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チート使いの聖戦  作者: はんげしょう
飛龍と騎士とチートと異世界と。
3/7

王宮コード

次の朝、鳥の囀りが聞こえるすがすがしい朝だ。

 うぉぉぉ!体に力がみなぎるもしかしたら立てる!立てるぞぉぉぉ!!!

 「トモヤが立った―――!!!」

 周囲に誰もいないことを確認し、一人で盛り上がってみる。

 まさか本当に一日で治るとは。

 「早速ラピュアにお礼を言わないとな」

 久々に立つことができて、少し足取りが不安だが、歩くこともできた。

 そういえば今まで一言も触れてこなかったが実は色々と漏らしている。

 誰にもばれていない様子だったのでなかったことにしよう。

 とりあえずこの不快感をどうにかするのが先だ。

 何日も滞在はしていたが、町を歩くのはこれがほぼ初めてである。

 トイレのマークっぽいものを見つけ、青いほうに入る。

 「あ~便所便所」

 この世界にもトイレはあった。洋式に近い形だが、どれもおまるがついている異様な光景だ。どうなってんだこの世界。

 紙で尻を拭き終え、汚れた衣服を洗う。

 ふぅ、スッキリ!これで気負いなくラピュアの所に行ける。

 トイレを出ようとした瞬間、入れ違いになった人とぶつかる。

 「あ、これはすまな…!!!」

 「?……!?」

 目の前にいたのは確かラピュアの…

 「おい!お前!ここは女子トイレだぞ!何しに来た!」

 「何って、トイレに」

 う〇こ拭いてたとは断じて淑女には言えない。

 「お前もしかしてあそこに寝そべってたゴキブリ男か!」

 「そんな覚え方されてたのか…」

 「まさか皇女様が宿を抜け出されたのも貴様の計らいか!」

 バレてんじゃねぇか!あと、俺のせいじゃない!

 アイリアたんが鋭い目でこちらを睨んできた。

 「あれはラピュアが」

 「貴様!皇女様を呼び捨てにするとはいい身分だな。名を言え」

 さらに僕を見る目が鋭くなる。怖いよォ。

 「小川…智也ですが。」

 「オガワとモヤ?」

 「オガワ・トモヤ」

 「コホン、ゴキブリ男!貴様、皇女様に何をしようとしている!」

 「名前聞いたのは何だったんだよ!ちゃんと呼んでくれよ!あと、あなたが思ってるようなことはしてないから!口説いたりとかしてないから!たぶん」

 「貴様からは?の風が吹いている。」

 「な…何を言うんですか!ははっ、僕は何もしてないですよー」

 「オリハルカ直属騎士団団長、アイリア・グリンフォードの名において命ず、自害しろゴキブリ男!」

 「名前で呼んでよ!ゴキブリはやめて!あと名前かわいいね」

 「なっ………平然とこのようなことを言ってのけるこの男!野放しにはしておけん!今からでも遅くない、死ね」

 「なにこのすんごいツンデレさん、本当に存在するんだ!」

 妹なんかまだまだ甘い方だったのか!

 「キモっ」ではなく「死ね」だからさらに強いツンデレさんなんだね。

 いつかデレも見てみたいなぁ。

 とにかく赤面のアイリアたんが剣を引き抜こうとしてる。

 これはなだめないと殺されちゃうカモ。

 「こ、ここが女子トイレだなんて知らなかったんだ!」

 「何を言う!女子トイレの色でわからんのか!」

 「青は男子トイレだろ!普通」

 「バカ者!青は女子トイレと決まっておる」

 「んなわけあるか!青は男。赤が女だ」

 「青は女だ!赤が男だ!」

 お互い一歩も譲らない。青が男だよな普通。

 するとそこに乱入者の足音がする。

 「おい、誰か来たぞ」

 「そのようだな」

 「この状況見られたらまずいんじゃ」

 「私もお前のような男と一緒にいるところを見られたくないしな」

 利害が一致した。二人はトイレの個室へと急ぎ入る。

 俺が入った個室にアイリアたんも続いて入ってきた。

 おいおい、これってテンプレのイベントじゃ…

 「おい、別の個室でもいいんじゃないのか!」

 「しっ、仕方ないだろ!私も突然のことで焦っていたんだ。それに、たくさんの個室使っていると迷惑になるだろ?」

 「バラバラに入ると俺と一緒にいるというシチュエーションは見られずに済むんだが」

 それは違うよ!と言わんばかりに論破する僕。

 「うるさいうるさいうるさい!静かにしないとここで殺すぞ」

 「やめてください僕が断末魔を吐いてしまいます」

 「ったく。おとなしくしろよ?」

 今日のアイリアたんは鎧をつけていなかった。

 布越しに彼女の胸の感触が僕に伝わる。なんというか、不幸中の幸いだった。

 それにしても狭すぎないかこの個室…。

 「おい、ここ掃除用具入れじゃないか」

 「狭いと思ったらこういうことだったか」

 「おい、あんまり動くなよ、なんだ、その、あれが当たってるんだが」

 胸のことか。もう入ってしまった以上この態勢は崩せない。下手に動くと殺されそうな気がしたので動かないようにした。

 「おい、あまりちょ、調子に乗ったことをすると首をはねるからな」

 「えっ、僕何もしてない、なんで」

 「その、男のあれが…当たってるんだが」

 まさか…。僕はとっさに自分の下半身に意識を集中した。

 「うわ!ご、ごめん!」

 するとなぜか僕の体が透けてアイリアが僕と重なった。

 「い、いきなりなんだこれは!」

 アイリアたんは僕の能力を知らないんだっけ。

 「これは、かくかくしかじかで…」

 「あ、あとでちゃんと説明してもらうからな!」

 「はぁ…。」

 僕の能力はいつ発現するというのがランダムなのだろうか。とても使いにくい能力だ。

 しばらく沈黙が続き、乱入者も去った風なので二人で掃除用具入れを出た。

 「今回は殺すのは見逃してやる。いろいろ聞きたいこともあるからな」

 「は、はぁ」

 「外に出てみろ。」

 僕らはトイレの外に出る。青い方に女子トイレと書いてあった。

 「お前、他の世界から来たのだろう?間違っていて当然だろう」

 「面目ないです…」

 「あれ、お二人でトイレの前で何してたんですか?」

 「「?………………ッ!」」

 ラピュアが目の前に現れた。コマンド?

 「こ、これは誤解です!この男にこの世界の作法を教え込んでいて!」

 「そ、そうです!僕、アイリアたんに色々と教えてもらって…いでぇ!」

 アイリアたんにしばかれた。痛すぎる!強すぎる!

 「貴様!何馴れ馴れしく私の名を呼んでいる!」

 「ふふっ、お二人とも仲睦まじいのですね」

 「なっ」

 「ははっ」

 「この男は私にいやらしい目線を向けてきていました!きっと皇女様、あなたにも危害が加わることに間違いありません!」

 「トモヤは私の友達ですよ。大丈夫。それに、公衆の前じゃないときは昔のようにラピュアでいいと言ってるじゃありませんか」

 「そうだよアイリアt…ごふっ」

 相変わらずかなり痛い。それにしても昔のようにって?

 「ならばラピュア様、昨日の夜の件についてお聞かせ願ってもよろしいでしょうか」

 「バレてしまっていましたか」

 「当然です。直属騎士団の長としていかなる時も皇女様から目を離さぬようにと」

 「それってストーカーかな?」

 「お前は喋んな!」

 「はい」

 「あれほどあの男は危険だといったのに、何があるかわかりゃしません。ましてや別の世界の男などと。蛮族でしかないですよ」

 地球の男全員的に回したぞ。

 「言いつけを破ったのは謝ります。ですが、この方は次の王です。皇族と王が連携なしではやっていけません」

 「王?確かに昨日は魔術が一切効かなかったという事実はありますが、おい、ゴキブリ男、コードを見せろ」

 「…」

 「おいどうした。王たるものなら持っているだろう?」

 「…」

 「きっとアイリアに喋るなと言われて喋らないようにしているのですよ」

 「…(コクリ)」

 「めんどくさいやつだな!もういい、喋ってもいいからコードを見せてみろ」

 「コードなんか見たことないな」

 「えっと、トモヤはこの世界に来たばかりで、戦争のこともこの世界のこともコードのことも何も知らなかったんだと思います。それで。」

 「なら怪しい男でしかないじゃないか、今ここで首をはねて」

 「ま、待ってください!私の名に免じて、ここは落ち着いて。トモヤ、いずれコードは必要になります。今から探しに行きましょう。」

 「ってことだから!またな!アイリアたん」

 「貴様!」

 僕とラピュアは逃げるようにこの場を離れた。

 「さっきは言えませんでしたが、もうよくなられたんですね」

 「おう、もうバッチリ王でもなんでもやってける気がするよ、これもラピュアのおかげだよ」

 あぁ~^体がぴょんぴょんするんじゃぁ^~って気分。

 「今、ラピュアって…」

 「あ、本当だ」

 気が付けばラピュアと呼ぶようになっていた。ラピュアも満足そうにしている。

 リア充ぶるのもちょろいもんだぜ。

 「ありがとう!私、うれしくって。こんな風に自然に会話できる人って久しぶりで」

 「そっか、皇女様って身分だからなぁ」

 「アイリアだって昔は私と親しくしてくれました、ですが、あることがきっかけで彼女は私によそよそしく接するようになってしまったのです」

 「あのアイリアたんが?」

 あのカタブツのような女騎士が、親しくなぁ。

 「はい、まぁこの話はいつかしましょう、今はコードを探さないと」

 「OK」

 「コードを落としたところに心当たりはありませんか?」

 「最初に僕がこの世界に来た場所からこの町までの間かな。途中で行く方向変えたからわからないけど。」

 「では、これを使いましょう」

 ラピュアがポケットから取り出したのは、小さな箱だった。

 「これは?」

 「まぁ、見ていてください。」

 小さな箱を真上に放り投げると、形が変わり、ドローンのようなものが出てきた。

 「ド、ドローン?」

 「これは魔術式空中探査機、そらゆめ君です」

 魔術版ドラえもんかな?いつか秘密の道具とか頼んだら出してくれそう。

 「これを使うと、空から映像をこちらに送ることができるんですよ。操作は簡単で、このレンズを使うと方向の操作とライブ映像が確認できます。」

 モノクルっぽいレンズを2枚ラピュアが三次元ポケットから取り出し、片方を僕に渡してきた。

 「僕に魔術は聞かないんじゃ?」

 そうだ。昨日魔導士が僕に魔術をかけても何も変わらなかった。

 普通に考えれば魔術式のこの道具も使えないのが道理だろう。

 「その道具は脳から発せられる微弱な魔術信号をもとに操作できて、レンズから同じような信号を作り出し、直接脳へと映像を送ることもできるんです」

 「おいそれって科学技術じゃ」

 「科学?というものがどういうものかはわかりませんが、すごいものはみんな魔術です」

 この世界もしかして地球より文明進んでないか?

 それに科学も全部魔術にひっくるめられてるし…。

 ってことはこのドローンも普通に機械かよ。

 「じゃあ試してみよう」

 うん、普通に使えた^^

 航空写真のようなものが脳に直接送られてくるのがわかる。

 かがくのちからってすげぇ!

 「で、ドr…じゃなくてそらゆめ君はどうやって動かしたらいいのかな?」

 右へ行け!とか念じてみるが映像に変化はない。

 「あ、そうでした。たしか合言葉が、【ハイヨー!】だったはずです」

 「「ハイヨー!」」

 『シルバー!』

 なんで西部劇のセリフなんだよってのは置いといて。そらゆめ君の声かわいいな。

 一度声優と会ってみたい。

 「それ私が作ったんですよ」

 「ファwwww」

 笑った。

 ドローンもといそらゆめ君は空高く飛び上がった。

 町から少し離れたところに、半分砂に埋もれかかった僕の服が落ちていた。

 「この辺だな」

 そらゆめ君を下降させる。

 「パパパパパ、パンツが落ちていますよ!」

 ラピュアが興奮しながらこう言う。

 しまった。パンツだけでも回収しておけばよかった。

 こんなことになるなんて知る由もなかった。

 「これ、僕の服なんだけど」

 「!」

 ラピュアがぼんっと赤くなる。

 「ごめんなさい、トモヤのパンツだとは知らずに」

 「パンツだけじゃないよ!ほらみて!」

 ドローンを操作してパンツじゃなく制服のジャケットのほうにカメラを向けようとする。

 しかしなぜかカメラは動かない。まさかラピュアの意志が強すぎるというのか…!

 僕のパンツくらいいくらでも見せてあげられるのに。

 「!…ごめんなさい、私ったらつい。」

 「ははっ」

 苦笑いするしかなかった。

 ピュアなラピュアちゃん可愛すぎる!

 「あ!あれじゃないですか?」

 光っているものがある。降下して近づいてみよう。

 「なんだ、ただの石か」

 日光が反射した普通の石ころだった。

 その後もこの町の周辺の砂漠を一通り探してみたがコードは見つからなかった。

 「ダメでしたか。」

 「なかったね」

 もしかすると誰かに持ち去られているのかもしれない。

 そんな心配もるわけで、不安なままだった。

 昼になるとラピュア達一行は城へ帰ることになっている。

 半日で着くとのことで、到着予定は今日の暮れらしい。

 そして時刻は昼前。

 「…で。なんで俺は縛られてるんだ!」

 「仕方なかろう、貴様の行いには疑いがあるからな」

 「ぐぬぬ…」

 僕らは城へ行くための馬車に乗る準備をしていた。

 辺りでは兵士や町人たちも作業をしている。

 「ごめんなさい、私からも言ったんですけど、アイリアがどうしても譲れないと言うのですから」

 「安心しろ、お前の荷物はちゃんと持ってきてある」

 先日の雨にうたれてカビ臭いにおいを発するカバンまで持ってきてくれた。

 なんだかんだ言っていい奴じゃんアイリアたん。

 「アイリアたんって、いい奴だな」

 「なっ…ふんっ貴様に言われても嬉しくなんかないわっ」

 「アイリアは昔からこういうところがありますから」

 「ちょっ、皇女様?!」

 「隊長かわいいっ!」

 「ヒューヒュー」

 周りにいた部下と思われる兵士もはやし立てる。

 アイリアたんは俯き、顔を真っ赤にしてこらえている。

 「隊長、聞きましたよ。あだ名ができたんですよね。確か、アイリアたn」

 「野郎!ぶっ殺してやる!」

 赤面のアイリアたんはぶち切れて部下の兵士たちを追い回す。

 平和だなぁ。

 「ふふっ、おかしいでしょう」

 「あはははは、仕事バリバリする人のギャップ萌えというか」

 「ちょっと意味わからないですけど、わかります~」

 「「ははははは」」

 ラピュアと二人して面白おかしく笑った。

 そうこうしている間に着々と準備が進められ、ついに出発の時が来た。

 「この度は、わが村のお手伝いに来てくださり、ありがとうございました」

 町長らしき人物が出てきて騎士団にお礼を言う。

 「いえいえ、これも我々の活動の一環。また何かあればすぐ駆けつけますので」

 「はいっ、ありがとうございます」

 「ではいくぞ!」

 僕らは出発した。

 なんと荷台は皇族専用のVIPルームで、お風呂や、冷蔵庫、さらには最新のIH付きのキャンピングカーのようなものだった。

 今度の移動は僕の足を使わないで移動できるため疲労する心配はない。

 それに加えて豪華な皇族の旅なのだから何不自由なく満喫できそうだ。

 この異世界の長旅をやっと楽しめるわけだが、周りのどこを見ても、

 砂漠!砂漠!砂漠!砂漠!砂漠!砂漠!砂漠!皇女!女騎士。

 いいぬぇ。

 「本当は貴様をここに入れる訳にはいかないんだが」

 「私が言ったんです。トモヤともっとお話がしたいのです」

 「全くラピュア様ったらこの男に甘すぎます」

 「この荷台だって、私とアイリアだけでは広すぎますし、何よりトモヤは王様なのかもしれませんし」

 「それはまだ決まってないことでしょう」

 確かにコードがない以上、僕を王様と認めるわけにはいかない。

 だが、縛られたままってのもひどすぎる気がする。

  ピンポンパンポーン

 ん?アナウンスか?

 『進行方向前方に、竜巻が発生しました。総員揺れに備え、防塵ゴーグルを着用してください』

  ピンポンパンポーン

 迷子のアナウンスのようなゆっくりとした口調だったが、これってやばいものなんじゃないのか。

 焦りを感じさせないアナウンスに感心しつつ、揺れへと備える。

 「あの、防塵ゴーグルは?」

 「バカ者、この荷台は室内だ。そんなもんはいらん」

 「ですよねー」

 「ただ、竜巻に突っ込むから、揺れには注意しろ」

 「えっ避けないの?」

 「当たり前だ。竜巻なんかよくあることだ。そんなものを気にしていたらまともに移動なんかできん」

 歩いていた時に遭遇しなくてよかった…。

 よくあることなのか…。だがいったいどうやって進むというんだろう。

 「いいものを見せてやろう。」

 そう言うとアイリアたんは室内についていたボタンを押した。

 するとフロントガラスの前に大掛かりな機械が現れた。

 先端が丸くなっているアニメとかでよく見るレーザー銃のような。

 「これがうちの皇女様の作った。タツマキエール君だ。」

 「はい。私が作ってみました。これで竜巻を消すことができるんです」

 「はえ~~~~」

 なんだこれは…。ビームでも出そうな勢いだが。

 「展開!」

 アイリアがボタンを押すと機械の先端に青白い稲妻がほとばしる。

 窓ガラス越しにもバチバチ音が鳴っている。

 キャンピングカーもグォングォン揺れている。

 す、すさまじいパワーだ…。

 OPが流れそうな勢いを感じる。

 「発射!!」

 その声とともに青白い閃光を纏った元々先端についていた球体が竜巻めがけて飛んでいく。それと共に青白い閃光も砲台から竜巻の方へと一直線に伸びていく。

 その光が竜巻に達したとき、竜巻全体が帯電し、次第に不安定になっていく。

 爆発音とともに竜巻は跡形もなく消え去り、その衝撃でたくさんの砂が宙を舞った。

 「ラピュア様の魔術には、限界など知らないし意味ない。」

 轟音とともに自慢げにアイリアが言う。

 今のは本当にすごかった。あれはもしかして地球でいう超電磁砲レールガンなのではないか。

 「お役に立てたようでうれしいです」

 こんなものを作り上げてしまう皇女様何者?

