探求コード
目が覚めるとそこは人気がない大広間だった。まだ縛られているままだ。
誰かに見つけてもらわないとなぁ。
体を転がして扉のほうへと近づく。扉を蹴って音を鳴らしてみる。
するとちょうどそこを通りかかったであろうメイドさんに見つけてもらえて何とか救助された。助かったぁ。
そのまま僕は自室である鶯の間へと凱旋するのであったが。
その途中で皇帝と出くわしてしまった。
「おや、智也君じゃないか、どうしたんだい?こんな朝っぱらから」
「ちょっと寝付けなくて」
嘘はついてない。
「ふむ、昨日言いそびれたことがあってな、忘れておったわい」
「?」
「そなたにも近衛兵がつくんだよ」
「近衛兵!?」
うほ!ついに僕にも部下が!なんか嬉しいぞ。
「昨日の宴で近衛兵を任命するはずだったのだが…二人ともそろって欠席してしまってだな」
「はぁ。」
「ということで、今日はそやつらを探してきてもらいたい」
「僕がですか?」
「うむ。城下町の下見も併せて、町を一通り見て回るがよいぞ」
「はぁ。」
町を見るのはいいが、よく知らない人間を探すってのは厳しいのではないのか。
「これがそやつらの情報だ」
皇帝から二枚のプロマイドカードらしきものをもらう。
やったぜレアカードだぜ!………ってかそんなもんあるか!
「なんですかこれ」
そのカードにはよくあるカードゲームのごとく、攻撃力やHPなども記載されていて、名前と顔写真が上半分、下半分がステータスや技名が記載されていた。いわゆるトレーディングカードゲームだ。
その写真には『だが俺はレアだぜ?』と言わんばかりのどや顔の男兵士が写っている。
もう一枚にはデブの兵士が描かれていた。
「兵士の情報管理カード。有力技能カードともいわれている。略して有技能」
「それ誰が発案したんすか」
「大臣だ」
「やっぱり」
もはや言うまでもあるまい。
「それでだ、有技能カードはカードゲームで、登録した人は実際にカードになるというものだ。そして、強さを競うことができるカードゲームだ。自分のカードは常にデッキに入れる。それがルール。ちなみに国の事業の一つだ」
「めちゃくちゃカオスなカードゲームになりそうですね」
リアル人間をカードゲームにするってのは日本にもあることはあるが、それも野球選手やサッカー選手といった憧れの存在。だがこの有技能カードは自らが手札に加わるといったイレギュラーさを持っている。どういう意図でこれが作られてるんだか。
「そりゃあもう。一般市民だけではなく、アイドルや兵士、貴族までもが登録しているからなぁ」
「うわぁ、カオス一色」
「うちの兵士あには登録を義務付けている」
「どういう決まりですか!」
兵士に義務付けるってどんなルールだよ!
ん?もしかしてだけどアイリアたんのカードもあったりするのかな?何それ、超ほしいんですけど。
「有技能カードはこの国流行の遊びでね。デッキを強くするために自分磨きも必然なんだよ。それによって国民のレベルアップも図っているんだ」
「合理的すぎてすごいですね」
こればかりは褒めざるを得ない。反応に困ったってのもあるが、褒めとこう。
「でしょ?有技能カードは人それぞれ性能が異なってくるからね、例えば私のカードの場合、『ずっとワシのターン』のようなことができるのだよ」
「チート級ですやん」
せこすぎる。職権乱用だ!
「おっと、話がそれてしまったが、これも話しておきたかったことの一つだった、智也君。君もカードを作りたまえ」
「どうやって作るんですかね」
「町のカードショップで作れるぞ」
「わかりました。見かけたら作ってきますね」
見かけたら、な。わざわざ行ってまで作ろうとも思わんが。見かけたらアイリアたんのカードも買っていくか。
「ラピュアのカードってあるんですかね」
「娘はあまり好きじゃないみたいで、作ってはいないんだなぁ。人気出るのは間違いないのだが…」
「それは残念です」
「まぁ、そのことと、兵士のこと。それとあと一つ言っておくことがあるのだが…」
「はい」
「まぁこれは帰ってからでいいや」
「は、はぁ」
「兵士二人を見つけ出して連れてくるのだ」
「はい」
「それと、昨日のパレードの件もあってだな、とりあえず警備に兵士を数人つけておくとよかろう。話は通してある。兵士詰所へ立ち寄るといい」
「はい」
「では私は国務があるのでな。失礼するぞ」
そう言って皇帝はその場を立ち去って行った。
さて、詰所はどこだ。昨日行ったのは騎士団の詰所だしなぁ。
1階に降りて、少し歩いたところにメイドさんがいたので、道を尋ねて、その通りに進むと兵士詰所があった。
ドアをノックする。
「失礼しまー」
「おや、王様ですね。お待ちしておりました」
詰所に入ると、おっちゃん兵士が対応してくれた。
「今日はサボり魔の2人を捕まえるのが目的だと聞いています」
「サボり魔?」
「ええ、奴らはこの国の税金を吸い取るだけの駄兵士でして、ろくに出勤もしないのです」
そんなのが僕の近衛兵に配属かよ。どういう糞待遇を受けてんだよ僕は。
「給料とかなしにすればいいのでは?」
「それが国の決まりがいろいろとややこしくてですね、どうにもうまく処罰できないのです」
「きっと法律自体にも問題があるのだと思うよ」
僕もそんな方法があるならさぼり続けるぞ。だが立場上無理な話だ。
「この国には兵団と騎士団がありまして、大昔は同じ兵団だったのですが、いつからか分割されて今の状態になったといわれていまして。まだ法律がそのころのままなので、何も奴らを縛ることができる法律がないという状況なのです」
僕がさぼれるならともかく、こいつらに国税を吸われるということは腹が立つ。日本でいう生活保護のようなものだ。僕はそいつらを許さない。ということで、全力で探して働かせてやる。
「よし、探しましょう!一刻も早く探して奴らを正しい道へと導きましょう!」
「おや、やる気がすごいですね。その気持ちは我々も同じです。クリーナと私で王様を護衛します。クリーナは昨日一緒だったそうですし何かと馬が合うでしょう」
「そのほうが僕も動きやすいですしね」
「おい、クリーナ、出番だぞ」
………。
返事がない。
「ったく、あいつまだ寝てやがるな。王様、しばらくここでお待ちください」
と言うと、おっちゃん兵士は奥の部屋へと消えていき、それと同時に奥からガヤガヤと騒がしい音が聞こえた。詳しくは聞き取れなかったが、なにかあったのであろう。
少し待っていると、髪がぼさぼさのままのクリーナがおっちゃんと一緒に出てきた。
「さぁクリーナ、護衛任務だ」
「はいっ、新入りながら頑張りま…あ!昨日の!」
目をこすりながらしゃべっていたクリーナが突然目を覚ましたかのように話し出した。
「やぁ、またよろしくね」
「またまたよろしくお願いします。昨日のような失態は起こさないように努力します!」
「さて、兵士は2人でよかったですかな?」
「はい、あまり多すぎても目立ってしまいますので」
「では行くとしましょう」
ということで、おっちゃん兵士とクリーナ、そして僕で町へと繰り出した。
「皇帝殿からの伝言でカードショップに立ち寄るよう言われていますので、そちらへまず向かいましょうか」
「うひぃ」
マジで行くのか。まぁ興味がないわけではないが、あほらし。
カードショップまで歩くこと5分。
カードショップは日本にあるそれとほぼ同じような感じだった。たくさんの種類のカードがショーケースに並べられた店内に、レジが一つ。違う点といえば、撮影場所があるということだ。兵士たちは外で待ってくれている。
「有技能の新規のお客様ですね」
店員に話しかけられた。なんでわかったんだという疑問は置いといて。
「はい」
「ではこちらにお名前と経歴を」
店員に紙とペンを渡され、机と椅子のあるカウンタースペースに案内された。
「経歴?なんでまた」
「こちらがお客様のマスターカードの強さへとつながるカギとなっておりますので」
「なるほど、僕の人生そのものがカードになるって感じか」
「まぁ、そんな感じです」
異世界人の僕が最強説。デュフフwwwしかも地形無視というチート持ちだぜ?
僕TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!
「えっと、職業。王」
「出身地、日本っと。」
色々と書き込んでいるうちに楽しくなってくる。僕は特別な存在だぜ。
「特技、地形無視っと。」
一通り正しく経歴を書き終えた僕はその紙を店員へと返す。
「できました」
「はい、では機械を通して審査を行いますので、しばらくお待ちください」
「はい」
待ち時間の間、僕はショーケースを眺めることにした。しかしそこには他のカードゲームのカードしか見当たらない。
「あの、有技能カードってどこで売ってるんですか?」
「そちらは完全パック限定販売でして、転売も禁止されています。そちらのショーケースにはありませんよ。パックなら向かいの棚に置いてあります」
向かいの棚を見てみると、有技能とかっこよく書かれたカードパックが売られている。
そこにはきらりと光るオリハルカ皇国公式商品の文字が。どういう公共事業だよってんだ。
「これじゃあアイリアたんのカード買えないじゃないか」
しかも僕はこの国のお金なんて少ししかもっていない。宿代としておばさんにもらった小銭程度だ。そもそも買えなかった。
となると…
「あの、カード制作ってお金かかるんですか?」
「あ、はい。かかりますよ。登録料1万ハルクスです」
初めてこの国のお金の名前を聞いたぞ。しかも1万って。いかにも高そうじゃないか。
「あの、僕今お金持ってないんですが」
「大丈夫ですよ、もうすでにお話は伺っていましたので」
どこまで手をまわしてんだあの皇帝さんは。暇かよ、暇だよな!?
まぁとりあえず安心もした。
ちなみに今の僕の所持金は?小銭が5枚で、140ハルクスだった。
昨日だっけか?バーガーの値段は100だった気がするのでかろうじて一食食えるかな。
そう考えるとあまり日本とあまり変わらずにお金を使えるかな。100ハルクス=100円みたいな感じで。
ちなみに有技能カード1パック150ハルクスでした。買えねぇじゃん。
いろいろと店内を散策していると、店員に申請が通りましたよと言われ、再びカウンターへ。
「こちらがあなた様のカードです」
そう言われてカードが裏向きのまま差し出された。
ぐへへ…どんなキャラになるのかな?激レア間違いなしでしょ!期待を込めてめくる!
