魔王《バカ》帰還とその後。
書き始めより約半年、今回にて閉幕となります。
帰還後少し経ってからのお話となります。
「・・・せぇ。」
ゆさゆさゆさ・・・。
「・・・・・ちょうせんせぇ?」
ゆさゆさ・・・。
「おーきてー!こうちょうせんせー!」
「む・・・・?なんだ?地震か?」
「もう!校長せんせぇったらまたお話の途中で寝ちゃうんだもん・・・。」
可愛らしいほっぺたをぷくーっと膨らませそっぽを向いてしまう幼女・・・。
誰だっけ・・・?
「おぉ、すまんすまん・・・。」
「校長先生、もしかしボケちゃったの?」
いや、ここまで出てきている。
サラ・・・じゃなくて、サミーでもなくて・・・。
「もう!初等部一年のエイミーです!」
むぅ・・・。ニアピンか・・・。
「さて・・・、何処までお話したかのぉ?」
「んっとねー。魔王さんとオウチに帰る所ー。」
うん。やっぱり子供は素直じゃなければいけない。
「そうじゃのぉ。その後いつも如く食堂へまっしぐらな魔王は女性陣に引きづられてお風呂へいったんじゃ・・・。」
「えー?何ヶ月もお風呂に入らなかったのにすぐにご飯なんて食いしん坊さんなんだねぇ?」
「そうそう、ワシの知っている限り魔王以上の食いしん坊は見た事ないのぉ・・・。」
「でも、校長先生?そのまおうさんって49代目なんだよね?今のまおうさんって51代目じゃなかった?」
「そうじゃよ?それから200年位で50代目・・・。コヤツも手のかかる奴じゃった。
それから700年程は頑張っておったがその後51代目に引継ぎして隠居しておるぞ?」
「校長先生のウソツキー!!私だって算術位できるもん!
それだけでも900年だよ?校長先生が見てきたみたいにいつもお話するけど、人間はそんなに長く生きられません!!
魔王さん達は特別だとしても、その次の長生きなエルフさん達だって長老さんがやっと1000歳位って聞くよ?」
「ほー、キースも有名になったもんだなぁ・・・。」
「校長先生・・・。エルフの長老さんの事呼び捨てにするとエルフの人達と戦争になっちゃうよ?」
「ほっほっほっほ。戦争か・・・。そうじゃのぉ。ある意味今までの人生は戦争じゃったのぉ。」
「そんなに、一杯戦ったの?校長先生そんなに強そうに見えないよ?」
「何も戦う事だけが戦争じゃないんじゃよ?頭を使う事だって戦争なんじゃ。
何処の町に何が不足しているとか。何処の種族がケンカをしているとかのぉ?」
「ん~。お話がどんどん難しくなってるよ?」
「おぉ、スマンスマン。」
「あ!!!校長先生が居眠りしていたせいでもう時間だよ!」
「む?もうそんな時間かのぉ?」
「うん!早く行かないとみんな待ってるよ?」
「そうじゃのぉ・・・。あまり気が進まないが行くとするかのぉ?」
「校長先生が来ないとお式が始まらなくて誰も帰れないんだよ?」
「それは困った事になるのぉ・・・。」
エイミーに手を引かれ講堂へと足を運ぶ。
そこには、数えるのも面倒になる位の人人人人人人ひとひとひt・・・・。
「こりゃ、またえらい数が集まったもんじゃのぉ・・・?」
「え?だって校長先生が創立100周年のお祭りだって集合をかけたんじゃ・・・?」
「そりゃぁそうじゃが・・・。全生徒にしては多すぎじゃないのか?
確か、在校生、卒業生含めても1万は超えぬじゃろう?
講堂に入りきらずに校庭すら埋まっておるじゃろ?」
「そりゃぁ、お祭りだもの・・・。
校庭の隅っこには魔界の銘菓店や天界のEQグルメに、海底国や地底国の田舎料理のお店とかいっぱ~いでてるんだよ?
あ、みんな校長先生に気がついたみたいだよ?」
そりゃぁ、気がつくわなぁ・・・・。
俺の背後には現在の壇上の映像がものすごい大きさに拡大されており校庭の隅からでもはっきりと俺が来たことが解る。
すると真っ黒な衣装に身を包んだ子供がマイク(風魔法により声を拡張する拡声器の様な物)を俺に手渡し、エイミーの手を引き壇上から姿を消す。
(校長先生また後でねー!!)
