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チート使いの聖戦  作者: はんげしょう
飛龍と騎士とチートと異世界と。
5/7

試験コード


 ―朝。

 目が覚めると午前10時。試練への出発は12時。あと2時間あるが、僕は服装を気に留める。ここ3日間バブル期のようなダサい服を着たままだった。あ、今のは他言無用で。

 さすがに僕の服は洗濯し終わっているだろう。あ、洗われてしまったか。しまった。

 ラピュアの悪戯?によって僕の服はラピュア色に染まっているはずだったが…洗われてしまっていないことを祈りつつ、洗濯室へと向かった。もちろん道を聞きながら。

 洗濯室につくと、そこには丁寧に折りたたまれた各人の服が置かれてある。洗濯室にはカウンターがあり、兵士が何人か並んでいた。

 「3番隊ジョゼフ」

 「はい、こちらでお間違いありませんか?」

 「ああ、いつもありがとう」

 と前にいた兵士が洗濯された衣服を受け取っていた。なるほど、こういう感じか。

 僕は頭の中でどう言うかシミュレーションする。

 『王の小川智也』

 『新王の智也といいます』

 色々と浮かんでくる。

 「あ、王様だね、はいこれ」

 あ、もう順番来ていた。

 「あ、は、はい!ありがとうございます」

 「「ハハハハハハハ」」

 周りの数人の兵士が和やかに笑う。悪い気はしない笑い方だからいいけどな。

 僕の服はもう洗濯されてしまっていた。少し残念だが、洗剤のいい香りがする。

 そして僕は自室に戻った。

 

 自室に戻った僕はバブル期の服から僕の私服へと早着替え。

 「ん?」

 バブル期の服から何かがいくつかコロコロと出てきた。

 「あ」

 出てきたものは先日の晩餐会で一騒動あった時のトリュフだった。回収係に渡し忘れていた。ずっとトリュフをポケットに入れっぱなしだったという…。

 「ゴミ箱ゴミ箱…?あれ?」

 ゴミ箱の姿が見当たらない。昨日の夜は確かにあったはず。

 おそらく清掃が入ったのだろうか。ゴミ箱が回収されてないということもあり得る。

 「これ、どうしようか」

 ゴミ箱がない今、こんな危険なものを部屋に置いておくわけにもいかない。

 とりあえずいつもの僕のズボンのポケットにトリュフを突っ込んでおいた。道端に適当に捨てればいいか。

 僕は昨日の大工事のせいで散乱した部屋を片付けようと思ったのだが、きれいに隅に箱などが並べられていたので、清掃が入ったことを確信した。チップでも置いておいたほうがよかったかな。

 さてと、僕はベッドに腰かけて昨日不正に引き当てた有技能カードを眺める。

 「アイリアたんかわいいなぁ」

 アイリアたんのカードはキラカードでSR。さらにカード性能も強い。

 それに恥ずかしがりながらカメラ目線のアイリアたんプロマイドマジ天使。

 僕は数分間アイリアたんのカードを嘗め回すかのように見つめ続けた。フヒヒ。

 いろいろな角度から見てみるが飽きないなこれ。まさに…

 ドンッ!

 突然部屋のドアが勢いよく開いたと思ったら…

 「入るぞ!」

 と言いながらもう入ってくんな!ってかアイリアたん!?

 とっさにカードを背中の後ろへと隠す。

 「どうしたそんなに慌てて」

 「いや、べつに…」

 「怪しいな…おい、見せてみろ」

 「な…やめろ!」

 僕はカードを隠すためにベッドの上に倒れ掛かった。ベッドの上のアイリアたんの上に僕が乗る感じになってしまった。しわが入ったらどうしよう…。

 ごめんなアイリアたんのカード、重いよね…少し我慢してね。

 「おい、そこをどけ!」

 「嫌だね!」

 「往生際の悪い奴だ!」

 僕を起き上がらせようと僕の体をつかんで持ち上げようとする!

 「や、やめろ!」

 僕は足をじたばたさせる。するとそれがアイリアたんの足に当たり…

 「!あっ、」

 アイリアたんはバランスを崩し、僕の上へと倒れこんできた。

 「ごふっ!」

 重い!しかも鎧の胸当てが固い!鎧なんかつけてくるなよ!

 だがこの状況はアイリアたんサンド!カードのアイリアたんと本物のアイリアたんに挟まれている状況!幸せ!

 僕は鉄の胸当てに顔をえぐられて何もしゃべれない!

 「むぐ~~~~~~~~~~!!」

 「!!!!!!!このケダモノ!」

 バシーン!!

 きついお仕置きをいただきました。

 「何も当たってないのに…」

 「うるさい!貴様が足をバタバタさせるからだろう!」

 顔を真っ赤にさせて怒るアイリアたん。せっかくのラッキースケベも味覚としては鉄の味しかしなかった。それにこの仕打ちはひどい!

 「貴様に伝えることがあってここに来た。11時30分に騎士団詰所へ来ること。いいな?」

 「ああ、わかったよ」

 「少しでも遅れたら殺すからな」

 「王様殺すのは重罪だぞ!」

 と言ってる間にもう退出していた。

 僕の背中の下敷きにされていたアイリアたんのカードは奇跡的にほぼ無傷だった。しわはついていないが、少し曲がってしまったのだが、まだ許容範囲だ。

 部屋に飾ろうと思っていたがいつ今日のようなことになるかわからない。押し入れにしまっておこう。

 11時10分くらいまで僕はパソコンをいじり、ネットの情報を集めていた。主にこの世界全体の情報だ。あとでまとめよう。

 移動時間も考慮して、11時15分くらいに部屋を出た。騎士団詰所の場所がわからないので、同じ城内でも時間に余裕を持つことが必要である。遅れたらどうなることやら。

 いつものように目に留まったメイドさんに道を尋ね、騎士団詰所へとたどり着く。

 「うむ、時間内ではあるが1分前とはどういうことだ」

 結局怒られた。

 「僕は時間に正確な紳士なので」

 「むぅ、言い訳はいい、とにかくここに来てもらったのは見せたいものがあってだな」

 「?」

 「お前のこれからの活動に役に立つかと思ってな」

 アイリアたんが引き出しから取り出したのは特大サイズの世界地図。

 確かにゲーム攻略にマップはつきものだ。

 「おお、これは助かったよ、ありがとうアイリアたん」

「なっ…べ…別にお前のためなんかじゃないんだからなっ」

「典型的なツンデレさんですね」

「?ツンデレとは何だ?」

ツンデレについては黙っておこう。僕は自然体を追い求める紳士なので。

「まぁ、とりあえず、ありがとう」

「ふんっ、これは騎士団長としての務めだからなっ」

「わぁってるよ」

アイリアたんは僕の顔を見ずに地図の説明をしてくれた。

「ここが我が国、オリハルカの地だ。先日お前を見つけたのはこの町だな」

アイリアたんは城から少し離れた所にある丸印を指さす。地図の縮尺がどの程度かはわからないが、全体的に見るとまだ近いほうだ。

「お前が今から行く場所はここだ」

指をさされたのは、先ほどの町との距離よりは近めの海沿いにあるポイントを指さされた。

「近くに塔があるが、ここにはいかない。この塔には盗賊が住み着いていてだな、我々騎士団も手を焼いているところだ。で、今日行くのがここ。地図には載っていないが目的地だ」

「ここに洞窟があるの?」

「うむ、サバで片道3時間くらいだな」

だからサバってなんだよ。

「サバってなn「往復6時間だな」」

「はい」

わかりきったことで質問がさえぎられてしまった。

「今日相手にするコウモリは素早い奴でな、弱いといっても攻撃を当てられればの話だ」

「そ、そうなのか、それよりもサb「私も苦戦したものだ」はい」

もういいよ!見れば済む話だし!どうやら僕の話に聞く耳を持たないようだ。しかもアイリアたんの口調は棒読みと僕を挑発しているかに思える。この子は僕が好きなのか嫌いなのかどっちなんだよ!

「そんな私からアドバイスだ、奴らはショックに弱い。ねこだましでもしてやればすぐに落とすことができるぞ…」

「へぇ、それはいいことを聞いたありg「…ということを毎回新王に伝えるのが決まりになっている」」

「せっかく感謝したのに台無しにすんな!」

「ちなみに私はそんなの猫だましをするまでもない」

「さっきの話は誰の体験談!?ねぇっ」

「知らん、騎士団に伝わるメモだ」

アイリアたんは古びた紙をひらひらさせて見せてくる。なんだよ棒読みかと思ったらそういうことかよ!それはそれで嫌われてないか?

「まぁ、そういうことらしい。お前には役に立つだろう」

「役に立つには立つけども…」

「なんだ、文句があるなら行ってみろ」

「ないです、滅相もございません」

文句なんて言ったら何されるかわからない。

「ならよし、もうそろそろ時間だ。行くぞ」

「お、おう」

うーん、まずいな。このままの流れだと僕がアイリアたんに尻にひかれてしまうポジションになりかねない。それはそれで悪くはないんだけど、僕としては痛いのはごめんだぜ!

「どうした、遅れるぞ?」

「はは、なんでもない」

僕はアイリアたんの後に続いて招集場所である城の正門へと向かった。


「トモヤ~!」

「ラピュア?」

そこにはラピュアの姿もあった。今日はいつものドレスとは違って、いかにも魔法使いのローブをエロくした感じの服装だった。これもありだなぁ…と思ってしまう。

「えへへ、お父様に頼んで一緒に行くことになりましたぁ」

どうやら親バカパワーが炸裂したみたいだ。でも大丈夫なのか?これ。

「皇女様!敵が弱い場所だからと言ってみすみす外に出るなんて危険です!」

アイリアたんの意見も筋が通っている。皇女が容易く外に出るもんじゃない。

「アイリアもいるじゃないですかぁ」

「ですが皇女様!」

「いいんです、私もトモヤの初仕事、見てみたいんです」

アイリアたんはしばらく腕を組み、こう言った。

「…わかりました。私が責任をもって皇女様をお守りいたします」

「やったー!ありがとうアイリア!」

ラピュアがアイリアたんに抱きつく。

一方のアイリアたんの方は顔を赤らめ恥ずかしそうにしている。

「皇女様!他の兵士や部下の前ですので…!お戯れはおやめください!」

「ご、ごめんなさい、いつもの癖でつい…」

慌てて離れるラピュア。

「ですが皇女様、必ず私の近くにいてくださいね」

「はい、了解であります!」

部下であるはずのアイリアたんに敬礼をするラピュア。

「で、だ。お前の部下の姿が見えないんだが」

「僕?」

「そうだ、お前の部下だ」

僕は昨日以来あの二人の姿を見ていない。もしかしてサボっているとか…?

ありそう。

「昨日お前が探しに行った近衛兵の二人だ。見つかったとは聞いたが…」

「見つかったには見つかったんだけど、皇帝さんと会った後は何もわからない」

「うーむ、もしかすると連絡が行き届いていなかったとか…」

「そのことは昨日皇帝さんが言っていたと思うからないと思うな」

「うむぅ、兵士のくせに時間を守らないとは何事だ」

「ハハ」

今にもキレそうなアイリアたん。見ただけでわかる、キレる寸前だ。

ひぇー、さっきは遅れないでよかったぁ。

とか考えているとちょうど。

「すいません、遅れてしまいました…」

「悪いな、遅れちまって」

謝りながら二人の僕の近衛兵が小走りで到着する。

「遅いぞ!何やってた!」

アイリアたんがキレる!