………。
ペラッ
『オガワトモヤHP50 職業:王(自称) 特技:地形無視(特に何も起こらない) 属性:中二病 攻撃力30 防御力45 MP20 優先度3』
「あとはこれに顔写真を…」
「属性が中二病ってなんだよ!それに僕は本物の王だぞ!失礼な!」
「いるんですよねぇ、そういったお客様。自分は違う世界から来たとか、時空を超えられる!とかおっしゃられる方」
「僕を中二病と同類にするな!」
全く、しかもレア度はC。ゴミっぽい。
先ほど皇帝にもらった兵士のカードと比べてみよう。
『トムズ・マカーニ HP130 職業:兵士 特技:前線に立つこと(使用者はこのカードに敵の攻撃を集中させることができる) 世渡り上手(敵の攻撃を回避することがある。その場合敵にそのダメージを半分にして返すことができる) 属性:勇敢 攻撃力75 防御力50 MP10 優先度5』
『ジョンソー・ジョーンズ HP180 職業:兵士 特技 大食い(食物カードを与えた場合、このカードは1ターン休みになるが、その間無敵状態が発生する。その後のこのカードの攻撃力が3ターンの間1.2倍になる) 兵士の大楯(味方単体に1ターンダメージ無効のバリアを張る) 属性:防御 攻撃力30 防御力120 MP30 優先度4』
納得かないんですけど。どうしてサボり魔がレアカードなんだよ!
「ちなみにレア度はいくつあるんですか」
「SR,R、A、B、Cの5つですね」
「僕一番下なんですけど」
「機械が決めたことですので…」
こういう奴いるよな。全部機械のせいにするやつ。まぁ、今回の件は僕がイレギュラーな存在過ぎて、機械の認知する領域を超えたということかな。ハハハ愉快。
「新規のお客様にはカードパックを5つプレゼントしています」
「おっしゃきた」
アイリアたん来い、アイリアたんこい。
レア度とかどうでもいい。彼女とは色々あったが彼女の写真は男として持っておきたい。
「ではあちらの棚の中から5つお好きなものをお選びください」
「よし」
僕と店員は棚のほうへ向かい、僕はアイリアたんのカードが出そうなパックを選ぶことにした。
精神統一を図り、瞑想モードに入る。目を閉じて深呼吸だ。1枚目に手を伸ばし、きっとこれだ!と思ったのでその袋を手に取りその場で破く。
『トニー(農家)【B】 デニー(問屋)【C】 クラスタス(ニート)【C】 テリワン(デパート従業員)【B】 水晶の導き(このカーd(ry))【B】 カレーライス(食物カード)【A】 サボテンマン【B】』
1パック7枚らしい。僕はカレーライスよりランク下かよ!しかもモンスターらしき絵柄のカードまで存在する。カオスすぎだろwwww
それにしてもサボテンマンの絵柄がかわいいな。いいモンスターデザインだ。
サボテンにつぶらな瞳がついた感じのモンスターで、丸い足が4本ある。移動型サボテンっぽい。
「お、サボテンマンじゃないですか」
店員が覗いてきた。
「当たりなんですか?」
「そういうわけじゃないですが、モンスターの中でも大変人気なモンスターですし」
「へぇ、絵師さんとかいるんですか?」
「いえいえとんでもない。このカードになっているものはすべて現実に存在するものですよ」
「え」
サボテンマンって存在するのかよ!襲われるなら狼じゃなくてサボテンマンに襲われたかった。だが実際にいるなら見に行ってみたいな。
「ちなみにこの人たちも登録した人たち?」
「はい、個人情報は勝手に無断使用はできませんので。ですが登録した人のみゲームに参加できますので、この国のほとんどの方は加入済みです」
「いかにも田舎に住んでそうなトニーさんとか対戦相手いるのかこれ」
「他のお客様の個人情報を明かすことはできません」
「あ、はい」
興味ねぇよそんなもん。
「さて、2パック目といくか」
店員は『それでは残り4パック引いたら言ってください』といってカウンターの方へと戻っていった。
今度こそアイリアたんを引き当てないとな。
…………。
またもや大外れ。ちなみにデニーさんがいきなりダブりました。
「ちなみにこのパックは先月リニューアルされた、『爆誕!ノースリーハートパック』です」
どっかで聞いたことあるなと思ってたら表紙に昨日見たアイドルが描かれていた。なるほど、アイドルも参加しているとなるとファンも買うのは必至か。アイドルのカード引き当ててあんなことやこんなことやらできるからなぁ。
ちなみに僕の推しメンはツインテールの子。きっといい子なんだろう。パックの裏面にピックアップとして名前が書かれている。え…と何々?ナーシャ・フランソワーズ?恐縮ながら初めて名前知りました。他のメンバーの名前も書いてあるがそれは別に重要じゃない。きっといつか覚えるだろう。
注目すべきは、パックの裏の下のほうに全1800万種と書かれていた。
「ファアアアアアアアアアア!!」
「どうされましたお客様!」
「いや、1800万も種類あってはお目当てのもの引き当てられないんじゃないのか」
「そうですねぇ」
「ぐぬぬ、これではいくら課金してもアイリアたんには出会えないということか。それにナーシャちゃんのカードもほしいし」
「それはお客様の運次第ですね」
これ引き当てたら神じゃね?友達に自慢できて、さらにその友達の友達が噂を聞いてやってくるレベル。いや、それ以上だ。僕に残されたチャンスは残り21枚。どうにかこれをモノに変えねば。
当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように当たりますように…!!
念じて3パック目を引く。おや?
ここで能力発動!僕の手はカードパックを貫通していた。
え?まさかしちゃう?げへげへ。
ちなみに店員は僕の手元は見ていない。
ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ。
僕は貫通した手で、中身に触れてみる。最初は中身まで手が透けて触れることができなかったが、次第にパックだけ透過して中身に触れることができるようになった。
しかし手触りだけでアイリアたんを判別することは難しい。おっぱいならともかくカードだからな。
次に、僕はパックを透過してカードの中身を取り出しては戻す作業に入った。つまり未開封のまま中身を確認するというチートを使った悪質な行為だ。
ふはははははははは!これだからチートはやめられないぜ!
棚にあるカードを一通り調べ終わったが、何枚かキラカードを見つけただけで、アイリアたんやナーシャちゃんのカードは見当たらなかった。
「お客様、まだお選びになられないのなら、私がお選びしましょうか」
「いや、いいです。他に在庫ってないんですか?」
「棚の奥の箱に入っていますが…」
「そっち探s…そっちから選んでもいいですかね」
「はぁ、かまいませんが」
よしきた。ここまできたら引き当てないと気が済まない。
僕は段ボールの箱を棚の奥から取り出すと、床へとそれを置き、バッと開いてみる。中には大量のカードパックが入っていた。この量だと1時間はかかりそうだ。
作業すること20分。あきらめかけたその瞬間―――
「きたぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
お目当てであったアイリアたんのカードを引き当てた。
「お客様どうされましたかっ?」
店員が近づいてきたのでとっさにカードをパックへと戻す。
「これください」
「あ、はい」
僕はやり遂げた。1800万種類ある中から引き当てたのだ。不正込だが、そもそもこのカードショップにあったということ自体が奇跡ではないのか。
あれ?じゃあさっきダブったデニーさんの確率って?
まぁそんなことはどうでもいいや。僕はお目当てのカードを手に入れることができた。満々満足だ。これでいいのだ。さすがにナーシャちゃんのカードまで引き当てるとまずいかなっという考えに落ち着き、残りの2パックは先ほど分別しておいた2枚SSRが入っているパックを2つ選んだ。
「では、この35枚のカードと、あなたのカードで登録しておきますね」
「登録?」
「ええ。このカードのトレードは禁止されているので、公式試合などで人から借りたり譲られたカードなども弾かれるようになっているんです」
「なるほど」
「このカードは我が国の国技ですからね。色々と厳しいのです」
「はぁ」
僕がやった行為は発覚するとかなりやばいんじゃ。まぁ、眺める分にはいいよね。やるわけじゃないし。
「ルールとかはこの初心者ガイドに掲載されていますので、後ほどお読みください」
と言って学習ノートくらいの厚さのガイドブックを渡された。
「それにしても、貴方引きがいいですね、こんなに当てる人初めて見ましたよ」
「ははは、運だけはいいんですよ」
仕組まれたことだがな。
「それでは、有技能カードの大会について説明しましょうか」
「いやいいです」
「そうですか、詳しくはそちらのガイドブックに載っていますのでそちらをご覧ください」
ガイドブックに載ってることをそのまま説明する奴いるよな~。
さて、お使いも終わったし、目当てのカードも手に入れた。後で自室でじっくり眺めよう。
「ご来店ありがとうございましたー」
僕は店を出て、店の前に待たせてしまっていた兵士と合流する。
「長かったですね、どうされたんですか?」
案の定、長く待たせてしまっていたことについて聞かれた。適当にはぐらかしておこう。
「ちょっとね」
「王様のカード見せてください!」
「コラコラ、クリーナ。それはプライバシーの侵害だぞ」
「てへ」
「ははは」
Cランクのカードなんて見せられるかよ。
「私のカードは最初Bランクだったのですが、鍛錬を繰り返すことでRランクまで上がることができました」
突然おっちゃん兵士がこんなことを言う。
「ランクって上がるんですか?」
「更新手数料を払えばカードの更新はできますよ。兵団は国費で年に一度一斉に更新するんですけどね」
「なるほど…つまり僕が王として一般に認識されればランクは…ぶつぶつ」
「どうされたんですか?」
「いえいえ、なんでも」
まだまだ僕が王になって日は浅い。しばらくすれば自然とSRになるだろう。
そして大会で僕のカードが必須級のチートカードになる未来が見えるぞ…!