無言でエイミーに手を振ると壇上に立ちみんな方へ向く。
「この度は、学園の創立100周年を記念し、学園祭を執り行う事にした次第でございます。
出店の数々の食材は学園の在校生および卒業生の諸君らの故郷の味をみんなに味わって貰おうと
各地より調達させて頂きました。
後、在校暦はありませんが創立のキッカケとなりました49代目魔王の経営されている
『すい~つ御殿』も特別出展と相成りまして少量ではございますが争いの無い様に皆様で堪能して頂ければと思います。」
彼方此方から歓喜の雄叫びが上がりみんなのテンションはMAXの様だ。
魔界への行き来は以前より格段に安全になったとは言え旅行気分で行ける様な場所ではない為
直接魔界に生ける腕を持った冒険者以外では、大金持ち、もしくは王族でなければ本物を味わう事はまず出来ず、参考にして作られた簡易的なものしか庶民の口には入らない。
簡易的なものと言っても、料理スキルの関係で味には天と地の差が出来る。
特に生菓子系に関しては日持ちもせず持ち帰る事は特に困難である。
※魔王の所ではウチの筆頭メイドが指導しつつ店に居るため味については保障済みだ。
「言い忘れましたが、少量の為入場時に渡された入場カードでお一人様一品のみの提供となりますのでご注意ください。
ちなみに、購入後の売買もしくは圧力による略奪等が発覚した場合その一族関係者全ての方が本店へ直接来店されても購入も出来ないように手配されますのでよろしくお願いします。」
講堂ならびに校庭から阿鼻叫喚の叫び声が上がる。
そう、それぞれの数は少ないものの種類は星の数ほどある。
その中からひとつだけと言うのは酷と言う物だが、悩んでいるうちにどんどん品数が減っていくことであろう。l
「堅苦しい挨拶はこれまでとして、来年度より新規入学される方々、在校生の諸君それに卒業生の野郎共。
力こそ全て、腕力のみならず頭脳も技術も力。だが力あるものは力無き者の助けとなれ。
虐げることなかれ、蔑む事なかれ、笑われるものあれば一緒に笑われてやれ。
ヒトは簡単に死ぬ。今を楽しみ精一杯生きるのじゃ!」
より一層の歓声拍手が沸きあがり、会場は正にお祭り騒ぎとなる。
~~場所は変わって学園横の自室~~
「なぁ、セバス・・・。」
「なんでしょうか?」
「なんでこうなった?」
「主殿の責任でしょう?」
「魔王を連れ帰った後、頼まれたのは料理学校を作ってほしいって事だったんだが?」
「主殿の説明が下手すぎて各国の、各界の王達が勘違いしてしまったからでしょう?」
「そうか・・・。まぁ、悪くはないがな・・・。」
いつの頃からだったか視界の隅に半透明のウインドウが警告を鳴らすようになったのは・・・。
「だが、俺もそろそろらしい。」
「今更ですが、主殿は人族ですか?」
「あぁ、前世はな。」
警告と言うのも半分文字化けしつつ辛うじて読めるものであった。
『強※ロ※アウ※まで※ 0※』
徐々に赤く光る転滅も今は間隔が早くなりすぎて点滅と言うより点灯だ。
「おい、魔王居るんだろ?」
「なんじゃ?気づいておったのか?」
「相変わらず魔力操作がへたくそみたいだな。そんなんじゃ隠れてても丸見えだぞ?」
「五月蝿いわぃ。」
「そうか、話は聞いていたなら話が早い。」
「ついにお主も逝ってしまうのか?」
「あぁ、そうらしい。人のみとして長く生き過ぎたみたいだな。
この所意識の飛ぶ感覚も時間も多くなったからな。」
「ふむ。残念じゃのぉ。我等魔族には寿命と言うものはほぼ存在せぬからのぉ。」
「あぁ、にゃーも三百年ほど前に精霊化したからなぁ・・・。」
「どうじゃ?お主も魔族にならんか?好待遇で迎えるぞよ?」
「何度も言っているが、それは断る。」
「そうか、そうか、本当に残念じゃのぉ・・・。」
「最後に、ここの権限をお前に譲渡する。」
その言葉と共に俺の体から何かが抜け魔王の体に入る。
「なっ!?お主今何をしおった!?」
「説明しなくても、頭で理解できているだろ?」
そう、権利を譲渡すると城の内部構造に保管されているアイテムリストなどが閲覧可能となる。