かなり強い口調だ。こんな上司は嫌だ。

「すいません、色々と準備に手間取ってしまっていて」

「昨日は散々だったぜ…元上司の所へ謝りに行く祭りだったん…」

「言い訳はいい!お前ら待ちだったんだぞ」

あまりの勢いに僕まで縮こまってしまう。そんな僕をラピュアが不思議そうに見つめる。

「返す言葉もないです…」

「悪かった」

二人がアイリアたんに頭を下げる。そこに救世主が。

「アイリア、許してあげてください。この方たちは昨日お父様と長話をしていたせいで遅れてしまったんだと思います」

ラピュアが二人のフォローに入る。なんとお優しい!

「皇女様…!」

デブの方が目を輝かせる。きっとラピュアは国民の憧れの的なのだろう。もう一人も一安心したかのようにため息をつく。

「そ、そうなんですか。だが次遅れたら承知せんからな!」

「「は、はい」」

アイリアはそう言い残すと騎士団の荷台の方へとスタスタ歩いて行った。

「お初にお目にかかります皇女様、私、ジョンソー・ジョーンズと言います」

「おっと、俺はトムズ・マカーニd…です」

「お二人とも、トモヤをよろしくお願いします」

ラピュアは僕の母親か!

それはそれで萌えるシチュ…なのか?

「で、俺の上司ってのは誰だ?」

「僕だよ」

手を挙げて名乗りだす。

「ゴホン」

挨拶待ちの信号を送る。デブはともかくコイツからは挨拶してもらっていない。

「俺はトムズ。お前の近衛兵をやらせてもらう者だ」

「いきなりお前呼ばわりかよ!」

「王様、こいつ常識知らずなので…」

「あん?何か言ったかジョンソー」

「君がそういう人だということを教えただけだよ」

「…昔は言う事聞くだけの豚だったが、もう昔のお前とは違うな…」

「豚!?豚って言ったね!」

デブがそうじゃない方につかみかかる。

そうして喧嘩(?)らしきじゃれあいが始まる。

軽くぶん殴ったり、軽く頭突きしたりという感じの喧嘩(?)だ。

「二人とも、そんなことやっている場合じゃないですよ!」

「「はいっ」」

ラピュアの一言ですべてが終息する。

「トモヤ、あれがトモヤのサバですよ」

これでサバの謎が解決する…!

ラピュアが指さしたその先にいたのは、馬らしき生き物だった。いや、ほぼ馬だ。

「馬?」

「馬とは違います、サバです」

「あれがサバ?どう見ても馬」

「なんだよ、王のくせにそんなのも知らないのかよ」

デブじゃないほうがちょっかいかけてくる。どうせこいつも知らない流れだろ。アホそうだし。

「そう言うトムズ君は知ってるのかい?」

「そりゃあ兵団時代何度もお世話になったからな」

「ああ、そういえばそんなこともあったね」

「大昔過ぎてほとんど忘れてたな!」

「「ははははははっはっはっは」」

普通に知ってた。

近衛兵は近衛兵同士で勝手に盛り上がっとけ。

「トモヤは知らなくても無理はないですよ、サバは馬を魔術変換した動物ですから」

「魔術変換!?」

「ええ。魔術の力で動物の姿を変えることです。まぁ変換が作用するのは次の世代からですが…」

すげぇ、この世界品種改良まであるのかー。勝手に文字置き換えてしまったけどそういうことだよね?

「つまり馬を品種k…ゴホン、魔術変換したものがサバってこと?」

「はい、砂に馬と書いてサバと読みます」

なるほど、これでサバと読むのか。納得。これからは変換が面d(自重)

「トモヤの砂馬はあの子です」

ラピュアが指をさす場所にいる砂馬は、周りの砂馬とは違う真っ白な砂馬だった。

「うふふ、トモヤも白馬の王子様ですね!」

「白砂馬の王様だよ」

なんだこれクソダサな称号だな。ふりガナを振れば、『ハクサバノオウサマ』。

臭そうなネーミングは置いといて。

「お話してきてあげるといいですよ」

まぁ馬とお話はできんだろうし、かわいがってくださいという意味なのだろう。

僕は僕の白砂馬をなでるために、ラピュアと近衛兵の元を離れ、白砂馬に近づく。

「ハロー」

「!」

突然砂馬のいる方向から妙な声がする。嘘だろ?

声質はよくテレビである、ボイスチェンジャーの高い声だ。

「ハロー」

「!」

また声がした。え、馬が話すの?

「ハロー」

「気持ちわるっ!」

おっと正直な感想が出てしまった。これは僕のパートナーを傷つけてしまう発言だと後悔した。どうしよう、関係悪化してしまった。

「ハロー」

「…?」

さっきから『ハロー』としか言わない。インコかよ!

「砂馬はですね、言葉を覚えさせることができるんですよー!パチパチ~」

ラピュアが後ろから拍手を送る。え?誰に?

しゃべる馬といえばRPGとかに出てくるペガサスとかユニコーンって聖なる存在として人間の言葉を理解し、話すことができるけど、インコのように言葉を覚えてしゃべるだけのタイプなんて見たことも聞いたこともないぞ!気持ちわるっ!

「言ったことを理解とかはしないよね?」

「ハロー」

「ええ、しませんよ。もっと賢くなるように魔術変換する研究も行われていますが、なかなか難しいそうで…」

バカでよかったぁ。理解されていたら僕、前足で蹴られて死んでいたかもしれない。

「ハロー」

「…なんで英語?」

「英語?日本語じゃないんですか?」

「ハローは英語だ「ハロー」よ、日本と「ハロー」はまた別の「ハロー」国の言葉」

「????」

「僕の世「ハロー」界の別の国の言「ハロー」葉なんだけど「ハロー」日本でも使「ハロー」われる言葉なん「ハロー」だが…ああ「ハロー!」もううっせぇ!!」

「ハロー!」

僕の発言を邪魔しにきてるだろコイツ。

「はぁ、まぁ、たぶん、わかりました」

「ハロー」

わかってなさそうな顔をしながらラピュアは話を進める。

「背中を二回叩いてあげるとしゃがんでくれます」

「ハロー」

僕は言われたとおりに砂馬の背中を叩いてやる。すると膝を曲げて僕が乗りやすい位置までしゃがんでくれた。

「おお」

「ハロー」

これはいいね。ただ、うるさい。

「この声、どうにかならんの?」

「こればかりはどうにも…」

「…」

「砂馬は我が国の負の遺産ですからね…100年前ほどに創られた馬の改良種である砂馬ですが、砂を軽快に駆け回れるようになったのはいいんです、しかし声真似までするようになってしまって。最初は旅を盛り上げてくれるとして大人気でしたが、声がうるさいと不評になりだしてしまって…。増えすぎてしまった砂馬はもうどうすることもできませんし、処分なんてのもかわいそうでしたので、国が引き取ることにしたんですが…今は車もありますし…維持費だけでかなり国費がかさむんです」

いきなり現実的な話をする砂馬。

あれ?ラピュアの発言中一回もハローって言ってこなくね?

「ハロー」

もしかしてさっき『気持ち悪っ』って言ったの理解していたのかもしれない。

僕への復讐だろうか。

ピーッ!!!!!

高らかに笛が鳴る。

「出発の合図です、私はあちらですので、休憩地点でまた会いましょう!」

手を振り、ラピュアと別れる。ラピュアは小走りでこの間乗ったVIPな車の荷台の方へと向かっていった。

僕もあっちがいい。

「えっと、この手綱を握ってパチンとするのかな?」

砂馬にかけられた手綱を西部劇によくあるシーンのごとく、馬に叩きつけたとした。

「ヒヒーン!」

あ、ハローじゃないんだ。

いたって普通の嘶きをした僕の砂馬は先にいる他の騎士たちの砂馬の後を走り出した。

町の大通りを抜け、外周にある大壁の門を抜けると、一面の砂漠が広がっている。

「馬ってこんなにはやいのか…!」

テレビで競馬を見ていてもわかるが、実際に体感すると身をもってわかる。

それに僕が足を取られながら進んでいた砂漠をこうも軽快に走るのだからすごい。

ただ、気になるのが、僕の馬が走りながら鳴くことだ。

「ハロー」

…と。それがさらに他の騎士の馬まで鳴くもんだからうるさい。

周りの他の騎士の馬からの声が混ざり合い、カオスな状態になっている。もはや騒音。

「ハロー!」

「ああ仕事だりぃ」

「教官あんまりですよ!」

「グッドモーニング!」

「ハァハァ」

「ワオーン!」

「ミーンミーンミーンミーンミーンミーン」

「疲れた」

「おっぱい揉みたい」

「あんあんあんあん」

「馬のくせにうっせーんだよ!」

「黙れ黙れ黙れ!」

「〇ね!」

「しゃべんなカス」

砂馬も大変だなって思った。


そうこう(走行)していると、休憩地点についたようだ。

…今の僕の渾身のギャグ、面白かったら笑ってね。

休憩地点につくと砂馬は自然と止まり、僕を下してくれた。そしてそのまま動かずに待機している。偉いなぁ。僕が到着したころにはテントなどが張られており、キャンプのようなものができていた。僕はテントから少し離れているところにいたのだが、そこにラピュアが僕を見つけて走ってきた。

「トモヤー!大丈夫でしたか?」

「色々と兵士の皆さんの声を聴くことができました」

砂馬を通してな。

「ははは、それはよかった」

あれ、今のは隠喩してたんだけど。普通に僕が騎士団の人と話したと思ってらっしゃる。

残念ながら僕はボッチ走行でした。

「トモヤもうちの兵士と仲良くしてもらっているみたいで、安心しました」

ラピュアは車の外のカオス具合を知らないみたいだ。誰も会話なんて言う気分にならない。

黙って周りから聞こえる砂馬の声に我慢するのみだ。

耐久動画よりも発狂しそうな勢いだぞこれ。

「あの、私トモヤの能力もう一度見たくて…」

「能力?…ああ」

「地形無視…?でしたっけ。ステージの時はよく見えなかったので」

あれは地形無視というか、ただ単にミスって落としてしまっただけなんだが。

「あれは、たまたまだよ。能力自体うまくいくかもわからないし…」

能力の練習とか必要なんだろうか。やっておかないといけない気がするが。

「それに、トモヤに私、一度も何故か触れていませんし…」

それは能力の不具合にしか思えない。何故かラピュアに触れられるときや、その他突然発動したりと不便が多すぎる。できるときとできないときがあるよね。

「うーん、それは僕にもわからない、なんで触れないとか…」

「少し、目を閉じてください」

「あ、はい」

これって…!まさか…!

キスか!やばいやばい突然この展開って何!?

僕なんかした?

「と…トモヤ!!」

「ん?」

呼びかけられたので目を開ける。キスはまだ?まさか触れられなかったとか?