あれ、これって貴族のようなお金があるやつが有利なんじゃ。パック買いまくればそいつは自然とSRなどを手に入れることができる。これだから課金ゲーは。
まぁ僕は鑑賞目的だし関係ないが。
「さて、サボり魔の2人を探しましょうか。まずは彼らの自宅の方へ出向いてみましょう」
「そうですね」
王様直々に家庭訪問と行こうじゃないか。部下をしつけるのが上司の仕事だ。
「あの、サボり魔って私の先輩にあたる人でしょうか」
「そうだ。といってもここ数年で数回しか顔を出していないクズだ」
「そんな方がいたんですね…」
「お前もそんな風にはならんようにな」
「ははは、なるわけないじゃないですかー」
「あれが一人目、ジョンソーの家だ。む、鍵が開いているぞ」
サボり魔の一人、ジョンソー(デブの方)の家の前についた。西洋風のRPGに出てきそうな普通の家だ。おっちゃん兵士がドアノブを回した所、家の鍵が開いていた。
「入るぞー」
どうやらジョンソーは一人暮らしらしいが…。部屋が汚い。あたりは酒瓶やポテチの袋が散乱している。それに至る所に蜘蛛の巣が張られていたりと、生活スタイルの悪さが伺える。
まさにゴミ屋敷だ。
「相変わらずきたねぇなぁ」
「ん?」
デスクの上にはノートパソコンが設置されていた。その画面には日本でよく見る掲示板のような画面が映し出されていた。
僕も日本にいた頃はたまに見て書き込んだりしていたのだが、その場で僕は馴染めずにハブられることがよくあった。その度にこのクソニート共が…と怒りを露わにしていたのだが。
「ん?『新王の近衛兵に勝手に決められてたんだがwww』?」
というスレタイだった。ということはこいつがスレ主か。こいつの居場所がわかるかもしれない。読んでみようか。ほとんど日本にある『てチャンネル』と変わらない民度で、書き込みのほとんどがニートによるものだろう。
「どうされたのですか?」
「これを見てください、ジョンソーが書いたと思われるものです」
僕は下のほうにあった書き込みを指さす。
『ちょっと近所の酒場で飲んでくるンゴwww』
「酒場だな…よし、今から酒場に行きましょう」
「おー!」
「あれ、どうされたんですか?酒場に行きましょうよ」
「悪いが気になることがある。これを読んでから行くから先に行ってくれ」
「わかりました。酒場の場所はわかりますか?」
「わからないですね」
「クリーナ、お前もここに残っておくといい」
「了解です」
「では、行ってきますね。捕まえたら戻ってきます」
と言っておっちゃん兵士は家を出て行った。
「あの、これはなんですか?」
「ニートのお友達が集まる掲示板だよ」
「ニート?働かない人のことですよね?」
「うん、奴らは親や国のすねをかじって生活しているんだ」
日本にいたころはニート志望だったが僕には花の異世界生活が待っているぜ。
「悪い人たち?ですね」
僕はスレを最初から読み進めていく。
僕がこの板を読みたかったのは、世間の僕に対する印象が載ってるかもしれないからだ。当然自分に対する評価は誰だって気になるだろう。
『1 俺氏、無断欠勤3年決めていたのに近衛兵任されたンゴwwww』
『2 >>1 スペックはよ』
『3 ここもニートスレかよ』
『4 近衛兵wwww』
『5 新王がどんな奴か知らんがめんどくさそうだな』
『6 >>1働いたら負け』
『7 >>2スマンな忘れてた 23歳童貞一応兵士やってるキモ豚』
『8 なんだニートじゃないのか』
『9 うん、国際』
『10 働けクズ』
『11 真昼間から書き込んでる時点でお察し』
『12 >>7キモ豚は死ね』
『13 >>7死ね』
『14 はいゴミスレ確定』
『15 まぁそういわず聞いてくれ 昨日公式の書面が届いたんだ てっきりもうクビにされたのかと思ったぜ』
『16 兵士って結構なるのに苦労するって聞いたが豚でもなれるのか』
『17 無断欠勤ってクズだな』
『18 今更職場に行くのも気まずいだろ』
『19 兵士はたまたまなれたw親のツテでなww』
『20 死ね豚』
『21 >>19豚のくせに生意気だよ』
『22 まぁとにかく兵士になったはいいが毎日トレーニングとかなんとかで、しんどいし飽きた』
『23 それは俺も無理』
『24 兵士は国民の壁として死ぬ捨て駒だろ』
『25 3年間ほど職場に行ってないが金だけは毎月振り込まれるンゴwww』
『26 >>25ファッ!?』
『27 >>25kwsk』
『28 >>25え?どういうこと?』
『29 >>25kwsk』
『30 お前ら食いつきすぎ』
『31 釣りは許さん』
『32 マジだってwwwこうして食っていけるのも親とその金のおかげ』
『33 よし俺も兵士なろうかな』
『34 マジかよ兵士安泰だな』
『35 兵士って戦場でばたばた死んでるイメージなんだが、ゲームのし過ぎ?』
『36 >>35兵士はあまり戦場に出ない。どちらかというと復興作業や警備のほうが多め』
『37 自宅警備員でも兵士になれますか?』
『38 兵士の俺の中のイメージが一新されていくわ』
『39 神スレの予感』
『40 でだ、その俺に皇室から正式な書面が届いたんだよ』
『41 新王が云々よりも3年間さぼって金がもらえたほうが気になるんだが』
『42 >>11お前もだろ』
『43 >>41法律の抜け穴があるらしい』
『44 まじかよこの国クソだな』
『45 法整備終わってない時点でこの国はゴミ』
『46 働かないお前らがいる時点で…』
『47 ち〇こ』
『48 法律家いませんか』
『49 >>1を摘発したらどうなるんだろうか』
『50 兵士になるだけなって金だけ吸い取るとか神かよ』
『51 悲報、兵士は実は働かなくてもいい職業だった』
『52 1はどうしてそれを早く言わなかった』
『53 これは兵士志願者増えるぞ…』
『54 兵士になれば皆ニート卒業だね!』
『55 職業:兵士ニート』
『56 ちゃんと働いてるやつが阿保みたいだな』
『57 国はそれ知ってて放置してるんか?』
『58 通りすがりの法律家です。といっても専門家ほどでもないけどお役に立てるといいな』
『59 お前らも早く兵士になれよ』
『60 >>58神降臨キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
『61 >>58メシア』
『62 話が脱線してしまったが、続けるぞ?』
『63 >>62お前はお呼びじゃないんだよ』
『64 >>58kwsk』
『65 まずは前置きから。兵団についての法律は昔からあったんだよね、500年前ほどに決まったものがそのまま使われている状況。今から300年前に兵団と騎士団に分かれてしまったのだがその時に役割も分かれてしまってね。いざこざがいろいろあったんだ。騎士団と兵団の対立は続き、今は温和なんだけど当時はものすごい争いがあったらしくて、法整備どころではなかったんだ。そのまま今に至るっていう』
役立ちそうな情報書いてくれてるな。こういうのは僕にとってもプラスになる。
『66 >>65空白の300年』
『67 >>65300年もあってなんで法整備されてないんだよ』
『68 >>67そこは政治家の闇が働いたとか?』
『69 >>68まぁそんな感じ。詳しくは知らないけど何か見えない力に抑えられていたとか』
『70 怖すぎ』
『71 第17条では兵団に所属するものには一定額の給与が支払われると書かれていて、働いていなくても給与が支給されてしまっているという状況』
『72 国は何も動かないのか』
『73 >>72マスターコンピューターが登場したからね』
『74 マスターコンピューターって国の財政とか全部管理してるあれ?』
『75 マスターコンピューターwwwニートには関係ないから知らねぇわ』
『76 マスターコンピューターは法律に忠実でね、それ通り動くんだけど、今は編集キーが忘れられたとされているから編集できない状況なんだ』
『77 管理体制しっかりしろよ』
『78 クソスギィ』
『79 編集ってのは法律データの書き換えね』
『80 新しいの作れよwww』
『81 国費的に厳しいらしい。それでもういいかってなってる』
『82 よくわかった。つまり兵士になってもいいんだな?』
『83 いつか法整備されて捕まっても知らんぞ』
『84 ないだろ、少なくとも俺が生きてる間は』
『85 マスターコンピューターって何?』
『86 マスターベーション』
『87 >>85250年前に作られた機械。確か日本から来た王が設計したんだっけ』
『88 王って毎回新しい情報持ってきてくれるからいいよな。新王が現れるたびに景気が上がるっていうし』
『89 民衆「新王万歳!(好景気万歳!)」』
『90 すんげぇ1がシカトされてて草』
『91 今回の新王のパレード見たか?クソダサすぎる服wwww』
『92 日本人って何?』
『93 >>92新王の出身地。神話の勉強小学校でしなかったか?』
『94 >>92は幼稚園児』
『95 日本の技術はすごいらしいけど、最近はうちの技術もすごいと思う。特に皇女様のおかげだが』
『96 あの人は天から色々と授かってるからな、地位も知能も』
『97 皇女様ペロペロしてぇ』
『98 変態注意報』
『99 あーあ、生まれる場所間違えたかな、俺も日本なら上手くやって行けたかもしれん』
無理です。あなたが期待してるようなとこじゃありません。
『100 皇女様にお近づきになりてぇ、ただのニートの夢でした』
『101 新王といい皇女様といい、俺らと立場が違いすぎるからなぁ』
『102 >>97俺らの皇女様を汚すなゴミ』
『103 >>97こいつは斬首刑』
『104 皇女様に踏み倒されたい』
『105 今回の新王は良さそうだぞ』
お?????いいねぇ。
『106 >>105新王の服見ていってるのか?』
『107 >>105新王さんこんにちわwwwww』
そいつ俺じゃねぇよ。
『108 新王についてはネットでも賛否両論だしな。ニートにやさしい世界を作ってくれるとありがたい』
お前ら、まず最初にひねりつぶしてやるからな。
「目が痛くなりませんか?」
クリーナが目をこすりながら突然話しかけてきた。
「ならない」
「すごいですね、私なんか少し見ただけで目が痛いですよ」
「慣れてるからね、日本で」
「読むのも早いですし、さすが王様です」
この子が一番民衆の中で僕のことを尊敬してくれてると思う。
『109 そろそろ1の話聞いてあげようぜ』
『110 そうだな』
