勿忘草(わすれなぐさ)のストラップ
そんなことを考えていたから、優香が後ろから声を掛けてきた時には正直飛び上がりそうになった。
「ねえ、賢斗」
「おわっ!? あ、ああ。決まった?」
優香は僕が見ていたあたりにちらっと視線を走らせたが、そのことについては何も言わず、一つのストラップを僕の前に差し出してきた。
「うん。正直、悩みに悩み抜いてこれに決めちゃいました」
「へえ、どれどれ」
細い金色の鎖のストラップ。そのメインのアクセサリーは、親指の爪サイズの黒い鋼板。その鋼板には金色の精緻な花の模様が描かれている。インクではない。鋼板に彫った細かい溝に金を嵌め込む、象嵌と呼ばれる細工だ。
シンプルだがすごく手が込んでいるのが分かる。
「なるほど。この小さな鋼板にこんなに細かい象嵌細工をするなんてすごいなぁ。優香が欲しがるのも分かるよ」
「うん。ボリビアニータとどっちにするかぎりぎりまで迷ってたんだけど、この花があたしの大好きな勿忘草だったのが決め手かな」
「へえ、これが勿忘草なんだ。名前だけは聞いたことあるけど、どんな花かは知らないなぁ」
「じゃあ、今度咲いてるのを見かけたら教えてあげるね。あ、ところで勿忘草の花言葉って知ってる? ……わけないよね。でも、賢斗がこれをあたしにプレゼントしてくれるなら、知っておいて欲しかったりするかも」
「勿忘草の花言葉にはどういう意味が?」
優香が幸せそうに微笑んで、僕の腕に自分の腕を絡めてきて囁く。
「真実の愛」
なるほど。それなら確かに僕が彼女に贈るのにふさわしい。