 「今では我が国の荷車にこれが1台ずつ配備されているほどの人気だ。」

 「ま、まじか」

 戦車に匹敵する力を普通の荷車に搭載するってなんだよ。どうなってんだよこの世界。

 「すごいな、ラピュアってなんでも作れそうだな」

 「何でもじゃないです、作れるものだけ。」

 かっこいいこと言うじゃないか。できる人っていいなぁ。

 「僕なんかそういうの全くわからないし、時代の最先端を生きるって、いいな」

 「トモヤも私の作品に興味がおありですか?」

 「おぉ、そうだな、貴様も一度聞いてみるがいい。私には何のことかさっぱりでな」

 「じゃあ、お願いしようかな」

 ラピュアは科学技術っぽいことを熱心に語り始めた。

 頭に入らない言葉を並べては、早口でペラペラ喋っていく。

 何度も出てきた単語で聞き取れたのがブルーツ波とHi-ERo粒子だけだった。

 「それでですね、この魔術回路を通せば簡単に投影魔術が可能で、空中に回路を散布させれば大きな幻を見せることだって可能になるんです。トモヤ君の能力と似たようなものですね。トレースをオンにすることで簡単にできるんですよ、その技術を応用したのがこのミルミルミール君で、ライブ映像を通してお互いを視覚しながら会話できるようなものができると考えてるんです。しかし魔術回線の混線などが予測できるため、実用に至っては難しいと判断されています。…………」

 長々と4時間ぐらい聞いていた気がする。

 熱心に話す女の子を前に寝ることはできないので、目だけは起きているようにした。

 アイリアたんは遠くのソファで寝ている。自分だけ助かりやがって。

 意識が遠のく。

 すると、突然能力が発動してしまった。

 僕を縛っていたロープがするすると抜け落ちた。

 「自由だ!」

 目が覚めた。嬉しさのあまり立ち上がる。なんか涼しいな。

 服が脱げてパンツだけになっていた。

 「パパパパパパパ」

 「お、落ち着いて、これは誤解だ!マジックじゃない!」

 皇女様ことラピュアの前でパンツ一丁で立っている。完全に変態だ。

 「パンツ――――――――ッ!!」

 ラピュアの叫びによってアイリアが目を覚ます。

 「何奴だ!」

 「It`s a magic」


 アイリアにボコボコにされ、再び縄で縛られた。

 さっきの状況が嫌だったとは言わないよ?むしろ来いよって感じ。

 でもね、さっきのは僕が悪いんじゃない、中途半端な能力のせいだ。

 「ごめんなさい、さっきは私ばっかりがしゃべってしまって」

 「いあいあ、ラピュアが悪いんじゃないさ。僕の心の至らなさが」

 ピュアな皇女様を傷つけるわけにはいかない。面白くなかったなんか言えない。

 「でも、君の発明がすごいのはわかった」

 「本当ですか!嬉しい!ありがとうございます!」

 「ラピュア様は昔から発明がお好きで、父君に隠れてはご自分で色々とお作りになられていたんですよ」

 「そうですね、私の父がそういうのは皇族のすることではないといって反対するものですから。隠れてするしかありませんでした」

 「アイリアた…ごふっ」

 「貴様いい加減に治らんのか」

 痛い痛い痛い。今日地面病院から退院したばかりの僕になんて仕打ちだ!

 「たんは、昔からラピュアのこと知ってるの?」

 「ええ、幼馴染ですもの」

 アイリアではなく、ラピュアが答える。

 「私もラピュア様も今年で17だな。」

 「へぇ、僕と一緒だ」

 「まぁ」

 「ふんっ、貴様と一緒なんて反吐が出るわ」

 「うわひでぇ」

 「ちょっと、アイリア」

 「すいません、ついこの男が気に障るもので」

 なんて失礼な女だ。

 「ほら仲直り」

 ラピュアの仲裁という形で場は収まった。仲直りは体裁だけだが。

 僕が笑いかけてもアイリアたんは僕を変態と言わんばかりの目で睨んできた。

 怖っ。

   ピンポンパンポーン

 『もうすぐ、皇都オリハルカへつきます。深夜帯なのでお静かに願います』

   ピンポンパンポーン

 またこの緊張感のないアナウンスが流れた。

 調子狂うわぁ。

 フロントガラスを見ると、目の前に広がっていたのは大きな壁だった。

 壁の上には城の一部が見える。城塞都市って感じなのか。

 妖精の笛持ってないからこの先のボス戦で苦戦しそうだ。とか考えていると、もう城塞の中へと入っていった。

 城塞のトンネルを抜けると、騎士団の詰め所的な場所に出た。

 アイリアがロープをつかんで僕を荷台から放り投げた。

 「何するんだよ!」

 「さて、もうついたぞ。ほら早く行け」

 「縛られたままどうしろっていうんだよ!」

 「そうだったな。すまなかった」

 「わかってくれればいい」

 アイリアが俺のロープを外してくれるようだ。

 やっぱりいい奴だな。

 「おっと間違えてさらにきつく縛ってしまった」

 「おいテメェわざとだろ!」

 前言撤回!最悪だこの女。

 この女は、僕を縛った後は無責任に仕事があると言い残して去っていった。

 「ほどいて行けよ!」

 体のいたるところが縛られて痛い。

 「ぬん」

 能力が発現し、ロープはシュルシュルと地に落ちる。

 「ふぅ」

 これで僕の置物生活も終わりだ。今日から都でエンジョイするぜ!

 「長旅お疲れ様でした」

 兵士たちに一人ずつ声をかけるラピュア。

 うわ~、いい子だ。

 僕が兵士なら絶対に士気が上がるよ。

 挨拶回りが済んだラピュアはこっちに戻ってきた。

 「いきましょうか」

 ラピュアが手を差し出してきた。握っていいのだろうか。

 照れながら手を取ろうとするが、透けてしまう。

 どうしてラピュアだけ触れられないのだろうか。

 このまま触れられないなんて僕は…。

 握れないまま、移動を開始した。

 皇都は、想像をはるかに超えていた。

 辺り一色がネオン色で、光る広告で溢れている。

 巨大なモニターに映し出されるのは炭酸飲料の広告や、酒場の広告など様々だ。

 言葉で言い表すと、RPGでよく見る城下町にネオン色を足して、ピカピカさせたようなイメージである。

 砂漠の王国みたいなのを期待していた僕にとってはいい意味で期待を裏切られた。

 都の住人たちはハイテク機械を使い、車のようなものまで存在している。そんな住人たちの服装も街に見合った感じで、日本の現代人っぽい服装だった。さっきの町とは大違いだ。

 最先端風な建物と対称的に、道路は整備されておらず、石畳にマンホールとRPG感を残した風になっている。

 「驚かれましたか?これが私たちの皇都です」

 「想像の斜め上すぎるよ」

 リアルな感想が出てしまったが、ラピュアには褒めているように受け取ってくれたようだ。

 僕たちは城下町を観光することにした。案内が皇女様というVIP待遇だ。

 「ここは魔術クリニック、魔術回路の調節や修復をしてくれます」

 「僕の世界には魔術なんてないからなぁ」

 「まぁ!それでは魔物のような生活を?」

 「えっ、ああ、そういう意味じゃなくて、この世界の魔術の一部ならあるんだ。科学として」

 「あ、なるほど。確かにそうでしたね」

 魔術と科学の認識がごちゃごちゃになってる世界だからなぁ。

 「ここが酒場。冒険者たちが集う職業案内所も兼ねてありますね」

 「どちらかというと冒険者志望なんですが」

 「トモヤは王様ですから、冒険者にならなくても…」

 「兼任はできるのか?」

 「できるにはできますが…」

 いいことを聞いた。めんどくさそうだが、異世界に来たからには冒険者ライフってのもやってみたい感はある。チートでほかの冒険者が苦労しているところを楽に攻略って感じで。

 ニヤニヤが止まらない。

 ニヤニヤしていると驚きの広告を見つける。


 『男が働かない国、オリハルカ。女性が働くパラダイスデザートへおいでませ』


 観光協会の建物に大体的に設置されていた電光掲示板のお言葉である。

 その言葉とともにモデルと思わしき女性が砂漠の中ではにかんでいるという内容の広告である。

 すると突然ラピュアがため息をついた。

 「この国の男の方たちは本当に働かないんですよ。何度も国策を練っているのですが、一向に解決しなくて困っているのです」

 「男が働かない?この国で?」

 「ええ。昔はそうでもなかったみたいですが、ここ数年、突如男性が働く意欲をなくしてしまったみたいで、今では足りなくなった男手を補うために女性が頑張って働いています」

 「そりゃ大変だなぁ、力仕事とか困るんじゃないの?」

 そういえばさっきの兵士たちも女の人がほとんどだった。

 僕ならそんな職場喜んで入りますとも!ええ。

 「トモヤもいつか働かなくなったりして」

 「僕は今でも働きたくないですな」

 「まぁっ、これはいけない」

 「あははは」「ふふふふふ」

 そして、この国の男性が働かない件についてラピュアにいろいろ聞かせてもらった。

 そうこうしていると、大きな建物が視界に入る。

 「トモヤ!ここがショッピングセンターです」

 「ははっ異世界にもあるんだな」

 大きなショッピングセンターだ。日本にあるそれと瓜二つである。

 ここまで来ると異世界というより未来の世界って感じだな。

 しばらく歩いていると目を疑う光景を目の当たりにする。

 「ん?あれって…」

 赤い店に「w」のマーク。日本でもおなじみファストフードチェーン店。

 ワクドナルドの姿がそこにはあった。全く同じロゴに、全く同じ店内。

 「あのお店が気になるのですか?入ってみます?」

 「僕、この店知ってる」

 「この店はチェーン店ですからね、いろいろな町や村にあるのです。さっきのテティの町にもありましたよ。私は食べたことありませんが。」

 それは知らなった。というかさっきの町も動けなかったせいで完全に回りきったわけじゃなかったし。

 「よし、僕が味を確かめてみよう」

 「私も初めてなのでドキドキです!」

 店内に入ると、「いらっしゃいませ」とクルーに言われる。

 レジのあるカウンターに向かい、メニューを見る。

 ちゃんと日本語なんだな。

 「じゃあ、ワクドナルドバーガーを2つ、店内で」

 メニューもほぼ同じだが、材料とかはどうなんだろうか。

 「ワクドナルドオーダー入りました!」

 クルーが厨房に向かって連絡をする。

 そして1分も待たないうちに紙に包まれたバーガーが提供された。

 あれ、お金はいいのか?

 今気付いたがお金を払っていない。無銭飲食とか嫌だよ僕は。

 「ラピュア、お金払ってないけど、いいのかな」

 「私が買った分は全部国の費用から支出されるんです」

 さすが皇族。感心しながらレジから離れる。顔パスとはこのことか。

 二人席に着き、ラピュアと一緒にハンバーガーの包装紙をめくる。

 店内のほかのお客さんに「あれ、皇女様じゃない?」「一緒にいるあの男なんだ?」という噂をされている。気分がいい。

 「ここのお店、料理できるのが早いですね」

 「それがファストフード店だからね」

 「私の家なんか一食作るのに2、3時間かけているんです。この店を見習ってほしいです」

 「ははっ」

 「さて、冷めない内に頂いてしまいましょう。いっせーので、で。あっ」

 今の説明だったのか。思わず合図かと。

 「ほへん(ごめん)」

 「ふふっ、いいんですよ、そのまま食べても」

 ラピュアが笑う。

 「さぁ、君も食べないと」

 「ですね、いただきます」

 一口かじったラピュアの顔が変わる。

 「めっちゃおいしいじゃないですかぁこれ!」

 人が変わったように突然立ち上がるラピュア氏。

 「あ、すいません、はしたない真似を」

 「いや、正直なラピュアがその、かわいいなって」

 「そんな、恥ずかしいですよ、こんなところで」

 照れながらハンバーグを食べる二人。周囲には人だかりができていた。

 「皇女様!そこの殿方は?!」

 「皇女様!サインください!」

 「握手してください!」

 「こっち向いてー!キャー!」

 ラピュアは目に留まった人に順番に対応していく。プロだな。

 「そこの殿方は、またいつか皆様の前で発表することになります」

 「もしかして婚約者?」

 「嘘だろ?俺たちの皇女様がどこかに行ってしまうなんて!」

 「気になる!」

 僕のほうにも視線が集まる。

 人がどんどん増えてきた気がする。店外からも人だかりを見て、人がどんどん吸い寄せられてきていることがわかる。

 「あなたのお名前は?」

 「えっと、小川智也といいます」

 「オガワトモヤ、覚えたぞ。1chに晒しとこう」

 「画像うpと」

 「次期皇帝候補現るっと」

 横にいるラピュアのためにも、さわやかスマイルで対応するしかなかった。

 僕らが店外に出ても、野次馬はまだついてきている。

 スクープになりそうだもんな。

 「人が多すぎますね。この続きはまた今度にしましょうか」

 「だね」

 僕らはそのまま城へと向かった。

 城の門の前では、兵士が通行する人をチェックしていた。

 これで野次馬は?がせるだろう。

 「おや、あなた方は」

 兵士の一人が気付く。

 「皇女様と…ゴキブリ男?と聞いております」

 「あの女!」

 「皇女様はお通りください、ゴキブリ男はこちらです。」

 バトンタッチした担当の兵士に案内され、進んだ先には。

 「お前はここだ、さぁ入れ」

 どう見ても牢獄です、お疲れさまでした。

 「おい!なんで僕が投獄なんだ!おかしいだろ!」

 兵士に訴えるが、その思いも虚しく牢屋に鍵を閉められて閉じ込められてしまった。

 「は~~~~~???キレそーーーーーーーーww」

   パシャ

 牢屋に空いた鉄格子の窓から誰かに携帯で写真を撮られた気がした。

 振り返った時には何もなかった。

 この世界に来てから寝床がまともな所なんかなかったな…。

 あきらめようとした僕は自分が能力者であることを思い出す。

 「あきらめるのはまだ早い、僕には能力があるんだ」

 意識を集中させる。透過しろ透過しろ透過しろ。

 手を格子に触れさせる。

 「冷たっ」

 どうやら失敗したみたいだ。その場でうずくまる。

 はぁ…。

 溜息をついて僕は羊を数える作業に入った。


 …すいません」

 「ん?」

 214匹くらい数えた時に兵士が声をかけてきた。

 半開きの目を開いて話を聞く。

 「皇女様のお客人様だったのですね、先ほどは無礼を働いてしまって、申し訳ありませんでした」

 「いえいえ、わかってくれればいいですよ」

 好青年を装う。あ、装うじゃなかった。元々好青年だった。

 「改めてご案内させていただきます」

 牢獄のある棟を出て、場内へとやっと入ることができた。

 無駄に広い場内を兵士の案内に従ってついていくと、太った貴族らしき人間が挨拶してきた。

 「これはこれは、トモヤ様ですな?」

 「はい、僕が小川智也です」

 「皇帝がお待ちです。さぁ、中へ」

 謁見の間に通され、僕は緊張しながら中へと進む。

 奥にはラピュアの父君である皇帝が玉座に座っていた。その隣にはラピュアもいた。

 皇帝は室内にもかかわらずサングラスをしている。

 キャラが濃い印象だ。

 「いやー探しましたよ」

 「へっ?」

 いきなり皇帝が下手に出てきたため、緊張がほぐれた。

 「あの、僕が小川智也です」

 「娘から聞いてますぞ、さぁ、もっと前へ」

 「は、はい」

 「あなたがこの国の次期王になるお方だと聞いてね、興奮してしまったのだよ」

 「は、はぁ」

 「まぁ、そう気を張らんでもいい、私は君を歓迎するよ。そして、先ほどは部下が無礼な真似をしてしまったな。すまなかった」

 なんと皇帝は豪華な椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。

 「いえいえ、これは僕の至らなさが招いたことです、お顔を上げてください」

 恐縮です。恐縮です。

 「コホン、話を戻そう。君が次の王になるとのこと。とても喜ばしい限りだ。」

 「僕も聞いたときは驚きましたよ。僕がこんな素晴らしい国の王だなんて」

 「そうだろう?この国には私の娘のようなベッピンぞろいよのう!はっはっはっは」

 「あっはっはっはっは」

 この皇帝さんとは気が合いそうだ。

 「もう、お父さんったら!」

 「そちらもありますが、僕はこの国の皆さんの温かさに触れ、この国の素晴らしさについてはもう、感動してしまいました(大嘘)」

 「はっはっは!そうだろう?わかるかえ?この国はいい国!いい国作ろう鎌倉幕府なんちってー」

 「「あっはっはっはっはっは」」

 ギャグの内容については突っ込まないでおこう。

 「して、トモヤとやら、この国の王という責務、辛い戦いが待っているかもしれないが、就いてくれるかね?」

 「もちろんです、この国のためにならこの命、全うして使う所存です」

 「よくぞ言った、我が国の王よ!ここに、コードを高く捧げよ!」

 「………。」

 「どうした?」

 「あの、お父様」

 ラピュアが耳打ちする。

 うわ、修羅場の前の空気だこれ。

 やばいやばい。その場の空気が凍り付き、周りの兵士も深刻そうな顔をしだした。

 「何?コードがないだと?」

 「その通りです…」

 「ですがお父様!」

 …沈黙。

 「あっはっはっはっは!」

 「「!?」」

 「古いしきたりなんかどうだっていいんじゃい!とにかく王さえ立てられればこっちのもんだからな!あっはっはっはっは!」

 た…助かったのか?

 全身の力が一気に抜ける。

 「さぁ、力を合わせ共に戦いましょうぞ」

 「は、はい!」

 「新しき王の誕生に祝杯を上げなければな。明日、盛大にパーティと行こうじゃないか!」

 「お父様…」

 ラピュアも安心した顔でほっと一息。

 すると僕が入ってきたドアを叩く音が。

 「失礼します」

 アイリアが入ってきた。

 僕の顔を見ると「ちっ」と舌打ちをしてきた。

 嫌われてるなぁ。

 「この男を王にするなどもってのほかです!この者は…」

 「今日もエエ尻しとるなぁ、アイリアよ」

 「お、お戯れを」

 とっさにお尻を押さえるアイリア。

 かわいいなァ。

 「トモヤのことなら心配せんでエエ。いい覚悟を持っている」

 「やぁ(イケボ)」

 挑発を込めて。

 「ちっ」

 「この者は…」

 「コードを持っていないといいたいのであろう?」

 「そうです。さらにこの男は皇女様へ無礼を働きました」

 「アイリア!」

 「ふむ、だがそれとこれとは別だ。この者は王にふさわしい。私の目に狂いはないはずだ。」

 「ですが!」

 「私の目を疑うというのかな?」

 「いえ、そういう訳では…」

 「下がっていいぞ」

 「はっ」

 アイリアたんは恨めしそうに僕の方を見てきた。

 「私はお前を認めない」

 と言い残して去っていった。

 「すまんな、昔から彼女はああなのだ」

 「もう慣れてますから、大丈夫です」

 「そうそう、積もる話があるのだが…」

 王様は時計を見てから眠そうに目をこする僕へこう言った。

 「トモヤ、今日はもう疲れたであろう。部屋を用意してある。そこで休むがええ」

 「ありがたく使わせていただきます」

 僕も時計を見るともう深夜の3時だ。異世界の時計を当てにするのもどうかとは思うが、かれこれ今日、いや昨日は色々あったからな。

 トイレの件から、長旅の件、皇都でのラピュアとの観光、そして突然の投獄。

 こうして今に至るわけだが。

 「お主にはVIPルームを用意しておる。案内の者についていくがええ」

 「恐縮です」

 王様の言う通り、謁見の間を出るとリアルメイドが立っていた。

 清楚系の黒髪メイドだ。

 「智也様、こちらでございます」

 「はい」

 きれいなメイドさんだ。やっぱり貴族といえばメイドが付きものだよな!