『111 >>109ありがとう、では続き。皇室の書面では、俺ともう一人同じくさぼってる同僚が近衛兵に選ばれたんだ』
『112 お前ら兵士になろうとしてるみたいだけど、兵士の募集は5年に一度だぞ?去年募集やったばかりだし』
『113 >>111何か意図があってのチョイスなのか』
『114 それでだ、俺の役職がそれに伴って変更されるらしくてな、ただの兵士から王室直属近衛兵になってしまったんだ』
『115 どういうこと?』
『116 >>115兵団から外されて、王室の直属兵士になるらしい』
『117 エリート街道まっしぐらかよ』
『118 よし、一遍死んで来い』
『119 >>112まじかよ兵団死ねよ』
『120 簡単に言うと、これまで兵士としてお金をもらっていたのだが、新王ができたせいで近衛兵という別部隊に編入されて、欠勤で給料がもらえなくなるって話』
『121 メシウマwwwww』
『122 くっそwwwwwwwwwwwwwww』
『123 だからお前ら、兵士になってさぼるなんてこと考えてると俺と同じ部隊にされるぞ』
『124 >>123丁重にお断りする』
『125 断固拒否』
『126 キモ豚と同僚とか吐き気するわ』
『127 国もうまいこと考えたなwwww』
『128 これからどうしようっていう』
『129 >>128おかえり!』
『130 やめてしまえばもう働かなくていいんだぞ…』
『131 ちなみに王室直属近衛兵って何人?』
『132 >>131 2人』
『133 特定班はよ』
『134 >>133特定は勘弁してくれ、俺が働けなくなる』
『135 キモ豚は社会的に氏ね』
いじめられてて笑う。
『136 どうせ働かないでしょうが』
『137 スレ主がクソ』
『138 安価でスレ主がどうするか決めようぜ』
『139 >>134特定しないから氏名と住所晒せ』
『140 とりあえず酒飲んで考えることにするわ』
『141 これが人生を決める選択か…』
『142 近衛兵になるor働かずにすねをかじる』
『143 ちょっと近所の酒場で酒飲んでくるンゴwww』
『145 アル中で氏ね』
『146 どこの酒場?』
『147 兵士の月給…30万 サラリーマンの月収…40万』
『148 兵士という偽理想職』
『149 兵士もクソじゃねぇか、やめた』
といった内容だ。日本とあまり変わらない印象を受けた。この世界でも掲示板はあるのか、という以前にネットもあるんだな。国費でパソコンがほしい。
「何が書いてありましたか?」
「とてもくだらない内容だったよ」
「そうですか、では酒場に向かいましょうか」
「だな」
こうして僕たちはゴミ屋敷を後にした。
外に出ると空気がおいしい。外っていいな!実に素晴らしい。僕もきっとアウトドア系だったんだよ。誰だよこんな風に外にもいかずにゲームとかパソコンしてた奴は。
「ここが酒場です、おや?」
酒場の前につくと何やら酒場が盛り上がっていた。どういうことだ。
とにかく中に入ってみよう。
「ぐぬぬ…」
中に入るとおっちゃん兵士が写真の人物であるデブ兵士と対峙していた。
「要するにこの書面が発布された時点で貴方は僕の上司じゃありません」
デブが偉そうにおっちゃん兵士に向かって言い放つ。2人の周りには人だかりができていた。なんだなんだこの状況。
デブは何かが書かれた紙をおっちゃん兵士に見せるように手を前に突き出している。
「あの、どうしたんですかね」
人ごみをかき分けて、円の内側に入り込み、中央にいたおっちゃん兵士に今の状況を聞く。
「おぉ、ちょうどいい所へ」
「グリムガのおっさん、よそ見せずにこれを見てくださいよ、今は僕のが立場は上ですぜ?」
「彼がお前の上司、新王様だ」
「何?新王?そんなのがこんな場所にほっつき歩いてるわけないでしょ」
「あれ、本物じゃない?」
「本物の王様だ!」
周りの人だかりから声が聞こえる。
「げ、お前、マジで新王?」
やっとわかったか。物わかりの悪い奴め。
「パレード見てないのかよ」
「こ、これは失礼しました新王様!靴をお拭きしましょうか?それともお舐めしましょうか?」
「誰もそんなこと望んじゃいないぞ、とにかく城に来いよ、皇帝さんが呼んでるし」
「はっ、わかりました、一度自宅に戻って準備させていただきます」
「じゃあここで待ってるからな」
「はい、すぐ戻ってきます」
という流れで、デブは酒場を出て自宅方面へと戻っていった。
「グリムガさんが手こずるなんて何があったんですか?」
クリーナが不思議そうにおっちゃん兵士に聞く。
「あいつは俺の部下だったんだ。だが…ある時から急に出勤しなくなってな。以前はいい部下だったのだが…。今では王室直属近衛兵に任命されて私の直下ではなくなり、むしろ私よりも上の立場になったんだ」
「出世ってやつですか?」
「出世というよりは転属だな。近衛兵自体人数が少ないから自然と偉くなるんだ」
「なるほど、だからあんなに威張ってたのか」
「ここは王様のお力に助けられました。私だけではどうすることもできませんでしたし」
「いえいえ、これも僕の部下の失態ですから。上司である僕が責任をとらないと」
「素晴らしきお言葉!」
周囲から拍手が巻き起こる。ハハハ、こうやって名声を稼ぐんだ。
「それにしても何故皇帝様はサボり魔を近衛兵に抜擢したのであろうか」
「きっと給料の面だと思いますよ」
「どういう意味でしょうか」
おっちゃん兵士にスレに書いてあったことをそのまま説明した。
「なるほど、そんなことが」
「はい、きっと彼は今頃家で続きを書いてるのでは?」
「マスター、パソコンないか?」
「…」
―スッ
酒場のマスターがパソコンを貸してくれた。先ほどのページについて僕が指示して検索をかけると、すぐに見つかった。
カウンターに腰掛けると、そこで先ほどのスレのページを開く。案の定更新されている。
『150 酒場じゃなくても家で飲めばいいのに』
『151 自慢したいだけのクソガキなんだろ』
『152 www酒場の人に書面見せて自慢してそうwwwwww』
『153 兵士なんて職場が厳しそうだから俺には向いてないな』
『154 兵士名簿とか見れば特定できそうな気がする』
『155 問題は同じようにさぼってる人間が何人いるかだな』
『156 兵士はサボってないで俺達のために戦って死ね』
『157 皇室からの書面なんて無縁な俺達…』
『158 豚がエリートとか納得できん』
『159 兵士と騎士団って何が違うん?』
『160 >>159兵士は国を守るのがメイン。騎士団は皇室を守るのがメイン』
『161 兵士と騎士団って一緒に活動してるイメージ』
『162 一緒に仕事は実際してるぞ、何故分けたんだって感じ』
『163 事態が急展開を迎えた、お前ら聞いてくれ』
『164 おや、お早いお帰りで』
『165 wktk』
『166 酒場で飲んでたら前の上司が酒場まで怒鳴り込んできたwww』
『167 そりゃそうだろ』
『168 それでだ、俺には書面があるから兵団はやめたことを伝えると上司赤面でめちゃくちゃ怒鳴られたったwwwwそれも公衆の面前で』
『169 オチは?』
『170 ワロタ』
『171 兵団やめたのに俺を怒鳴る権利なんかねぇってのって言ったところ元上司だんまりwwwww上司ざまぁwwww』
『172 上司もお気の毒に』
『173 キチガイの部下を持つとこうなるんだな』
『174 しかもだ、近衛兵ってのは上司よりも上の立場でな、俺の靴舐めろって言ったら舐め始めやがったンゴwwww』
『175 これが社会の闇…』
『176 こえええええええええ、もう俺一生家から出ない』
『177 結論、1はゴミ』
『178 下剋上ってやつか。現実に存在するんだな』
『179 極端スギィ』
………?
「舐めたんですか?」
「舐めてない舐めてない!」
首を横にぶんぶん振るおっちゃん兵士。
靴をなめるってこいつが僕にしようとしてたことなんじゃないのか。
コイツありもしないことを書きやがるwww
よし、ちょっと脅かしてやろう。
「よし、あいつを嵌めるぞ」
「嵌めるってどうやってですか?」
クリーナが聞いてくる。ふふ、それを今から説明するところだ。
「このパソコンで掲示板に書き込むんだよ。僕に任せてくれ」
僕が今からすることに興味を持った他の客が僕らの座っているテーブルの近くに集まってきた。完全に人だかりができている。
『180 >>174 身元特定したぞ。』
ブフォwwww
我ながらナイス脅し。よくある相手のメンタルを破壊する定型文だ。
『181 >>180晒せ』
『182 >>180摘発しようぜ』
するとスレ民が僕のコメントに反応を見せる。だが僕が釣りたいのはデブ、お前だ。
『183 >>180どうせ口から出まかせ』
お、デブが乗ってきた。手始めに酒場の名前から。
「ここの酒場の名前って何ですか?」
「トィンクル」
「OK」
『184 >>183トィンクル』
『185 >>184何だそれ』
デブがとぼける。ハハハ、滑稽なり。
反応速度を見る限りかなり焦っている。そうだよなぁ、まさか自分の身元がばれてるなんて思うと怖いよなぁ。
『186 トィンクルで調べたが酒場の名前らしい。>>184もっとkwsk』
『187 特定班仕事早いなぁ、スレ主が晒し首になるのも時間の問題』
『188 祭りだ祭りだ』
盛り上がってきたな。さてもう一つ爆弾を落としてやるか。
『189 ちなみに1が言っている酒場の出来事は嘘も入ってる。靴を舐めさせたってのは大?だ』
『190 >>189は?何言ってんだお前』
早い。かなりムキになってるぞコイツ。
『191 180氏は何者?』
誰かが聞いてきた。ちょうどいいや、本当のことを言おうか。
『192 >>191新王です』
『193 えwwwww新王降臨wwwwwww』
『194 嘘だろwwww』
『195 神スレ確定!』
『196 偽物じゃないのか?』
もう一声言っとくか。
『197 ちなみに1の酒場での行動は俺も見ていたが、俺が姿を現した瞬間1が俺の靴舐めようとしてきて草』
『198 え?本物なの?』
『199 >>197キチガイは死ね』
キチガイ認定いただきましたー。
『200 >>199その反応を見る限り図星らしい』
『201 ってことは180氏は本物の新王?』
『202 クッソwwwwwwwwwwwスレ立てた奴の上司登場とかwwwwww』
『203 俺が飯いってる間にすごいことなっとるwww』
いい反応だ。ハハハハハ、もはやこのスレでの僕は神そのもの!