「アイテムに関しては制限の全てを破棄してあるから自由にして構わん。
出来れば有効に使って貰いたいがな。」
「なんじゃ!この数は!把握しきれぬわ!」
「大丈夫だ。代々のウチの管理者一族が常に目録で管理している。」
城のすぐ近くにあった名もない小さな村は今や学園都市として色々な種族の坩堝となっている。
その村長の一族から代々管理者として目録などを管理するものが選任されここで毎日働いている。
以前は給料を払っていた気がするのだがいつの頃からか頑なに給料を受け取ろうとせずに無給でだ。
聞くと、代々のお勤めに給料等は貰えない。むしろ一族の誉れだと競争率が高すぎるのだそうだ。
「しかし、お主も難儀な奴よのぉ。間違いだったで済ませば良い物を自ら先陣切って子供達の指導をするとはのぉ。」
「あぁ、俺も本当に物好きだと思うぞ?」
「主殿は昔から魔王様以上のバカですから。」
「さぁ、いよいよ時間も無い様だ。少し場所を変えるぞ。」
転移の魔法を唱えると、魔王共々エルフの里にある世界樹の根元に来る。
「あの苗木がよくも此処まで大きくなったものだなぁ・・・。」
「ようやく、おいでくださいましたか・・・?」
「ん?その声はキースか?」
「えぇ、今日までなんとか生きながらえております。」
世界樹、雲を突き抜けその根は世界中に巡り世界の魔素の安定を担うもの。
なんどか枯れかけ世界の危機もあったが此処まで大きく安定すればその心配は無いだろう。
「さぁ、俺の最後の力だ。」
胸に左手を当て、残る右手でウインドウを操作する。
「時々そうやって何も無いところで指を動かすのはなんとも不思議な術じゃのぉ・・・。」
そう、ウインドウは俺にしか見えないらしい。
ステータスなどはギルドカードに反映させる装置の修復が出来た為何とかなっているが
合成スキルなどはウインドウ操作では出来ず全て手作業になる。
操作を終え、実行のボタンを押す。
「な、なんじゃ!?その珠は!!」
俺の手には眩く光る珠が現れる。
ゲーム時代キャラ作成をやり直す場合にスキルなどを引き継ぐ事の出来るアイテムの存在を思い出したのだ。
これで、おれ自身の純粋なステータスを除きスキル等が全てこの珠に込められている。
「あぁ、解りやすく言えば、”俺”だな。」
「余計に解りにくいわぃ!」
魔王を無視して、その珠を世界樹に近づける。
すると音も無く珠は世界樹に吸い込まれるようにして消えていく。
「セバス、世話になったな。」
「主殿。私も楽しかったですぞ。」
セバスと目を合わせ多くは語る事はなかった。
セバスの後ろに着いて来た黒棺とにゃー。
「黒棺に、にゃーも長い間ついて来てくれありがとう。」
黒棺は何時もと変わらず笑顔。にゃーは状況がつかめていないのか頭には?が浮かぶ。
「なんじゃなんじゃ!?」
「いちいちうるせぇなぁ。最後ぐらいしんみりした空気でも出してやがれ!」
「うるさいうるさいうるさーーーーーーい!」
魔王のその赤い瞳は涙が零れそうになっている。
「いつまでたっても可愛げの無い糞餓鬼だったな。
まぁ、引退してるだろうが現役の魔王の面倒はちゃんとみろよ?
もう、本当に時間のようだからお前にも世話になったかもしれん。
精精ほかの種族と仲良くしてくれよ?
病気しらずの魔族には無縁な言葉かも知れないが、『元気でな?』アイリス。」
「なんじゃとーーーーー!!!!
お主、ワシの名前を覚えておったのかーーー!!
ず~とバカバカ言いおってからに・・・。
最後に名前を呼ぶなんてずるいのじゃー!」
名を呼ばれたことに驚き無き叫ぶ魔王、しかし俺の姿はすでにそこには無く世界樹に吸い込まれるように俺の意識もそこで再び切れた。
無事に作品目の完結となりました。
前作から呼んで頂いた方々、今回からの方々沢山の方々のお陰で
忙しいながらも無事?に完結となりました事感謝申し上げます。
次回作も気長にお待ちいただければと思います。
作品の最後に感想ご意見など頂けると次回作の励みになりますのでどうかかよろしくお願いします。