 すんばらしいぜ!

 待てよ。僕が王になるってことは、僕にもメイドさんがつくのだろうか。

 そんりゃ、ベリィベリィグッドだぜぇ!

 「あの、真夜中ですのでお静かに願います」

 「はい」

 無表情のメイドさんに注意されてしまった。

 どうやら口に出してしまっていたようだった。気を付けなければ。

 メイドさん、やっぱりいいなぁ。

 今になって、王ってのも悪くないなって思い始めた。

 ハーレム王に、俺はなる!

 「こちらがVIPルーム。鶯の間でございます」

 「渋いネーミングですね」

 扉の前まで来てみたが、扉がでかい!

 鶯の間というネーミングの割には洋風の扉だ。

 「では、心行くまでお楽しみください」

 無表情のメイドはそう言ってその場をスタスタ早歩きで立ち去った。

 「お邪魔しま…」

 「「はぁ~い」」

 中にはなんとたくさんのお姉さんたちがベッドの上で待っていた。

 皆さん露出が高すぎる。5人のお姉さんが水着だけを着て僕を誘っている構図である。

 やばいやばいマジやばい。

 「ぶふぉっ!」

 僕の眠気は一瞬にして吹き飛び、架空のコーヒーを噴出した。

 「お姉さんたちと遊ばない?」

 「え、遠慮しておきますぅ!」

 バタンッ!

 「ハァハァ…僕には、刺激が強すぎたな」

 その場の雰囲気に耐えられなかった。

 初めて18禁コーナーに入る高校生のようなリアクションをとってしまった。

 何がハーレム王だ。女の人の裸なんかパソコンで見慣れているではないか。

 こんなのでどうする!もっと堂々たる威厳で臨まないと!

 僕は自分の頬を2度しばき、服を純白パンツだけにして、再戦へと望む態勢を整える。

 「よし」

 試合に臨むボクサーのように戦場へと赴く。

 17歳童貞。いざ尋常に!

 ドアを全開に勢いよく開ける。

 「お姉さん!僕のあらとあららるところを嘗め回しておくれ!」

 噛んだ。

 Oh…。

 しかしそんな僕に見向きもせず、中にいたお姉さんたちは誰かと連絡を取っているようだった。

 「契約だとぉ、ターゲットが部屋を出るまでっていう契約でしたよねぇ」

 契約?どういう意味だろう。

 電話?越しに誰かと会話しているようだ。

 「ここから先は、別料金、ねぇ、払ってくれるでしょう?」

 別料金?

 「だぁめ、いくらへそくりが尽きたからってサービスなんかしないわよぉ、私たちも忙しいの。また今度ね」

 へそくり?どういう意味だ。電話の相手が気になる。

 お姉さんが電話を切ると、僕は勝負に入ろうと決意を込めて…

 「あの、お姉さん、僕と一緒にイイこと…」

 「悪いわね、ボク、お姉さん達忙しいの。また今度機会があったらお願いね」

 投げキッスをされ、お姉さんたちは窓からロープを下ろしそれを伝って華麗に去っていった。

 何だったんだ。

 僕の覚悟も何だったんだ。

 一人パンツ一丁で残された僕は哀愁にとらわれ、一人立ち尽くした。

 廊下に落としてきた服を拾い集め、部屋の隅に固めて寝る準備をする。

 自分のカバンを乱雑に放り投げ、脱いでいたTシャツを着なおす。

 まともに寝られるのは初めてだなぁ。と思いながら部屋の電気のスイッチを探す。

 高そうな壺の中や豪華そうなタンスの裏、ベッドの下まで探したがスイッチは見当たらなかった。

 お姉さんのことで頭がいっぱいで部屋については何も語っていなかったが、僕の家のリビングの二倍くらいの無駄に広いスペースがあり、下には高価そうな絨毯が敷かれており、さらにその下は白い大理石っぽいものだった。部屋には大きな鏡台もある。壺やタンスなど、どれも高そうな骨董品がいくつか配置されており、小さな花瓶がベッドの隣の大理石の机の上にあり、その花瓶には水が入っていて、花が活けられてある。全体的に白で統一された部屋だった。

 とにかく部屋の隅々まで豪華だった。

 前の世界でもこんな豪華な部屋は初めてである。ベッドも当然キングサイズベッド。

 唯一目立ったのが庶民的すぎるティッシュ箱が大理石の机に置かれていた。

 その机の下には大理石デザインのごみ箱が。

 「?」

 ピュアな僕には何もわからない。ナニもわからない。

 とりあえず、その日は気持良くなって寝た。


 「…………朝ですよ、起きてください」

 誰だ…我が眠りを妨げるものは。

 目を開けるとラピュアだったのでびっくりしてベッドから転落した。

 「もうお昼ですよ!式が始まってしまいます!」

 「式…?」

 「もう、お寝坊さんなんですから!一度しか言いませんよ?今日はあなたの戴冠式なんですから!」

 「たい…?」

 「戴冠式です!もうっ」

 プンプンしながら二度言ってくれた。

 優しいなぁラピュアは。

 「今日起こしに来てくれたのがラピュアでよかったよ。あの女騎士だったらぶん殴られて骨の一つや二つ折られてそうだ」

 「ふふっ、あるかもしれませんね」

 「だろう?」

 二人で笑い合う。いい雰囲気だ。このままこの時間が続けばいいと思った。

 「って、こんなこと言ってる場合じゃないんでした!早くこちらに着替えて」

 ラピュアは大理石の横にある机に置いてあったきらびやかな服を取ってきた。

 「これに着替えてください。きちんとした服装でないと王様としてどうかと思いますよ」

 80年代のバブリーな雰囲気が漂う服だ。青一色に統一されたデザインに、白いひらひらが袖についていて、服のいたるところにラメが散りばめられている輝かしい服だ。ダサい。

 個人的に気に入らないが、ラピュアが持ってきてくれたんだ。断ることはできない。

 「ああ。ありがとう」

 僕はその服を受け取るとさっきまで自分が来ていた服を脱ぎ捨て、その服に着替える。

 派手な服以外にも新しいシャツとパンツも用意されていたのでそちらにも着替えた。

 着替えシーンはラピュアに見せるわけにもいかないので布団の中で着替えた。

 キラキラとした服装に着替え終わろうとしたとき、事件は起きる。

 「ん?なんですかこれ」

 ベッドの下に落ちている紙くずを拾うラピュア。

 その声を聴いてとっさに僕は布団から顔を出す。

 彼女が手にしようとしているそれは、もしかして僕の…。

 そんなはずはない。昨日確かに自分で処理したはずだ。

 「僕が捨てるから!置いといて!」

 「いえいえ、私が捨てますよ」

 ニコッと笑いながらその紙くずを大切そうに拾い上げ、両手で包み込むラピュア。

 ああ…。

 僕は純粋な皇女様を穢してしまった罪悪感に囚われる。

 彼女は知らないようだが、それは万死に値するかもしれない事実だ。

 あの変態女騎士の場合だと僕は間違いなく八つ裂きにされ、町の広場で晒し首にされるだろう。いや、このことを知られても同じ、いやそれ以上のことが…。

 ある意味ラピュアでよかったとは思うが、これはこれで結構キツい。

 その事件はラピュアが何も気づかないまま、紙くずをゴミ箱に入れたことで収束した…のか?

 これは僕の罪の一つとして墓まで持っていく話の一つになりそうだ。

 僕はクソダサい服に着替え終わったので布団から出た。衣装のお披露目だ。

 「すっごく似合ってますわ!トモヤ!」

 「そ、そうかな?」

 彼女が言うなら間違いはないんだろう。僕はこの国にきて間もないからファッションの流行には乏しい。現地の女の子が言うんだ。間違いなく似合ってるのだろう。

 僕的にはすごくダサいが、似合ってると言われて悪い気はしなかった。

 「それと、トモヤの服は私が持っていきますね」

 「ありがとう、で、僕はどこへ行けばいい?」

 「とりあえず昨晩の謁見の間まで行ってください。お父様たちが打ち合わせをしているはずですから」

 「OK」

 僕は昨日来た道を戻るが、無駄に広い城内は僕を迷わせる。

 途中にいたメイドさんに道を聞いて謁見の間に何とかたどり着くことができた。

 この服のことについてメイドさんに笑われた気がしたが勘違いだろう。

 僕は謁見の間の扉をノックした。

 「小川智也です」

 「入りたまえ」

 皇帝の入室許可を得たため、僕は大きな扉を開けた。


  *

 「この服、トモヤが脱いだばかりの服…」

 私はトモヤを起こしに来て、洋服を持ってきただけ。

 それ以上のことなんかしていない。

 しいて言うなら、梅おにぎりと書かれた紙をごみ箱に捨ててもいるのだが。

 でも、今はこの部屋には私一人。

 「少しくらい、いいですよね」

 クンクン。

 目の前にあったトモヤの脱いだばかりの黒いシャツの匂いを嗅ぐ。

 「トモヤの香り、ふぅ…!」

 シャツの下にあったトモヤの、パ、パパパパンツが目に留まる。

 「は、はしたないですわ、私ったら」

 自分のはしたなさに恥ずかしさを覚える。

 こんなところをトモヤに見られたらどう思われるでしょうか。

 こんな私だと嫌われてしまうかもしれない。

 「駄目駄目、私はトモヤの洋服を運ぶという使命があるんですから!」

 っということは、この目の前の白いパンツに触れなければならないということだ。

 殿方のパ、パンツなど触ったことがありませんのに。

 目の前のパンツを前に、私には恐怖心と好奇心の二つがあった。

 だが勝ったのは好奇心のほうだった。

 「す、少しだけ。」

 トモヤの脱ぎたてほやほやパンツを人差し指と親指で挟んで持ち上げる。

 「ほ、ほぇ~」

 力が抜けた声が私の口から洩れる。

 頭上にパンツを持ち上げては色々な方向に回してみてみる。

 …っといけませんわ!仕事をしなければ!

 トモヤのシャツとパンツを何とか乗り越えた私は、それらを畳んで、ベッドの端に寄せた。

 あとはこれと、乱雑に部屋の隅に寄せられていた昨日までトモヤが着ていたコートとズボンを持っていくだけである。

 そこで私はよからぬことを思いついてしまった。

 自分でも駄目だとわかっているのに。さっきから謎の好奇心が止まらない。

 「…」

 無言で私は自分の服を脱ぎ、パンツとブラだけの状態になる。

 そして、その上からトモヤの脱ぎたてのTシャツを着て、トモヤのズボンをはいた。

 私ったら変態だ…。でも我慢できない。なんなんだろうこの気持ち…。

 感じたことがない気持ちに私は飲み込まれていた。

 その上からトモヤのコートを羽織り、帽子をかぶる。

 そして鏡台のほうへ向かって今の自分の姿を見る。

 「トモヤの香りに包まれて私…どうにかなってしまいました…」

 自分でも何が何だかわからない。普段の私ならあり得ないことだ。

 私ってなんだっけ、普段どんなだっけ。

 もうどうだっていいや。

 今が幸せな気分でたまらなかった。

 そんな時だった。

 トントン

 「キャッ」

 ズテン!

 突然のノックの音に驚き、足元の智也のパンツを踏んでしまい、転んでしまった。

 この状況はまずい、早くなんとかしないと!

 「その声は皇女様!まさかその男になななな何かされたのでは!」

 といいながらアイリアが扉を勢いよく開けて部屋に乗り込んできた。

 「おい、貴様!皇女様に何を………って!…皇女様!どうしてそんな恰好を!」

 終わった。何もかもが終わった。

 見られてしまった。

 アイリアにはこれからずっと私が変態だと認識されるだろう。

 一方アイリアのほうも気まずそうな顔をしてこちらを見てくる。

 一体…どうしたらいいの?

 とにかくこの空気を打開しなければ。

 「ど、どうしてアイリアがここに」

 とっさの判断でアイリアへ逆に問いを投げかける。

 「そ、それはっ…それよりあの男はどこに隠れているのです?そこのタンスですか?」

 「ト、トモヤならもうお父様のところへ行ってしまいましたわ」

 「そうですか。ならいいんですがね、」

 アイリアがこちらを光がともっていない目でこちらを見てくる。怖いよ!

 「な、なんですか、ジロジロ見て…」

 「あの男にされたのですね、わかります」

 こちらをまっすぐ向きながらアイリアが私の代わりに言い訳を考えてくれる。

 イヤァ、私の前でそんな顔しないで!お願い!

 このままではトモヤのせいになって、アイリアにいじめられてしまう。

 そして、このことがトモヤの耳に入ってしまう。

 これだけは避けないと。

 「ち、違うの!トモヤの服を、その、洗わないといけないかなって、そう!点検してたの!」

 「わざわざ着なくてもできるじゃないですかー」

 目がいつもの私に向ける目じゃない!どうすれば…

 「本当は、あの男に何かされたのでしょう?」

 顔をぐいぐい近づけてくる、怖い怖い。

 これは誘導尋問だ。どうしてもトモヤのせいにしたいみたい。

 「と、トモヤは悪くない!いくらアイリアでも、あの方の侮辱はそれくらいにしないと…」

 「とてもあの男の事にご執心ですがぁ、あの男のどこが気に入ったのですかねぇ?」

 すごい口調になってきた、怖いよ!

 「わ、私は!ただ!トモヤが王になるお方なので!」

 「ふぅん」

 納得したのかアイリアが顔をひっこめる。

 「変な男を引かないでくださいね、そうなればあの者は我が国の恥になりますので」

 そう言うとアイリアは部屋から出て行った。

 な、何とか大事にならずに済んだが、アイリアに私が変態だというところを見られてしまったことには変わらない。いつか脅しの材料にされるなんてことも…。ヒィィィ。

 すっかり気分が冷めきった私は元の服に着替えなおし、トモヤの服を洗濯室へと持って行くために部屋を後にした。


 *

 僕は謁見の間に入ると、王室の机っぽいものの周りに、折りたたみ椅子が何個か置かれていた。

 それにしても空席が目立つな。昨日見た大臣と、皇帝しかそこにはいなかった。

 「いやぁ、待ってたよ。今日の主賓は君だからね。君までサボられると私もお手上げさ」

 舌を出しながらはにかむ皇帝。皇帝というワードがほんと似合わないなこの人。

 「本当はもっと会議に役員は来るはずだったんだけどね、来れれば来てほしいと書面に書いて送ったはずなんだが、だれ一人現れなくて困っていたんだよ」

 大臣が困り果てた顔でこう言う。ツッコませてもらっていいかな?

 「その書面僕にも来ていたら行きませんでしたよ。『来れれば』だと行きたくない人は来ないでしょう」

 それにしてもこの空席は多すぎる。僕ら3人分を除いて、5席も空席があるぞ。

 この国の国家はどうなってんだ。

 「次からは『予定を開けておいてほしい』と送るかな」

 「それ、わざと予定入れられる気が」

 この国の男のさぼり癖は聞いたことがある。

 確か、この国の働く人間のほとんどは女性で、最近の男性は家でぐーたらしているのが普通だとか。昔はそうでもなかったらしいのだが、文明の発展とかで態勢が変化したらしい。

 実際、この間の兵士の7割が女性だったという。

 去年の流行語大賞が「働いたらそこで試合終了」だとか、一昨年のが「楽しい怠惰の極め方」というベストセラー本のタイトルだったと聞く。どうなってんだこの国は。

 『男が働かない国、オリハルカ』というスローガンで観光業界も売り出す始末である。

 「まぁ、トモヤ殿もいらしたことですし、予定通り打ち合わせと行きましょう」

 大臣が話を切り出した。

 「今日の予定について、この紙面をご覧いただきたい」

 僕と王様にwordっぽいもので作られた計画表が手渡される。

 そんな技術まであるのか。まぁレールガン作れる皇女様がいるほどだしな。

 その計画表には今日のスケジュールがびっしり書かれていた。

 「な、なんだこれは」

 当然といえば当然なのだが、僕の街頭演説というものがある。

 無理だから無理だから!原稿なんて書いてないし、そもそもいきなり演説だなんて言われても。僕の街頭演説の持ち時間は30分間。ずっとこの間僕はしゃべり続けなければならないのか。ゴーストライターとかいないのかな?

 「あの、この演説ですが、原稿とかは」

 「原稿?何を言ってるんだね、君が話したいことを話すんだ。君のnice heart.ならきっとできるさ」

 「ナイスハートって…」

 僕は苦笑いするしかなかった。

 無理難題を突然押し付けられてしまうとは。王様やめよっかな。

 「まぁその件に関しては私が何とか用意しておきましょう」

 大臣はそう言うが不安で仕方ない。大臣は近くの兵士に何か耳打ちをしていた。

 その次の項に、真っ赤な誓いと書いてあったが熱くなってしまう前に読み飛ばす。

 3項目には、エアーマn・・・。この計画書には問題がある。

 大臣が突っ込んでほしそうにニコニコしながらこちらを見ている。

 ツッコみますか?


  はい 

  いいえ


 迷う必要なく、安定のスルー。

 まずなんで弾幕ソングなんだよっていうのと、なぜこの曲知ってんだよという疑問ができたが、触れてはめんどくさそうなのでスルーを決めることにした。

 で、4項目を見る。

  パレード。

  心配していたが、少しはまともな内容だったので大臣に聞くことにする。

  「あの、このパレーd」

  「真っ赤な誓いはだな」

  ツッコんでほしすぎだろこの大臣。国務でふざけるとか、どうかしてんぞこの国。

  一方皇帝は僕の方を見てニヤニヤしている。

  こっち見んな。

  「ああ、そっちかね、てっきり2項目の質問が来るものかと」

  「ははっ」

  やはり意図的だったか。苦笑いでやり過ごす。

  この手の人間は相手にすると面倒だ、必要最低限のことだけを聞こう。

  「このパレードですが、具体的に何をするんですか」

  「これは城下町を花車に乗って一周する企画だ。国民と近しい存在になって信頼を勝ち取るのだ。智也君、君はただ手を振っているだけでいい」

  普通の内容か。めでたしめでたし。

  僕はてっきりパレードで何かさせられるのかと思ったが、手を振っているだけでよさそうだ。

  「これで君も国も一石二鳥!君は晴れて王様デビュー!国としても新しい王の誕生に万歳というわけだ!勝ったながっはっは!」

  「「がっはっは!「(はぁ?)」」」

  おっと口が滑って悪印象を与えそうだった。

  まぁわざと被せたんだけど。

  というかこの場に何しに来たんだよ。終わってないのに打ち上げ気分かよ。

  この国のお偉いさんはお調子者が多いのかな?こんなんで大丈夫か?