『204 >>199お前の行動は全部知ってる。お前の家も晒すことは可能だ。』
『205 急展開杉ワロス』
3分ほどしたがデブからの書き込みがない。
『206 1がいないぞwwww』
『207 逃げやがったwwww』
『208 1赤面wwww』
これは完全にドロンしたなと思ったのでデブの自宅に向かうことにした。
「さて、あいつの自宅に行こう」
「あの、私にはここに書いてあることの大半が理解できません」
「私も…」
おっちゃんもクリーナも世界の闇を知らないようだ。いいんだぜ、知らなくて。
「ネット言語だからね。でもほとんど僕の世界と同じなのは驚いた」
「あの、王様もやってたりしたんですか?元の世界で」
「一応、ね」
クリーナとおっちゃんが顔を見合わせて苦笑する。
「ではマスター、パソコンありがとう。後日また飲みにくるぜ」
おっちゃんはマスターに挨拶してパソコンを返却する。
僕たち一行は酒場を出て先ほどのデブの自宅へと戻ってきた。
今度はカギがかかっていた。
するとおっちゃんが、
「おい!ジョンソー!お前の書き込みはすべて見させてもらった。早くここから出てくるんだ」
と家に向かって怒鳴る。しかし返事がない。家の中にいるのは間違いなさそうだが。
ここは中に入って確認しないとな…。
ここで僕の能力の出番。カードショップではお世話になりました。
カードショップにて好調だった僕の能力。先程使ったばかりなので当然使えるだろう。
手をドアへと伸ばす。そして念じる。
しかし何も起こらなかった。僕の手はピトっとドアにやさしく触れただけだった。
「あの、どうされたんですか?」
クリーナが聞いてくる。
「ちょっと確かめたいことがあって」
「確かめたいこと?」
「ドアの心の声を聴いていたんだ」
能力に失敗したなんて言えない。
「ドアの心の声…万物には心が宿っているという言い伝えは本当だったか」
いや、そんな大げさにとらえないでください。
「それにしても兵士として自宅にこもるとは外道な考え方だな」
「本当ですよ、同じ兵士としてどうかと思います」
本人の自宅の前で悪口を始める兵士二人。
さて、僕は第2フェーズに入るか。第1フェーズ?失敗したことじゃなくて掲示板の件のことだからな!
「ジョンソー…だっけ?早く出てこい、悪いようにはしない」
僕は建物に向かって語りかける。
「………。」
ガチャ
ドアが開き、デブが隙間から顔を出す。かわいい女の子なら萌えるシチュなんだろうが。デブ男がやるのは間違ってる。
「よし、ちゃんと出てきたな」
「ジョンソー、お前!」
「おっちゃんは少し黙っててください」
僕はおっちゃんを制止する。
「はい…」
気持ちはわかるがここは僕に任せてほしい。
「君が僕の近衛兵だってね」
「なるかはわかりませんけどね」
「ならないと晒すからな」
「ハぁ?」
デブが驚く。優しい話を期待してたんだろうか。世の中甘くねぇよサボり魔。
「ならねぇと晒す」
「ちょ、やめてくださいよ、それだけは勘弁してください」
「いやなら僕を命を懸けて守れ」
「そ、それは…」
「昨日だって暗殺されかけたんだぞ!僕の周りに兵士がいなくてどうする!」
「面目ない…」
クリーナに言ったつもりはなかったんだが…。
「僕は王だ。君を権力でどうにかすることくらいたぶんできる」
「そ、それはどういう」
「サボってもいい、だが僕を守れ」
「へ?」
「僕もさぼりたい気持ちはよ~くわかる。家にこもってゲームしてパソコンして、楽しいもんな」
「???」
「要するに、僕が決めた勤務時間だけ出勤すればあとは自由だ。勤務時間といってもまれにしかない」
「え???」
まだわからないのかこのポンコツめ。
「僕は優しいから、勤務時間少なくてもいいって言ってんだよ」
「は、はは、ほ、本当ですか?」
「本当だ。ちゃんと君のするべき仕事だけしてくれれば文句はない」
「あ、ありがたき幸せ」
「あの、それって雇用する意味あるんですか?」
クリーナが聞いてくる。ご最もな意見だ。
「死ぬほど危険な場所にだけ連れていくだけだ」
「ハぁ?????」
「王には戦争とかあるらしいからね。それに護衛として連れていく。簡単なことじゃないか」
「し、死にたくない!」
ドアを閉めようとしたので足を割り込ませる。
「僕の会社はブラックでね、やめようとした社員も社会的にボコボコにしないと気が済まないんだ。晒すとか晒すとか晒すとか」
「あ…悪魔だ!」
「護衛くらい当然だと思うんだがな…。」
おっちゃんもご最もなご意見です。
「まぁ、冗談はさておき」
「!…ふぅ」
デブが安心したようにため息をつく。こいつの心拍数の変動がさっきからやばいぞ。
「君は働かなかったらニートになり、収入も0。近衛兵になればそこそこの収入に、社会人というレッテルがもらえる。」
「それでも俺は…」
「ニートになるのか?親のすねかじって生きていくだけの人生だぞ。君が兵士になったのも親のツテだそうじゃないか。君から親にしてあげたこと何かあるか?」
「お使いに行ったり…とか」
「小学生かよ!」
「そ、それじゃあ川に洗濯に行ったりとか…」
「おとぎ話かよ!」
「それなら………これ以上思いつきません」
「少なッ!まぁ、そんな感じに君は親に何もしてこなかったと」
「…」
「今まで兵士だったころの給料はどうした」
「…グッズ代に消えました…」
「グッズ?」
「え…と。アイドルとかその他色々に…」
どうやらこいつは典型的なオタニートらしい。だが日本にいた頃の僕とは違う。僕は一応学生だった。サボってたって?知るかそんなの。
「はぁ。いいよそれはもう。別にグッズ集めは否定しないし。だが仕事をちゃんとこなしてくれないと困るっていうだけ」
「仕事、しないとだめですか?」
上目遣いでこちらを見つめてくる。やめろやめろ。
「実際やること少ないと思うし、向いてると思うんだなぁ」
「勤務時間がどうこうじゃなくて、働いたら負けっていうか…」
「はは、社畜ども働いて苦労してざまぁってか?」
「は、はい。そんな感じです」
「じゃあ、職について働いて苦労するのと、ニートとして働かずに楽な生活、どっちがいい?」
「ニート一択です…!働きたくないです!」
「うむ。じゃあ、近衛兵という職について少ししか働かずに楽な生活と、ニートとして働かずに楽な生活、どっちがいい。ちなみに近衛兵は給料も出る」
「ぐぬぬぬぬ…!こ、」
「こ?」
「近衛兵が…いいと思います…」
「だろ?ニート共を見下ろせるぞ?いい身分だと思わないか?」
「はは、そういえばそうですね」
「じゃあ問おう、僕の盾になる気はないか?」
「た…楯?」
「このカード見たぞ、防御力がすげぇ高いな」
僕は懐から皇帝から借りた有技能カードを取り出した。
「こ、これは…僕のカード!」
「僕は君を見込んでこの話をしている。他の人にこの話をするつもりはない」
「………やります!」
「お」
「やらせてください!」
「いい返事だ。じゃあ一緒に来てもらうぞ。準備はいいか?」
「は、はい」
ということで僕らのパーティにジョンソーが加わった。
王に兵士3という偏りすぎたパーティだが。
「ではいくぞ、ジョンソー。逃げるなよ」
おっちゃんが念を押してこう言うが
「逃げませんよ、それに今は僕のほうが上ですから」
「生意気言いやがってー」
肘でジョンソーをつつくおっっちゃん。意外と仲が良かったのか。
こうして僕らは移動し始めた。
「ここで昔話をしようじゃないかジョンソー」
「やめてくださいよ、ここ公道ですよ」
「ハハハハハ!話に公道もくそもあるかぁ」
気さくにジョンソーの肩に手をやるおっちゃん。
「しっかし、久しぶりだなぁ、こうやって話をするのは」
「さっき酒場でしたじゃないですか」
「あれには俺も驚いたぜ、俺嫌われてたのか?」
「ええ、あなたの事は好きじゃなかったですよ」
「周りはお前のことひどく言うが、俺はお前のこと気に入ってたぞ、ハッハッハ」
「はは」
「今じゃこんなに出世しやがって、俺より偉くなってやがる」
仲良さそうだな。家の前で悪口叩いてた割には。
そういうのも含めて上司として部下への愛情なのかもしれないな。いいおっちゃんじゃないか。
「王様は、ジョンソーさんとこれから上手くやって行けそうですか?」
クリーナが僕に突然話しかけてきた。ジョンソーか…僕自身自分と同じようなタイプの人間、それも年上なんかとリアルで会ったことなんてないからな。
「正直わからない」
「ですよね、あの方のようなタイプは初めて見ましたし」
そりゃ家にこもってりゃ誰とも会わないだろ。
「あの、どこへ向かってるんですか?」
クリーナが聞いてくる。あれ、どこへ行ってるんだおっちゃんは。
おっちゃんを先頭にして歩く僕たちのパーティの行き先は笑いながら話し続けているおっちゃんしか知りえないのである。
「もう一人の兵士、トムズの家じゃないかな?」
と言いかけたその時。路地裏に写真の人物がいた。何たる偶然。
「おっちゃん、あれって」
僕はおっちゃんの肩をたたいて呼び止める。
「あれは…間違いない。トムズだ。あんなところで何してやがんだ」
路地裏にはトムズのほかにも柄が悪そうな人間が数人たまっていた。全員フード付きパーカーを着ている。
「トムズ氏は路地裏の悪い組織のボスやっているんですよ」
ジョンソーが情報提供してくれる。悪い組織っていわゆるチンピラか。
するとおっちゃんが路地裏のほうへ近づいて行った。
「おい、トムズ、そこで何している」
あちゃー、また絡みに行ってしまったよ。
「あん?誰かと思ったら元上司のおっさんじゃん、元気してたか?」
「ああ、おかげさまでな。それよりお前、ここで何してんだ」
「何って、見りゃわかんだろ」
…?見ても何もわからん。
数人のチンピラで集まってゲラゲラ笑ってるだけにしか見えないが。
「何もわからんが、とにかくこい、お前もう近衛兵だろ?」
「近衛兵?何言ってんだおっさん、俺そんなのやる気ねぇって」
「そうか、ならばやらないということを陛下に伝えるだけだ」
「お、あれはジョンソーじゃね?」
「ご無沙汰しています」
「ジョンソー、お前も近衛兵に選ばれたんだってな」
「あ、はい」
「新王の警備なんかやって何が楽しいんだか」
「給料ももらえますし、安定した職業だと聞いて…」
「んなもん利用されるだけに決まってんだろ、兵士なんて捨て駒同然だ」
「…」
おい負けるなジョンソー、僕の盾として恥ずかしくないのか!