「ふ、服が!」

「服?…!!!!!」

なんと僕の服が地面に落ちていた。僕は脱ぐ作業など一つもしていない。

「!!」

とっさに下を手で隠す。

周りの兵士もざわつく。これはまずい。

「キャー!!!」

「露出魔!」

「変態よ!」

周りの女騎士達が次々と悲鳴を上げる。

それを聞きつけてあの人まで来てしまう。

「なんだこの騒ぎは」

アイリアたんだ。

「…!貴様!そこで何してる!」

「僕だってわからないよ!気が付いたら服が脱げてたんだ」

「無意識に服を脱ぐな変態!それも皇女様の目の前で!」

「違う!僕はそういう意味で言ったんじゃない!」

「と…トモヤがはだk…」

気を失ってラピュアが倒れてしまった。刺激が強すぎたか。

「とりあえず服を着ろ!!話はそれから聞かせてもらう」

「は、はいぃぃぃぃ」

これは僕がこの世界に来た時と同じだ。きっと能力の発現による影響だ。

そのときと同じく、僕の足元にある服を拾おうとしても全く手が触れられない。

「な、何をしている!早く服を着らんか!」

「そんなこといわれたって!」

「皇女様に貴様のは、裸を見せるなんてことが許されると思っているのか…!!」

ガチギレ+羞恥心のアイリアたん。ガチギレだけなら殺されていたかもしれない。

「お前が王じゃなかったら今すぐに斬り殺していた」

「ひぇっ」

殺されてたんだ僕。王でよかった…。

生き残りたい、生き残りたい…本気の身体見せつけるまで僕眠らない。

僕の今の心情はライオンだ。露出狂でもなんでもないぞ。

「遅い!私が着替えさせてやる」

「く、来るな!僕の初めてが!」

「な、何を言っている!誰がそんなことするか!」

「穴があったら入りたい!」

アイリアたんが近づいてくる。アーッ!!!

――ズボッ

「!?」

突然僕の視界が真っ暗になった。感覚としては突然下に落ちて心臓が置いて行かれる感覚がした。何が起こったのかは次の言葉で理解できた。

「!…どこに行ったあの男!」

どうやら僕は消えてしまったらしい。え?でも僕はここに。

「僕はここにいるぞ!」

「…!どこから話している出て来い!」

僕自身どこにいるかなんてわからない。目の前がほとんど真っ暗で何が何だか。

「ここだここ、僕にも場所はわからないが」

「地面から声がするぞ…何をした!」

「だから知らないって!」

「…ここだな」

僕の真上で何か砂の音がした。

「…なんだこれ」

僕の真上でアイリアたんの声がしたなと思った刹那。

「痛い痛い痛い痛い!!!」

僕の髪の毛の一部が引っ張られる感覚がする。

ブチブチブチィ!

「ああああああああああああ僕の髪の毛がああああああああ」

僕の体はそのまま何かの力を受けて上へと引きずり出される。

「とりゃああああああああ!!」

ズドーン!!

僕は気づけば日の下で日光浴をしていた。裸で。

とっさに再び下を隠す。白い光働けよちゃんと。

「こ、ここはどこだ!」

「お前は砂の中に埋まっていたぞ…しかし一瞬にして砂の中に隠れるとはな…」

「え?まさか…そういうことか」

「どういうことだ」

「僕の能力についてはわかるだろう?」

「地形無視とかいうものか。どういったものかはわからないが」

僕は地形無視の伝えられる範囲のかくかくしかじかをアイリアたんへと打ち明けた。もちろんさっきの脱衣の件もだ。

「なるほど、つまりお前はわざと能力を使い一瞬でその、なんだ、裸に…なったのか」

「わざとじゃない!勝手に能力が!」

「そんなはずなかろう!まず何故皇女様だけ触れないんだ」

「知るかよ!僕だって触りたいよ!」

「ほら見たか!皆、この男皇女様を手籠めにするつもりだ!重罪に値するぞ!」

「はぁ!?違う違う、触るってそういう意味じゃ!」

「同じじゃぼけぇ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ??????」

周りからざわつきの声が。

「確かにラピュアには触りたいけど!だけど、そういう意味で言ったんじゃない!」

「じゃあなんだ」

「その、握手したりとか…そんなのだ!」

「その姿で言っても説得力ないぞ」

「今は服が着れないんだよ!話しただろ!」

「変態め、一度牢に放り込んだだけでは足りんようだな」

「やはりアイリアたんだったか!なんてひどいことを!」

「変態は一度死なないといけないかもしれん」

「僕は違う!ラッキースk…何か不思議な力が働いているんだ!」

これも異世界の力!ありえる…はず!

「そんな不思議な力あるかぁっ!!」

「いでぇぇぇぇぇ!!」

裸で転がったままの僕を蹴るアイリアたん。傍から見ればこれこそが変態プレイ!

だが生憎僕にこういう趣味はない!とっさに立ち上がり、逃げる。

僕は服を掴み、その場で早着替えをした。

「ほら見たことか、着れるじゃないか」

「こ、これは…本当にわからないんだ!」

何が能力のきっかけになっているのか僕にもわからないのは本当だ。実際服をつかめたのも確信が持てたからというわけではなかった。

「とにかく、二度とこんなことをするな、わかったな?」

「だから、僕は、知らないって、言ってるでしょ」

「お前の話自体信用できないからな」

「ぐすん…」

「私は皇女様を車へとお連れしなければならない。お前はさっさと昼食を受け取ってこい」

「昼食?」

「あっちで配給がある。お前のせいで私もまだ食べられていない。全く、迷惑な話だ」

「はいはい、ごめんねアイリアたん」

「ごめんで済むなら騎士団いらんぞ!」

「はいはい」

「あとで皇女様にも謝っておくんだな、『汚いモノ見せてしまってごめんなさい』とな」

「やめてあげて、僕がすっごい哀れだから。でも、謝っておくよ」

「当たり前だ、さっさと昼食とって死ね」

「ひどい!」

アイリアたんは砂の上でのびているラピュアを担ぎ上げると、そのまま車のある方向へと向かっていった。

「ふぅ、髪の毛が犠牲になったが命に別状はないみたいだ」

頭がまだヒリヒリする。痛い。

遠征に行く前にダメージを受けるって…。

僕はテントの方で味噌汁とパンを配っていたので受け取る。

その時、周りから非難の声を受け取ったが聞き流した。主に先ほどの裸事件についてのことだ。だが、このままでは僕周辺の評判が駄々下がりだ。騎士の人に僕=変態のレッテルを張られてしまうことになってしまった。何とかして挽回しないと。

僕の遠征にこれだけの騎士の人がついてきているんだ。この僕が悪い印象を持たれるとこれからの生活に悪影響を与えかねない。

どうしようかと考えていると…。

「やぁ、聞いたぞ、皇女様の前で脱いだらしいな」

ブッ!!

口に入っていた味噌汁を噴出した。

「な、なんだ、お前か」

目の前にいたのはデブじゃない方の近衛兵だった。

「なんだとはなんだよ、そういや名前聞いてなかったな、名前は?」

「小川智也」

「ふぅん、変な名前だな」

「僕からしたらお前のほうが変だよ」

「ハハハ、そういや王って日本から来るんだったな」

「まずトムズってなんだよ、普通トムだろ!英語の教科書に載ってるような名前にしろよ」

「ハハハ、英語が何か知らねぇが、俺の名前に文句つけるたぁいい度胸だ」

「お前からつけてきたんだろ!」

「まぁ、喧嘩を売りに来たわけじゃないんだ、俺の上司がどんな奴か知りたくてなぁ」

「そうかい、 僕はごく普通の紳士的な人間ですよ」

「ははっ、普通の人間が皇女様の前で脱ぐかっての」

「これは僕の能力があってだな…説明すると長くなるが聞くか?」

「一応聞いておくか」

とまぁ、部下だし話してもいいよね。僕の誤解は解いておいて損はないだろう。

「ハハハハハ!そりゃいいじゃんか兄弟!」

いつから僕達は兄弟になったんだよ。

「で、わかったよね?僕はわざと脱いだんじゃない」

「お前が言いたいことは分かった、だけどその能力、使うべきところに使わないとな」

「何が言いたい」

「ほら、女子風呂とか覗けるんじゃないのか、お前なら」

「…は?」

いや、確かに魅力的だけど、それはほら罪悪感とかいろいろと、ね?

「いやだから、壁とかでもすり抜けられるんだったら、女子風呂の光景だってカメラに収め放題じゃないのか」

「いや、それはそうだけども」

「やろうぜ」

「…個人的には賛成だけど、僕が見つかったr「よしじゃあ決まりだな!カメラは俺の方で用意しておく、ジョンソーを加えた3人で実行な!」」

僕が見つかった時のリスクを入れて断ろうとしたんですが…。

これ以上変態の名を重ねるのは嫌だったんだが決まってしまったことは仕方ない。

「…はぁ、まぁいいよ、イヤイヤやるんだからな?」

「これは男のロマンだぞ、それを否定したら男じゃねぇ」

「なら僕女の子になれるなら合法的に女子風呂に入ります」

「ハハハハハ!お前面白いこと考えるな!」

「ははは、それは君こそだ、女子風呂覗くなんて今まで思いつきもしなかったことを教えてくれたじゃないか、正直これは楽しそうだしな!」

「ハハハハハ、いい上司でよかったぜ、これから上手くやっていけそうだ」

「ハハハハハ、それは僕のセリフだぜ」

勢いに押されて、いや、僕は心からそう思ったのかもしれないな。

コイツできる…!

近衛兵じゃなくて僕の戦略家として役に立つかもしれないな。しかし悪だくみという点においてのみ、という条件付きだが。3人でやるなら計画もうまくいくはずだ。

僕はこの計画をやり遂げる、そしてアイリアたんや他の女性の裸を見放題なんて言うトピアにたどり着くんだ!ヒヒヒwwww

「よし、後日計画を立てよう、ジョンソーを交えてな。アイツは理解が速いからな」

「おう、絶対に成功させようぜ!」

僕たちは誓いの拳を合わせる。熱くなってきた!こういうのに憧れていたんだ。

軽く犯罪だけど。まぁこの国の刑法は知らなかったといえば僕は済むんじゃないか?



ピーッ!!

高らかに笛が鳴る。出発の合図だろう。

騎士たちは立ち上がり、各々の砂馬のところへと戻っていく。こんなに砂馬がいて間違えないのだろうか。僕のは色が違うからわかりやすいが…。

「じゃあ俺も行かないといけない、また現地で会おう、兄弟!」

「ああ、また後でな!」

持つべきものは部下という友達だな。社交スマイルなら僕は許さない。あいつに限ってそれはないだろうけど。

…と、女子風呂を覗くことを考えていたが、当初の目的と180度違う路線に入ってしまった。元々僕の名声を取り戻すことを考えていたはずなんだが…まぁ、楽しければいいか。

そんなことを考えつつ、僕も僕の相棒のもとへと戻る。

「ハローッ!!」

なるほど、鳴き声でわかるのか。

僕は城を出た時と同じように背中を二度たたき、砂馬の背中へまたがる。

手綱を握り、再び出発した。

ふと思ったが、僕の近衛兵は何で僕の近くにいないのだろうか。近衛兵なら普通は僕の近くで護衛するはずじゃないのか?