  「…それで、パレードの進路ですが」

  大臣はごそごそとプリントの束をあさり、一枚の紙を手渡してきた。

  この城下町の大まかなマップだ。

  昨日(まぁ日付は今日なんだが)回った場所を見つけるが、行動範囲は城下町の1/6ほどでしかなかった。結構歩いたつもりなんだがなぁ。

  マップをしげしげと眺めていると、大臣が明るい顔でこう言ってきた。

  「城下町、広いでしょう?東京ドーム10万個分くらいの大きさがあるんですよ」

  「はぁ……………………………………はぁ?」

  自然と言われたので気づかなかったが、なぜ異世界人のコイツ、いやいや、大臣が東京ドームを知っている。さっきから日本のネタ出しすぎだろ。

  「はぁ、あまりツッコみたくなかったですけど、何故あなたは僕の世界のことを知っているんですか?」

  異世界人が僕の世界を知っているはずがない。ましてや普通の一国の大臣だぞ。

  「ふふ、よくぞ聞いてくれましたね!私実はね、日本人の子孫なんですよ!」

  大臣が自慢げにそう答える。

  いや、確かにすごいけど、そんな風に自慢げに言われると逆に構いたくなくなるよ。

  「そうなんですね。それではパレードのはn」

  「大臣のノリオ君はね、商人の家系なんだ。私の10代程前の祖先の時代から仲良くさせてもらっていてね、その日本という国の科学技術あってのこの国の今があるんだよ」

  皇帝が予想外に僕の邪魔をしてきた。でも、まぁ、悪い情報じゃないし?聞いてあげてもいいかな。べ、別に大臣のためなんかじゃないんだからね!

  というか10代ほど前でなんで弾幕ソング知ってるんだよっていう。

  「うちの初代がね、日本という国からやってきてこの国の王様をしていたんだよ」

  「ちょっと待ってください、王様って昔からあったのですか?」

  突然の重要ワードに僕の耳が大きく傾く。

  こういう大事な事は聞き損ねないようにしないとイベントが進行しなかったりしそう。

  「おや、ラピュアに聞いていなかったのかね。この国の王様制度はこの国ができた時から、いや、その前からあったというべきか」

  「神様の選抜戦ですからね。この世界ができた時からあるといっても過言ではないでしょう」

  「この国、いや世界はね、王様を日本という他の世界から迎えて、その中で最後に残った人を神にするというルールの上で成り立っているんだ」

  皇帝と大臣が交互に説明してくれる。もはやNPCだ。

  僕はこのおっさんたちの会話を熱心に聞く態勢になる。

  え?式典?そんなものどうでもいいじゃない。

  「この王同士の戦いは昔からあるのですか?」

  「うむ。ある時は王が他の王全てを殺害したり、ある時はすべての王が相討ちになり神がいなくなったこともあったという。」

  神がいないっていいのかよそれ。というか僕はこんな悲惨な戦いに巻き込まれていたのか。死にたくない死にたくない死にたくない。これならまだあの幼女の声を聴き続けたほうが…いやいや、僕はあの世界には未練はないんだ。

  「まぁ、記録ではほとんどの場合王様は一人しか残っていませんしね」

  「殺し合いだよ、殺し合い」

  皇帝が平然とこういうことを言ってのける。普通の口調でこう言われると逆に鳥肌が立ってくる。

  「私の家系の初代も戦死していますし」

  「それはご愁傷さまです」

  「私もあったことないのでどんな人かはわからないですが、すごい能力を持っていたとか。それでも伝説の勇者に敗れたみたいですし」

  「なんと、お主の初代は伝説の勇者と同じ代とな!」

  「そうなんですよ、初代が殺された仇ですが、伝説の勇者ですしね!伝説の勇者に殺された王の子孫として鼻が高いのですよ!がっはっは!」

  「「がっはっは!」」

  自分の祖先だろ。少しは労わってやれよ…。

  「伝説の勇者に殺された王の子孫か!見直したぞ、大臣」

  「私も先日書物を整理していたところこの資料が出てきたため相当驚きましたよ」

  「「がっはっは!」」

  勝手に話が進んでいく。おい僕も混ぜろ、この世界でもぼっちは嫌だ。

  「あの、伝説の勇者って?」

  「そうか、お主は知らないんだったな。おそらくこの世界に伝わる最強の王にして、神の座を捨てた者のことだ。名前などは残っていないが日本人であろう」

  「伝説の勇者は国民の中でも人気の歴史上の人物なんです。120ページの教科書に13ページにわたって書き綴られるほどです」

  すごさが具体的でわかりやすいというか、わかりにくいというか。

  「この世界で何度も映画化やアニメ化がされておる。小説やコミックもあるぞよ」

  なんだそのコミカライズ展開。異世界ものかよ。あ、ここでは時代劇になるのか。

  「伝説の勇者はよく会話で使われたものです。私なんか子供の時に悪いことをすると、伝説の勇者から天罰が当たるぞとよく脅されてきたものです」

  なにそれ勇者は神様やらなかったんじゃないの。

  「伝説の勇者はさぞかしかっこよかろうなぁ」

  「うんうん」

  大臣と皇帝が勇者トークをして盛り上がる。

  昭和のおっさんの仮面ライダートークかよ。

  「勇者か、まぁ勇者というと他の国では王のことを勇者として迎える国もありますし」

  「ああ、ガレフランド王国のことか」

  「あそこはいいですよぉ、勇者の国として観光業で売り出せますし」

  「うちなんて『男が働かない国』だからな」

  「「がっはっはっはっは!」」

  僕もそのガレフランドって国に転生したかったな。いやいや、それじゃあラピュアと出会えてなかったし敵同士になるのか。それは嫌だ。タツマキエール君で瞬殺されそう。

  「あの、伝説の勇者もガレフランドの勇者なんですか?」

  「うむ。うちの王は今まで何の成果も残さなかったからな」

  何気にひどい!お国のために死んだんだろ?そりゃないんじゃないのか。

  「そりゃないd」

  「智也様には期待していますぞ」

  そりゃないだろうと抗議しようとした刹那、大臣がこちらに笑いかけてきた。

  僕もそんな風に死ぬのか。嫌だ。僕は死にたくない。王なんかやりたくない!だがもう後戻りできない。王の式典の準備が進められる中、「あの、王やめます」だなんて言えるはずがない。少しは成果を残してからにでも。

  「そうだそうだ。うちには智也という無敗の強者がおるのだ。負けるはずがなかろう」

  毎回王が言われてそうなセリフだな。それに無敗と言えるのは戦ったことないうちだけだぞ。

  「日本の若者には期待してますぞ、まぁ王は全部日本人ですが。」

  「40年ほど前の前回の戦争ではうちの王が最後まで残ったが、最後にやられてしまったのだったな、今回はそれ以来の戦争じゃ」

  戦争って40年周期なのか?それとも何か引き金があるとか?

  「その者の話は興味深いものでしたよ。色々とわが祖国のことも聞けましたしな。」

  「機会があれば智也殿も今の日本のことを教えてください」

  「は、はぁ」

  だから弾幕のこととか知っていたのか…。ん?待てよ?時間が合わない。

  弾幕ソングだって40年前には存在すらしていない。どういうことだ?

  「あの、戦争って40年周期なんですか?」

  「それは私にもわからんよ、伝承によれば神が死んだら次の神の選抜が行われるとか」

  「神は死んだ。……って、神が死んでもいいんですか!」

  「寿命だったんだろう」

  「寿命ですねぇ」

  そんなのアリかよ。コロッと死ぬ神様なんか聞いたこともないぞ、おい!

  普通不老不死とかそういった特性がついてるでしょ!

  とにかくこの会話にはツッコミ所が多すぎる、正直僕だけじゃついていけない。

  もう一人日本人のまともな人がほしい!通訳的な。

  僕がため息をつこうとした刹那、皇帝がボケる。

  「さぁ ゆけ、 王よ こくみんが そなたの おとずれを まっておるぞ」

  「レトロRPG風に言うなよ!」

  ついついガチで突っ込んでしまった。

  「さぁ、その意気だ。もうそろそろ時間だぞ、さて、私も準備に行くとしよう」

  皇帝は折りたたみ椅子をたたむと、すぐそこで立っていた兵士に手渡し、玉座の裏を調べる。

  なんと 玉座の裏から 階段が現れた!

  皇帝はその階段を下りていき、完全に姿を消した。

  無駄にRPGっぽい演出をするな。僕は心の中でそうツッコんでいた。

  「では、私も下準備がありますので」

  大臣は普通に玉座の間から扉を開けて出て行った。

  「それにしてもそなたがあの代の王の子孫だとは」

  「私も驚きでした」

  「「がっはっは!」」

  外から皇帝と大臣の会話が聞こえた。

  地下の秘密の部屋じゃねぇのかよ!どっから出てきてんだよ!

  もうそろそろツッコミ疲れてきた。

  部屋にかかっていた時計を見ると部屋に入ってから30分がたっていた。

  今の時間は9時30分くらいで、街頭演説が10時からだ。ちなみにパレードは12時からだった。

  さて、僕も行くか。気づくとさっきまであった式典への緊張はほとんどなくなっていた。

  皇帝と大臣が僕の緊張をほぐしてくれていたのだ。

  言いたいことはいろいろあるが、わかったことはあのおじさん達は僕を気遣っていてくれていたことだ。異世界でたった一人の僕をローカルトークで和ませて?くれたりと、大臣もいいところがあるじゃないか。だが僕はあの世界は嫌いだ。残念だな!

  「智也様、こちらでございます」

  そばにいた従者らしき女の人が話しかけてきた。

  僕は彼女の案内に続いて城内を移動する。

  広いなぁ(小並感)

  しばらく歩くと、城の外に出た。芝生一面の庭という感じの場所に、きれいに装飾された選挙カーが置いてあった。きっと後にパレードで僕が乗ることになりそうな車両だ。その周りには打ち合わせをしている兵士たちがいて、警備状況などを確認しあっていた。

  そっか、僕が守られるのか。僕は自分の立場について改めて考え直す。僕は王になる。つまりこの国のお偉いさんになるということだ。そこにいる兵士たちも僕の部下になる。僕なら馬の骨とも知らない人間がいきなり自分の上司になるなんて嫌だ。だが兵士たちは僕のために一生懸命働いていた。

  「3地区の警備状況、良好です」

  「よし、4地区の状況は」

  「こちらも良好、全員配置につきました」

  おやおや、あそこで指揮を執っているのはアイリアたんじゃないですかぁ。

  なんだかんだ僕に文句を言っていたアイリアたんもきちんと働いてくれている。

  僕はうれしいぞ!

  「ぶっ」

  アイリアたんがこちらに気付いたと思った途端に突然吹き出した。

  なんだ?僕の顔に何かついてるか?

  「おま、その服wwwwww」

  わかってたよ!もうこの服嫌い!

  アイリアたんが腹を抱えて笑っていると、つられて周りの兵士たちまで僕を見て笑いだした。おい、さっきまでの僕の感心を返せ!

  「ぶっ…こちらの準備はすでに整ってある。お前はさっさと自分の持ち場へ就け」

  「へいへい」

  適当に手を挙げてその場を離れた。畜生あの野郎。

  僕は裸の王様の気分に浸っていた。まるで僕がバカみたいじゃないか!

  裸じゃないだけマシだが。

  僕はスピーチをする現場へと向かうため、従者の女の人の後ろに再びついていく。

  さっきの所から少し離れた所で、従者の女の人は歩きながらこう言った。

  「そのお洋服は皇女様自ら選びなすったのよ」

  すんごい服のセンス悪いな。まさか僕はハメられたのか?あのラピュアに?

  彼女に限ってそんなことはないだろう。ヒロインの料理がすんごい下手なのと同じ感じだきっと。

  「昨日の夜遅く、一生懸命城にある服の中から選んでらっしゃいました」

  …。ラピュアのセンスが悪いな。努力は認めるが、これはだめだ。いつもの服に着替えなおしたい。しかしあれはラピュアが今頃持って行ってしまっている頃だろう。それに、ラピュアがせっかく選んでくれたということもあって、躊躇してしまった。

  「そのお洋服、お似合いですよ………くすっ」

  笑いやがった!笑いやがったぞこの従者!

  僕はため息をつく。

  もういいや、笑いたければ笑えばいい!ははっ

  「こちらが会場です」

  大きなステージの前で僕らは足を止めた。でっけぇ。

  僕のために立派なステージが用意されていた。アーティストのサマーライブのようなステージだ。しっかりした舞台にはマイクスタンドが用意されており、舞台袖には大きめのスピーカーが両サイドに設置されている。まるでコンサート会場だ。

  もう聴衆が舞台の前に場所取りを開始していた。僕って人気だな。このままアイドル路線狙えるんじゃないのか?

  「智也様は三番目の出演ですね」

  「え、僕の他に誰かやるの?」

  「はい、この国のアイドルがこのステージに出演します。智也様は普通にスピーチで構いません」

  あれ、僕がおまけみたいになってる?僕のスピーチはアイドルの演目の次?はぁ??

  「僕の戴冠式じゃないのか」

  「いえ、陛下が独断で元々あったこのイベントに無理やりねじ込んだとか」

  「何考えてんだあのおっさんは!」

  あのサングラスめ、僕をハメやがったな!

  何がスピーチだ。こんなのやってられるか!

  僕は会場を後にしようと背を向けるが、目の前にサングラスの黒スーツの大男が現れる。

  「おっと」

  僕の進行方向に立ちふさがる黒スーツ。

  よし、右に迂回しよう。

  「おっと」

  僕の動きに合わせて右にずれる男。

  今度は左だ。

  「おっと」

  はぁ??????

  こいつは僕を見逃す気はないようだ。ふっ、ここで僕の能力が火を噴くぜ。

  「悪いね、僕は能力者なんで」

  僕は能力を使用した。

  黒スーツ男をすり抜け、僕は颯爽と会場を後にする。はずだった。

  「おっと」

  黒スーツとぶつかってそのまま尻もちをついてしまった。こんなはずは…。

  「そろそろ開幕のお時間です。舞台へお戻りください」

  「あ、ああ」

  渋々僕は会場へと戻っていった。

  舞台袖に戻ると、司会の聞き慣れた声が耳に入る。

  「続いてエントリー№2番!ノースリーハートさんです!どうぞ~」

  あれ、司会ラピュアじゃね?皇族ってこんなことまでやってんのか。

  ラピュアは僕と反対側の舞台袖近くの審査員席のような場所に座っていた。

  僕のいるのと反対側の舞台袖から3人のアイドル衣装を着たアイドルが登場する。

  「「「どうも~!!ノースリーハートで~す!」」」

  『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

  会場が熱気に包まれる。すごい人気だ。

  「今日はぁ、このイベントに呼んでいただき、ありがとうございま~す!」

  一人がこう言うと、会場の観客のほうへ3人は頭を何度も下げだした。

  理想的なアイドルだ。会場から自然と大きな拍手が生まれる。

  パチパチパチパチ(拍手の音)

  「私たち!この日のために精一杯!練習してきました!」

  おい、こんな場所に僕は必要ないよな?この日のためって、僕何の努力もしてないんだが。一緒のステージに立つってどういう…。

  「私たちの歌!聞いて行ってくれるかな?」

  『いいともぉぉぉぉぉぉぉ!』

  どっかで聞いたことがあるが、これがこのアイドルのやり方なら文句はない。

  「じゃあ!一曲目!サンシャイントラブル!いってみよー!」


  予定にあった全ての曲が終わると、僕はいつしか彼女らのファンと化していた。

  舞台袖という特等席から彼女らを眺めるという貴重な体験ができた。三次元アイドルなんか今まで信仰したことはなかったが、特別なつながりがあると好きになってしまうというのが男のサガだ。班活動で同じ班になった女の子といい感じになったと勘違いして、あれ、こいつ僕のこと好きなんじゃね。と思って告白してみたが、他に好きな人がいるといわれて振られたりする感じじゃね。ソースは僕。

  だが、ここは異世界!現実の話が通用するわけじゃない!

  彼女たちの実力は本物だ。僕のいた世界、いやそれ以上のアイドルだ。(僕調べ。)

  会場の合いの手も高クオリティで、ステージと客席の空気がが一体と化していた。

  3人それぞれキャラがあって素晴らしいアイドルだ。それにかわいい。

  「みんな、ありがと~!!っと。ここで重大ニュース!」

  会場がざわめきだす。

  ざわ・・・ざわ・・・・ざわ・・・。

  「私たちの3rdシングル!君と僕と木陰の恋が発売されます!」

  『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

  「うおおおおおおおおおお」

  今のは僕だ。気にするな。

  「え?どんな曲って?聞きたい?」

  アイドルの一人が観客へとマイクを傾ける。決まってんだろ。

  『聞きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃい!!!!』

  「いいともぉぉぉ」

  あ、違ったか。

  「それじゃ!新曲初披露!世界最速超スピードで!ゆっくり聞いていってね!」

  「僕と君と木陰の恋!」


  おとなしめの恋愛ソングだった。聞いてて僕の疲れなどは一気に吹き飛んだ。

  どうやら新曲だったらしく、合いの手などがないため、観客たちは静かに彼女たちを見守っていた。

  曲が終わると、観客席が再び歓声に包まれる。

  『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』

  「みんなー!どうだったかな?この新曲は、13月21日発売!」

  「お求めは全国のCDショップで!」

  しっかり売り込みまでしてる。さすがプロだ。

  ん?????????13月?なんだそりゃ。

  そういえば日付なんて気にしたことがなかった。盲点だった。

  これから僕の新王記念とかいう祝日に指定される日くらい覚えておかなければ。あるか知らんけど。

  「それでは、お別れの時間が来ちゃったみたいなので、悲しいけど、」

  「まったねぇ~!!!!」

  『うおおおおおおおおおおおおおおおお』

  「うおおおおおおおお」

  アイドルが撤退しに向かったのはこちら側だった。

  うお!近づいてくる!さ、サインサイン。

  突然のことすぎてペンなんか持ち歩いていない。

  ああ、しまった。日頃から準備していれば…。

  舞台袖に入ってきたアイドルたちはスタッフたちに「お疲れ様です!」と声をかけて回った。それを見てラピュアを思い出す。人に好かれるってこういうことなんだ。このアイドルも、ラピュアも。

  「次の出演者さんですよね?がんばってください!」

  突然ツインテのアイドルに声をかけられ、驚いてしまう。

  「は、はいっ、がんばりますっ」

  か、かわぇぇ。

  やばいやばい興奮が冷めない、次僕の出番なのに。

  スタッフから僕にマイクが手渡される。手汗がやばい。

  「えっと、えっ!」

  司会のマイクを通しての驚きの声が聞こえる。ラピュアも知らなかったっぽいぞ。

  すごい焦りが見えるが、焦っているのは僕のほうも同じだ。

  「え、エントリー№3番、小川智也新王です、どうぞ…」

  僕の出番が来てしまった。会場は静まり返っている。

  客席からは、

  「こんなプログラムあったか?」

  「突然ねじ込まれたらしいぞ」

  「いったん帰って飯食おうかな」

  「変な名前だな」

  ごもっともだと思います。

  さぁ、スピーチを始めようか。

  僕は芸人のような足取りで客席を見ながらステージ中央へと小走りで向かう。

  「ど、ど~も~」フォオオオオオオオオオオオオン!!