「俺はなぁ、戦場には出たことがないが過労で死んだ友がいるんだぜ?俺もそんな風にはなりたくないんでなぁ」
「近衛兵は過労じゃ死なないと思います…」
「あん?ずいぶん見ない間に生意気になったなジョンソー」
「あなたもずいぶん変わりましたねトムズ氏」
「昔はよく一緒にさぼって遊んだりしてたよな」
「はは、今じゃもう別々ですけどね」
「トムズ、お前そんな悪ガキみたいなことやってて楽しいのか?」
おっちゃんが余計な口を挟む。
「「「あぁん?????」」」
周りにいた他のチンピラまでもが反応する。当然だ。自分たちのやっていることを否定されたのだから。
「黙って聞いてりゃおっさん、俺たちに喧嘩売ってんのかあぁん?」
「俺たちはな、世界の平和のために活動してんだよあぁん?」
「何が平和だ、お前達みたいな悪ガキがいるから世界が平和じゃないんだろ?」
「もっぺんいってみろ、しめるぞおっさん」
「くだらないことはやめて君たちはやるべきことをみつけるんだ」
「やっちまえ!」
トムズが指示をかけると、そこにいた数人がおっちゃんに向かって飛び掛かる。これって助けたほうがいいのかな?でも足手まといになりそうだから路地裏の外で見ておくか。トムズが小走りで路地裏から出てこちらへ戻ってきた。元兵士なら加勢してやれよ。僕も見ているだけなんだが。
チンピラたちの攻撃をうまく受け流し、地面へとたたきつけていくおっちゃん。これが兵士の熟練の技か。一見柔道のような戦闘方法だ。
「ボス、こいつ強いです」
「仕方ねぇ、俺が行くか」
トムズはパーカーを脱ぐと、黒いシャツ一枚になり、構えのポーズをとる。
「トムズ、お前と手合わせするのは3年ぶりくらいだな」
「グリムガのおっさん、あんたに習った技の数々、役に立ってるぜぇ!」
兵士対元兵士のガチンコバトルが始まった。先ほどやられた周りのチンピラも手を出す気はないようだ。よほどトムズの腕を信頼しているように見えた。
「ボスと互角だと…?あり得ない、そんな人間がいただなんて…」
「あのおっさん、見かけによらずかなり強い…」
トムズの打撃は一撃一撃がしっかりと思い一撃になっているはずだが、それを微動だにせずにおっちゃんは受け止める。トムズが強いのは僕にもわかるが、おっちゃんはそれを1枚も2枚も上だった。おっちゃんはトムズに攻撃を入れずにかわすか受けるかを繰り返していた。
「惜しいな、もっと兵士を続けていれ俺に勝てたかもしれないのにな」
「はん、アンタみたいなおっさんに勝ってもうれしくなんかねぇよ」
トムズは打撃を繰り返していたが、体力には限界もある。その動きには疲れが見えてくる。打撃の威力も明らかに低下し、勢いも最初と比べて落ちている。
「そろそろギブアップか?」
「はは、そういうおっさんだって疲れてんじゃないのか?」
おっちゃんは疲れていないみたいですね。口から出まかせを言うトムズに座布団一枚。
「そろそろ終わらせるぞ」
おっちゃんはそう言って拳を握り、トムズの腹部めがけてアッパーカットした。
そのまま腹部にクリーンヒットし、トムズは上へと吹っ飛ばされる。
何て力だ…。おっちゃんTUEEEEEEEEEEEEEEEE!
トムズは吹っ飛ばされたあと、地面へと重力でたたきつけられた。
「ぐはぁっ!」
「お前は弱い。この3年間自らを鍛えなかった罰だ」
おっちゃんかっけー。
「「ボ、ボスゥ!」」
周りで観戦していたチンピラ共がトムズの周りに集まる。
「ぐ…相変わらず強すぎるぜあのおっさんは…」
がくッ
「「「ボスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――――――――!!」」」
「こいつは鍛えなおしてやらんといかんな」
おっちゃんが僕らのほうへと何食わぬ顔で戻ってきた。クリーナは目を輝かせておっちゃんを見ている。
「グリムガさん!滅茶苦茶強いじゃないですか!」
「ははは、長年やっているからな。クリーナもきちんと鍛錬を積めばあのくらいにはなれるさ」
「はいっ!」
「お前、あんな職場で毎日鍛錬やってたの?」
ジョンソーに聞いてみる。
「はい…」
「そりゃあサボりたくなるわ」
これは同情せざるを得ない。あの戦いを見せられてからは、兵士って大変だなって思うようになった。
「新王様、トムズをいかがしましょうか」
おっちゃんが聞いてきたので僕はシンプルに…
「城にいったん持ち帰ろう」
という結論に至った。
おっちゃんが気絶したトムズをかついでいく異様なパーティで僕たちは城へと帰還した。
謁見の間に着くと、皇帝が僕を待っていた。
「おお、2人を連れてきたか」
「一人諸事情で気絶していますが」
「よろしい、その者たちは兵団にろくに顔を出さなくてだな、困っておったのだよ」
「それを僕の近衛兵にするだなんて」
「とんでもない、そういう意味ではなく、これならそこの二人に少しはやる気を出してもらえるかなという意図で」
「…」
「お初にお目にかかります皇帝陛下、私は元王立兵団所属、ジョンソー・ジョーンズと申します。こちらに倒れておりますのが、同じく元兵団所属のトムズ・マカーニです」
「ああ。諸君らにはそこにいる新王の智也君の護衛任務を任せたいと思っていてだね」
「書面にて存じております。ありがたきお言葉頂戴いたしました」
「引き受けてくれるかね?」
「も、もちろんでございます!断る理由がございません!」
緊張しすぎだろ、まぁ昨日だっけ、の僕もこんな感じだったんだろうか。
それに断る理由がないって…。お前散々働きたくないって喚いてたろ。
「よろしい、諸君らならそう言ってくれると信じていたぞ」
あの、一人何もしゃべってませんが。
「では君たち2人に初任務を与えよう」
「はっ」
「…」
「智也君の試練の護衛だ」
「はへ?」
なんだそれ、試練?
「帰って来たら言おうとしていたことだ」
「あの、試練って何をするんですか」
「モンスター討伐だ、簡単だろう?歴代の王すべて、この試練を受けることになっている」
「あの、僕戦ったことないんですが」
「案ずることはない、弱いモンスターだ。素人でも倒せるくらいのな」
なんだ、それなら大した事なさそうだ。それに護衛もつくんだから簡単っぽい。
「まぁ、初めての任務だからな、騎士団もお供させよう」
アイリアたんとの初めての共同作業!ktkr。
「あの、質問よろしいでしょうか」
ジョンソーが手を挙げる。
「かまわないぞ、なんだね?」
「そのモンスターというのは」
「オリハルカコウモリというモンスターだ。新米冒険者の格好の鍛錬場所として知られる岬の洞窟に生息している」
「それなら兵団にいたころに行ったことがあります」
「なら話は早い。そこに行って智也君自身で25匹討伐をするといった内容なんだが大丈夫そうかね」
「はい!」
なんでお前が返事するんだよ。
「はい」
「まぁ智也君の腕には期待しておるぞ。ガッハッハッハ」
これがゲームにおけるクエストだな。初めての討伐任務というやつだ。
「移動手段としてサバを用意してある。出発は明日の正午。お菓子は500ハルクスまで」
お菓子いらねーよ。それにサバってなんだよ。
「あの、サバって何ですか?魚ですか?」
「魚?なにかと勘違いして居るようだが、サバというのは動物でだな」
サバが魚じゃない動物ってなんだよ。
「とにかく今日はゆっくりと各自休むがいい、それと近衛兵の2人は私から少し話があるのでここに残るように」
「はっ」
「では智也君、良い報告待っているぞ。明日の正午、城の正門前だ」
「はい」
そう言われて、僕は謁見の間を後にした。時刻は昼過ぎ。あまりやることもないなぁ。
昼飯を食べていないことを思い出した僕は場所を聞きつつ城の食堂へと向かってみる。
食堂に無事にたどり着くと、そこは壁がガラス張りで城の庭が見える食堂だった。床は白黒の大理石が敷き詰められ、チェック模様だった。テーブルなどもほとんど大理石で、天井には電球付きシャンデリアがいくつか配置されていた。まさに城の食堂。
皇族が食べる食堂は別にあるといわれたが、これ以上に豪華なのは想像がつかない。
食堂には兵士がこの時間にもかかわらずたくさんいた。僕もこの中に紛れて食券を買い、食事をとることにした。
僕が選んだのはカニシチューというものだ。割かしまともそうな名前で、期間限定だったので選んだのだが。
お金?食券買うときにお金はいらなかったなぁ。きっと国費で賄われているんだろう。
メニューの中でとにかく僕の目を引いたのが、店長のおすすめと書かれていたのが聖餐カリーというメニュー、画像付きで紹介されていた。文字を読んでカレーを想像したが全然違った。図を見る限りただのスープだ。どうやら皇族専用の食事だったらしいが…。ちなみにこれ何と読むんだ?せい、餐?これって晩餐の餐だよな。せいさんカリー。
…駄目だこれ。世界が違うとこういう食物も出てくるのか。ちなみにこのカリーにはシアン化カリウム配合と書かれてある。魔術協会証明済みの印まで入ってるぞ。
まさに死のカリー。凄惨で聖餐な青酸だな。
周りを見ると聖餐カリーを注文している人も少なくはなかった。よくこんなのが食えるよな。食ってて死なないのかよ。
ということを食堂のスタッフに聞いてみると。
「日本の伝統料理だそうです」
と言われた。あるかよ、カレーならまだしもカリーなんかねぇよ。
「二代前の王が日本から伝えたとされる伝統の食事です」
と言われた。きっと語源が青酸カリで、それが誤った解釈で料理ができたんだろうな。
厨房のほうからアーモンド臭がするので実は豆類でできた汁なんだろうか。
これ以外にも普段目にしない食事ばかりが並んでいたのだが、お味噌汁とたこ焼きはなぜか存在していた。
僕は自分で選んだカニシチューを受け取り、席へとつく。
「いただきま」
スプーンを使い、まず一口口に入れてみる。うん、普通にイケる。だが絶品とまではいかないなぁ。シチューのクリームがカニに絡んではいるのだがこのカニの味がどうも臭い。
一応完食し、皿を返却口に返す。その時に一応聞いておくかと思い、スタッフに聞いてみる。
「あの、このシチューのカニって何ですか」
「ああ、これは昨日の晩餐会で残ったヴァーガー蟹ですよ、モンスターです」
「おえええええええええええええええええええええ」
その場で全部吐き戻した。
気分がすぐれない僕は道を聞きつつ自室へと戻った。
鶯の間の扉を開け、部屋に入り、ベッドに横になる。
そうだ、一つ気になることがあったんだった。
僕は自分のカバンからスマホを取り出した。
無事に起動し、画面を確認すると案の定圏外になっている。
「やっぱりダメか」
僕は前の世界とのつながりが消えたのを感じたがそんなことはどうでもいいや。
この世界にもネットはあるんだから。とりあえず電子機器がほしい。
金がない今、自分で買いに行くことは難しいので、大臣か誰かに頼るしかない。
気付けばこの世界にきて初めてのまともな自由時間ができた気がする。町の観光も終わってないしなぁ。
「よし、今から大臣のところへ行ってお小遣いもらって街に出よう」
という結論に至り、道を聞きながら大臣の部屋までたどり着いた。
「失礼しまーす」
「おお、智也殿。さぁ、入ってください」
「はい、今日はお願いしたいことが」
「そうかそうか、私も智也殿に聞きたいことがあってですね」
「はぁ」
「私はこれでも日本のことについてまとめる仕事をしていてですね、40年前からデータが途絶えているんですよ」
「40年前って前の王様の時からですか?」
「うむ。うちの家系も日本出身ってこともあって、専門家を代々やっているんです。それで日本についての情報を教えてもらえればなぁということなんですよ」
「僕の知ってることでよければ」
「ちなみに40年前に聞いた話がこないだ話した流行りの曲らしいんだけど」
「その件なんですが、40年前にはそんな曲存在すらしていないと思いますよ」
「そうだったそうだった、説明していなかったね」
「?」
「長年の研究で分かったことなんですが、日本とこの世界では時間の流れがどうやら違うみたいで」
「というと?」
「智也殿は西暦でしたっけ、何年からいらしたのでしょうか」
「2018になったばかりで来たんだけど」
「ふむ、前の王様は2014年からの方でした」
「え?それってどういう?」
時間の流れが違う?これは驚愕の事実。
僕が日本に帰ったら浦島状態になるってことか?