…ということを思ったが何か事情があるんだろう。


しばらく移動すると、砂漠地帯ではなく地面が岩石地帯へと変わっていた。

それに前方には塔が聳え立っている。地図を見たときにアイリアたんに教わった通りだ。

塔は孤島に聳え立っているが、今日はそこにはいかない。いつか行ってみたいな。あ、でも盗賊がいるんだっけ。リスキーなことは御免だぜ!

僕達一行は海沿いの崖へとたどり着いた。

そこから海沿いにしばらく進むと、坂が広がっており、その坂を下ったところに洞窟があった。一行はそこにつくと、砂馬を降りてそれぞれテントを張ったり準備をしていた。

「いい景色だ「ハロー」な」

お前のせいで台無しだよ!

実際、景色は素晴らしくきれいだった。古びた塔とその周りの海がいい味を出している。

一枚とっておこう。僕は自分のスマホを取り出し、節電のため電源を切っていたため電源をつけて撮影をする。電池が62%しかなかった。充電ってどうしよう。できないじゃん。

「見たことない魔導具ですね、何ですか?」

突然後ろから騎士の人が声をかけてきた。ちっ、男か。

「これはスマホと言って日本の携帯です」

「これが日本の携帯?私たちのとは全然違いますね」

「ははは、これが日本の力ですよ」

「いいなぁ、僕も日本に行ってみたいものです、かなわぬ願いですが…」

「ははは」

愛想笑いをするしかできなかった、会話が続かねぇ…。何か言わないと。

「今日もいい天気ですね」

やってしまった。これはテンプレ中のテンプレだ。相手に僕がコミュ障だと教えるようなものだ。

「ええ、晴れてよかったですね」

「」

「」

会話が続くはずもない。

「…では僕は準備がありますので」

「あ、はい」

早々と立ち去って行った。あー、僕はこの世界で変わるはずだったのに…まだコミュ障をやめられていなかった。

海を眺めて黄昏ていると、後ろから肩をポンポンされた。

「誰だよ………ってラピュア!?」

「あっはいっご迷惑でしたか?」

「いやいやとんでもない」

「あの、さっきは…ごめんなさい」

「え…と、見た?」

「え…とその、トモヤの…裸ですか?」

「し、下の方とか」

「し、下は見ていません!見る前に気絶してしまいましたし…」

この子、僕のどこを見て気絶したんだよ。

「ここのあたりとか、見てないよね?」

僕は自分の股間部のあたりに円を描き伝える。

「み、見てないですよ!」

「ふぅ」

「男の人ってそこに…その、何か生えているんですよね」

「い、言わせないでよっ」

「す、すいません私ったら…」

「僕の方もラピュアに、よからぬもの見せてしまったね、ごめん」

「いえいえ私は大歓g……」

「?」

「………(ぶつぶつ)」

何かぶつぶつつぶやいている。

「あの、どうしたの?」

「ひゃうっ!な、なんでもないです、すいません!」

そのままピューッと逃げるように走ってどこかに行ってしまった。

何を言っていたんだろう。

「よう兄弟」

ここに着いてからよく人が話しかけられるな…。

「駄目だよトムズ氏、一応上司なんだから」

「いいんだ、僕が許した」

「ほらな、俺らはある計画を成功させるために誓い合った仲だ!」

「トムズ氏は本当にやるつもりだけど、いいんですか王様?」

「いいよ!僕もそれはやりたいと思っていた」

僕は現実世界の修学旅行で何もできなかった。他のクラスメイト達はやろうとしていたみたいだけど、僕はその輪には入れなかった。いや、入らなかった。

別に?友達なんていらねぇし?先生に見つかったらめんどいしぃ?

だけど覗き自体に興味がないわけじゃない。トムズが先ほど言ったように、男のロマンだ。

「そうですか、でしたら僕も参加しないわけにはいきませんな」

ジョンソーも参加を表明する。

「よし、これで正式に決定したわけだ」

「で、計画ってどういうもの?普通に僕が侵入して撮るんじゃ僕が見つかってしまうんだけど」

「そうだな、壁から顔とカメラだけ出して撮るとか、思いつくっちゃ思いつくが」

「それホラーだよ!見た人気絶しちゃうよ!」

ジョンソーが的確な突っ込みをする。この人たちお笑いコンビ向いてるんじゃないか。

「ジョンソーの言う通り、確かにそれじゃあダメだ。うまく地形無視を生かした方法をだな」

「今のところ地形無視で何ができるかってのがよくわかっていないんだ」

「となると、もう少しわかってからの方が計画は立てやすいのでは?」

「そうだなぁ、それも一理ある」

「おい、お前らそこで何やっている」

僕らが3人しゃがんで闇のトークをしているときに、突然何者かが介入してくる。

「誰だよこっちは忙しいんだ…げっ!鬼ババ!」

振り返るとそこには腕を組んだアイリアたんの姿があった。

「む、誰が鬼ババだ!これでも私はお前より若い自信があるぞ!」

「俺18だけど」

「私は17だ」

トムズも若さには自信があったようだが、さらにアイリアたんは若かった。

「そうか、なら僕は鬼ババと呼んでもいいかな?」

「お前はタメだろうが!」

「え、お前17だったのか」

「お前こそ18だったのか」

僕は17。残念ながら暖簾をくぐれない未熟者である。

「早くしろ、お前のための護衛任務だ、お前が行かなくてどうする」

「そうだった」

僕は立ち上がり、出発しようとする。

「じゃあ俺らはここで待っているからなァ」

「頑張ってください」

「お前たちも行くんだよ!」

「「へぇっ!?」」

「さぁいくぞ」

「はいはい」「へいへい」

ということで僕たち4人は洞窟へと足を踏み入れる。

入るとアイリアたんは手に持っていた提灯に火を灯す。

その洞窟には明かりも手すりもなかった。

「洞窟ってライトも手すりもないのかよ!」

「あるわけないだろ!ったく、日本ってどういう所なんだ…」

僕が行ったことがある洞窟はどれもライトが設置されていて非常口への蛍光灯なんか当たり前にある。まぁ日本の鍾乳洞とかの話だけど。比べちゃいかんね。

それに足元は整備されておらず砂利や岩のでっぱりのせいで非常に歩きにくい。

少し奥に進むと騎士団のテントが張られており、松明が灯されていた。

テントの近くでラピュアが待っていた。

「トモヤ、見ていてください」

「?」

突然そう言うと、ラピュアは突然両手を自分の胸へと押し付け、胸をもみ…じゃなく、そのまま胸から両手を放し、平行移動させて体の前にて両手でお皿を作る。

すると、突然両手の上に光が現れ、それは火の玉へと姿を変えていく。

「!!!す、すげぇ!」

「まだまだですよ、えいっ!」

ラピュアは火の玉を右手の指に乗せると、サッカーボールを指の上で回すかのように、指の上で回転させた。熱そうに見えるがラピュアは痛み一つ感じない風だ。

回転した火の玉は自然と形を変え、輪になり、さらに形を変えて竜を象った炎の渦へと姿を変えた。完全に最強魔法にしか見えないんですが。僕の冒険はまだ序盤なんですけど。

「天駆ける火龍の豪炎(エターナル・サラマンドラブレイズ)

「え、滅茶苦茶かっこいいんですけど」

中二臭いネーミングの火の竜を作り出したラピュアはそれを操り、天井近くにいるコウモリを片っ端から喰らっていく。

「ほぇぇぇぇ」

ジョンソーは腰を抜かして驚いている。トムズもジョンソーほどではないが驚きを隠せないでいる。一方のアイリアたんは見慣れているんだろうか、あまり驚いた様子はない。

「皇女様は小さいころから魔術センスが抜群です。我が国の高位な魔術師でも驚くほどの魔力保有者ですから」

「へぇ、そんなにすごいんだ」

「た、ただ魔力が人より少し多いだけですよ」

謙遜するラピュア。だがこれはすごい。火の竜とか初めて見た。

ラピュアがくるっと手を振ると、火の竜は自然消滅した。

「いやぁ、すごい、なんというか、すごい」

すごいとしか出てこない。だってすごいんだもん。

「皇女様、今回はこの男の試練ですので、皇女様が目立ってしまうというのは…」

「そ、そうでしたね!トモヤ、がんばってください!」

「お、おう」

辺りを見回して標的を探す。しかしコウモリの姿は見当たらない。

「もしかして皇女様が全部倒してしまったのでは?」

トムズがこう言う。あり得る。

「きっとそいつの言う通りだろうな…敵が一匹も残っていない」

「はわわ!すいません!なんとお詫びしていいか…!」

「じゃあ、僕の試練もクリアってことで」

「それはならん。もう少し奥に行く必要があるな」

「えぇっ!」

やらないといけないのかよ…。せっかくやらなくて済むと思ったのに。

「みんな、皇女様がここにいる対象を全部倒してしまったので別の場所に移る!各自準備をするように!最深部へ行くぞ!」

「「「はっ!」」」

騎士団の人たちが移動作業を始める。僕らも歩いて次の狩場へと移動し始めた。

ラピュアは申し訳なさそうにシュンとしている。

「いやー、さっきのはすごかったよ、僕今まであんなの画面の中でしか見たことないよ」

僕はラピュアの気を紛らわそうとラピュアを褒める。

「画面の中ですか?」

「ゲームの中っていう意味」

「ああ、なるほどそういうことでしたか。トモヤだって少し練習すれば使えるようになりますよ」

「本当に?僕この世界の人じゃないけど」

「歴代の王様も使えたことがあるって聞いたことがあります」

「おお、僕にも魔法が使えるんだ」

僕はオンラインゲームとかでよく後衛職を選ぶ。エンチャンターとか、魔法使いとかそういった類の職業が好きだ。前衛に任せておけば自分が死ぬなんてことは前衛がミスしない限りないわけで、責任も軽そうだし。背後で固定砲台と化すのが敵にアドバンテージをとっているかのようで好きだった。

だがこの世界での僕のポジションは王。別名勇者。まぁそういった職業としては前に出ないといけないわけでもあるが、魔法を使うということができれば戦略の幅もさらに広がるんじゃなかろうか。僕の能力と合わせても接近戦をするよりもどこかから隠れて魔法ぶっぱする方が安全だろうし。

「魔法の使い方は、お城に帰ったら私がトモヤを鍛えてあげましょう!」

「マジっすか」

「ええ、約束ですよ」

「やったー!」

「いいなァ、僕も教わりたいけど、僕の魔法センスは絶望的で…」

ジョンソーが首を突っ込んでくる。邪魔をするな、これは僕とラピュアの二人きりの個人レッスンだ。

「なら俺も」

トムズまで。

「いいですよ、皆さん私が見ましょう」

「…」

ラピュアのお人好しはこういう時には迷惑なものだ。

「い、いいんですか!?」「ま、まじか」

2人ともラピュアの承諾に驚いた様子でいる。

「ええ、皆さんのお力になれれば私も幸いですし。ね、トモヤ」

そんなに眩しい顔で僕の顔を見つめないでおくれ…

「う、うん」

…断れるわけないじゃない。

「よし、この辺りでいいか」

アイリアたんが騎士団へと指示を出す。騎士団の人達はそれに従い、テントを再び広げ始めた。

「アイリア、ごめんなさいね」

「そうですね、次にやったらどうしましょうか」

「はわわ、もうしませんから!」

ほほえましい光景だなぁと、見ていると。

「何見ている、見世物じゃないぞ!それにニヤニヤと気持ち悪い!」

アイリアたんからの罵倒を受けた。


最深部につくと、そこは無駄に広い空間が広がっていた。この洞窟は一本道で出来ているみたいだったが、最深部につくと狭い通路が僕らが来たところと別にもう一つあった。

この先は行き止まりになっているらしいが。実際そっちが最深部じゃね?という突っ込みはしないでおこう。

テントの準備が終わったみたいなのでようやく僕の狩りが始まる。

一狩り行こうぜ!