  マイクのハウリングが起こり、会場に迷惑をかけてしまった。

  「うっせぇ!」

  「なんなんだあいつ」

  会場から怒りの声が聞こえる。

  「僕が、この国の王様になる、小川智也です。今日、ここには挨拶のつもりで来ました」

  会場中がざわめく。

  ざわ・・・ざわ・・・ざわ・・・。

  「あいつの服装ダサくね?」

  「古いっつーか、なんというか」

  「王様ダサすぎワロタ」

  僕の服装への批評が聞こえる。これは計算通りだったが、近くにラピュアがいるという予想外の事態が発生している。ラピュアに聞こえていなければいいのだが、ラピュアも聞こえているような、落ち込んでいる素振りだった。くっ…。とりあえず話を続けなければ。

  「この場をお借りしてお話させていただきます、僕は日本という国から来ました」

  会場が再び静まり返る。どうやら話を聞く態勢になったようだ。

  「僕は地形無視という能力が宿っています。例えば…」

  成功するかわからないが、元からひびが入っている瓦を用意してもらっていた。

  大臣がなんとかすると言っていたのはこのことだったらしい。

  僕の能力が成功すると瓦を透過できるよ!と見せることができる。失敗しても瓦割りというパフォーマンスで場の空気はなんとかなるという魂胆らしい。うまいこと考えたな。

  僕はマイクを片手に、瓦を片手で持ち上げ、

  「ここに何の変哲もない瓦があります…あっ」

  ガシャーン。

  瓦は僕の手から滑り落ち、ステージに落ちて割れてしまった。

  やってしまった。これで僕の頼みの綱はなくなったわけだ。

  仕方ない、僕の特技の一つ、言い訳をするか。

  「ほ、ほらこの通り!瓦が僕の手を透けて地面へと落ちたのです!」

  パチパチパチパチ(拍手の音)

  な、何とか乗り切った。ステージの端に立っている司会のラピュアもほっとしたように一息つく。

  「まぁ、こんな感じの能力ですが、工夫次第でお国の役には立てると思います」

  「今回の王は地味だな」

  「下水道工事に使えそう」

  「もっと火を噴いたりする能力がいいよな」

  悪かったな。客席から僕を評価(主に批評)する声がいくつか聞こえた。

  「僕がここに立てているのは、あそこにおられる皇女様のおかげなのです」

  「!!!!!!!!」

  ラピュアがビクつく。え、私?っと言わんばかりの顔をしている。

  国民を味方につけるならラピュアと友達アピールをすればいい。そう思った。所謂虎の威を借る狐みたいな理論だ。

  「えっと、わ、私は…」

  マイクをスタッフから差し出されるラピュア。嫌がっているが僕のスピーチの予定時間は長すぎる。トークショーの相方になってもらおう。

  「皇女様は、何かお好きな食べ物はおありですか?」

  簡単な質問をする。

  「そ、そうですね、シチューが好きですね…」

  「へぇ、僕はシチューならビーフシチューですね」

  「ビーフシチューですか、いいですね」

  …

  ……

  ………。

  トークが続かない!

  「今日はいい天気ですね」

  「そ、そうですね、雲一つなくて素晴らしい日だと思います」

  …

  ……

  ………。

  定番のミスを犯してしまった。これはラピュアにも悪い。

  ならこれはどうだ。

  「皇女様は、僕の世界の話を聞きたいとおっしゃっていましたね。よければここで皆さんにも聞いていただきたいと思います」

  僕のつまらないトークが火を噴くぜ!

  「僕は普通の家庭に生まれ、普通に育ってきました」

  やばい、話すことが見当たらない。僕の人生に変わったことなんて何一つなかった。今を除けば。第一、この世界で不思議と思われること自体知らない。見る限りこの世界のほうが文明が上じゃないかと思う。

  ここは僕の失敗談ストーリーで乗り切るしかないか。

  「ここで僕の体験談をお話ししましょう。僕の通っていた小学校には図工という授業がありました」

  「図工?なんですかそれ」

  ラピュアが話に突っ込んでくれる。思いもよらないところで尺が取れそうだ。

  スタッフが気を聞かせて僕らに椅子を持ってきてくれた。

  僕らはその椅子に腰かけて会話を再開した。

  「図工は、粘土で形を作ったり、絵を描いたりと。芸術センスを磨く授業です。美術の授業の簡易版のようなものです」

  「その美術の授業って?」

  そこからか。

  「主に絵を描く授業ですかね。中学生からは図工がなくなって美術になるんです」

  「図工と美術ってどう違うんですか」

  「そうだね、美術は絵を描いてばかりの特化した授業。他にも版画とかはやった覚えがあるね。図工は絵の他に粘土やちょっとした工作をしたかな。」

  「へぇ、私もそんな授業を受けてみたいですね。私の場合はずっと皇室で専門の先生から皇室の決まりなどしか教わっていませんからね。学問なんか全然わかりませんよ」

  あんな破壊兵器を発明した本人が何言ってんだ。

  だが、トークショーらしくなってきた。もはやスピーチではない。

  「でも、皇女様はいろいろな物をお作りになっているんでしょう?」

  「はい、それは私の独学で作らせてもらっています。最初は父に反対されていたんですけどね、昔はよくこっそりとお城を抜け出して本を買いに行ったものです」

  『ははははははは』(聴衆の笑い声)

  会場が和やかな笑いに包まれる。見たか!これが皇女様パワーだ。

  「はははっ、お父上はそのあと認めてくれたんですか?」

  「ええ、あんな父ですもの。本気でやりたいって言えばやらせてくれるようになりました」

  『ははははははは』(聴衆の笑い声)

  よし、いいぞこのままトークショーと行こうじゃないか!

  「お父上といえば、変わったお方ですよね、僕も初めて会ったときはびっくりしました。皇帝ってあんなイメージじゃないですよね?」

  『ははははははは』(聴衆の笑い声)

  僕にも笑いが起きるようになってきた。ふっ、こんなの朝飯前さ。

  「確かに父は変な部分がありますよね。見ていて面白いし、みんなを笑顔にしてくれるいいお父様です。私のおじいさまに当たるお方ですが、その方は結構厳しめのザ・皇帝って感じのお方だったんですね。父とは大違いですよ。いえ、父が大違いなんですね」

  『ははははははははは』(聴衆の笑い声)

  「いやぁ、素敵なお方でしたよ。この式典に臨む前の僕の緊張をほぐしてくれたんです」

  「へぇ、お父様がそんなことを」

  「大臣さんも面白いお方でした」

  「あの方は昔から私と妹の教育係もしてくださってたんですよ」

  「えっ、妹いるの!?」

  超初耳。素の反応をしてしまった。民衆の前でこれは失礼にあたるんじゃないのか。

  少し汗ばむが、心配していたことは起こらずにそのまま話が進んだ。

 「ええ。妹は私の魔術研究の影響を受けてグランヴェルン大学へと飛び級で進学しました」

 「飛び級!?それはすごいですね」

 ラピュアの妹のことを想像しているため頭が回らない。どんな子なんだろう。きっとかわいいんだろうなぁ。

 そんなことを考えていると小並感しか言葉に出てこない。

 小並感でトークが終わるなんてことは僕の経験上よくあることだ。こんな簡単なミスを犯してしまうだなんて…。

 「妹は私よりも頭がいいですから。先生からは千年に一度の逸材と言われております」

 「千年に一度。ちなみに千年ってどれくらいの長さですか?」

 13月があるくらいだ聞いておきたい。

 「えっと、今なんと?」

 「千年ってどれくらい長いのですか?」

 「えっと、このくらい?」

 ラピュアが両手を大きく広げる。民衆がそれを見て和やかに笑う。いや、かわいいけども。

 僕としてはリアルな数値的なことを知りたかったんだが。

 「僕、別の世界から来たので時間というものがずれていて」

 「ああ、そういうことでしたか。一年は13か月で出来ています。そして1か月は28日。

 1日の長さは24時間です。ちなみに1時間は60分で、60分は60by」

 「なるほど、僕の世界は1年が12か月で、1か月が30か31日。2月だけは28だったりそうじゃなかったりします。あとは同じかな」

 「トモヤのいた世界とは時間の定義が違うようですね」

 「そうですね、僕も今日初めて13月って聞いて驚いています」

 『はははははは』(聴衆の笑い声)

 当たり前のはずの13月を驚く僕に対しての笑いだろう。たぶん。

 「この世界の1年は28日が13か月分ですから、えっと、364日ですね」

 「僕の世界じゃ一年は365日ですよ」

 「たった一日しか違わないじゃないですか(笑)」

 「ほんとだね」

 「「あははははは」」

 二人して軽く笑う。聴衆も和やかな気分でこちらを見てくれているようだ。

 「トモヤ、話を戻しますが、小学校ってどんな学校なんですか?」

 「あれ、小学校ってこの世界にないんですか?」

 「いえ、私は学校暮らし!じゃなくてお城暮らし!ですから、わかりません」

 僕も学校に行かず自宅で勉強したかった。そんでもって自宅で友達とふれんどしたい。

 「学校は暮らすところじゃないですよ。勉強をするところですね」

 きっとラピュアは学校に行ったことがないんだろう。お城で全部習っていたんだろう。

 「そうなんですか!この国にも学校はあることはあるんですけど、小学校ってのは聞いたことがありませんね~」

 「小学校は5~12歳の6年間通う学校で、12~15が中学校。この二つの学校は義務教育で、行きたくない!とか、起きた瞬間から家帰りたいと思っても法律上行かなくてはならない施設。あとは高校、大学と任意で上がっていく感じですかね。」

 おっとつい本音が。

 「なるほど、そういう意味でしたか。この国は学+校というと魔法学校、傭兵学校、知育学校の三種類があって、歳は8歳から入ることができるんです。」

 「へぇ、魔法学校ってのはどんなことするんですか?」

 一番興味がわいた魔法学校について聞いてみる。

 きっと呪文とか色々習うんだろうなぁ。楽しそう。僕は風の呪文を習って自然にスカート捲りとかしてみたい。

 「えっと、待ってください」

 ラピュアはポケットからどう見てもポケットよりも大きいタブレットのようなものを取り出し、操作を始めた。あのポケット何でも入ってんな。ラピえもんかよ。

 きっとラピえもんはわからないから検索をかけているのだろう。

 「えっと、これでしょうか。そのまま読み上げますね。まほう-がっこう【魔法学校】オリハルカ教育法第二項によって定められた学校の種類の一つ。主に魔術回路の基礎的な知識から応用まで幅広く魔術分野に対応している教育内容になっている。魔術師免許など他4種の免許を取得可能。…と書いてますね。」

 「ありがとうございます」

 わざわざ調べてもらって恐縮です。なんだかまたよそよそしくなったな。

 「ちなみに、私も免許持ってるんですよ。魔術技師免許というんですが」

 「へぇ、皇女様は学校に行ってないと聞いていますが」

 「言ってないですけど、お父様に欲しいって言ったらくれました」

 「えぇ????」

 どんだけ親バカなんだよ。免許とか子供にやるもんじゃないだろ普通。

 聴衆は笑ってるけど大丈夫なのかこれ!

 「ちゃ、ちゃんと勉強はしましたよ!試験も受けましたし!」

 とっさに弁解するラピュア。自分でもやばいと思ったのであろう。横から見ていて汗が出ているのがわかる。

 さすがに今のはあのままだとマズかったか。

 次は僕が助ける番だ。ここは腹をくくって僕の恥ずかしい話を始めよう。

 ラピュアを守るためだ。どうにかしてこの微妙に重い空気をどうにかするぞ。

 「さ、さてぇここで問題!ぼk…」

 「そろそろお時間です!」

 スタッフが僕の言葉を断ち切る。

 「おふ。」

 僕の覚悟やいずこに。

 「さて!新王のトモヤさん、ありがとうございましたー!」

 司会モードに戻るラピュア。僕はここでイベントからサヨナラされた。

 切り替え早すぎ!僕の覚悟は!?ねぇ!

 その場でボーっとしてるとスタッフが傍からやってきて僕を舞台裏に引きずり始める。

 「あんまりだぁぁぁぁぁぁぁ」

 こうして謎のスピーチタイムは幕を閉じたのであった。


 現在10時40分。次のパレードまで1時間20分もある。

 さっきの従者が僕を待っていた。

 「お疲れさまでした。ではお城へと戻りましょうか」

 僕らは元来た道を戻る。

 しかし…さっきのスピーチ、あれでよかったのだろうか。時間は潰せたので問題ないが、スピーチとしてはあまりにも不十分なものではないかと今になって反省しだす。そしてラピュアが問題発言してしまったということ。これも僕がラピュアを巻き込んでしまった過失である。僕が悪い。僕が迷惑をかけてしまった。後で謝らなければ。

 「はぁ」

 僕は一人ため息をつく。憂鬱な気分に浸っている間に城の庭についた。

 「では、私はこれにて」

 従者の女の人はスタスタ早足で城の中へと入っていった。

 暗い顔で庭へと入ると、見慣れた女騎士が声をかけてきた。

 「おい、どうした。まさか失敗でもしたか?」

 「気にしないでくれ。こっちのことだ」

 僕は女騎士を相手にする元気はなかった。今の僕は罪悪感の塊だ。

 「何があったのかは知らんが、お前は次の王なんだろ?王らしくしっかりしろ。慢心せずして何が王か」

 「はぁ、慢心なんかしてる余裕なんてないんだよ」

 僕はすぐそこにあった、座るのにちょうどよいサイズの庭石の上に腰掛ける。

 「スピーチで、ラピュアに迷惑をかけてしまったんだ」

 僕はとっさに目をつむる。

 ―――――――――――――――殴られる!

 僕の本能がそう告げた。

 「お前は、皇女様に、いやラピュア様に迷惑をかけてしまったと。でも、お前はそれをずっと気に病んでいる。私やラピュア様が許すかは別として、お前はもう罰を受けている。お前が気に病むなど、王として、いやお前としてあってはならない。ましてやこんな姿をラピュア様に見せることは私が許さない。常に傲慢であれ。私の師の言葉だ。お前にピッタリな言葉だろ」

 「常に傲慢…か。」

 アイリアたん、それはアンタそのものだろ。

 という突っ込みは置いといて。この励ましは僕のメンタルにクリーンヒットした。

 だいじょうぶだ・・・ ぼくは しょうきに もどった!

 「それは君だろ、アイリアたん」

 「なっ、この期に及んで!」

 「とにかく、ありがとな」

 僕はアイリアたんに笑いかける。

 「ふ、ふんっ、礼には及ばんわ。お前はお前のすべきことをしろ」

 「おう」

 そう言うとアイリアたんはそっぽを向いてそのままどこかへ行ってしまった。

 異世界にきて、こんなんじゃダメだな。異世界に来てまで根暗だと上手くいくはずがない。僕には前の世界での失敗がある。それを生かさないでどうするってんだ!

 僕は自分の頬を二度ほどたたき、立ち上がる。

 「ラピュアに謝ろう。そして、僕は立派な王になるんだ」

 主人公っぽいことをつい言ってしまった自分を恥ずかしく思った。だがこの世界で僕は主人公であるべきだ。僕は特別な存在。その理想を追い求めれば、いずれ…。

 「花車!準備終わりました!」

 「ご苦労!休んでいいぞ!」

 兵士たちの指揮を執っているのはアイリアたん。よく出来たリーダーだな、とうことを僕は彼女から感じ取った。僕もあんな風にできるのだろうか、王として。

 兵士たちはその場で座り込む。そして配給の女の子から手渡されたおにぎりを食べ始めた。

 「午前の活動が終わっても、午後も警備の仕事は残っている。気を抜かずに今日一日やりきるんだ」

 「「「はいっ」」」

 「午後の予定は各自頭に入っているな?」

 「「「はいっ」」」

 「あの、質問なのですが、この第一地区の路地は警備対象でしょうか」

 「そこか、会議でも議題に上がっていたのだがな、そちらに回す手が足りないということで、警備対象から外されたのだ」

 「了解しました。私の部隊に連絡しておきますね」

 「ああ、たのんだ」

 彼女ほどのキャリアウーマンは今まで見たことがなかった。働いているところを見ると彼女がまぶしく思えてくる。まるで、陽の光浴びる一輪の花のようだった。英語で言うと『キュアサンシャイン』。

 彼女はこの世界での僕の目標になった。

 まずは彼女の観察から始めよう。再び庭石に腰を下ろし、おにぎりを頬張って同僚と会話している彼女を見つめる。体のラインを流れるように。

 じ―――っ。

 女騎士っぽい顔立ちに、大きく膨らんだ胸を隠すために見合ったサイズの胸板。腰には剣が備え付けられていて、足を立てて座っている。

 スタイルいいな。地球の女性もこれは見習うべきだよ。

 あ、おにぎり食べ終わったみたいだ。

 じ―――っ。

 しばらく見ているとアイリアたんは立ち上がり、こちらに振り返った。あ、見つかった。

 「何見てんだ!変態!」

 「見てない見てない!」

 とっさに?をついてしまうがそんなのバレバレである。

 「お前も王になったら陛下のようにセクハラをするんだろ!私にはわかるぞ」

 「し、しないってそんなこと」

 たぶんしない。気がする。

 「男の言うことなど信用できんな。男はみんな?をつくからな」

 「どういう理屈だよ!何か暗い過去でもあったの?!ねぇ!」

 「しっ知るかそんなもの!私は忙しいんだ。お前など相手にしてやる時間はない」

 「いいじゃんか教えてくれても!僕と君の仲じゃないか!」

 「馴れ馴れしくするな!ったく。お前は王、私は騎士。お前のほうが立場上上なんだ。もっと王という威厳をだな」

 「はいはい、僕が王になっても罵声を浴びせてきそうだけど」

 「それはお前が変な真似をしなければだな…」

 「はいはい」

 「はぁ、この国も終わったな」

 「騎士団長がそんなこと言わないでよ!」

 まったく不吉なことを。それに、終わったってどういう意味かな????

 「まぁ、私の仕事は皇族、そして王を守ることだからな。国をどうこうするなんてことは私には到底無理な話だ。お前が王になるなんて私としてはお断りだ」

 「ははっ」

 僕とことん嫌われてんな、おい。

 「ラピュア様が見込んだ男として、ある程度働いて死ねばいい」

 「ひどいっ!」

 働いて殉職だなんて御免だぜ!それなら僕は働かない。

 「殉職するくらいなら僕は王のまま怠惰に走るぞ。それに、僕は戦うつもりなんてない」

 「はぁ???」

 僕は王になるだけなって安定した生活ライフを送りたいだけだ。戦争なんてやらないぞ。

 「なんだ、王になる僕に文句あるのか」

 「大ありだ!戦わない王なんて聞いたことがないぞ!」

 「そんなこと知ったことか、僕が決めることだ」

 「お前……。はぁ。私にどうこうしろという権利はないが、この民の未来がかかっていることを忘れるな」

 戦いに何の意味があるというんだい、人同士で醜い戦いをして、お互いに大切なものを無残に奪い合う。はたから見れば滑稽な行為そのものだ。勝ったほうは得をするかもしれないが、総合的にみるとマイナスなんだ。プラスになるなんて絶対にない。

 今、僕すっげえかっけぇこと考えたぞ!このまま哲学者路線行けそう。

 「なんとかなるさ」

 「はぁ。お前というやつは。…………くすっ」

 「?」

 「はっはっははははははははっはっはっは!!」

 突然アイリアたんが笑い出した。どうしたんだろう。気が狂ったのかな?

