エクストラコードⅠ
「あぁ、今日もいろいろあったなぁ」
今日も退屈しない一日が続いた。僕はこの世界に来てから疲れなかった日はなかったと思う。今日も今日とて朝からアクシデントがあり、昼からはラピュアの特訓と。とにかく暇な時間はなかったわけじゃないが、この世界に来る前とは大きく生活スタイルは変わっていた。
「今日も疲れたし、寝るか」
僕は寝床に入ろうとしたその刹那。
「…イチャイチャイチャイチャしやがって…!」
…!
幻聴だろうか。何かが聞こえた気がする。
「…私というものがありながら女をこんなに作りやがって…」
「だ、誰だ!」
僕は虚空に向かって叫ぶ。
「う・し・ろ」
後ろを振り返ると、まだ幼い青白い光を放つ幼女の姿がそこにあった。
「ぎゃああああああああああああああああ!」
「あははははははあはっははははははは!」
その幼女には見覚えがあった。僕をこの世界に拉致した張本人だ。
「脅かすなよ…」
「ごめんごめんすごくイライラしてたんでつい」
紅色のツインテールを揺らし、窓から指す月光を受けて僕のベッドの上へとおりったた幼女は全身泥まみれだった。
「私のこと、覚えてる?」
「あんた誰?」
「許さないよ!最初に出会ったメインヒロインのことを忘れたとは言わせないよ!」
僕の頬を両手でつねる自称メインヒロインさん。痛い痛い痛い。
「痛い痛い痛い、覚えてます02さん」
「よろしい」
幼女は手を放して話す態勢に入る。
「まったく、兄ちゃんったらひどいんだから、人を置いていったと思ったら女まで作ってるんだから!」
「女を作ったって…そりゃあ僕だって男だし」
「この女たらし!」
「はいはいすいませんね幼女様」
「幼女言うな!」
僕はこの世界に来てからこの子と対等に渡り合えるようになった気がする。きっとこれも僕がこの世界で培ったコミュニケーション能力の賜物だ。
「で、僕が君を置いて行ったってのは初耳なんだが。むしろ僕を置いて行ったのは君のほうじゃないのか?」
「…むぅ、じゃあこれを見ろ」
幼女は青白い光を発し、僕の視界を光でフェードアウトさせる。
そして視界が戻ったころ、幼女の代わりにそこにあったのは…
青白く光る立方体だった。
「ふふん、これが私の別の姿、石ころモード!」
「ダサいネーミングだな」
「わかりやすくていいでしょ?」
もっとまともな名前があんだろ…〇○○インキューブとか。
「ああ、もしかして君がコード?」
「そう。私が兄ちゃんのコード。本当はこの世界に来た時にいろいろ教えるはずだったんだけど、兄ちゃんが私を置いて行って…」
しくしく泣くふりをする。さっきからコイツの感情の変化がすごい。
「はいはい悪かったって、でも来た時だって見つからなかったぞ?」
「砂に埋まってた」
「出て来いよ」
「寝てました」
「…」
「…」
これはお互い様だろ。
コードは幼女モードへと姿を戻し、こう言った。
「この姿ってかわいい天使でしょ?だから維持に体力使うの。砂漠で何日も耐えるなら石ころモードのほうがいいかなって」
「で、砂に埋まったと」
「そういうこと。置いて行かれたのがわかったのは2日後くらいかな。それから自分で移動し始めたんだけど」
「…で、色々聞きたいんだけど」
「どうぞどうぞ」
「僕の能力がたまにしか使えなかったんだけど」
「Oh,それはだねぇ、私が寝てたから☆」
「は?」
すんげぇ僕が能力を使えなかった理由がどうでもいいことなんだが。
「実はね、能力はコードを媒介に発動させているんだね」
「うん」
「まぁ私は兄ちゃんの能力の触媒みたいなものかな」
「僕の能力の発動を助けるみたいな?」
「まぁ、そういうことかな。燃料タンクだと思ってもいい」
「燃料タンクねぇ」
「実は兄ちゃんの心臓にもコードの一部が刻まれているんだ」
「そうなのか」
僕は自分の胸をさすってみるが、何もわからない。
「そのコードはね、命の危険に遭ったときに自動発動するようになってるんだ」
「なるほど、だからあの時も…」
オオカミの時にうまく能力が作用したのも頷ける。
「それでも能力が使われるたびに私の体力が持っていかれちゃうんだよね」
「そうかい」
「で、私、今とても腹ペコなの。何か食べ物とか水頂戴」
しかし僕の部屋に食べ物はない。あげられそうなものは何一つないわけだが…
「ガブッ」
なんと幼女は僕の腕めがけて噛みついてきた。
どんだけ腹減ってんだコイツ。
「ふぁふぇふぉふぉふぉふぉふぇ~(食べ物よこせぇぇ)」
「は、離れろ!痛い痛い痛い!」
だからと言って人の腕に?みつく奴がいるか?