「ちょっと待った、お前武器を持っていないだろ?この中から好きなのを貸してやる」

アイリアたんはそこに置いてあった大箱を指さし、僕に武器を手に取るよう勧める。

大箱の中を覗くと、中には多彩な武器が入っていた。剣、大剣、オノ、杖、弓矢、ブーメラン、ハンマー、ピッケル、槍、銃、刀などが見受けられた。どれも鉄製っぽい初心者の武器らしい。今僕が上げた種類の他にも見たことがない武器なども多数存在していた。

「これは?」

僕は異様な形の武器を手に取って聞いてみる。

「これは魔装具だな。魔法使いが接近戦で使う万能武器だ」

聞いたこともないし、見たこともないデザインだ。持ち手の部分はあるが刃の刀身などは見当たらないし…。

「えいっ」

試しに振ってみる。

ブォン!

「!!」

すると緑色の光に包まれた刀身が出現した。

「これが魔装具だ。術者が使いやすい形へと自らを変化させる武器だ」

「ビームザーベルですね」

「びーむざーべる?何だそれは」

「僕の世界でド定番SF武器です」

「??よくわからないが、その武器は初心者向きではないぞ、刀身を出している間ずっと魔力を持っていかれるからな」

「どうやってしまうんだ?」

「貸してみろ」

アイリアたんが僕の手を握ってきた。

「な、何だいきなり!」

「しまい方を教えてやるだけだ!勘違いするな!」

アイリアたんが僕の腕をブンッと上にあげてすぐ下に下げると、刀身はなくなって持ち手だけが残った。とっさにアイリアたんは僕から距離をとる。

「そんなに避けなくても!」

「ゴキブリ菌が移る」

「小学生かよ!?」

それにまだ僕ゴキブリなのか…。

「で、お前はその武器でいいのか?」

「ああ、なんか、かっこいいじゃないか」

ただ単にそれだけだ。

「では、はじめるぞ?」

「おう、いつでもいいぞ!」

「では王就任試練、はじめ!」

アイリアたんが手を上へと上げる合図をして僕の試練は始まった。

「がんばってください~」

ラピュアが応援席から応援してくれる。

なんだか力がみなぎってきた気がした。

洞窟の壁には騎士団の人がライトを灯しておいてくれたので視界の問題はない。

僕はビームザーベルもとい魔装具を発現させ、バサバサ飛んでいるコウモリ目掛けて斬りかかる。

「トリャァァァァァ!」

スカッ。

アイリアたんの説明通りこのコウモリはすばしっこい。まともに剣先がかすりもしない。

ならば第二の手段。猫だまし作戦を有効活用させてもらう。

「えいっ!」

パチン!

僕は飛んでいるコウモリ目掛けて猫だましを炸裂させる。コウモリはそのまま意識を失い、地面へと力なく墜落する。

そこに僕は魔装具の剣をコウモリめがけて振り下ろす。

グサリ。

…。

……。

初めてモンスターを倒すのでなんとなく目をつむってしまったが、グロテスクな映像が流れそうで怖かったっていうのもあったのかもしれない。

だがしかし。

コウモリに剣はクリーンヒットしているのだが苦しむ様子はない。

「は?」

もしかしてこの剣攻撃力がえらく低いとか?そんな馬鹿な。素人でも倒せるレベルだと聞いたぞ!

むしろコウモリのほうは意識を回復してまたバサバサ翼をはばたかせて飛ぼうとしている。

剣はまだコウモリを貫通しているはずなのに。

「ど、どういうことだよ」

「あれは…まさか」

ラピュアが意味深なことを知ってそうだ。

「ラピュア、なんで僕の攻撃が効いていないの!?これ弱いんじゃ」

「トモヤ、その魔力の色…!」

「色?」

緑色をしているが、何か問題があるのだろうか。

「それは…回復属性の魔力色です…!」

「回復…?」

「そうなのか、私は知らなかった」

アイリアたんがとぼけたように口笛を吹き始める。コイツ・・・!!

「な、なんとかならないのか」

「ならなくはないですが…まだ何も教えていないですし…とりあえず他の武器を!」

「駄目ですよ、もう試練は始まっていますので、武器は変えれません」

アイリアたんは口を押えながら笑うのをこらえている。畜生このクソアマが!

そうこうしている間にコウモリは元気になって天井の巣穴へと戻って行ってしまった。

「ブフフフフフフwww、この国最弱モンスターを一匹も倒せない新王だなんてww」

アイリアたんがわざと聞こえるように僕の陰口をたたいてくる。

腹立つなぁ。

「アイリア、駄目ですよ。まだトモヤだってこの世界のことわかっていないんですから」

「そ、そうでしたね、でも可笑しすぎてwwww」

笑いすぎ。

僕としては一刻も早く討伐を終わらせたい。

ちょうど目の前をコウモリが飛んできたので、素早く猫だましをお見舞いし、地面へと落とす。

「えいっ」

ブチッ

僕は足で踏みつぶした。コウモリの血が飛び散る。

うわ、リアルだなぁ。真っ赤な血液が辺りの地面を濡らす。

とりあえずこれで1匹だ。あと24匹だったな。

この作業を続けて20分くらいったった頃。僕は合計7匹のコウモリを仕留めていた。

どれも猫だましで落として踏みつぶして倒した。僕の選んだ武器が役に立たない以上、楽して倒すこともできない。

「団長!西側の通路からマッドゾンビの群れが!」

突然テントのほうから声がした。

「ガソリン撒いて対処しておけ」

「はっ」

あっさり過ぎる対処法だな…もっと騎士道とかないのかよ。

しばらくするとテントの奥の方で火が上がった。奥のほうからは呻き声が聞こえる。おそらくゾンビのだろう。

ゾンビがどんなのかはゲームでしか見たことがない。見ていたら試練どころではなかったかもしれないな。失神していたかもしれない。死体だぞ?よくそんなのと戦えるな。

「おい、手が止まっているぞ!さっさと倒せ!」

アイリアたんの罵声が聞こえる。はいはい、言われなくてもやりますよ。


そして合計14匹のコウモリを葬ったとき。事件は起きた。

「コウモリの死体ってすぐ消えるんだな…」

ということに気づいた。

「死体は地面にいる微生物の格好の餌らしいからな」

トムズが答えてくれる。

「そうだ。町などの整備されていない場所で死んでしまったら死体は残らない。すぐに骨になってしまう」

アイリアたんがトムズの情報に付け加える。

「お前もここで死んだらすぐに骨になると思え」

「怖いよ!それに縁起悪いこと言わないで!」

「ははは、なったら面白いのにな」

「アイリア!」

「ごめんなさい、あの男が悪いんです」

アイリアたん謝る気ねぇぞ。

と、次の瞬間。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォッ!!

ものすごい揺れが起きた。

「な、なんだこれは地震か!?」

「キャ――――――!!」

テントがグォングォン揺れて今にも壊れそうだ。

「落盤の恐れもある、魔導班は結界の準備!」

「はっ!」

これは僕も避難したほうがよさそうかな?

と思っているうちに揺れは収まった。

「各員、周囲の警戒態勢!」

「団長!!!緊急の伝令です!」

「何だ?」

「外にドラゴンが!ラ…ラストドラゴンです!」

「何だと…!?」

「ラストドラゴンの巣穴探しの時期です…おそらくこの穴を巣穴にするつもりでしょう」

「総員、撤退準備だ!急げ!皇女様をお守りしろ!」

何かすごいやばい状況らしい。試練どころではないようだ。

「お前も試練は中止だ、早く外に出ろ!」

「あ、ああ!わかった!」

「ドラゴンがこの洞窟に入る前にだ!急げ!」

僕らは全力で走る。

「まずいことになっちまったな…」

トムズが走りながら声をかけてくる。

「全くついていませんよ…きっと僕の人生もここで終わりですね…」

ジョンソーがあきらめたかのように口を開く。

「はぁ、はぁどうせ終わるなら走ったって無駄ですよ」

「ジョンソー!」

突然ジョンソーは走るのをやめて止まった。

「もし生きて出られたら僕のおふくろにこう伝えてください、親不孝な息子ですいません…と」

「ジョンソー!てめぇ!」

トムズが引き返し、ジョンソーを殴りにいく。バキッ!うわ、痛そう。

「ここで諦めてどうする!親不孝のまま人生を捨てるのかよ!」

「……」

あの、トムズさん、あなたまで止まっていたらあなたまで死にますよ。

「それに、あの計画だってまだ!」

「お二人で頑張ってください…」

…。

「うわーーーーーーーっ!!ドラゴンだ!!」

先頭を走っていた騎士たちが声を上げる。

「ほら、もうみんな仲良くお陀仏ですよ」

「…終わったみたいだな」

トムズもジョンソーもあきらめムードに入る。

ドラゴンは火を噴き、先頭にいた騎士たちを炎で飲み込んでいく。

「ぬわーーーーーっ!!!」

「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ウボァーーーーー!!!」

「ぎょええええええ!!!」

「総員、一時退散!元来た道を戻れ!」

アイリアたんが指示を出す。

僕らはこうして元来た道を戻り、少しでも長く生きることだけを考えて行動した。


こうして、僕たちは洞窟の最深部。つまりさっきいた場所へと戻ってきた。

まだドラゴンはここには来ていない。ドラゴンがここに到着すれば僕たちは全員お陀仏だそうだ。

最深部につくと、松明を灯してテント内ですぐにアイリアたんを中心に騎士団による対策会議が行われた。

僕やラピュアや近衛兵は部外者なので外に出るように言われた。

内容が気になるので僕らはテント越しに耳を傾けていた。

「あのドラゴン、つまりラストドラゴンの習性は知っているか?」

「この時期になると毎年巣穴を探すそうですね」

「そうだ。それに加えて奴は巣穴を見つけるとそこにいるほかの生物を皆殺しにして巣穴を掃除する習性があるそうだ」

「外部から救援要請を」

「一応送ってはいるのだがおそらく間に合わない…」

「せめて新王様と皇女殿下だけでも…」

「そうだ。それだけは譲れない。しかし全員で脱出するのが理想だ」

「それは難しいでしょう」

「持てる知識を全部振り絞ってくれ。そのためにできることは何でもしよう」

「おとり作戦…というのはどうでしょう」

「しっ…声が大きすぎる!この事が皇女様のお耳に入れば…」

「なりません!」

隣で聞いていたラピュアが突然テント内へと乗り込んでいく。

「おとり作戦など私が許可しません!みんなで助からなければ意味はありません!」

ほとんどの騎士団の人がやれやれ…という顔をしている。

「皇女殿下、そのお気持ちは有り難いのですが、皇女殿下がお亡くなりになるということだけは騎士団の誇りにかけても防がなくてはなりません上…」

「それなら私がおとりになります!」

言ってることが滅茶苦茶だ。騎士団の誇り無視してやるなよ…。

「ですから、この国の未来を背負う皇女殿下には生きて頂かないと…」

「そうです。皇女様はこの国のシンボル。そのようなお方が亡くなられたと知っては国民はどうなるのです?」

「…それでも皆さんという国民の命には代えられません…」

あー、僕がおとりになったほうがいい感じ?