「日本でいう精神と時の部屋みたいなものです」
「日本にねぇよ、それ漫画の話!」
ついつい突っ込んでしまった
「そうですか失礼しました、とにかくこれで合点が行きました。今までのデータと見比べてみると…」
そういいながら大臣は手元のデータ資料を確認し始めた。
「日本が一年過ぎる間にこの世界では10年が過ぎるという感じでしょうか」
「つまりこの世界で100年暮らしても向こうではたったの10年?」
「そういうことです」
「まぁ、もどるつもりは今のところないんだけど」
「そうなんですか、今までの王はほとんどの方が最初に戻りたいと泣き出してしまっていたそうでしたが…」
僕みたいに覚悟が固まっていないやつが異世界に来たところで死ぬだけだろ。
「でも4年じゃあんま日本も変わってないですよ、むしろこの世界のほうが技術的に高いと思いますし」
「そうですか?日本には科学と呼ばれるものもあるそうで」
「ありますけど、こちらの魔術にほとんどはいているかと…」
「はぁ。それでは流行りの物を教えてください」
「流行りですか?うーん…」
日本での流行といってもドラマの名台詞とかしかあまり知らないし、今年のトレンドファッションなんて僕が知るわけがない。
「食べ物でも何でもいいですよ」
「食べ物か…うーん、そういえばワクドナルドに去年新バーガーが出てヒットした覚えが」
「それは何という食べ物ですか?」
「ジューシーチキンレタスバーガー」
かきかきかきかき…
熱心にメモを取る大臣。僕は軽く言っているが、大臣にとっては40年ぶりの新情報だ。
「他にも新技術ってのはありますか?」
「うーん、新技術とかいう知識には疎いからなぁ、今までのデータを見せてください。載ってないことから話せるかもしれません」
「わかりました。こちらが日本の伝記です」
辞書サイズの本をぼんっと取り出し机の上に広げる大臣。こんなにデータあるのかよ…。
ちなみに去年のデータを見ると…。アイドル情報に偏っている。秋葉原住みの30歳の王だったらしい。とある現存する有名アイドルの歴史について長ったらしく書かれていて、誰が加入したとか脱退したとかいうのが一目でわかる年表でまとめられていた。
「40年前のデーターでは私の父親がデータ取材をしていまして、日本のアイドルについて長い話を聞かされたといわれました。特殊なライトを使ったダンスなども教わったとか」
「完全にオタクじゃねーか」
この国も引きが悪いな、二回連続でオタクを引き当てたんだから。
「一応他の国の日本研究家とも連携してデータ集めしようとしているのですが、他国ということもあり、中々交渉が難しくて偏った情報しか手に入らないのです」
「他の国って、戦争しないといけない国のこと?」
「そうですね。我が国の他に神候補を立てる国は5つあります。北のデイレスタン、北西のガレフランド、西北西のクローバーガーデン、西のスター・ラ・ベール、西南西のコーラルランド。この5つの国とわが国で戦っているのです」
「なるほど。ちなみに前回勝ったのは?」
「ガレフランドの王でした。あちらでは勇者と呼ばれているらしいですが」
僕も勇者になりたかった。
「ガレフランドは強豪国です、毎回強い神候補を輩出し、毎度の戦いで最後に残っているのがガレフランドの勇者でした」
「伝説の勇者っていうのもそこ出身でしたよね」
「うむ。伝説の勇者はもはや神をも超える力を持っていたため、すべての他の王を倒したと伝承されている」
「全ての王を倒すってすごいことなんですか?」
「そりゃあもう。過去300年間それ以来すべて同じ王がほかの王全部を倒した記録はないんです」
「なるほど、王同士はみんな敵ですから全員でつぶしあうからですか」
「そういうのもあるし、そもそも王を倒すこと自体困難なんです」
「王全員が能力を持っていると」
「そうです。その能力が問題なのです。300年も前の出来事なので伝説の勇者がどのような能力者だったかはわかりかねますが、相当強力な能力だったようです」
僕の能力は今のところあまり役に立っていないどころか足を引っ張ることが多いように感じられる。僕が最初に倒されそうな予感がするんだが…。
「私の祖先もその能力の犠牲に…」
泣く仕草をするが本当は嬉しそうだ。祖先不孝だなこいつ。
「各国の王は全員日本人で出現時期もバラバラだそうで、全員がそろって初めて戦争が始まるらしいです。情報では現在4国の王が既に現れたとのこと。智也殿は5番目ですかね」
そこは最後だろ主人公的に…。僕は咬ませ犬だったりして。そんなアホな。
「で、このデータは?」
僕が気になったのは石板の写真が載っているものだった。
「これはこの国の北西にある遺跡から発掘された石板で古代の戦争のことについて書いてありますが…字が読めなくて困っていたのです」
これは…?漢字のようなもので書き綴られているが字がぐちゃっとなっていて読むことができない。漢文のようなそんな感じの文字だ。
「僕には読めないですね」
「そうですか…」
「だけどこれだけ大昔から戦争はあったんですかね?」
「ええ。この世界が始まった時からあるといわれていますが。不思議な話ですよね、他の世界から神様候補を連れてくるなんて」
「確かに変だな」
「この石板が見つかった遺跡自体も何千年も前に作られた遺跡だそうで…」
「となると何百年前の人間もここに来ていたことになるな…」
「そうですね、我々は戦争と呼んでいますが、正式な呼び方があるんですよ」
「正式な呼び方?」
「はい、聖戦というらしいです」
あんま変わんねぇ…。もっと二つ名みたいなのを期待してたんだが。
「聖戦か…」
「昔はわが国でも聖戦と言われていたんですがね、負け戦が続いて士気が下がり、戦争とよぶようになったのだとか」
「わからんでもないなその気持ち」
確かに負ける試合のことを神試合とは言わんだろうし。似たようなもんだろうか。
「僕の国の戦争といえば、民が国のために戦うって感じなんだけど」
「その話は確か5代前の王様の問答であった覚えがあります」
大臣はしわくちゃになっているデータを取り出し、僕へと見せる。
「太平洋戦争で日本が負けた…という歴史について教わっていますが…」
「本当だよ、アメリカっていう日本よりも大きな国に負けたんだ」
「アメリカ…どこかで聞き覚えがあるワードですね」
「まぁ日本の東に位置する国なんだが。へたくそで良かったら地図を描くぞ?」
「おお、ぜひお願いしたい!」
僕は紙を受け取り、そこにボールペンで世界地図を描く。覚えている範囲で正確に書いたつもりが少しずれてしまった。まぁどうせ知らないだろうしいいや。適当に書いても後の王がどうにかするだろう。
「これが智也殿の世界…!」
僕が書いた世界地図をじっくりと見つめる大臣。そ、そんなじっくり見られると照れるじゃないか。
「日本というのはこんなに小さな国だったんですね!」
「ええ。意外でしょう?」
「あんなに素晴らしい技術を考えるのだからもっと強大な大国かと思っておりました」
「ははは、それがそうでもなかったんだなぁ、でも日本は良い方だと思いますよ」
「この国の娯楽や文化もほとんど日本の影響を受けていますし、発展できたのだって日本のおかげですよ。おそらく他の国もです」
「ということはこの世界は日本まみれってこと?」
「そうなりますな」
「「アッハッハッハッハ!」」
「僕がこの世界に来ても日本とあまり変わらないというね」
「アッハッハ、自国だと思ってゆっくりしていってください」
僕はあの世界を離れたくてこの世界に来たんだが、『日本人としての生活』自体は嫌いじゃなかった。周りが悪いんだ。だがこの世界において僕は特別な存在。あの世界から脱して日本のような生活を送れるなんて最高じゃないか。
「智也殿、この国は何というのですか?」
「これは中国と言ってだな…」
いろいろと説明をしていると日が暮れてしまっていた。外を見るともう日が沈んでいた。
なんだかんだ言って暇をつぶせたので良かったのだが、何しにここに来たんだっけ。
「そういえば智也殿のお願いというのは何だったのですか?」
大臣が話を振り出しに戻す。そうだ、これを言いに来たんだった。
「忘れてました、自分用にPCを買いたいのですが、予算とかって降りますかね」
「そうだった、説明してませんでしたね。しばらくお待ちください」
そう言うと大臣は棚から紙を取り出し、僕へと手渡した。
「この申込書の項目を埋めてください、認証サービスを受けられるようになりますので」
「認証サービス?」
「ええ。国家にかかわる人間には予算が降りますが、知名度が高い上に、常に大金を持ち歩くのは危険が伴います。そこで登場したのがこの顔パスという認証サービスでして」
「顔パスwwwww」
その名の通り過ぎて吹いた。
「その名の通り、顔認証でお支払いが可能という画期的なサービスでして、今では民間でも使用されています。」
「変装とかでごまかされないんですか?」