 「私にはお前がわからない。何を考えているのか全くな!」

 「なんで笑ったんだよ」

 「それが愉快でな、お前のような奴は私は今まであったことがない」

 僕みたいな奴なんてこの国の男性にいそうな気がするけど。

 「私はお前を認めない。そう言ったのを覚えているか?」

 「ああ、晩のことか」

 「うむ。それの続きだ。私はお前を認めないが、お前に賭けることくらいはしてやる」

 「え、それだけ?」

 予想外のスケールの小ささに驚く僕。

 もっとこう、お前を全力で守る!とか言ってくれたら僕はキュンとしたのにな。

 …って、なんで僕は守ってもらいたいんだよ!

 「強欲だな、何をしてほしかったんだお前は」

 「してくれるのか?」

 「私にできることなら何でもしてやる。ただし無事に王になったらな」

 無事という言葉が引っ掛かったがこれはナイスな展開。

 この女騎士にあんなことやこんなことまで命じられるのか。王っていいな。

 「その、なんだ、お…」

 「お?」

 「お尻をさわわわらせてくれ!」

 「なっ!この変態がぁッ!!」

 バコーォォンッッ!!!!!

 僕は音が鳴った瞬間に痛覚を感じた。その瞬間には自分が座っているという感覚がなく、目の前の視界が変わり続けた。要するに、僕は殴り飛ばされたわけだ。いや、覚悟はしていたが、『い、一度だけなら、いいぞ(///)』ってのを期待してたりしたんだが。異世界は甘くはなかった。実は『おっぱい触らせてくれ』と言おうとしたが、これはヤバいかなってことでお尻にしたが、それでもだめだったらしい。

 「ぐええぇぇぇ!いってぇぇぇ!」

 「おっお前なぁ!前の世界でもそんなことしてたのか!」

 「してないしてない!そんなことしたら僕捕まっちゃう」

 「お前!そんなことを私によく言えたな!」

 アイリアたんはプンスカ怒って向こうへ戻って行ってしまった。

 殴られた頬が痛む。

 親父にもぶたれたことないのに。全く荒々しい女騎士だ。もっと素直にデレてくれればいいのに。頬を抑えながら僕はじっと時間が来るのを待った。町には大きな時計塔が備え付けられてあって、その時計で時間を確認する。時刻が11時50分になったので僕は立ち上がり、花車の方へ向かう。

 「あ、新王様ですね、騎士団長からあなたを護衛するように承りました、兵団所属クリーナ・マティルといいます!」

 元気のいい若い女兵士が声をかけてきた。一見すると僕より2,3歳年下のちびっこという印象だ。茶髪で、顔にはそばかすがある。

 「はい、僕が新王です」

 「それにしても、騎士団長が見たことない顔で怒っていたんですけど、何があったんですか?」

 「ははっ、少しからかっただけだよ」

 本気だったとは言えない。本気で触るつもりだったとは口が裂けても言えるものか。

 アイリアたんhshs。

 「それにしても顔を真っ赤にしてる騎士団長なんて見たことありませんでした、まぁ、私新人なんですがね」

 「立場は違えど、新人同士頑張ろう」

 「はいっ」

 新人同盟を締結して、僕はその子と共に花車の梯子を上り、花車の天井部分の上に立って乗る形になった。

 「私も初任務なのでドキドキです!それも新王様の護衛任務だなんて」

 「君がいてくれるだけで心強いよ」

 僕ったらどうして女の子を落としてしまう言葉をついつい言ってしまうんだろう。素質があるのかな?このままハーレム路線にレッツゴー!

 こうして僕のパレードが始まった。

 パレードは僕だけではなく、ラピュアや皇帝もそれぞれ別の車に乗って行っている。

 ちなみに僕がトップバッターだ。

 「発進しまーす」

 下にいる運転手が合図を送ってきた瞬間には車は猛スピードを出していた。

 「うわぁ!」

 僕らは突然の発進の衝撃により、バランスを崩し、転倒してしまった。

 「は、速すぎます!もう少しスピード落としてください」

 クリーナが下に無線で伝えてくれていた。無線からの応答が、

 「あぁ、わりぃわりぃ」

 だった。

 下で運転しているのは。やる気のない感じの女運転手だ。

 先ほど一応挨拶はしておいたが、「うっす」としか返されなかった。

 僕も昔あんな感じだったので攻めることはできないが、これは悪印象だろぅ。

 これでいいのか?否でしょ!

 と、まぁ心の中のクソボケは置いといて、僕らを乗せた車は城下町へと繰り出していた。

 パレードってたくさんの民衆が表に出て旗とかを振るものだと思っていたが、実際に出ていたのは想像よりも少なかった。

 その代わりに多かったものが…

 「な、なんなんだこれ!」

 僕らの車の周りに星の数のようなドローンが群がっていた。

 「痛い痛い!」

 クリーナの髪がドローンのプロペラに巻き込まれている。うわ、これは痛そう。

 「ふん!」

 絡まっていた髪の毛を腰から抜いた剣で無理やり切り取ると、そのドローンを車の上に叩き落とし、滅茶苦茶踏みまくっていた。かなり怒っているようだ。そりゃそうだ。

 「クソが!邪魔だ邪魔だ邪魔だ!」

 剣を振り回しだすクリーナ。危ない危ない!僕に掠りかけたぞ!

 そのまま目の前に近づいてきたドローンを次々とぶった斬って地面へと落としていく。

 「ははははははははは!!ざまぁみやがれ!」

 素が出てるぞこの人。

 「なんでドローンがこんなにあるんだよ」

 そうつぶやくと、下から返答が聞こえた。

 「それはそらゆめ君と言ってだな、ライブ映像を管理者に送ることができる機械でな」

 またしてもそらゆめ君!というか、どんだけ家から出たくない人多いんだよ!

 「ふんっ!!」

 まだクリーナはドローン、もといそらゆめ君の群れと戦っている。

 その間に僕は、大臣に言われた通り、ドローンの間に垣間見える民衆へと手を振る。

 外に出ている人の7割ほどは女性だった。

 「ママー、あれが新しい王様?」

 「ええ、私たちの国を導いてくれるお方よ」

 「でも、ママ、どうせすぐ死んじゃうんでしょ!昨日言ってた!」

 「コラ!聞こえちゃうでしょ!」

 「ごめんなさーい」

 縁起の悪いことを!ちゃんと母親は子供をしつけとけよ!っていうか母親も母親だわ。

 まぁ、寛大な僕は?聞き流すことにしよう。

 「どうせ死ぬならこの国のために死んでもらいたいのぅ」

 「んだ、無駄死になんてされたらこの国も笑いもんだべさ」

 男は許さん。

 「王様頑張ってー!」

 「こっちみてー!キャー!」

 僕を歓迎する言葉も見受けられたので、プラマイゼロとしよう。

 僕は上機嫌のまま民衆へと手を振る。

 「王様応援してます!」

 「死んだら墓立ててやるよ!砂漠に。」

 「智也王バンザーイ!」

 「新王誕生おめでとう!」

 「ヒューヒュー!」

 「どうせすぐ死ぬだろうし葬式の準備もしておかないとな」

 「見て、あの服ダサくない?」

 「だっさーい」

 「王様がんばって!」

 「くぁwせdrftgyふじこlp;」

 余は色々な国民の声を聞けて満足ぞよ。うんうん。

 しばらくしているうちに、横で剣を振り回していたクリーナはバテて座り込んでいた。

 「ぜぇ…こんな数相手にできませんよ、少し休ませてください」

 「っちょ、おい!」

 そのまま彼女は眠りについてしまった。業務中に居眠りとは何事だ!

 そのまま僕は一人、手を振り続けている。手がつかれてきた。


 僕はニコニコしながら民衆とそらゆめ君に手を振っていると、車の進行方向右側から見える路地に怪しい人影がうごめいていた。チンピラか何かかな?

 「新王、覚悟ッ!!」

 フードを被った何者かがものすごいスピードと跳躍力で、民衆の人ごみの中から僕の乗っている車めがけて飛んできた。まるで異世界のような信じられない動きだ。

 「ッ!」

 僕はとっさに身構える…前に僕の護衛に助けを送る目信号を送る。

 駄目だ、まだ寝てやがる。使えねぇ!

 時すでにお寿司。じゃなくて遅し。

 フードの人影はもう僕の眼前にまで迫っていた。その手にはギラリと光る刃物が。

 (殺られる……ッ!)

 こんな死に方嫌だ!僕は…

  グサッ。

 「キャ――――――――――――――ッ!!」

周囲にに悲鳴が劈く。民衆の誰かが発した悲鳴らしい。

僕は刺された。その刃物に。確かに刺されて貫通した。

「なんか、悪いなぁ」

「!?」

刺客は、手ごたえがないことを不思議とし、もう一本の手からくないを取り出し、僕の脳天めがけて振り下ろす。

――――――――スカッ。

その腕は僕の体をすり抜け、勢いよく空振りする。

「はははっ、無駄だって、僕に抗ったことを地獄の果てまで後悔するがいい」

僕はその刺客めがけてメガトンパンチを繰り出す。

動きなれているのか、とっさに刺客は僕の攻撃を俊敏によけ、僕に反撃を仕掛けようと次の行動へと移る。刺客は上へ飛び上がり、爆弾らしき白い玉を懐から取り出した。

これはマズいんじゃ…。

「何ですか!うるさいですね!」

このタイミングで起きる護衛。遅すぎんよ!

「え、あれ、なんですか!」

「刺客だよ刺客!僕が狙われてんだ!」

「仕事ですね!」

次の瞬間、上空にいた刺客はその白い玉を僕らのいる車の方へと投げつけてきた。

「あれはきっと爆弾だ!打ち返すんだ!」

「は、はい!」

よくアニメである手榴弾の対処法だ。え?衝撃で爆破するんじゃないか?そんなこととっさに僕が思いつくわけない。焦ってた僕の判断ミスだった。

クリーナは剣をバットの構えで持つ。

しかしその持ち方は…

「おい、刃が上向きになってるぞ!」

「はぇ?」

理解できていない。僕が言いたいのはこのまま玉に当てるとスパッと爆弾を切ってしまうんじゃないのかということ。90度横に回せ!

しかし時間は待ってくれない、そのままクリーナは…

「えいっ」

「あ」

プシューッ!!!

勢いよく白い煙が周囲を包み、視界を奪う。

煙玉だったか!爆弾じゃなくてよかった。

「何、あれ!」

「警備は何やってんだ」

「ショーだよね?」

民衆の叫び声が聞こえる。んじゃないのかい!

「飛ばすよ!」

「え、あ、はい!」

僕らの足下から声が聞こえた。不愛想な運転手の声だ。

僕らを乗せた車は道路を急発進する。

「うわっ」

「キャッ」

僕らは体勢を崩し、尻もちをついてしまう。白煙の中を抜け、視界が元に戻った。

「ふう」

安心した刹那――

「危ないッ!」

カキーン

刃物と刃物がぶつかる音がした。時代劇でよくあるあれ。

とっさに振り返ると、クリーナが刺客の刀を僕の首ぎりぎりで受け止めていた。

「ひぃっ!」

まさか僕がこんな声を上げることになるとは。

 ゲームとかだと、こういうキャラってダサいよね。そういうキャラに限って殺されたり、なぜか執念深く生き残ったりするんだよなぁ。

 もちろん、僕は後者でオナシャス!

 「下がって!」

 とっさにクリーナが叫ぶ。僕はそれに従い、後ろへと座り込んだまま手を使って下がった。

 「ちっ」

 刺客が舌打ちし、バックステップでクリーナとの競り合いから離脱する。

狭い花車の、さらに猛スピードの中でよくこんなに戦えるなぁ。

 「私だって伊達に兵士なんてやってませんよ!」

 クリーナが攻めに転じた。

 刺客めがけて剣を敵に向けながら突っ込んでいく。

 「くっ…」

 刺客は後ろに下がろうと後退姿勢をとるが、ただでさえ狭い車上をどう動けようか、そのまま刺客は車から転がり落ちていった。

 「うへぇ…」

 腰を抜かした僕は力なくその場に倒れこんだ。

 事態が解決したことをクリーナは運転手に伝えると、

 「なんだ、もう終わりかい」

 と言って、スピードを落とし、車を停止させた。

 そして、周囲から兵士たちが数人、車に近づいてきた。

 どうやら事件の経緯についてクリーナが説明しているらしい。

 まぁこれだけの兵士がいるなら僕の身も安全だろう。

 といっても、僕にたぶん刺客の刃物は刺さらないし元々安全なのだが。

 さ、さっきのはとっさに声をあげてしまっただけだから!勘違いしないでよね!

 車の上で動かずにじっとしていると、偉い感じの男兵士のおっさんが声をかけてきた。

 「申し訳ございません、警備が行き届いておらず、このような状況を招いてしまって」

 「い、いえ、僕は大丈夫ですから」

 半分涙目で答えてしまった。全然説得力がねぇ。

 「とにかく、このようなことがあってはパレードは中止にするしかありませんな」

 「そ、そうですか」

 ・・・。

 「どうしたのです?その車から一度降りてください、我々の安全な護送車で帰りましょう。」

 ・・・。

 「あの、智也さん?」

 どうしよう、足が震えて動けないなんて言えない。

  まるで生まれたての小鹿のように足を震わせながら立とうとするのだが、足が言うことを聞かない。バッジ8つ集めるまで言うこと聞かないとかいう異世界設定はなしだぞ!。

  「あは、大丈夫、すぐに立てますから」

  立てていないんだが。

  落ち着け、僕。もう安全だ。安全だ。深呼吸だッ!

  すー、はー、ちぇっくちぇっくテス。

  「ん?どうしたんですかその足!」

  「え?」

  自分の足元を見ると、膝より先がないことに気づく。

  「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ」

  僕はここで意識を失った。


  「見てください!足が車内の天井から突き出ています!」

  「!…なんてことだ、まるで車に人が刺さったみたいだ」

    パシャ!パシャ!

  「撮るな!これは見せ物じゃない!」

  「一般の方は離れてください!パレードは中止です!」

  「ったく邪魔ですねこの機械は!」

   バキッ!ズシャッ!

  「クリーナ、ほどほどにしておけよ」

  「王様を守るのが私の使命ですから。プライバシーも例外じゃありません」

  「言うようになったじゃないか」

  「えへへ」

  「ゴホン、とにかくこの状況をどうするかだが…」

  「どうしましょう、このまま置いておくわけにはいきませんし…」

  「うむ…致し方ない、皆、王を引っ張り出すぞ!車の上へ上がれ!」

  「「「おー!」」」

  ・・・。

  「なんだこれ、触れないぞ!どういうことだ!」

  「きっとこれが王様のお力なんですわ」

  「なんて能力だ」

  「手が焼けますね」

  「車内の方からも引っ張ってみよう。」

  ・・・。

  「ダメです!触れません!」

  「ぐぬ…」

  「いっそこのまま車を走らせては?」

  「そうだな、それしかあるまい。王様の意識が回復するまでの間、そのまま城へと運ぶぞ!車」

  「では、運転手さんお願いします」

  「あい」

  ブルルルルルルル……。


 「こ、ここは?」

 暗い。僕は気を失っていたのか。それにしてもここはどこだ?

 まさか刺客に拉致されたのか?そんなはずは…。

 「!足、足!」

 暗いため、目で見ることができないので、自分の足の感覚を確認する。足はあるようだ。

 しかし、一向に身動きが取れない。どういうことだ?


 一方、城の兵士詰め所では。

 「あ、車庫に鍵かけたまま戻ってしまいました!」

 「馬鹿者!それでは王様が閉じ込められてしまうではないか!」

 「すいません、王様のこと忘れてました」

 「ぐぬ、私も言われるまで忘れておった」

 「「あっははは」」

 「クリーナ、車庫の電気をつけて鍵も開けてきてくれ」

 「はいっ」


 「おーい、だれか~」

 返事がない、ただの暗闇のようだ。足をバタバタさせてみても、何も進んだ感じがしない。

 「もしかして」

 手で足のあるほうを触ろうとすると、固いものに触れた。あ、誤解しないでね。

 「これは…さっきまで乗っていた車か」

 なんとなく状態を把握した。僕は中途半端に能力が作用して、車の天井にはまってしまっていたらしい。きっとここは車庫か何かだ。

 一安心して僕は祈る。

 「能力出てくださいお願いします、能力出てください」

 足をバタバタさせながら祈ると、少しだけ進んだ気がした。

 行ける!

 そのまま念じながら足をバタバタさせていると、突然僕の体は宙に投げ出された。

 そして地面へと腰を強打。

 「いってぇ!」

 はぁ。不幸だ。

 患部を抑えつつ、立ち上がる僕。そのまま壁目指して歩く。

 「ん?なんだこれ」

 手触りで何かを調べる。これはペンチですか?いいえ、バールのようなものです。

 「工具とかが棚にあるって感じか」

 全然異世界感がねぇ。普通に車庫に工具あるって、普通だよね。

 「はぁ、というか、あれからどのくらいたったんだ」

 自分がどのくらい気絶していたのかわからないままいるのは気持ちが悪い。そのまま僕は亡き者にされているのかもしれない。されててもおかしくない!

 僕はここにいるぞ!誰か!気付いてくれ!

 「開けておくれよ~」

 もしかしたらどこかに扉があるかもしれない。

 手探りで室内を一周し、ドアノブっぽいものを見つけてそれにすがる。

 半泣きになりながら壁を押す。…何も起こらない。

 なら引く!…何も起こらない。

 ならスライド式横扉か!漫画でよくあるパターンだ。

 左右に押す!…何も起こらない。

 は~~~~~~~??????

 外へ助けを求めよう!きっと扉前なら誰かいるカモ!

