明日、僕に付き合ってくれないか?とてもいいイベントがあることに気づいたんだ」


 僕がそう言うと、水無月さんは疑う目をしながらも、少し期待の色も見えた。

 

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