転移したその先には。
歪む視界が正常に見えるようになったその先にあったものは、ひび割れたダンジョンコアに寄りかかって眠る魔王の姿だった。
魔王の足元にはおびただしい数の魔力回復薬の空瓶。
「うっぅ。まずいのじゃぁ。もう飲めないのじゃぁ・・・。」
「あんちゃん!魔王さん生きてたよ!」
近寄って触ろうとするガキに嫌な予感を覚え突き飛ばす。
「馬鹿!不用意に近づくんじゃねぇ!!」
「主殿!」
「ご主人様大丈夫かにゃー?」
「ぐっ!?なんだコレは・・・・?」
突き飛ばした勢いでダンジョンコアに触れてしまう。
触れた途端に頭に情報が流れ込んでくる。
「良いか、お前ら絶対に近づくんじゃねぇ!俺たちみたいに取り込まれるぞ!」
「主殿?取り込まれるとは?」
「あぁ、不用意に近づいた者から魔力を自動的に吸い上げるらしい。
詳しい話はコイツにきかねぇとわからねぇからなっと!」
未だに眠りこけている魔王の頭を殴ると間抜けな声が返ってくる。
「なんじゃ!なんじゃ!痛いのじゃ!」
「いつまで寝てやがんがこの馬鹿野郎が!!」
「ぬ!?ジンタではないか!?何じゃ?夜這いか!?」
「なんだ?まだ寝ぼけているのか?もう一度殴る必要がありそうだな・・・?」
「ひぃぃ!すまんのじゃ!ごめんなのじゃ!ゆるしてたもれー!!」
「御託は良いからさっさと説明しやがれ!
こっちはさっきから魔力を吸われて気持ちが悪いんだよ!」
「ぬ?お主はなんでそんな平気なんじゃ?
妾は座れている間まったく動けないほどの疲労に襲われるんじゃぞ?
アイテムバックに入っていた薬がなかったらとっくの昔に干からびておったわ。」
ケタケタと笑う馬鹿に向けて拳を無意識に握る。
「わーわーわー!ゲンコツはダメなのじゃ!痛いからダメなのじゃ!」
「良いから説明しろって言ってんだろ!」
「うぅぅ。どうやら急激な成長にコアがついていけずひび割れてしまったようなのじゃ。
でも、成長とコアの修復の両立が出来ずとりあえず妾から魔力を吸いコアの破損を食い止めつつ成長を続けてたようなのじゃ。」
「コアの説明は解ったが、ダンジョンマスターはどうした?」
「じゃから、さっきも言ったじゃろう。
妾みたいに薬なんぞ持ってないからとっくの昔に干からびておったと・・・。
ほれ、そこに干物が転がっておるじゃろう。」
「あぁ、コアの破損にマスター不在か・・・・。」
「なんじゃ?問題でもあるのかぇ?」
「問題アリアリだこの馬鹿!
マスター不在で、コアに最初に触ったお前がマスター認証された。
その後魔力がほぼ尽き掛けのお前から今度は俺に乗り換えやがったんだよ!
ったく、くそ面倒くせぇったらありゃしねぇ。」
「って事は、妾は帰れるのじゃな!!」
一気に嬉しそうな表情に変わる魔王。
「俺は、取り込まれちまったせいで帰れねぇのにお前をそのまま帰すと思うか?」
「なんじゃ?お主は取り込まれたと言っても平気そうじゃ!」
「ほう・・・。もう一度マスター権限をお前に返してやろうか?」
「いやじゃ、いやじゃ!あれはもう良いのじゃ!辛過ぎるのじゃ!」
その途端、コアがドクンと脈打ち一回り大きくなる。
「くそっ!またでかくなりやがった。これ以上でかくなったら回復速度が追いつかねぇぞ!」
「あんちゃん!どうすんだよ!コアを破壊するのか!?」
「ここで破壊すると、俺達は生き埋めだ。
基本マスターを倒せば帰還用の転送陣が出るはずだが、成長途中でマスターが死んで
機能が中途半端なんだよ!
だから、コアを修復する!」
俺はアイテムバックから小振りのコアを取り出すと、ひび割れたコアより大き目の魔石を取り出し
コアにくっつける。
「コアの修復なんてやったことねぇから上手くいく保障はねぇけどな!」
コアの正常な形をイメージして力を注ぎ込む。
一際大きく輝くと、次の瞬間正常な形を取り戻したコアがそこに浮かんでいた。
「よし・・・。なんとか上手くいったな。」
「ねぇ、あんちゃん失敗してたらどうなってたさ?」
「ん?粉々だっただろうな。」
「「「・・・・。」」」
「さて、コアの問題は解決したがマスター不在はどうしたもんか・・・?」
そう言いながら、魔王の顔を見る。
「え!?妾はもう嫌じゃよ?おうちに帰るんじゃ!すいーつが食べたいのじゃ!」
『おーい、聞こえるかのぉ?』
突如、魔王の方から聞き覚えのある声がする。
「ん?あぁ、初代の糞爺か?」
『久々の登場で酷い言われ方じゃのぉ?』
「お前の後継者のせいでこんな事になってるんだが?」
『その責任と言う訳では無いが、ワシが此処に残ろう。』
「ほう、爺がマスターになるというんだな?」
『マスターと言っても、思念体のみだから討伐されぬがなぁ。』
「まぁ、それもそうか。良いぜ、初代の鎧も用意してやろう。」
「なんじゃと!?お主我等の秘宝をいくつ持っているんじゃ!!」
「ん~?沢山?」
そう、城の倉庫には腐るほど眠っている。
「妾には貸しだと言うのに、どうゆうことじゃ!」
「あ?俺に利益があればくれてやるが、お前からは利益がないだろ?
だから貸してやってんだよ!嫌なら今すぐ返せ!」
「それはもう無理じゃ!もう名前を書いてしまったからな!」
「な!?人からの借り物に名前をって・・・・。」
「「「・・・。」」」
魔王の台詞に俺含め全員が絶句している。
「よし、マスターの問題も解決した事だしさっさと帰るぞ。」
自宅への転移ゲートを開くと魔王を残し全員が入る。
「妾はどうやって帰ればいいのじゃ!帰り道が解らないのじゃ!」
「あんちゃん、魔王さんさすがに可哀想だよ・・・。」
「ったく、めんどくせぇなぁ・・・。
とりあえず、ウチへ来てその汚い格好をなんとかしやがれ!」
そう、三ヶ月以上も此処に縛られ水浴びすら出来ない状態の魔王はとりあえず、汚いのだった。
「汚いとは何じゃ!仕方ないじゃろう!」
「魔法で水とかなんとかすれば良かったのに・・・。」
「そうだよね・・・。やっぱ魔王さんだね・・・。」
「なんじゃ!みんなしてその目はひどいんじゃー!」
「ほら、さっさと来ないなら消しちまうぞ!」
「待ってたもー!帰るのじゃー!」
こうして、魔王の回収も無事?終わり帰路へと着く俺たちだった。
前回の続き。
とりあえず区切りのいいところまで更新出来たので自分なりには満足です。
次回少し時間が空くかもしれませんが気長にお待ちください。