僕は腕ごと幼女を部屋の壁にたたきつける。
「アババババババババババババババ」
案の定幼女と僕の腕は壁を貫通したのだが、幼女が悲痛な叫びをあげる。
「ったく兄ちゃんは人の説明を聞いてた?能力使われると私の体力が持っていかれるんだよ!」
「へー、知らなかった(棒)」
「ちなみに能力使いすぎるとどうなるんだ?」
「私の肌がカサカサになり、げっそりした状態になるね」
「じゃあいいか」
「よくないよ!そんな幼女を連れていたら道行く人々に変な目で見られるのは、兄ちゃんだからねっ!」
「知るかよ!しかも自分で幼女って言ってるし…」
「ふんだ!こんなかわいい美少女を連れていながらも他の女にまで手を出すなんてね」
「これは僕の真の実力だからな」
「前の世界のこと私知ってるんだよ?」
「前の世界では努力していなかっただけだ」
努力する気もなかった。前の世界はヒロインという概念が存在しない退屈な世界だからな。
「はいはい、おでこ出して?」
「ん?こうか?」
何やら儀式っぽいものを行うのだろうか。幼女は小さなその手を僕の額へと当ててくる。
おそらく能力開放の儀式か?これはわくわく。
僕は期待を胸に目を閉じる。
バチィ!
静電気のようなものが僕の額を走る感覚と、僕の体の力が抜ける感覚を受けた。
とにかく体に変化がある手ごたえがあった。
「終わったぞ」
「何をしたんだ?」
僕は期待を込めてうれしそうに聞く。
「兄ちゃんの生命エネルギーを吸い取った」
「何してくれとんじゃぁ!」
何この幼女殴りたい。
「だって、おなかすいてたんだもん!兄ちゃんはいいの?こんなにキュートな私がカサカサになっても」
「知るかよ!返せ!」
「やーだよーだ!」
「このっ!」
僕は幼女を掴もうとすると、案の定幼女の体を透ける結果になった。
「兄ちゃんは感情のコントロールがまだできていないみたいだね」
「コントロール?」
「そう。感情の変化によって能力が誤作動しちゃうときがあるんだ」
「へぇ」
「試してみる?」
嫌な予感がしたが、僕は首を縦に振った。
「兄ちゃん手を貸して」
僕は僕の手を幼女へと差し出す。それを幼女がその小さな手で握る。
何が始まるのかと思ったが、幼女は僕の手を自分自身のちっぱいへと近づけ…
「おわっ!」
「ね、透けたでしょ?兄ちゃんが興奮したり気分が高まると勝手に発動しちゃうんだ」
「べ、別にコーフンなんかしてねーし!」
「ふふん、本当は私みたいな子がタイプなんでしょ」
どや顔で迫ってくる幼女…。
「誘ってるの?」
「叫ぶよ?」
…。
いったい何がしたいんだコイツは。
「で、感情のコントロールというのは意識すればいいの?」
「うーん、そうだねぇ。まだ兄ちゃんとは完全に契約しきっていないんだ」
「契約?」
「うん、私と契約を結ぶの。そうしたら不自由なく能力が使えると思うよ」
「不自由なく能力が使えるようになると」
「うん。私を撫でて」
「何をいきなり」
「いいから」
…。
僕は手をぽんと幼女の頭に置く。
「こ、こうか?」
「そのまま動かして」
ワシワシワシ…
「ひゃぁん!」
「へ、変な声上げるんじゃないよ!」
「あぁぁん!」
すると幼女は突然発光し、先ほどの青白い光を辺りに撒き散らす。
僕の目が慣れた頃には幼女の姿はそこにはなかった。
「?」
『兄ちゃん、成功だね』
「心に直接語り掛けないで!」
『聞こえますか』
「うわ気持ちわるっ」
幼女の声が脳に直接語り掛けてくる。この状態は前にもあった。
『えっへん、私は今兄ちゃんの脳の中にいます』
「えっへん、じゃねぇ!気味わりぃよ!早く出て行けよ!」
『まぁ嘘なんだけど。本当はそこにいるよ』
「それはそれで気味悪いぞ」
『大丈夫、すぐに終わるから。コホン』
一体何が始まるんだ?