「お前やれよ」

トムズがジョンソーに提案する。ってかこれ『お前死ねよ』っていうのと同じ意味だからな。

「いやいやトムズ氏が」

「じゃあ二人で…やるか?」

「そうですな…」

なんだかんだ言っていい奴だったんだな…僕の部下たちは…。

よし、ここは僕も腹をくくって…。

「じゃあ僕も」

「「どーぞどーぞどーぞ」」

「はぁ??????」

全くクズみたいな奴らだ…。


会議は一向にまとまらず、ただ時間だけが過ぎていった。

「ポイントDにドラゴン到着!到着予定時間まであと12分!」

「まずいな、作戦の準備もあるだろうが、一向に決まらない」

「いっそのこと立ち向かうしか…」

「しかし相手は何千年も生きているドラゴンですよ?その最上位種ですし…」

「私の魔法で何とかなりませんか?」

「皇女様のお力は先ほど拝見させていただきましたが素晴らしいものです、しかしそれでも…」

「そうですよね…」

「この洞窟は一本道ですし…引き返すとなるとドラゴンと鉢合わせしてしまいますし…」

…一体どうすれば。

僕には何ができる?……僕にある能力。

地形無視。しかしそんな安定しない力にだれが賭けるというのだ。

ここで意見しても仕方がないだろう…。

だが可能性がないわけでもない。僕は地形無視を使い、ここにいる全員を洞窟の外へと避難させることができるのではないかと考えたが、そんなことやったこともない。

まず自分一人の時でさえ駄目なものが、ましてや複数人を一緒に移動させるだなんてできるかどうかもわからない。僕はこの世界に来る前の幼女を思い出した。あいつは僕をつかんでこの世界へと連れてきた。要するに僕にもその対象に触れれば一緒に能力干渉が可能なのではないかと考えたのだが。

しかもその能力がうまく作用するか試している時間もないわけで。

「…もう知るか!ドラゴンに戦って勝つ!それでいいじゃないか!」

「だ…団長…」

アイリアたんもう疲れていらっしゃる…。

「騎士団らしく戦って勝つ!今までの鍛錬の成果を見せてやれ!」

「「「オーっ…」」」

ということで強行突破を狙う作戦らしい。もはや作戦じゃねぇ。

「来ましたドラゴンです!」

見張りの騎士が声を上げる。

「各員、持ち場へ付け!」

騎士たちはそれぞれのポジションへと陣取る。陣形を整えてドラゴンを待ち構える。

陣形にいくつか穴が見られた。先ほどの炎に焼かれてしまった騎士の分だろうか。

僕たち4人は後方で隠れているように言われた。

グゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!

ドラゴンが近づいてきているのがわかる。ものすごい足音だ。

この間の町の時もこのドラゴンが暴れてくれたおかげで飯を食えたのだが…今回は襲われる立場になるとはな…。

通路の奥からドラゴンの眼光が見える。橙色の鱗に、金色の目。大きさは相当大きなものだ。何と比べていいのかわからないが、とにかくでかい。まさにボスって感じだ。

顔から体の半分だけ通路からこちらに出した状態で、突然ドラゴンが叫ぶ。

「グギャアアアアアアアアアアアア!!!!」

ドラゴンの咆哮が騎士たちを襲う。

「耳がぁ!耳がァァァァァァァ!」

「頭が割れる!!」

「脳が震える!」

かなりうるさい。僕たちも耳を抑えていたが、遠くからでも耳がキンキンする声量だ。

前にいた騎士の数人がその場で倒れこむ。それをすかさずドラゴンは前足で踏みつぶす。

「貴様ァァァァァァァァ!!!!」

アイリアたんが激昂する。そしてアイリアたんは単身でドラゴンの顔の上に乗り、眼を潰そうと試みる。

怒りの一撃!

しかしその手は通じなかった。ドラゴンは頭を岩石に叩きつけ、アイリアたんを岩盤浴状態にする。

「うぐっ」

アイリアたんは岩に埋められた状態になるが、攻撃をやめようとしない。

「ぐっ、死ねええええええ!!!!」

ドラゴンの顔めがけて斬りかかるが、鱗はその攻撃を全く受け付けない。

「団長!落ち着いてください!いくらそのドラゴンが…」

騎士の一人がアイリアたんの行動について指摘する。

「すまない、取り乱してしまった…すまない」

アイリアたんはボロボロの体のままドラゴンから距離を取り、元いた陣形の場所へと戻る。

「私としたことが…冷静さを欠くような行動をしてしまった」

「団長、指示を!」

「扇陣にて前方包囲!」

騎士たちはアイリアたんの指示に従い、陣形を変化させる。

そして次々と攻撃を仕掛けていくが、どれもドラゴンに効いていないように思える。

とにかく硬すぎる防御だ。攻撃がまともに通りやしない。

ドラゴンは口を大きく開け、火を噴きだそうとする。

「盾陣用意!」

騎士団も負けてはいない。盾を持った騎士たちが前方に出て炎のブレスを防いでいる。

「砲撃準備!撃てェー!」

魔導士達がドラゴンめがけて様々な属性の魔法をぶつけていくが、ドラゴンにあまり効いていないかのように思える。

「私も協力させてください!」

そう言うとラピュアは前へ出ると先ほどと同じ炎を作り出し、こう唱える。

「天駆ける火龍の豪炎(エターナル・サラマンドラブレイズ)!!」

炎の竜が作り出され、その竜は本物の竜へと向かって突っ込んでいく。

ドォォォォォーンッ!!!

ものすごい音とともに、砂煙があたりを包む。

「やったか!?」

ああ。騎士の一人がフラグになるようなセリフを口にする。

こういう時って大抵…

「グルォォォォォォォォォォォォォン!!」

砂煙から姿を現したドラゴンが再び咆哮を繰り出す。

「ぐわっ!!」

盾を持った騎士たちが次々と吹き飛ばされていく。

「ぐええ!」

ジョンソーに吹っ飛ばされてきた盾騎士が突っ込む。

「まずい、陣形を立て直せ!全滅するぞ!」

と言っている間に、ドラゴンはすでに次の行動へと移っていた。

「まずい、あれはブレスだ…!」

僕が気付いたころにはもう遅い。盾役の騎士は前にいない。

このままでは後衛の騎士が!

――――「てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

バシュッ!

一筋の閃光がドラゴンの目の前を横切る。

「グルェェェェェェェェェェェ!!!」

ドラゴンが苦しむ。ドラゴンの前足の鱗を?がしたのはアイリアたんだった。

ドラゴンは怒り狂ったのか、半分通路にいた体を広いスペースであるこちら側に飛び出してきた。

僕らの目の前にドラゴンの全貌が明らかになる。

「あれが…ラストドラゴン…!」

「ぜぇ…そうだ。あれは…私の父親の…仇…」

アイリアたんは技を決めた後、僕らのいる地点までバックステップで戻ってきた。

それにドラゴンが仇…?それが理由で倒したかったのだろうか?

「アイリアたん、どうしたんだその傷…」

「…心配することはない。私のこの…剣の代償によるものだ」

「代償?」

「詳しく説明している時間はない、何とかドラゴンを通路から引きずり出した。私たちが時間を稼ぐ。その間に皇女様を連れて…逃げろ!」

「そんな…」

「アイリア!駄目ですそんなの!」

「…やってくれ」

アイリアが目で誰かに合図を送る。

「ごめんなさい皇女様」

ジョンソーがラピュアの首筋を手刀でトンと叩く。まさか…?

「アイリ…あっ……」

 …ドサッ

ラピュアは気絶してその場で倒れたところをアイリアに抱きかかえられる。

「ど、どうして」

「こうでもしないと皇女様を脱出させることはできないからな」

「…」

「お前たち、皇女様を、頼んだぞ…」

そう言い残すとアイリアたんはラピュアを僕に託し、ドラゴンと戦っている騎士たちに加勢しに向かった。

「兄弟、ここはあの人たちに任せて逃げるぞ!」

「うん、それがいいと思う…」

「…そうだな」

僕たちはドラゴンがさっきまで陣取っていた通路のほうへと向かう。

幸いドラゴンは騎士達と戦っており、こちらの動きに気づいていないようだ。

僕はラピュアを背負いながら足を急がせる。

走っている途中に、僕の頭上を影が覆った気がした刹那――

「危ない!」

アイリアたんが僕らの前に出て刀でドラゴンの爪を受け止め、弾き返す。

見るからにドラゴンは僕らの動きに気付き、攻撃を仕掛けてきたようだ。

「油断するな、今のうちに、早く行け!」

アイリアたんの鎧はボロボロ、もう体中傷だらけになっている。

アイリアたんは力なくその場に座り込んでしまった。

「ははは、情けないな、こんなのでは騎士団長の名に恥じる」

戦っている女の子を見捨てて逃げるなんて…僕は…僕は……!

「お前ら、ラピュア背負って先に行け!」

「え、王様!」「は!?」

ジョンソーとトムズが突然ラピュアを託されテンパっている。

「おい!お前も逃げろと言ったろ!」

「アイリアたん…僕は、守るよ。僕が守りたいものを」

「は?」

「僕には…今はまだ何もないかもしれない、何もできないのかもしれない。でも、僕自身のために守れるものを守りたいんだ」

「だったら…ラピュアを…!」

「違う!」

「!」

「ラピュアもアイリアたんも僕の中では異世界ヒロインだ。一人でも欠けてしまったらそこですべてが終わってしまう。そう気づいたんだ」

「……悪い、話が見えてこない…どういう意味だ?」

「僕は」

…!

ドラゴンは口を大きく開けてアイリアたんの方へ突っ込んでくる。

アイリアたんはそれにようやく気付いたみたいだ。

僕は腹をくくった。この子を助けなきゃ…。

「だから僕は――――

アイリアたんを突き飛ばした。

「小川智也!!!!」

突然、僕の視界は真っ暗になった。


視界は真っ暗になったが痛覚も何も感じない。

周囲が湿っぽいことがわかる。おそらくドラゴンの体内だろう。

持っていたスマホのライトであたりを照らすと、中には色々なものが飲み込まれていたことがわかる。自動車やモンスターなどが飲み込まれていた。

他にも砂馬の脚と思わしきモノがあったりと、恐ろしい光景だった。

僕の相棒も飲み込まれていないか心配だ。

どうやらここは胃袋っぽい。腐敗臭があたりから漂っている。

危険を漂わせる液体が僕の足元に敷き詰められている。

シュ~~~~~

おそらく消化液の音…!