「変装のほとんどはバレます。顔以外にもいろいろなところで認証をしているらしく…詳しくは私も知りません、国家機密らしいです」
大臣は知っててもいいだろ…。立場的にも誰か教えてやれよ。
「そのサービスに加入すれば智也殿も予算の範囲で自由にお買い物できますよ」
「ほう」
「といってもサービス加入店のみですが。この城下町ならほとんどの店でお買い物ができますよ」
なるほど、僕自身が歩くお財布になるんだな。それでお金を持ってなくても顔パスで国民の血税で食っていけると。フヒヒwww
「なるほど、ではこの紙に必要事項を書けばいいんですね」
名前、住所など基本的なことを書くようだ。
「住所ってどうすれば」
「オリハルカ城」
「え、そんだけ?」
「はい。オリハルカ城は一つしかありませんので」
なんだかすごい居候感が感じられる住所地だな…。
「職業ってどうすれば」
「王」
「職業ってどうすれば」
「王」
「職業って」
「王
…。
名前:小川智也 住所:オリハルカ城 職業:王
「え?枠がすごい余ったんですけど」
「智也殿は特別ですので」
「特別?照れるなぁ」
「ではこの書類を会計課へと持っていきましょう。私もちょうどそこに用があったので、ついでに私が持って行っておきます。智也殿はお買い物に行くとよろしいでしょう。きっとそのころには申請が通っていると思います」
「はやっ」
「マスターコンピューターがありますので情報処理は超高速なのですよ」
「なるほど…」
恐るべし、マスターコンピューター。略してマスコン。
「では僕は行きますね」
「では私もこの申請書を提出してきますね」
一緒に大臣の執務室を出た後、当然僕は道がわからないわけで。
「あの、出口…と電気屋かショッピングモールってどこにありますかね」
「そこの階段を下ってまっすぐ行けば出口につきます。ショッピングモールでしたらそのまま城を出たところからまっすぐ進んだ後に大きな建物が見えたらそちらへ歩いてください、きっとショッピングモールの大きな建物が見えてきますので」
「ありがとうございます」
そういうことで教わった道を進んだ。
ここは昨日の早朝にラピュアと前まで来たショッピングモールだった。
「まんま日本のと同じじゃないか…」
思わず口に出してしまったがもうこれ日本だろっていうくらい日本のショッピングモールそのままだった。エスカレーターといい、店舗は違うものの店の配置など構造的にショッピングモールそのもの。
まぁ便利でいいんだけどね。僕としては異世界というよりは外国に留学に来ている気分だ。
「電化製品は3階か」
エスカレーター近くの案内板に従い、電化製品屋らしき店に向かう。
『ジャポン屋(魔術協会承認商品取扱店)』
の看板が目に入る。ジャポン…もしかして日本?
ヤホー検索のように僕の脳内で検索ワード修正が行われる。
その日本の名をかたる店へと入ると、見慣れた電化製品の他に、見慣れない物も多く存在した。
『気になる魔導具コーナー』というコーナーがあったので見に行ってみる。
「どこでもノアの箱舟~!」
どこかの不二子さんが作った漫画原作のアニメ風の声が聞こえた。
まず完全にネーミングセンスがパチモン臭い。どう読んでもドラ〇もんの秘密道具。
どうやら人が近づくと音声が流れるらしい。
一度少し設置場所から離れて再び近づくと…
「どこでもノアの箱舟~!」
なにこれ面白い。
再び離れる。近づく。
「どこでm」
離れる。近づく。
「どk」
離れ(ry。
ハハハ楽しいな(棒)。
どこでもノアの箱舟というネーミングということは、どこにでも一瞬で行けるよっていう舟なんだろうか。説明書きでも見てみよう。
『折り畳み式ボート!これでどこでもボートライフを楽しめます!超エキサイティン!(水上でご使用ください)』
「氏ね」
壮大なネーミングの割にしょぼかった。まず一面砂漠の国で売れるわけねぇだろ。
次に気になった商品がこれだ。
「砂漠ホバーマシン~!」
これはまともに使えそうだな。商品説明を見る限り素晴らしい商品っぽい。
『砂漠の砂を吸引、そして噴き出すことでホバー走行が可能。超圧力魔導具。使用には魔術師免許が必要。』
「魔術師免許?」
魔術師の免許ってことか。この世界には魔法があるっぽいが、今のところそれっぽいものは見たことがない。ほとんど機械じゃん。
砂漠ホバーマシンの形状は背中に背負う感じのリュックサックのようなもので、吸引用のホースと排出口がある。どうやら背中から魔力を使用者から吸い取るとか。僕には魔力が何なのか全く想像がつかないが…。
他にも色々な変わった商品があった。『魔術式炊飯器』という名のただの炊飯器や、『魔術映写機マークⅡ』という名のプロジェクターやら…。
僕はいろいろとツッコミしながらやっとの思いでパソコンコーナーにたどり着いた。
「お客様、どの機種をお求めですか?」
販売員が声をかけてきた。
「速めの快適なやつで、容量が大きいやつ。予算とかはない」
「なるほど、では大手メーカーのこちらはいかがでしょう」
僕が進められたパソコンは20万ハルクスのデスクトップパソコンだった。
「あー、今はとりあえずノートがほしいかな」
「ノート?書くあれですか?」
あれぇ?まさかご存知ない?
「?」
「えっと、当店で主に取扱していますのはデスクトップPC と手帳型PCの2種類になりまして」
「あ、じゃあ手帳型見せてください」
こういうめんどくさいギャップは氏ね。
手帳型PCはそのまんまノートPCだった。その中でも僕は特に新しい最新機種をお買い上げした。性能もいいほうだ。自宅に置いてきた僕の愛機といい勝負だ。
「お買い上げありがとうございましたー」
僕はPCの他にもUSBや外付けHD、有線LANケーブルらしきものなども一応準備しておいた。もちろんPCゲームコントローラーも買ってある。ほとんど日本にいた時と変わらない生活を望んでいないか?もしかしてあまり変わらない生活になってしまうのではないかと危惧もしたが、楽しけりゃなんでもいいや。という結論に至った。
そのあと僕は携帯コーナーに行ったが、この国の携帯会社は独占一社のみらしく、日本の電機屋のような競売もクソもなく、ただの売り場になっていた。
そこで適当に最新機種の携帯を選ぼうとしたのだが、ガラケーしかなかった。
「あの、スマートフォンってないんですかね」
「スマートホーン?」
はがねタイプの技じゃねぇよ。
「こういう感じの四角い携帯なんですが」
「当店では取り扱っていませんねぇ」
まさかこの世界はスマホがないのか!2014の奴は何やってんだ。ちゃんと伝えろよ。僕が不自由しただろ。
店頭に置いてあるガラケーを触らせてもらうと、2000年代のガラケーと同じような感じで、アプリも糞もなく、ただの通話機としての役割を持っているだけだった。一応写真は撮れるが…。
これは僕が産業革命を起こさないとな。この世界なら僕がアッ〇ルのCEOを名乗っても問題ないだろう。僕がスティーブなジョブスになれるかもしれない。
携帯は先送りにして僕はその店を出た。さて、まだ時間はあるのでこの世界のショッピングモールがどのようになっているのか日本代表として視察してやろうじゃないか。
フードコートで夕食をとることにした。昼食はあれだったので今回はまともなものを食いたい。
お、あそこに良さそうな店が。店の前には列ができていた。
『ラーメン ジャポン』
またジャポンか!
とりあえずそのラーメン屋に並んでみることにした。他の店は食べたこともないような料理屋が並んでいて今は食いたいと思わなかった。
ラーメンを無事購入し、席へとつく。物価は日本と変わらなかった。500ハルクス。
僕はそのラーメンを食べた。可もなく不可もなくって感じだが、周りの同じメニューを頼んだ客はいかにも幸せそうな顔でラーメンをすすっている。
うーん、食文化も遅れが見られるな。
まずはカリーからどうにかすべきだと思うが。
その後僕はショッピングモールを回ったが、買い物自体あまり興味がなかった僕なのですぐに飽きてしまった。あまり変わった店というのは見当たらなかった。
そのまま僕は自室である鶯の間へと帰還した。
一通りのPC設定が終わり、有線LANを使ってネットに接続しようとしたのだが、ケーブルを挿す穴がなかった。酒場にあったように、城にWI-FIかはわからないが電波が飛んでいるとも思えない。一応聞いてみよう。外に出て適当なメイドさんを捕まえて聞いてみた。
「電波なら飛んでますよ。城中でネットにつなぐことができます」
とのことだった。接続方法も教えてもらった。
部屋に戻り、有線LANケーブルらしきものはパソコンの入っていた箱にぶち込んで、僕は無線LAN設定を完了させ、ネット設定もなんとかできた。
「よし、これで本領発揮だ!」
二度とないと思っていたマイひきこもりライフが再びスタートした。
その日は面白そうなオンラインゲームのダウンロード設定をして寝落ちした。