 「助けてくれー!」

 手を強く扉っぽい部分に叩きつける。

 普通に手が痛いし、音もならない。石でできた壁っぽかった。

 「うおーん」

 パチッ。

 照明がついた。

 「どうされたんですか」

 「あ」

 どうやら扉は上へ持ち上げるスタイルだったらしい。

 よく考えたら車庫だしな。

 「ぶっ、どうされたんですかその顔!」

 「こ、ご“わがったよぉぉぉぉ」

 目の前に現れた命の恩人へと抱き着く。

 「や、やめてくださいよ、それよりこれでお顔を拭いてください」

 ハンカチを僕に渡してくれた。ここは好意に甘えよう。

 「あぁ、ありがとう!」

 もうこのクリーナ様には頭が上がらない。

 「さぁ、次の項目はもう始まっています、急いでご準備を」

 「え、まだあるの?」

 中止じゃないのかよ。僕はもう疲れたよp(ry

 「パレードは中止になりましたが、お城で開かれる晩餐会は中止じゃないですよ」

 「なにそれ聞いてない」

 「私のですが、こちらを」

 その日の日程表をクリーナが手渡してくれた。なんと優しい子だ。

 「ちなみに、今の時間は?」

 「18時です」

 「もう18時!」

 晩餐会は17時30分からになっている。貴族たちのみが来ることができるらしい。

 「今回はきちんと警備を増強していますので!我々も昼のような失態はするつもりはありませんので!」

 「わかった。行こう」

 僕はクリーナとともに車庫を後にした。外はもう薄暗くなっている。昼とは大違いだ。

 車庫を出ると昼にいた庭近くへと出た。ここと近かったのか。昼はただの石垣かと思ってた。

 「智也殿、さぁ、こちらへ!」

 大臣が城の入り口で待っていてくれていた。クリーナと別れ、今度は大臣とともに場内を移動した。

 「すいませんね、朝の時は時間がなくて伝え損ねてしまいました」

 「いえ、いいですよ、なかなか興味深い話でしたし」

 めんどくさかったとは言えないが、興味深いのは事実だ。

 「まぁ、また後日お話ししましょう」

 「は、はぁ」

 相変わらず広いなこの場内。RPGだと移動がめんどくさい奴だこれ。リアルに追体験してはっきりわかんだ。

 「さて、着きましたぞ、私に続いてお入りください」

 「はい」

 大臣がドアノブに手をかける。ドアの上には大広間と書かれてあった。

 「新王、智也殿のご入場です!」

 「「「キャ――――――――――――――――――――――――――!」」」

 歓声が沸き上がる。そして拍手も。思ったより歓迎されてるのかな?

 中にはドレスやスーツで決めて紳士淑女が部屋中に溢れかえっていた。

 「あは、どうも」

 腰を低くしながら大臣へと続く。

 「もっと堂々としてもらってもいいんですぞ。今回の宴は智也殿が主役ですので」

 大臣が振り返り、僕にタスキをかける。

 タスキには、『本日の主役』と書いてあった。宴会かよ。

 「おお、待っておったぞ智也よ、さぁ、こちらのステージへ」

 皇帝がマイク越しに僕に呼びかける。

 僕はステージにゆっくりと登壇すると、マイクを手渡された。

 「えー、僕が次の王です、できるだけがんばりますので、ご支援のほう、よろしくおねがいします~」

 やる気のない感じになったが、実は緊張していて、それを隠すのにこれがやっとだ。

 「「「ウオーッ!!!」」」

 主に城の兵士による歓声が部屋中に響く。仕込まれてんのかこれ、兵士も大変だな。

 兵士の歓声につられて、自然と会場内に拍手が沸き起こる。あんまり嬉しくないな。

 「では、本日の主役として、一言」

 今言いたいことは言ってしまったんだがなぁ。

 「えー、この国の未来に乾杯?」

 「「「カンパーイ!」」」

 僕は手に持ったエアグラスを高く上へと掲げる。しょうがないよ!これしか思いつかなかったんだもん!僕は悪くない!こんなの歓声がなくて当たり前だ。

 「「「カンパーイ!」」」

 またしても兵士の声だ。もうやめて、僕が悲しくなってくるから。

 それでも大勢いる人のいくらかは乗ってくれてはいる。

 どうやらフリータイムのようだ。好きな相手とお酒を飲みかわすような雰囲気のようだ。僕は当然未成年だが、異世界に来てしまっては関係ないだろう。もし法律があっても知らないといえば免罪くらいはできるんじゃないか。王という立場上。

 お酒のグラスをお盆を持っているバニーガールから受け取り、ググッとその場で飲み干した。

 「おぇぇぇ」

 美味しいもんじゃないな。僕からすると異世界のお酒なんて未開拓地の未開発部分のようなものだ。何が美味しいんだか。周りの人間は普通にこれを飲んでいるし。

 「智也様、いい飲みっぷりですね」

 「ん?」

 赤いドレスの金髪の女の子が声をかけてきた。いかにも貴族って感じの。

 「僕はお酒は初めてで、あまり美味しいとは思わなかったけどね」

 「まぁ、それはうちのグループのお酒ですのよ、お口に合わないとなるとまた開発が必要ですわね」

 「あ、そうとは知らず、失礼なことを、ごめん」

 「いいえ、一杯でも飲んでくれたことで、誇りに思えますわ!なんて言ったって王様がお飲みになられたお酒と宣伝できますもの」

 「ははっ、宣伝になるのか」

 「智也様!私もお酒をお注ぎしますわ!」

 横から青いドレスの女の子が突然現れては、僕の空になったワイングラスにお酒を注ぎ始めた。

 「ちょ、智也様は私とお話ししていたんですのよ!邪魔しないでくれます?」

 「智也様は貴女だけのものじゃないですし!私にも智也様とお話しする権利はあります!」

 「だからといって割り込んでくるのは礼儀が鳴っておりませんこと。貴女、お名前は?」

 「ミールヴェルン家のエミナといいますの、聞き覚えくらいあるでしょう?」

 「ふんっ、私はクランヴェリー家のクレアといいますの、階級は私の方が上ですからね。一般貴族は少し黙って見ていなさい」

 「あら、貴女お家の名前にすがって物を言いなさるんですね、そんな女は失敗しますよ?」

 両者一歩も引く気がないようだ。ここはなだめておくのが紳士のたしなみ。

 「お二人とも落ち着いて、みんな一緒にね、楽しく!」

 「智也様がそうおっしゃられるのなら…」

 「仕方ありませんわね」

 「なら私も」

 「私もー」

 いつからか女性の人だかりが僕の周りにできていた。

 まるで僕は超人気大スターのような気分に浸っていた。

 今の僕、とても輝いてる☆

 「智也様、こちらのヴァーガー蟹を!」

 「こちらの神経トリュフを!」

 「ナイトメアハーブを!」

 蟹はいいとして、あとの二つが不穏すぎる。

 ここにある食材はそれぞれ女の子の家から提供された物らしい。

 オリハルカの国中のグルメがそろっているということなのか。

 「ちょ、私が最初ですのよ!後から後からどんどん来ないでください!」

 赤ドレスの子が叫ぶ。僕を奪い合う貴族の女の子たち。

 ふふふふふ。

 にやけと笑いが止まらない。

 やっぱ王様って最高!

 「はぁ、大丈夫かと思って見に来たが、こんなにうつつを抜かしているとはな」

 アイリアたんが鋭い目でこちらを睨んでいる。なんだ?嫉妬か?ははっ。

 「アイリアたんも一緒に食おうぜ」

 「私は職務中故」

 「まぁまぁそう言わず」

 「ぐほっ」

 僕はテーブルに並べられている皿にあった神経トリュフとやらをアイリアたんの口に放り込む。物は試しだ。僕は試さないけど。

 「!!」

 顔を真っ赤にしてアイリアたんはどこかへ行ってしまった。こんな危ないものがテーブルに並んでていいのだろうか。

 「神経トリュフは、神経に直接作用するキノコで、一度はまってしまうとやめられない、止められない食物ですの」

 「それって麻薬じゃね?」

 日本を含め僕の元いた世界では禁止されている物だ。保健体育の授業で習ったことがある。そんな危険なものっぽいものがテーブルに普通に並んでるぞ!いいのかこれ!

 アイリアたんにはすまないことをしてしまった。罪悪感で胸が詰まる…。

 ごめんなアイリアたん、僕が責任とってハーレムに迎えるから。

 「ま…やく?なんですかそれ」

 「私も聞きたい!」

 「私も!」

 「麻薬は、一度使うとやめられない薬で、吸ったら気持ちいいらしいが、吸えなくなると急に乱暴になったり、ストレスがたまったりしてしまう危険な薬らしい」

 らしいとしか言えないが。

 「そんなものがあるんですね、ですが神経トリュフは大丈夫です。食べた人は性格が逆転してしまうだけなんです、量にもよりますが、一すくいで一時間くらいの効果です。効果時間を過ぎると、食べたいという意識そのものも消えるので安心安全なんです」

 「典型的な毒キノコじゃないか」

 アイリアたんに盛られた毒は二時間分くらいか。すっげぇおもしろそうだなこのシチュ。

 後でからかいにでも行くかぁ。

 「智也様、こちらのナイトメアハーブはいかがですか?」

 「ちなみに効果は」

 「いい気持ちになれる葉っぱです」

 「いらないです」

 「そんなぁ」

 怪しすぎるだろ、いい気持ちって。まず悪夢のハーブってネーミング自体怪しいし、トリュフの前科もあるしここの食材は信用できん!

 「ずいぶん楽しそうですね」

 「!」

 人だかりの中にいたラピュアがニッコリこちらに笑いかけてきた。

 「え…と、これは、ちがうんだ」

 「?ちがうとは?」

 あれ、そういう流れじゃないの?僕が女の子に囲まれて文句を言いに来た的なのじゃないの?あれぇ?

 「ま、まぁ、なんでもないです」

 「そうですか、トモヤも皆さんも楽しそうで何よりです」

 「皇女様!本日はお招きに与り、ありがとうございます」

 「ありがとうございますー」

 「ありがとうございます!」

 周りの女の子たちがラピュアの存在に気付き、とっさに道を開ける。

 「トモヤ、お話したいことがあるんです、少しこちらへ」

 「僕も言うべきことがあるんだ」

 周りの女の子たちがざわつく。だが、そんなのじゃない。

 僕はラピュアに謝らなければならない。街頭演説の時のことだ。

 きっとラピュアもそのことで僕に話があるんだろう。

 嫌われてしまったかと考えてしまう。嫌だ。それは嫌だ!

 人だかりから少し離れたところにある、人が少ない柱の裏へと二人で移動した。

 周囲よりも少し薄暗い。ムードが出る場所なんだろうが、今回は使用法が違う。

 「「ごめんなさい!」」

 「「え?」」

 お互いが同時に謝った。え?どういうこと?

 「ラピュアから」「トモヤから」

 「」「」

 …。ドラマかよ。

 「えっと、じゃあ僕から。今日の朝、突然巻き込んでしまってごめんなさい」

 「あぁ、あれは私もびっくりしましたよ。まさかトモヤが出ているだなんて。知らされていませんでしたよ」

 「ですよねー、で、最後まずい雰囲気になってしまったことは僕が巻き込んだせいなんだ」

 「うーん、何かまずいことありましたっけ」

 忘れてんのかよ。

 「ほら、免許の話」

 「ああ、あれでしたか。何かまずかったですか?」

 「ほら、お父さんに頼んで免許もらったって言ってたじゃない。あれが職権乱用?というんだろうか。あれ的に問題なんじゃないかって」

 「あ~、あれってまずいんですかね?皇帝の認可の下で免許が発布されるって聞いたので、お父様に頼んでみたのですが」

 「ハァ???」

 いらぬ心配かよ!なんだよ!地味にこのスッキリしない気持ちは!

 「皇帝の認可の後に、試験を受けて合格して、免許をもらえるんですよ」

 「そうだったのか。そうだよな、はははははははは」

 「私の話、聞いてもらえますか?」

 「あ、そうだったね」

 ラピュアが謝ることって何なんだろう。全く予想ができない。

 「あの、その、トモヤの服を…」

 「服を?」

 確か洗濯してくれるといったことを言っていたよな。

 「その…」

 ラピュアの顔が赤い、どうしたんだろう、言うのが恥ずかしいのかな?

 「大丈夫!どんなことでも僕は受け入れるから」

 「では…私が変態でも、トモヤは一緒にいてくれますか?」

 「は?」

 「や、やっぱり!…やっぱり言えません!」

 「ちょまてよ」

 ラピュアが突然走ってどこかへ行ってしまった。なんかやらかしたか僕?

 しかもなぜ変態というワードが。ティッシュの件がばれたとか?

 そんなまさか…。

 あり得る。

 僕は顔面蒼白になり、急ぎ、ラピュアを追いかける。

 真相を確認しないと。これはまずいまずいまずい。

 前の世界では諦めていた人生が、この世界で花開くはずだった。

 しかしその前に社会的に僕が死んでしまう!これはまずいぞ!

 ラピュアは会場から出ると、左に進んでいった。

 追いかける、追いかける、追いかける!

 ラピュアが部屋に入っていった。ドアが勢いよく閉められる前に、手を割り込ませた。

 「ら、ラピュア!僕は知りたいんだ、君の心の声を」

 「やめてください、私は変態なんです!来ないでください!移ってしまいます!」

 変態って移るんだろうか。

 「どうせトモヤも、こんな私なんか…」

 「それは違うよ!」

 論破する勢いでこう告げる。

 「僕だって変態だ。ラピュアが変態なんてとても思えない。変態から変態を見ると、一般人なんだ」

 決まったな。ちょっと言ってることが変態だが。

 「ちょっと意味わからないですね」

 扉を閉める力を強くするラピュア。どうしても僕を近づけたくないらしい。

 「って、待ってよ!まずなんでラピュアが変態なんだよ」

 「言えません!私はトモヤに嫌われたくない!」

 「僕を遠ざけているのはどっちなんだよ」

 「…そうですね。すいません、取り乱してしまって」

 「話を聞こうじゃないか」

 ラピュアが扉を開いてくれた。まぁそのまま廊下で立ち話といこうじゃないか。

 「その、トモヤの服を、着てみたいなって思っちゃって、その。自分の服を脱いで、着てしまいました…」

 !!!!

 かわいすぎるだろラピュアさん!僕はいつでもウェルカムですぜ!

 僕の心配はこれで消えた。あのティッシュをラピュアが持ったなんて言えない。

 それよりもその僕の服!洗ってはいけない気がする!

 「そ、その服は?今どこに?」

 「せ、洗濯室ですが」

 「もう洗ってるかな?」

 「いえ、まだこの時間は洗われてないとは思いますけど…」

 「ktkr」

 「?…あの、私、どうかしてますよね、こんなこと、したことなかったのに…」

 「いいや、ラピュアは悪くないさ、欲望を抑えられない時だって、人にはあるさ。それに、そんなラピュアが、僕は好きだな」

 「!」

 「言ってくれればいつでも僕の服なんか貸すよ。げへ」

 おっと、心の声が出かけた。危ない危ない。

 「トモヤ…、その、このことはアイリアにも見られてしまって。彼女の誤解を解かないといけないんです。一緒に来てもらえますか?」

 「僕のせいにするとか、それはやめてね」

 「いえいえ、それは私も困りますので。アイリアならトモヤを遣りかねませんので」

 「わかっていらっしゃる」

 部屋からひょこっと出てきたラピュア。かわいい。

 「アイリアは会場の警備に出掛けているので、あそこに戻りましょう」

 「あ」

 「どうかしましたか?」

 僕は怪しいトリュフをアイリアたんに食べさせてしまったことを思い出した。

 「たぶん会場にはいないと思う。それに、今行かなくてもいいんじゃないかな?」

 「善は急げですよ」

 皇女様の命には逆らえんな。性格が逆転した状態のアイリアたんがどんなのかわからない時点で、その分怖い。優しくなっているならいいのだが…。

 「会場にいないとすれば、騎士団詰め所でしょう」

 「そうか、じゃあそっちにいこう」

 僕は当然道がわからないので、ラピュアと並行して歩く。

 「実は、アイリアの誤解が解けていないのです。もしかするとトモヤのせいにまだされているのかもしれません」

 「うひぃ」

 アイリアたんのことだ。僕のせいにしてくるに違いない。

 そういったことを話しているうちに詰所へと到着した。

 「入るぞー」

 扉を開けると、そこには誰もいなかった。

 あれ?留守かな?

 「団長室はあの奥です」

 なるほど、部屋in部屋か。

 さらに奥の扉へと手をかける。

 「入るぞー」

 部屋に入ると、そこにはパジャマ姿にヘアバンドの金髪美少女らしき人影がおっさんのように寝転がっていた。

 誰だこいつ。

 そして、テレビをおっさんのように眺めながら、ポテチっぽいお菓子を食っている。

 まさに怠惰の鑑!

 「ア…アイリア…?」

 「えっ」

 「んあ?」

 彼女が振り向くと、確かにそれはアイリアたんそのものだった。

 「なんすか?私に何か用?」

 「あの、朝の件で誤解を解きたいんですが」

 「なんかあったっけ?…ああ、あのコスプレかぁ」

 「誰だコイツ、あれの妹か何かか?」

 「うっせーな」

 そこにあったテレビのリモコンを投げつけてきた。凶暴のままじゃないか!

 「その、トモヤのせいじゃないってことを改めて」

 「んなのわぁってるよ」

 「じゃあなんで!」

 「ラピュアが心配だからぁ、言ってみただけぇ、深い意味はないぃ」

 「酔いつぶれたクソニートみたいだな」

 「ニートいうなァ」

 クッションを投げつけてきた。これもアリだな。トリュフ大量に用意しておこうかな。

 扱いやすそうだし。かわいいし。

 「どうしたんですか!いつものアイリアらしくないですよ?」

 「そこの男になぁ、変なものを食わされてぇ」

 「トモヤ?」

 「は、はい、なんでしょう」

 「何を食べさせたんですか?何とかしないとアイリアが惰落してしまいます!」

 「神経トリュフというものを…」

 「神経トリュフですか。それなら私も食べたことがあります。記憶があいまいですが、数時間で治った気がします、それまで我慢していてくださいね」

 「もーいいよ、はたらきたくないー、このままでいいー」

 「そんなこと言うなんてアイリアらしくない!」

 「これもアリだな…」

 「私はぁ、もうつかれたよ。ほっといてくれ」

 「はぁ…。このトリュフには強烈な中毒性がありまして、効果が切れそうになると無我夢中になって次のトリュフに手を出してしまうという症状があるんです」

 「そうなのか(知ってたけど)」

 「アイリア、あなたを縛ります、覚悟してください」

 「あん?なんだってぇ?」

 「トモヤ、そっちの部屋に拘束用ロープがあります、とってきてください」

 「あ、ああ」

 僕は言われた通り、詰め所にあった拘束用ロープを一本持ってきた。

 詰所のデスクには何かが雑に書き綴られたものがあったが、明らかに狂気に満ちたモノだったので見るのが怖かったため、チラ見してスルーした。

 ロープでアイリアたんをくるむ。以外にも抵抗は少なかった。

 「私を縛って何をするつもりだぁ」

 「なんもしねぇよ、ただ動けないようにしてるだけ」

 「少し我慢してくださいね」

 「はやくほどけぇ!」

 「悪いな、僕のせいだ」

 「ほら、トモヤも謝っています、許してあげてくださいね」

 「末代までゆるさない」

 「突然とんでもないこというなよ!」

 「はぁ、まぁうごきたくないし、このままでもいいかぁ」

 ミノムシのようにされたアイリアたんが再びテレビのほうを向き、視聴を再開した。

 「ん?ポテチがくえねぇ、おい、縄をほどけ」

 「行こうかラピュア、しばらくしたらまた戻ってこよう」

 「は、はい、ごめんなさいね、アイリア」

 「おい、わたしをひとりにするのか!ひとりはいやだぁぁぁぁぁ」

 僕らはその部屋を後にした。

 「今日もいろいろありましたね。この城に帰ってきたのも今日でしたし」

 「そうか、全部今日だけの出来事だったのか」

 移動中に今日を振り返る。城下町観光をして、会議をして、演説して、パレードして、晩餐会。その間にもいろいろなことがあった。とにかく今日という日は絶対に忘れられない日になるだろう。

 「まだ僕ら出会って三日だけど、すごく仲良くなれたよね」

 「ですね、わたしもびっくりですよ。立場が似てるからですかね?」

 「僕は元々一般人、君は元々皇女様。全然違うよ。これは運命だよ」

 「運命ですか。そうですね、これはきっと神様がくれた出会いなのでしょうね」

 ごめん、その神様もう死んでるんだわ。

 「うん、そうだね。僕もラピュアと友達になれて光栄だよ」

 「それは私も同じです。あなたがこの国に来てくれて、本当に良かった」

 「まだ何も働いてないけどね」

 「あはははは」「ふふふふふ」

 にこやかな時間が過ぎるとともに、大広間へと僕らは戻ってきた。

 広間はまだ人でにぎわっている。

 「おや、皇女様じゃありませんか」

 キザっぽい金髪男が声をかけてきた。

 「あの、誰でしたっけ」

 「ほら、毎年福賀祭でご一緒してるじゃないですか」

 おい、どういうことだ。

 「誰?この人」

 「知りません?トモヤの友達ではないんですか?」

 「なわけあるかい」

 「こう名乗ればわかりますかね、新王、貴方も聞いたことがあるはずです。グレートヒル家の名を」

 「知らんな」

 「風の噂程度には聞いたことある気がしますが」

 「あれぇ!?」

 第一印象はキザな嫌な奴だと思ったがコイツはおもろい。

 他に設定がなければいいんだがな…。

 「悪いな、僕も来たばかりだから知識に乏しいんでな」

 「私もあまり覚えてません、少し聞き覚えがあるのが不思議なくらいです」

 「そんなぁ!?僕の家は有名な砂漠ブドウの産地ですよ?」

 「砂漠ブドウ?なにそれおいしいの?」

 「当たり前だとも、君も一度来てみた前、無料でごちそうするよ」

 イイ奴だったか。

 「ったく、もう皇女様ってば、本当は覚えてるくせにぃ」

 「本当に面倒な人ですね…」

 「あっはっは、幼馴染じゃないですかぁ、ちゃんと覚えててくださいよ」

 は?ぶっとばすぞゴラ。

 幼馴染とかガチライバルじゃないか。

 「はぁ…幼馴染って、1週間一緒に暮らしただけじゃないですか」

 「ブーッ!!!(エア吹き出し)」

 一緒に暮らしたってなんだよ!許さんぞこの男!

