共通①
「いってくるよ」
「おう…きをつけてな」
私は貧しい農民の娘灯乃。
お使いを頼まれて町に来た。
買うものを買って、山道を歩いて家まで帰る。
夕日に染まった森を歩いていると、見かけない悪者がこっちに近づいてきた。
「娘っ子、有り金全部出しな」
斧やクワをもっている。
追い付かれないように必死に逃げた。
だけど木の根っこにつまずいて転んでしまった。
「へっへっへ」
私は武器をもった大人達に囲まれている。
ゆったり、オノを降り下ろされた。
(おとう、おかあ…)
目を摘むって死をかくごした。
「あれ…」
私は生きている。
いつのまにかオノは地面に落ちていて、悪い大人達は逃げ出してた。
なんだろうとぼんやりしていたら、黒い服を着た人がいきなりあらわれた。
布で包んで目だけを出して、顔はよく見えない。
でもこの人が助けてくれたんだ。
「あ…ありがとう!」
「娘よ、怪我をしているな」
擦りむいた足に薬を塗ってくれた。
「ではな」
ふしぎな人だったなあ。
無事に家の前までつく。
入ろうとして扉に手をかけると、話し声がした。
だからこっそり聞き耳をたてる。
「うっうっごめんよ灯乃…」
なんであやまってるの?
「祟らないで成仏してけろ…」
…私生きてるんだけど。
「くちべらしのためだぁ
しかたないべ」
口減らしって、まさか…。
おとうとおかあは私を殺すつもりで町に行かせたんだ。
なのに私は生きてる。
だったら今度は寝てる間に殺されちゃう。
逃げなくちゃ、逃げなくちゃ。
「ねぇ…」
「だれ?」
浮世離れした男が、今にも消え入りそうな弱々しい声で私に話しかけてきた。
「君から私と同じ匂いがする…」
体が透けて見えて、男は消えた。
変わりに地面に綺麗な石のついた短刀が落ちてた。
さっきまで焦ってたのに、石を見たら落ち着いた。
今度会ったら渡せばいいかと思って短刀を着物の袖に入れた。
向こうから牛車が見える。
なのに足が動かない。
まるで短刀が私を牛車にひかせようとしてるみたいだ。
短刀を捨てようとしても手を離れない。
「屶鳫のダンナ、轢き殺しやしょうか!?」
「…止めよ」
牛車があと少しの所でとまった。
牛車から身なりのいい貴族が出てきた。
私みたいなのが貴族様の通行の邪魔をしたんだ…殺される。
「どういった了見だ娘
牛車の前に出るのは農民の流行りか」
貴族は木でできた扇子をぱちぱち開いたり閉じたりを繰り返す。
「充節、娘を乗せよ」
「へ…ぇ!?」
馭者が驚きながらも、私を抱えて、牛車に乗せた。
牛車ってまだ乗り物だったんだ。
名前だけは知ってたけど村で全然見かけないからないのかと思ってた。
でもこんなところをどうして貴族様が通ったんだろう。
「娘よ、面白い物をもっているな」
貴族が短刀に触れる。
ぱちり、短刀はその手をはじいた。
「やはり本物か…」
私はどうしてこの人の隣にいるんだろう。
貴族様は拾った刀のことで、私に用があるみたいで。私をお屋敷に住まわせてくれることになった。
この刀は本当に不思議で、手に強くは貼り付いていないのに、他の人が引いてもはなれない。
「失礼つかまつる」
とりあえずじっとしていると、障子の向こうから声がした。
「どっどうぞ!!」
ここは貴族様が使わせてくれているだけで、私の部屋じゃない。
だから入らないでとは言えない。
「お初に御目にかかる
某、棟北鴕康と申す
暫く貴女を守ることになった」
この人は刀を持っているからきっと武士だ。
ただの農民の娘の私に、武士が膝をつくるなんて、分不相応だって、ことくらいはわかる。
「武士様…私なんかに頭を下げないでください!!後生ですから」
「いえ、主の命は絶対でごさ候」
候ってなんだろう。
貴族様が守れって言ったから、この人は私のことを見張ってるんだ。
こんな生活落ち着かないけど帰る家もない。
貧しく暮らしていたときより幾分もいい上等の部屋。
なのに私は素直に喜べなかった。