『問おう、貴方が私のマスターか…じゃなかった』
どこぞの王かよ。
『我、汝の道標たる者なり、汝はその力を身にまとい闘う王となる器であるか』
「…はい、でいいのか?」
『ではここに契約の印を刻む。』
…何も起こらないぞ?
一人で何かが起きるのを待っていると、目の前に再び青白い光が起こり、それは幼女を容どる。幼女は再び僕の前に現れた。
「これで契約完了。これで兄ちゃんの体の内側には私のコピーが彫られたよ!」
「内側ってなんだよそれ、何も感じなかったぞ」
内側ってさっき心臓だけだったから内臓とか胃とかに掘られたのだろうか。異常すぎる契約印だな。
「痛くしてほしかった?」
「いやいいです」
「この状態なら私のエネルギーの消費もないから存分に能力使えるんだよ」
「試してもいいか?」
「もちろん。自分がすり抜けたい、って思ったものは全部抜けられるよ」
僕は部屋の壁に触れてみる。壁はないもののように感じられた。もはやそこに存在していないものかのように。
「こんなにスムーズに行けるとは思わなかった」
「えっへん、なんてったって私のコピーなんだからね!大切にしてよね!」
「まぁ、なんというか、ありがとう」
「もっと褒めるがよい!」
「わーえらいえらい」
机の上に立ってどや顔で指を天に突き立てている。きゃースカートの中身みえちゃうー。
「それで、気になったことがあるんだけど」
突然シリアスな表情に変わった幼女が僕を見て突然話題を振る。
「ん?」
「兄ちゃんの体に既に何か彫られていたんだよね」
「どういう意味?」
「わからない。でも私のコピーができなかったわけじゃないから安心して」
なにそれ怖い。僕実はタイムリープしてたりするの?
「よし、本契約も完了したので、いろいろと説明しちゃいます」
「わーぱちぱち」
「そこ!もっと盛り上げる!」
これでも頑張ったつもりなんだが。
「わーぱちぱちぃ!」
「うん、ではまずはじめ、王の戦争について。」
「大体は知ってるけどおさらいも含めて」
「この世界では6人の王が神の座を目指すために聖戦を繰り広げるんだよ。殺し合いをしてもいいし、降伏をしたり取引をしてもいい。とにかく神になる人を一人決めるんだ。」
殺し合いに限った話じゃないのか。僕は死ぬつもりはないから適当に降伏して降りようかな。
「負けを認めた王は勝者に自分のコードを明け渡すこと。これがルール。6つのコードを集めた者が次の神になれるんだ。」
「コード明け渡すとどうなるんだい?」
「死ぬ」
「へぁっ!?」
じゃあ駄目だ。結局死ぬなら僕は戦わないで最後に漁夫の利を狙うぞ!ニヒヒ。
「神になるとこの世界を自由にできる権利が与えられる。形を作り替えたり、新たな生き物を生み出したり、法則を作り出したりとね」
「絶対神か…」
僕も昔はネトゲで『ゴッド』と名乗ったりしてたっけな。懐かしい。
「簡単に言うとなんでもできる権だね」
「うん、わかりやすい」
そうか、なんでもできるのか。だがやりたいことを考えてもすぐには思いつかない。神になってから決めよう。なれるとは思えないけどね。
「そして神になる以外にもう一つ選択肢がある。それは、元の世界に戻ることができる権」
「そんなの僕には関係ない話だな」
「それもコードを持ったまま帰ることができるんだけど、いろいろと束縛があるからね…みんな神になるほうを選ぶんだ」
当たり前だろう、向こうに帰るよりこちらで一生を過ごしたほうが楽しいに決まっている。
帰る奴は馬鹿だ。
「束縛の内容も知ってるけど、言っとく?」
「僕に関係ないから飛ばしてくれ」
「あいよ、それで次にコードについて」
「02のことか」