 王の権力を使ってチョッキンしてやろうか。

 「あっはっは、いいじゃないかぁ、一週間でも幼馴染は幼馴染」

 「でもそこまで親しいわけでもないです」

 「ちぇっ、皇女様がお嫁に来てくれればなぁ」

  ピキッ

 僕の血管のSAN値ピンチ!

 邪魔するなMY MY LOVE。

 「全く、あなたって方は。その冗談はさておき」

 「冗談で片づけられた!?」

 少しほっとした。

 「この方は、少し、ほんの少しお世話になったイローヤさんです」

 ラピュアが僕にその男を紹介する。

 「よそよそしいのは嫌いだからイロでいいよ。皇女様も」

 「結構です」

 「ああ、じゃあイロ」

 「おぅいぇー」

 突然ハイタッチをしようとしてきたので、僕はハイタッチするふりをして手を避けた。

 「んん?」

 もう一度仕掛けてきたので、同じように避ける。

 なんとなくこいつとハイタッチしたくない。

 「そりゃないぜ!僕なんかしたか?」

 「いいや、別に」

 「そ、そうか、ならいいんだ」

 ポジティブだなこいつ。僕がわざとしてることくらいわかるだろ。察しろよ。

 これは僕が友達を作らないために編み出したやり方だ。変な奴と絡んでパシらされたりしたくないし、絡むだけ損なんだよ。友達なんか作ってもろくなことねぇぞ。特に男。

 「そうだな、君、今度僕の家に泊まりに来なよ。これでも僕領主なんだ。ご馳走するぞ」

 「遠慮しておくよ」

 「まぁそう言わず」

 「この国の食べ物ってろくなm」

 隣にラピュアがいたんだった。危ない危ない。実際ここにある食べ物はろくなものがないのだが。それはラピュアの国を否定してしまうことになってしまう。

 「そうだよね、ここにはろくなものがないからね」

 「言うのかよ!」

 「ここにあるものはほとんど普段口にしないものばかりですからね」

 何だよ、この社公会、毒味会じゃねぇか。

 確かにこういうものが食卓に出ているなんて想像すると気持ち悪いし。

 神経トリュフとかナイトメアハーブとか、ほぼ日本じゃアウトだろ。

 「こんなのここにあっていいのかよ」

 「持ってくる人たちも物好きだからね。変わったものを持ってきて少しでも目立ちたいんだよ」

 「はぁ」

 ありそうな理由すぎて逆に驚いた。普通もっとこう、『これがこの国の常識』とか言われるんだと思ってた。

 「ま、僕の持ってきたデンタルブレイカーでも食べてみないかい?」

 そう言うとイロはすぐそこにあったテーブルからいかにも甘そうな飴玉を一つまみして持ってきた。

 「砂漠ブドウ持って来いよ!」

 「えー、それは今回は持ってきていないんだ。それよりほら、これ、食べてみて」

 押し売りの外国人のように迫ってくるイロ。いや、確かに僕からしたら外国人だが。

 それにこんな怪しい物食えるかよ!デンタルブレイカーってネーミングの時点で嫌な予感しかしない。

 「これを食べると歯がやられるね」

 「そんなもの持ってくるなよ!」

 「全くですよ…」

 「ハハハハハ!ユーモアがあっていいじゃないか!」

 「よくねぇ!」「よくない!」

 「ふぅ、まぁこの国の社交会なんてこんなものさ、君もじきになれるはずさ」

 「どうだか、それより自分で試したらどうなんだ?」

 「とんでもない、歯がやられるなんて御免だね」

 「お前なぁ…」

 滅茶苦茶すぎる。

 「ん?あれは兵士、だよな?」

 イロがある方向を指さした。僕とラピュアも続いてその方向へと目をやる。

 「アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 そこには狂人がいた。それも、僕らが見知った女騎士だった。

 「どるふぅぅぅうぅぅぅうぅ!どりゅううううううぅぅぅぅうぅぅ」

 うなだれたままゾンビのようにこちらへ向かって歩いてくるその人影はテーブルへと突然ダッシュを始めた。

 僕も一応止めに行こうとはしたのだが、間に合わずにそのままテーブルへと突っ込んで勢いよく転倒した。その際にテーブルに乗っていた食物などは辺りに散乱してしまった。

 会場もざわめきだす。

 「あちゃー」

 「あれは、アイリア…?」

 「毎年いるんだよなぁ、こういうの」

 だったらこういう危険なもの持ってくるなよっていう。

 「食べた人も相当バカなんだろうなぁ」

 「アイリアはバカじゃないです!」

 「はへ?」

 突然ラピュアがイロに向かって怒号を浴びせる。えっと、僕はどうすれば。非常に気まずいですね。それにこの状況になったのも僕のせいでもあり…。うーん。

 「あなたにアイリアのことをバカにする権利はありません」

 「えぇ?いきなりどうしちゃったの?」

 僕のヒロイン候補とその幼馴染が修羅場過ぎる。

 「アイリアは、この国のために一生懸命尽くして、毎日、欠かさずに働いてくれているのです」

 「は、はぁ。まぁ僕も働いてるんだけど」

 「あなたはただ領民に作らせてるだけじゃないですか」

 皇女様、それはブーメランですよ。たぶん。

 「そ、それは…」

 黙り込むイロ。ブヒヒww僕の行いのせいで怒られてやんの。

  まぁ主人公?たる僕としては仲裁に入るべき立場ですね。

 「まぁまぁ、ラピュアもこれくらいにして、今はあの状況を何とかしないと」

 「ですね」

 「そうだな、あれをどうにかしないと流石の僕も貴族の男としてね」

 「軽々しくあれとか言わないでください」

 せっかく助けてやったのに修羅場を蒸し返すような発言をするな。

 …とりあえず口に出したからには行動しないとな。

 恐る恐る散らばった食べ物を踏まないように避けつつ倒れているアイリアたんに近づく。

 「おーい、アイリアたーん」

 耳元でささやいてみる。

 「…どりゅffffff!!!!」

 「!」

 突然胸ぐらを掴まれ揺すぶられる。頭がグォングォンするぞ!

 「うぇ、やめてくれ!どうしたんだよ!ってかさっき縛ったはずだよな!」

 「おまえかぁぁぁぁ、しばったのはぁぁぁぁぁ」

 ほぼ泥酔状態のような感じ。これがトリュフの中毒症状か。

 僕に続いてラピュアも応戦に来てくれる。

 「アイリア、わかりますか?私です、ラピュアです」

 「ラピュアァ?あのパッとしないお姫様かぁ」

 「そ、そうですよ!パッとしないお姫様です」

 はは、いさぎよいんだな。

 「おい、目を覚ませよ、ほら」

 ちょっと頬っぺたをたたいてやる。治るかは知らんが。

 「おふっ、やったなゴキブリィィイィィィィィ!」

 バキィ!!

 「グボァ!!」

 ガチ殴り頂きました!頬骨砕けたかもしれない。仕返しの規模が違いすぎる。

 「ちょ、アイリア、気を静めてください、いつものアイリアらしくないですよ!」

 「そんなの知るかァ、ドリュフウウウウウウ、ドリュフヲクレエエエエ」

 末期症状か。これを止めないと麻薬スパイラルまっしぐらになりそうだ。食べさせてしまった僕にも責任はある。痛みを我慢して暴れようとするアイリアを止めにかかる。

 周りの男の貴族の人も数人助けに入ってくれた。数人がかりでアイリアを押さえつける。

 そんな中、ぼーっと突っ立っているだけのイロに声をかける。

「おい、トリュフを遠ざけるんだ」

「…あ、お、おう」

 少し反応が鈍っている所を見ると、ダメ貴族キャラだなこいつって思う。

 イロは散らばった食材の中からトリュフを探す作業に入る。

 しかし…

 「どりゅふみづけだああああああああ」

 突然目が発光するような演出…がアニメ版ではされるであろう。

 急にアイリアたんの力が強くなり、押さえつけていた僕たちを吹っ飛ばし、落ちていたトリュフ目掛けて高速四つん這いを繰り出すアイリアたん。その進行方向には大きめのトリュフが一つ。

 これを食べられてはまずい。しかし僕たちは吹っ飛ばされて尻もちをついてしまい、もう間に合わない。

 もうダメだ(アイリアの人生的に)―――――


 そう思った瞬間。


 大臣がトリュフを踏んだ。

 「あ」

 「あ」

 「あ」

 「アアアアアアアアアアアアアアアア」

 「ん?なんか踏んでしまったか」

 「そ、そのままでいてください!」

 ラピュアがそう叫ぶ。

 「よくわからんが、そのままにしていればいいんですな」

 「よし、皆、今のうちに抑えるんだ!」

 貴族の一人がそう叫ぶと、僕らは再びアイリアたんを取り押さえた。

 「他の人はトリュフの回収をお願いします!」

 会場が一体となって散らばったトリュフの回収作業に徹した。

 アイリアたんを拘束して、ロープにつないで柱にくくりつけると、皇帝のおっさんが近づいてきて何が起こったのかということを聞かれた。一応本当のことを言っておいた。僕のせいですアピールもした。なんて正直な少年だろうと褒められた。ちょろいぜ。

 「ふむぅ、各人が持ってくる食材は問題有だなぁ」

 「そうですよ、もっとまともな食材のほうがいいと思うんですよ」

 ごもっともな提案をしてみる。

 「だが、楽しかったであろう?」

 「はい?」

 「こういうことがあっての宴!楽しければ何でもよし!わかるかね?」

 「はぁ…?」

 この皇帝もどうにかしてんな。トリュフ食わせるぞゴラ。

 「とにかく、今回の宴も大成功じゃ、あっぱれ!」

 懐から扇子を取り出しご満悦な様子。アイリアたんがキャラ的に死んでしまったショックが僕の心の傷跡として残ってしまう大事件であったのだが。

 僕もトリュフを回収する作業を少し手伝い、何個か拾った。

 その時、回収係の兵士が布袋を持って立っていて、拾われたトリュフを回収していた。

 そのまま社交会はキノコ狩りになり、流れ解散になった。会場には泥酔してそのまま寝込んでいる縛られたアイリアたんと僕とラピュア、そして何故か責任を感じた(?)イロだけが残っていた。

 「二時間たったね」

 「まったく、貴方って人はすぐに人を見下す癖があるから…」

 「悪かったよ、アイリアって人は君にとって大切な部下なんだね」

 「部下????大事な人です!部下だなんて言わないでください!」

 「だ、だって、…」

 そのまま口ごもるイロ。これだから糞貴族は。

 「起こしてみよう」

 「ですね」

 「おーい、起きろー」

 少しばかり揺さぶってみる。

 バキィッ!!

 「ウゲェ!」

 また殴られた!というか僕の能力作用してなくないか?何のための能力だよっていう。

 「なんだ、人がせっかく気持ちよく寝ていたのに」

 「ご、ごめんなさい、確かめたくて」

 「これは皇女様!それにそちらは?」

 イロの方を向いてアイリアがラピュアに尋ねる。

 「僕は無視か!」

 殴られただけかよ!

 「この方はグレートヒル家の者です」

 「イローヤ・トゥン・グレートヒルと申します。以後お見知りおきを」

 「ああ、グレートヒル家の。昔から皇族とつながりがあると言われる」

 「残念な方ですけどね」

 「ひどいなぁ」

 「ははっ、そう気を落とさないでください、こうして私を見舞ってくださっている時点でいいお方だとお見受けしました」

 え?僕は?加害者?え?僕貢献したぞ!むしろ突っ立っていたのはそいつだぞ!

 「そんなことないです、皇女様の見る目は確かですので、僕はクズ人間です」

 なんだこいつ腹立つな。

 「本当にクズですよ、騙されないでください」

 ラピュアがマジ顔で抗戦する。いいぞいいぞもっとやれ。

 「はははっ、皇女様もご冗談を。このような殿方がそのようなことがあるはずがないでしょう?そこのゴキブリと違って」

 「ゴキブリ?www君、ゴキブリって呼ばれてんの?」

 すんげぇ腹立つ顔でこちらを見つめてくるイロ。具体的に言えばどや顔ににやけを足した感じの、見るだけで殺意が沸く顔。

 「ははっ、またまたアイリアたんもご冗談を」

 「むっ、貴様のせいでこうなったんだからなっ!責任、とってもらうぞ」

 「はぁ?」

 二発殴っただけでは足りないというのか、だが二発とも無意識の不可抗力だもんなぁ。

 「二発じゃ足りない、五発だ」

 「覚えてんじゃねぇか!」

 「何を言うか、私に醜態を晒させた責任は重い。むしろ五発で済んだことに感謝するんだな」

 「はは」

 救いを求めてラピュアの方を見るが、これはどうしようもないっていう顔をしている。

        /(^o^)\オワタ

 「さて、そろそろ僕は国に帰らないとな」

 イロがそう言って立ち去ろうとする。

 「私もそろそろ寝る時間ですし」

 「じゃあ僕も帰るか」

 「お前は城住みだろう!」

 「なんのことだか」

 「アイリア、ほどほどに」

 「ちょラピュアまで!待ってよ、僕も行くよ!」

 僕もその場の流れに身を任せてその場を離れようとするのだが…

 アイリアたんに腕を握られてしまう。

 逃げなければ逃げなければ。

 必死に祈る。『能力発動!』『サモン!』『封印解放!』などと叫んでみるが能力が発動するキーワードには引っかからなかった。とことん不便すぎる!いまだにラピュアと触れられていないし!

 「さて、まずこの縄をほどけ」

 …………!

 「…(ニヤッ)」

 僕はこの状況を理解した。縄に縛られたアイリアたんのかろうじて出せる右手に手を僕は掴まれている状況だ。

 この状況は圧倒的に僕が有利じゃないのか。

 「ニヒヒ、今の状況理解しての言葉かな?」

 「な、なんだ!早く解け!さもなければ…」

 「今のままじゃ殴れないもんねぇ」

 「ぐぬぬ」

 「よし、殴らない代わりに解く…でどうだ」

 「はぁ?駄目だそんなの私のストレスはどこにぶつける」

 「そんなの知らないな」

 「クズだな」

 「僕はゴキブリでクズ人間ですぅ(笑)」

 「貴様…解かなかったらどうなるかわかってるのか?」

 「殴られる」

 「当たり前だろう、私にあんな醜態をさらさせたのだからな。それも一国の騎士団長に。」

 「はははっ、でもアイリアたん動けないじゃん?」

 「だから解けと言っているんだろう」

 「ふふん、ほっといて帰ろうかな」

 背中を見せ、帰るそぶりを見せる。フヒwww

 「おい、ちょっと待ってくれ。私が悪かった。もう殴らない」

 「おや?どうしたのかなぁ?突然」

 「殴らないから解いてくれと言っている」

 「本当に?」

 「この剣に誓ってだ。あ、剣がなかった…」

 腰にいつもつけている剣だが、今は持っていなかった。当然だろう。怠惰モードの時に外していたのだから。でも、剣に誓うという行動をとろうとするのだから約束を守ろうという意思はあるのだろう。

 「まぁいいよ!僕の心は広いから!解いてあげよう!」

 「あぁ、たのむ」

 僕はアイリアたんの腰あたりに手を回し、結び目を解いていく。

 「おい、どこを触っている。そこはひゃう!」

 「エロい声出すなよ、誰かに聞こえるぞ」

 「早くしてくれ、その、なんだ、お花を摘みに行きたいんだが」

 「お〇っこか!」

 「そうだよ!だから早くしろ!」

 なるほど、だから僕にあのような態度をとったのか。これは愉快。

 さて、そろそろほどき終えるかなっていう所で、

 「よし、もういいぞ」

 そういうと突然立ち上がり、突然僕に掴みかかると上手投げを繰り出し、僕は強烈に地面へとたたきつけられた。

 「いてぇ!何するんだよ!」

 「今日は貴様に振り回された一日だった。その報復と思え」

 そう言うと先ほどまでアイリアたんをきつく縛っていたロープで僕はぐるぐる巻きにされた。

 「はぁ???何するんだよ!ほどけよ!誓いはどうした!あぁん?」

 「殴ってはいない、お前も私と同じ目に遭え」

 そう言い残し、僕を縄できつく縛ると足早に部屋を去っていった。きっとお花を摘みに。

 僕は地面に落ちたミノムシのような状況に陥り、そのまま転がることしかできなくなった。

 あああああああああ!またこんな状況かよ!

 2日ほど前に抜け出した置物生活に逆戻りした気分だ。

 そのまま僕は大広間で一晩過ごした。

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