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裏曜日  作者: 若ハゲ
3/6

『デジャヴ様』――得体のしれない何か

「はい、事情は分かりました。体調もすぐれないとのことですので、お大事にどうぞ」


 学校へ、体調不良と電車の事故の件で目撃者として警察にお世話になっていることを伝え、事情聴取に戻る。電車の事故について学校側は把握してまだ間もなかったのだが、日和があとから聞いた話によると、すぐに職員会議が開かれ、テストの延期と事故の被害にあった生徒とその家族の状況確認のために一週間の休校が決定されたらしい。

 予知のようなデジャヴを認識し、日和は体調を崩したまま電車の行方を確認しに向かった。結果はデジャヴとほぼ同じ事態になった。違う点といえば日和が駅に残っていることのみで、デジャヴで認識したのと同様に乗り遅れた者はいなかった。日和が乗車しなかったことによる事故発生時の車内の人の動きの変化はあっただろうが、与り知るところではない。崩落を確認してすぐ、力の入らない手で携帯電話を取り、震える声で通報、いち早い通報のおかげで救助活動もすぐに開始された。消防や自衛隊、警察が到着後、テロの可能性があるとして日和は警察に保護され、現在に至る。日和への嫌疑もあったが、動機がないこととアリバイがしっかりしていること、技術的なことなどを鑑みてすぐに解消された。


「登校のため徒歩で駅に向かう途中吐き気を催し路端で嘔吐、ホームへ到着後トンネルの崩壊を目撃し通報。間違いないですか?」

「……はい、間違いありません」

「はい、もう大丈夫です。ご両親への連絡もしましたのでじきに迎えに来ると思います。それまでは少し窮屈かと思いますがこちらに待機していてください」


 事情聴取が終わり、拘束から解放される。吐き気の原因が事故を予知したデジャヴで、それを確認するためにわざわざホームまで向かった、ということは説明せず、たまたま体調を崩し、そのおかげで電車に間に合わず事故を免れたと説明した。デジャヴのことを話したところで錯乱していると思われるか精神鑑定を受けることになるかするだけだろうと思い、それを隠したところで違和感は全くないので日和は説明することを避けたが、実際警察側からも特に深く追及されることはなかった。


 死者三十余名、負傷者百余名。日和が回避した事故の顛末である。崩落したトンネルは当然のごとく封鎖、原因究明と解体、再整備にかなりの時間がかかるようで、その間はバスで代用することが決定された。幸いにも日和の通う学校の生徒に負傷者は出たものの死者は出なかった。一週間の休校期間で把握できた分では、生徒とその家族には死者はおらず、学校が再開したころには満足に生活ができる程度には快復していた。そういった内容の休校開けの全校集会のお話が、日和の耳には右から左といったふうにてんで入らなかった。頭にあるのは臨場感のあるデジャヴなのか予知なのか、得体のしれない現象だけである。あの現象のおかげで事故が回避できたのは事実であるが、自身に何が起こったのかがまったく分からず、事故当日からずっとそのことで頭を抱えている。『デジャヴ様』について知っている家族と親友にも今回のことは話していない。気味悪がられるのが怖かったからだ。あの体験は今までの『デジャヴ様』の説明とはまるで食い違う。そんなことを話しでもしたら今度こそ精神病棟に隔離されてしまう。何が起きたかを知っているのは自分だけ、それでいい、と結論付けた。他人と共有できないのは確かに辛いが、昔発狂したときに比べればなんてことはない、成長もしている、大丈夫だと言い聞かせて強引に落ち着かせた。

 事故を経験した人々の中には、電車を見ることすら出来なくなった者、視界に入れることはできても乗ることは出来なくなった者など、PTSDに陥った者が一定数存在した。そうまでいかなくとも、電車やトンネルそのものに対する疑念が生まれ、信用しきれなくなった者も増加した。日和はそういった者のうちの一人であるとカテゴライズさせ、頭を抱えていることとその内容について誤魔化した。それを疑う者はいない、いるはずもない。一歩運命が掛け違っていたら死んでいたかもしれない身なのだ、無理に干渉しようとする人間はいなかった。

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