「コードはこの世界が作られたと同時に生まれた概念で、この世界にやってきた日本人に与えられる能力なんだ、その能力の種類は人によって様々。ランダムで配分されるんだけどね、兄ちゃんは私を引いたからには勝ってもらうほかないね」
「僕が勝つと02にメリットはあるの?」
「兄ちゃんが勝つと私は偉い大天使になれるのです!えっへん!」
「なってもないのに威張るなよ…」
「ふふん、実はだいぶ前の聖戦で一度大天使になった経験があるのですよ!」
「え、お前使い古しなの?」
「うーん、私であって私じゃないんだ、私と同型の別個体なんだけどね」
どういう仕組みなんだそのシステム。
「で、天使っていうのは?」
「この世界には私たちコードは天使として認知されていて、主に神様のお手伝いをするんだ。聖戦の前に6人が日本に派遣されるんだ。で、自らパートナーを選んでそれを拉致!そしてこの世界に監禁!」
「えげつないな…まぁ僕は良かったんだが」
「そう言ってもらえて嬉しいよ、天使は抽選で誰が選ばれるかわからないからね、今回の聖戦でどの天使が相手だなんていうのはわからない。昔は心理戦だったんだけどね」
「今じゃネットに情報が転がっていると」
「うん、どこからか情報が漏れだしたんだろうね」
「僕が見せたのはまずかった?一回民衆の前で披露したんだけど」
「もう手遅れだね、不利になるよ」
「そ、そうか…」
一度手の内を明かしてしまうと相手は僕の能力に対して対策し放題だもんな。
「で、次の話に行くね、聖戦のことなんだけど」
聖戦のルールとかが聞けるのだろうか。
「聖戦はもう自由にやっていいよ!使えるものは全部使っていい!何やってもいい!」
ああもうルールもくそもねぇ戦争じゃん。
「そんなの悪い王が徴兵制にして国民を使いつぶしてもいいのか?」
「いいよ」
「王同士が戦わなくてもいいのか?」
「それで勝敗が決するのなら」
どうやらかなり自由度が高めらしい。ラピュアに核爆弾作ってもらって5つの国全部壊してしまえば早そう。…ってのはさすがに外道すぎるか。
「以前どこかの王が自分の国以外全部を焼き討ちにするようなことがあったんだけど、それ以来国同士でそういうのは行わないように条約を結んでいるらしいよ。」
「まじか」
僕の考えていることもお見通しってか?
「まぁ破ってもいいんだけど」
「外道すぎるだろ!」
破ってもいいんかい!まぁ最終手段として…ね。
「まぁ大体わかった。つまり何が起こるかわからないのが聖戦か」
「聖戦の方法は各自に委ねられているからね」
「僕2週間後に戦争控えてるんだけど」
「がんばってね☆」
「無責任だな…」
「コードが兄ちゃんから奪われると私は兄ちゃんを倒した人の元につかなくてはいけないの。そんなのは嫌だ!だから兄ちゃんには頑張ってもらわないと」
「そうだな、善処するよ。僕だって死にたくはない」
「チェスで言うなら兄ちゃんはキング。私はクイーン。私は全力で兄ちゃんを守るつもりだよ。」
「そうか、それは心強いな、一緒に…勝とう…!」
僕は手を差し出す。
それを幼女もとい02が握る。
「うん!がんばろう!」
こうして僕らの戦いは幕を開けたのだった…!
これからどんな困難が待っているのだろう、どんな出会いがあるのだろう。
様々な運命が交差する。
それでも僕は生き残りたい。生き残って異世界ハーレムライフを送るんだ!
誰にも邪魔はさせない。といっても努力するつもりはない。
できる範囲でまったりと、いのちだいじに。
無理はしない、それがモットーだ。
これから語るのは僕の本当の戦い………を含めた僕の異世界ライフだ。
僕たちの冒険はまだまだこれからだ!
ご愛読ありがとうございましたはんげしょう先生の次回作にご期待ください。
…なわけあるかいな。