「うわやっべ」

とっさに足を近くにあった自動車の屋根の上に退避させる。

とにかくここから出ないとな…。

ドラゴンの消化液らしきものはヌルヌルするスライム状のものだった。汚ぇ。

とにかくスマホのライトだけでは視界が悪すぎる。このままだと何もできない。

自動車のライトがつくか試してみようと考え、自動車へと乗り込む。

僕は免許は持っていないが、車のつけ方くらいわかるだろう。

…と思っていたが。異世界の車なんてわかるかってんだ…!

まず鍵がない時点で…!

ブルルルルルルル!!

あれ?突然エンジンがかかり、電気も付いた。

壊れていたからかな?それなら不幸中の幸いだ。

車の大きなライトが灯ったおかげでだいぶ視界が広くなった。

試しに車のアクセルと思わしきペダルを踏んでみるが何も起こらない。タイヤがおそらくパンクしているのだろう。

僕は胃袋の中で使えるものはないか探そうと、一旦車の天井の上へと出てみる。

「これは…」

車の後ろの部分には見慣れた荷台が積まれていた。

皇族専用VIP車両だ。僕も一度乗った思い出がある。

「これならいけるかもしれないぞ…」

僕は荷台に乗り込み、中にある、あるものを探す。

「あった、これだ」

僕が見つけ出したのはタツマキエール君のスイッチ。

あのすさまじいパワーならドラゴンを内側から粉砕できるかもしれないと思ったからだ。

「ヒヒヒ、これであのにっくきドラゴンも終わりだぜ」

僕はその時悪役の顔をしていたのだろう。

僕はためらいなくそのボタンを押し、タツマキエール君を展開する。

タツマキエール君の砲台が姿を現し、弾丸の周りに稲妻がほとばしる。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

の合図とともに装填を終えたタツマキエール君を発射させる。

タツマキエール君の放った弾丸はドラゴンの胃の壁めがけて炸裂する。

「グギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

ドラゴンの鳴き声が聞こえる。鱗に覆われた外側への攻撃はビクともしないが、内側からの攻撃ではひとたまりもないだろう。

しかし、ドラゴンの胃は焼き焦げはしたものの、全く穴が開く様子すらなかった。

タツマキエール君はエネルギー切れで使えない、さて、これからどうしようか。

グブッゴブッゴポッ

「ん?」

聞きなれない音が聞こえた。

荷台の窓ガラスから外を見てみると、胃の消化活動が始まっていた。

なんと大量の胃液が流れ込んできた。胃袋は胃液で満たされ、僕は荷台の中から出ることができなくなっていた。さらに、荷台のカーペットが少しずつ濡れてきている。浸水が始まったようだ。

「これはまずい…」

僕はこの荷台の中で生を終えるのか…。

と思っていた途端にさらに事態は悪化する。荷台の壁も溶かされ、穴が開き始めていた。

そこから次々と胃液が流れ込んできて…

僕は胃液に飲み込まれた。

…。


ああ…異世界でラブコメ、したかったな。


僕は死んだ。

…。

……。

………。

胃液に飲まれてドラゴンの栄養になってしまった。

え?どうしてそんな風に語っているかって?あれ?何でだろう。

確かに僕は胃液に飲まれて…。

しかし僕の体は五体満足。手足も動く。ただ、僕は水中にいることは確かだ。

目を開いてみると、目の中に水が入る!とっさに目を閉じた。

一瞬開いてみて、思ったのが、一面が真っ赤だった。

まさに血の色。

ひょっとして今僕は血管の中にいる?

息ができないこの状況はよろしくないので、能力が使えることを祈りつつ移動を試みる。

僕は能力を発動させることに成功した。血管エリアを出て、ドラゴンの腹のあたりから外界にたどり着いた。

「プハァ!」

僕の顔がドラゴンの腹からひょこりと出ている異様な光景だ。

周りで戦っている騎士たちも驚いている。

「小川智也!」

座り込んだまま動けないでいるアイリアたんがパァっと明るい表情を見せてくれた。

よかった、まだ生きていてくれた。

だが僕が出てきたところで根本的な解決にはならない。

ここから何かしないと。

「僕に作戦がある、僕の能力で、ドラゴンを内側から倒すんだ」

そう。外側から攻撃するよりは内側から攻撃したほうが効果があるはずだ。

「小川智也、これを使え、今のお前ならドラゴンをやれるかもしれん」

アイリアたんは自分の剣を僕のほうへ投げてくる。そのまま僕の顔のすぐ隣のドラゴンの鱗の間へと刺さる。

「この剣は少々危険だが…お前なら…心臓を一刺ししてやれ…!」

「わかった!」

僕はその剣を鱗から抜き取り、再びドラゴンの体内へと入っていく。

その剣を持った途端、僕の体に痛みが走る。まるで荊に締め付けられるかのような痛みだ。

その痛みに耐えながら僕はドラゴンの体内を移動した。前は何も見えない。とにかく歩き回る。

途中、血を流れるエリアに出てしまったときはその血管をズタズタに切り裂いておいた。

その度にドラゴンは悲鳴を上げる。こうかはばつぐんだ!

血管エリアを辿ると、ドラゴンの鼓動が聞こえてくる。

ドクン…ドクン…。

 ドクン…ドクン…。

ドラゴンの鼓動を発しているであろう機関にたどり着いた。おそらくこれがドラゴンの心臓。

「これで…!」

ズバァッ!!

「ぐわああああああああああああああああ」

切れたのは僕の背中だった。背中から血が噴き出しているのがわかる。

どうやらこの剣の“代償”というものらしい。

「ぼ…僕の背中ァァァァァァァ!!!!いたいいたいいたいいたい!!!!」

僕はその剣を持っていられなかった。駄目だった。

僕は我慢できずにドラゴンの外へと飛び出し、剣をその場に捨てた。

「やったか…?」

「だ…駄目だ。僕には、無理だ」

「そうか…」

僕は期待を裏切ってしまった。やれなかった。結局僕は何の役にも立てなかった…。

…というわけでもなさそうだった。

僕が血管をズタズタに切り裂いたこともあってか、ドラゴンはうずくまって、少し大人しくなっていた。

僕は初めてドラゴンの全体像を見た。ドラゴンはとにかく巨大で、翼が存在した。背中はゴツゴツしていて、全体的な大きさは、小さな山一つ分くらいの大きさがありそうだ。

とにかくでかい。

「突然ドラゴンが呻き苦しみだしてだな、やったのかと思ったが」

ドラゴンは痛みによって横たわり、痙攣している。

「今なら逃げられそうだぞ」

「そうだな、倒すのが目的じゃない。皆で、生きて帰るんだ…」

僕はアイリアたんに肩を貸し、痙攣しているドラゴンをよそに、残った騎士の人たちと一緒にその広間を後にしようとする。

その時、僕は何を思ったのか、ドラゴンの口の中にズボンのポケットにあったゴミを投げ込んでおいた。

それは単なる好奇心からなのか、それともドラゴンへの小さな復讐のつもりなのか。今となってはどうでもいいことだ。

僕たちは無事に洞窟を出ることができた。

洞窟を出ると、洞窟の外装は大きく変わっていた。移動中にもわかることだが、洞窟の幅が広がっていた。もちろん入り口もだ。

ドラゴンが恐らく入るために広げたのだろう。

外に出ると辺りはもう真っ暗で夜。

「…っ!トモヤ!」

「なんとか、出られたよ…」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

ラピュアが抱き着いてくる。ラピュアと僕は初めて触れ合うことができた。いつもなら触れられないが、今回は神様も多めに見てくれたみたいだ。神様死んだらしいけど。

僕はぎゅっとラピュアを抱きしめる。これがラピュアのぬくもりなんだ。

僕は初めて味わうぬくもりに抱かれ、心地いい気分に浸っていた。

「よかったよおおおおおおおお」

「ハハ、僕ももう会えないかと思った」

ぎゅっと…抱きしめるその少女は僕の消え去ることのない思い出になった。

「兄弟ィィィィ!」

「無事でよかったでずううううう!」

「な、なんだお前ら!」

男二人して抱き着いてくる僕の近衛兵。気持ち悪。

「もう帰ってこないと思っていたぜ…うぉーん!」

「帰ってこないと僕たちの職が…うぉーん!」

「そういうことかよ…」

だが本当に泣いてくれているみたいだ。照れ隠し?ハハ。

しかし周りの雰囲気を見ると喜んでもいられない。騎士団に少なからず犠牲者が出たわけだから。

ドラゴンの火に焼かれた者、ドラゴンに踏みつぶされた者、その他にも戦死したものがいるであろう。

騎士団の人数は明らかに出発当初よりも減っている。

まさに葬式ムード。

「皆、よくぞ戦ってくれた。逝ってしまった仲間もいるが、とりあえずこうして生きて出ることができたわけだ…」

「…ですね」

「畜生!」

騎士の中には地面を拳で叩く者から、泣きじゃくるものまで様々だった。

僕の試練についてきた結果がこれである。僕は罪悪感に囚われてしまっていた。

「とりあえず、この後のことは、城に帰って考えることにしよう」

「ですね…」

……ゴゴゴ。

「洞窟のほうから何かが近づいてきてませんか?」

「そんな、まさか…」

僕たちは異変を感じ取り、わずかに残った砂馬に乗り、洞窟のあたりから離れようとする。

「ハロー!」

僕の相方は相変わらずのようだ。ただ、無事でよかった。

坂を上り、その場を離れようとすると、空に大きな翼が映る。

月光の下に突如として現れたその影は僕らの方めがけて突っ込んできた。

「ひえええええええええ!!」

ジョンソーを含めた騎士数人が叫ぶ。助かったと思ったのにここでやられるなんて…。

ドラゴンは僕らの進行方向に先回りして地面へと降り立った。

僕らは止まるしかなかった。

「汝らは人の子か」

突然謎の声が辺り一帯に響き渡る。

「だ、誰だこんな時に悪ふざけしている奴は!」

アイリアたんが怒鳴りつける。

「我は天龍ケルセオス。悠久の時を経て生きる竜だ」

「天龍ケルセオス?」

僕が知るわけがない。僕のうちで数年前まで飼ってて死んだ犬みたいな名前だな。

そんな感じの似た名前だった気がする。そういえばあの犬母さんが名付けたんだっけ、ネーミングセンスの中二病さを思い知らされたよ。

「誰ですか?」

「誰でしょう」

ラピュアもジョンソーも知らないらしい。

というよりも目の前に降り立ったのは騎士団の仲間を葬り去った仇だ。それに、自分たちの命を奪おうとした張本人でもある。

「ああああああああ!!!俺は死にたくない!」

「俺も御免だ!」

数人の騎士はドラゴンのいる方とは逆、つまり洞窟のほうへと引き返していく。

「お前、話せるのか」

「そうだ。何が起きたかよくわからないが、こうして我は自我を取り戻した」

「団長!危険です!こいつは我々の仲間を…」

「今は違うみたいだ」

「…我がお前たちの仲間を葬ったと」

「そうだ。お前が私たちの仲間を殺した。目の前でな」

「そうか…それは悪いことをしてしまった。非礼を詫びよう」

ドラゴンはそういうと、頭を地面へとくっつけ、日本で言うDOGEZAの姿勢をとった。

「………謝られても失った命は帰ってこない」

アイリアたんはそう吐き捨てる。

「そうだな、我がやったことは到底許されることではない」

「じゃあ何をしに来た」

「我を殺してくれ」

突然の殺してくれ宣言に驚いた。これぞ日本の風習、SEPPUKU!

