如月の憂鬱2
結局。
朝目覚めると、ふわふわの髪の毛が私の腕を掠めている。
セミダブルの小さなベッドでなぜこの新人類と共に寝ているのか。とため息をつくのももう2回目か。
凛々しいまつげと長い睫毛、綺麗な鼻筋に少し厚めの唇。
今時の女子高生がこれを見たら、きゃーっと騒いで卒倒でもするんじゃないかと思う。まるで作り物の綺麗さだ。
泣けるだけ泣いて、何年かぶりの涙を出し終えたら、急に眠くなってしまって、こいつを放って眠りについた記憶がほんのりある。
飲み過ぎだったことにでもしておこう。
世間では今日は月曜日だけど、土曜出勤の振替で久しぶりの平日休みでよかった。私としたことが、アラームさえかけ忘れていた。
いろいろなことをぼんやりと考えながら、新人類のくるんと丸まった髪の毛を1本指先で捕まえて、ピーンと伸ばす。
手を離すとまた、くるりん、と緩やかなウェーブに元どおり。
なんの意味もないことを、何本か続けているとその悪戯な手をガシッと掴まれた。
「なに、。誘ってんの?」
「?!いやいやいやいや」
全くもって誘っておりませんけども。
寝ぼけているのか、凄まじく不機嫌な顔で私の両目を覗き込む。
「如月」
そう呟いて、またプシューと空気が抜けたように眠りに入って行った。
私の右腕を掴んだまま。
いつのまにか二度寝をしていたらしく、目を覚ますと隣にあいつの姿はなかった。
ホッとした気持ちと、妙に落ち着かないような気持ちが押し寄せてくる。
だから、誰かに近づくのは嫌なのだ。
、、今日、休みって言ってたのに。
明らかに寂しさを感じている自分に戸惑いながらもシャワーを浴びて、顔を洗い、歯を磨き、バスタオル一枚で居間に戻ると、
「ぎゃー?!!!」
「え?!!?!」
そいつは、いた。
「なななななんで」
「小腹がすいたから、コンビニ行ってくるってメッセンジャーしといたでしょ」
「し、しらん、しらない!」
自分の家なのになんでこんな壮大なドッキリを与えられなきゃならないんだ。
そして洋服箪笥はどうやっても居間にある。これは紛れも無い事実であって、あいつの存在が邪魔以外のなんでもない。
「なんだー。意外とあざとのね♪如月ちゃん」
そういってジリジリと近づいてくる通称イケメン若手俳優。
ーー ああ、殺意しか生まれない。
「こ、これ以上近づいたら、、!」
「近付いたら?」
話し相手が私でなければこれはまるで映画のワンシーンのような見事なまでに相手を苛立たさせるタイプのヒール役で。
素直に綺麗な人、と思った。
「今後一切ご飯作ってあげない!!!」
よし!言い切った私!
「えーーーー!それはまじでしんどい。如月飯なくなるの勘弁です」
「じゃ、じゃあどっかいっててよね!」
「へいへーーい」
咄嗟に条件を出したけど、条件を飲み込まれたけど、いやこれ私が今後もこの人類と関わること前提じゃないか。
とりあえず着替え、、。
いらぬドッキリを一人暮らしの家でかけられ終わったあとは、「さっきご飯作ってくれる的なこと言ったよね?だから俺は見逃したんだよ?」
というただの悪魔じみた人類のしもべと化して朝飯を作らされた。
高級スーパーで買ってきたであろう赤卵を使ったオムライス。我ながらなかなかの出来栄えである。
その間もテレビをぼーっと見たり、私の後ろをうろちょろと動き回ったり、そこにいるのが当たり前のように振る舞う新人類。
「はい」
コトン、と今のテーブルにオムライスを運ぶ。
「うわー!家オムライスとか子供ぶりかも。文字書いていい?」
「子供か」
とりあえず突っ込まずにはいられなかったけど。
【かくれセクシー】
と、ケチャップででかでかとオムライスを汚されわりかし全力でげんこつをお見舞いしてやった。
「いや、悪意ないから。褒め言葉だから!!」
といいながら、ケラッケラと笑う新人類。
この慣れない情景いつまで続くんだろ。というかそもそも何でこんなに我が家に懐いているんだろう。
久々に自宅で過ごす自分以外の人との休日に数々の疑問を浮かべながら、ブランチ時は流れ過ぎていった。