「………遠慮はせんぞ」

「我は三百年もの間幾多もの命を奪ってきた。この罪が死んで償えるものではないことはわかっている。だが我はこの過ちを繰り返すつもりはない」

「そうか」

「む、この匂いは…」

突然ドラゴンが妙なことを口にした。初めは幻聴を疑った。

「勇者の匂いがする」

「勇者だと?そこにいる王のことか」

「かつて我と共に旅をした勇者…名前が思い出せぬ…だが、そこにいる者と似通ったものを感じ取る」

え?僕?きっと日本人特有の匂いでもするのだろうか。勇者と間違われるだなんて、照れるなぁ。

「お主、名は何という」

「小川智也」

「オガワ、トモヤ。………わからぬ。何故お主から勇者の匂いがするかは我にはわからぬ」

「僕もこの国に召喚された日本人だからね」

「ふは、そういうことだったか…同じ人種から同じ匂いあするのも当然だな、だがお主からは別の匂いも感じられる。我が嫌いな匂いだ」

僕はとっさに身構えてしまう。

「安心せい、今の我は襲う力もない。お主に体をボロボロにされたからな」

「で、お前は何が言いたい」

「我はもうじきに尽きる命だ。いっその事我を憎む者の手によって逝きたい」

「私はお前のことが死ぬほど憎い。お前を殺すために騎士団に入った」

アイリアたんがドラゴンへと近づく。

「そうか。なら安心した。我の息の根を…止めてくれ」

「わかった」

ドラゴンは横たわる態勢になり、自分の喉元をアイリアたんに近づける。

「アイリア!」

ラピュアが剣を携えたアイリアたんを止めに横から入る。

「…」

「そこをどいてやれ小娘。その者は自分の望みを叶えようとしている、それだけだ」

「ですが、天龍さんは!」

「我は憎しみの連鎖を止めなければならん。これ以上我とて憎まれるのは辛いものよ」

「アイリア…あなたの気持ちはわかります…しかし…」

「そこをどいてください」

アイリアたんがラピュアに見たことがない対応をする。本気の顔だ。

きっと本気でドラゴンを殺しに行くつもりだ。

「こんなチャンス二度とありませんから…私は父の仇を…」

「…そうですか。意志は固いようですね…わかりました…」

ラピュアがアイリアたんに道を譲る。そのままドラゴンの喉元の下まで来た。

「さぁ、やるといい」

………。

「どうした?我が正気を失う前に、早くやってしまえ」

…………………。

「行くぞ」



アイリアたんの放った斬撃はドラゴンの喉を切り裂き、鮮血の雨が降り注ぐ。

ドラゴンは即死だった。ドラゴンの首は勢いよく地面へと落下し、辺りの砂埃を巻き起こした。

ラストドラゴンの脅威はこれでなくなった。

世界は平和へと一歩近づいたのだ。

だが、この選択が正しかったのか、間違っていたのか。それは誰にもわからない。

ドラゴンの死体は早くも風化を始めていた。頭部だけは風化を防ぐために騎士団の人が荷台に運び込み、城へと持ち帰ることにした。

僕たちはそのドラゴンの風化を骨だけになるまで眺めていた。

アイリアたんは返り血によって血まみれになったまま、その場に立ち尽くしていた。

「…終わったか」

アイリアたんはそうつぶやき、空をずっと見上げていた。

僕はアイリアたんの方へ近づき、話しかけてみる。

「仇が討てて、満足したか?」

「……何とも言えない感情だ。やはり命を奪うだなんてことはするもんじゃない」

「そうか」

僕にはわからない。命を奪う、奪われる。いつも食べ物を食べることで当たり前のことなのに、わからない。ゲームで敵を殺す、そんなことは日常茶飯事だったはずだ。

だけど、本当に憎い相手なのに殺して後悔するだなんて言うこともあるんだな。

僕はそんな哲学じみた事を考えていた。

「団長、もうよろしいですか?」

「ああ、時間を取らせたな」

アイリアはそう言うと、完全に骨だけになったドラゴンの方を見て涙を流していた。

その涙に何が含まれているかは彼女以外知る由もなかった。

ドラゴンの死体があった場所には骨だけではなく、自動車の破片など未消化の物が散らばっていた。

「あ!これはタツマキエール君の部品!」

私は砂の中から皇族専用のVIP車両の遺留品を見つけ出す。

「これは?」

砂の中から何か光るものが顔を出している。

「洗ってトモヤにあげようかな」

私はそれを拾い上げて、荷台へとこっそり積んでおいた。

そして私たち一行はその場を後にした。

私はアイリアの砂馬に乗せてもらっている。

アイリアはさっきの天龍さんの返り血を浴びて真っ赤に染まってしまっいたので、私ではなく他の者と一緒にと言われたが、アイリアに話すことがたくさんあるので、そこは譲らなかった。

「アイリア、先ほどの天龍さん、その…」

「…。」

アイリアは黙り込んでしまっている。私の言うことを聞かなかったことを気にしているのだろうか。

「その、私が止めたのを振り切っていってしまいまったのを攻めているわけじゃないんです」

「…。」

「ただ、どうして、そこまでする必要があったのかなって」

「…皇女様も私の過去を知っているはずです」

「ええ、でも、死なせてしまうってのは」

「私の父もアイツにやられたんです」

「そこまでは知っています」

アイリアの父のことは私もよく知っている。

私とアイリアの出会いから、その関係の変化までを描くストーリーがある。

それは私が4歳の時…。

「この子が皇女殿下の遊び相手を務める、アイリア・グリンフォードです。私の一人娘です」

騎士団長のおじちゃんが小さい子を連れてきた。私よりも小さい!

「…。」

「よろしくね、アイリアちゃん」

「…。」

「ほら、挨拶しなさい、この方はラピュア皇女殿下だ」

「ラピュアといいます、ラピュア・オリハルカ」

私は母親に習っていたれでぃのたしなみというものを実践するべく、ドレスのスカートを手で持ち、お辞儀をした。

「おやおや、ラピュアちゃんはお行儀がいいですね、ほら、アイリアも見習いなさい」

「…よろしく」

私とアイリアちゃんは年も同じということで、すぐに仲良くなった。

よく一緒に蹴鞠遊びをしたり、おままごとをして遊んだ。


「アイリアちゃんって綺麗な髪だよね」

「ラピュアだって…、いつもいい匂い」

「きゃあ」

アイリアちゃんにはよく抱きつかれてじゃれあった。

二人して笑って、二人して怒られて、泣いた。

そんな時が長く続いた………………………らよかったな。


私とアイリアちゃんが出会って2年。私たちは6歳になっていた。

「さて、私はこれから任務に行かないといけない、しばらく帰れないと思うから、ラピュアちゃん、うちの子をお願いね」

騎士団長のおじちゃんにそう言われた。その時はいつものことだなぁ、って思って特に気にもしなかったけど、私がおじちゃんを見たのはこれが最後だった。


おじちゃんは帰ってこなかった。

後から聞いた話では、『ラストドラゴン』という悪い竜を退治しに向かったらしい。

結果は失敗。騎士団は無能だとか言う風潮が流れていたが、当時の私には難しい言葉はわからなかった。

その日からアイリアちゃんは私の元を訪れなくなった。

私はその日から、まだ生まれて間もない妹と遊ぶしかなかった。


それから時が流れて、アイリアちゃんは城に戻ってきた。

私は明るく迎えたが、アイリアちゃんの表情は固くなっていた。もう昔のアイリアちゃんとは別人だった。

アイリアちゃんは騎士団に入ってすぐ実力を発揮し、今では騎士団長の座に就いている。

すごいよね、人ってこんなに変わるんだって思ったよ。

アイリアちゃんに話しかけても、以前のように呼び捨てで呼んでくれない。私のことを皇女様と呼ぶなど、まるでおじちゃんが帰ってこなくなる前のことを全部固く閉ざしている、そんな感じだった。

こんな感じで、今に至るのだが、アイリアは今、どう思っているのだろう。

天龍さんを倒して、元のアイリアに戻ってくれる?いや、それはないだろう。

きっとアイリアの心は閉ざされたままだ…。

でも、少しでも昔のアイリアに戻ってくれれば…。

「アイリア、昔のように…戻れますか?」

「……私は…。」

しばらく沈黙が続く。そうだよね、突然そんな話、無理だよね。

「…無理しなくていいですよ、ちょっとずつでいいですから」

昔のように、私の友達としていてほしい。

私と一緒に、泣いて笑ってくれるだけでいい。身分の差なんてモノを超えた存在になりたい。

私は皇女で彼女は騎士団長。そんなの関係ない。深い、友情の話。

今はこんな関係だけれど、いつか一緒にまた笑いあえるといいな。

「あああああああああ!砂馬うっせええ「ハロー」ええええええ」

「ハロー!」

僕は寝ようとしたがこいつがハローハローとうるさいから一睡もできなかった。

僕は一睡もできないまま城へと帰ってきた。砂馬から降りて、城内へと入り…

「はぁ、やっと寝れる…!」

「お前はまだ皇帝陛下に報告せんといかんだろ!」

アイリアたんに叩き起こされる。せっかく眠たい気分だったのに…。

「…あれ、結局僕の試練って」

「色々あったしな…今回のことは私からも報告するが、試練としては申し分ないだろう」

「…そうか。騎士団の人、残念だったな」

「うむ、冥福を祈ってくれると助かる」

あれ?アイリアたん丸くなってない?いつもより優しく感じるのは気のせい?

「玉座の間はわかるだろう?私も一緒に行こう」

「うい」

僕たちは玉座の間へと向かった。

玉座の間へと入ると、皇帝が驚いた顔をしている。

「どうしたその傷は!何があった!」

アイリアの血まみれの様子を見て皇帝が心配する。

「それがですね…」

…と。ことの経緯をアイリアたんは皇帝へと詳しく説明をした。

「なんと、ラストドラゴンの巣作りが…」

「ええ。あの洞窟に巣を作ろうとしていたみたいなのですが」

「なるほど、大体わかった。天龍については学者に後ほど調べさせよう」

「お願いします」

「して、智也。大変だったな」

「ええ、そりゃもう死にそうでした」

特に僕のダメージはアイリアたんの剣の代償によるものだが。

「この者はオリハルカコウモリ25匹の討伐任務を達成できませんでした」

「お、おい」

事実だけど余計なことを言うなよ!

「ふむ」

「しかし、この者の働きは我が騎士団に甚大な協力をし、竜退治を成功へと導いてくれました」

「この者を王と認めるか?」

「認めます」

「?」

「説明していなかったか。騎士団長が王に認めて初めて王として正式になれるんだ」

え、初耳。もし認められていなかったら僕どうなってたの?

「そういうことだ。騎士団長である私が認めたんだ、立派な王になれよ」

アイリアたんに肩を押される。え?ナニコレドッキリ?

「もう夜遅い、一晩寝てからまた改めて会おうぞ」

「あ、はい」

ということでその日はお開きになった。

僕は自室への道は覚えていたので、聞かずに帰ることができた。

そして僕はベッドに倒れこむように眠りに入った。


そして夜が明けた!

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