約束の時は今・・。
木製の扉の軋む音と共に子供を引き連れたジンタが入ってくる。
ギルドの中には何時もの様に荒れくれ者と受付嬢それに他の職員達の姿が見える。
「おや?セバスの姿が見えないな?少し早く着き過ぎたか?」
「セバス様とギルドマスターは前回お出かけになられてから戻ってきていませんが?」
あれ?セバスの奴マジモードに入ってないか?
性根を叩きなおす程度の気持ちで言ったはずだが、本気で改造する気になってしまったのか・・・?
「おやおや、少し遅刻してしまいましたかな?
何分ギルドマスター様の足が遅いもので戻って来るのに三日もかかってしまいましたよ・・・。」
いつもと変わらぬセバスがそこに居た。
「あれ?豚君の姿が見えないんじゃないか?勢いあまって振り切って来たんじゃないのか?」
「いえいえ、しばらく街に戻らなかったせいで死亡説が衛兵達に流れておりまして・・・。」
「なるほど・・・。それで尋問でも受けているのか・・・。」
「えぇ、もう間もなく到着するかと思います・・・。」
「糞!なんでボクがあんな下賎な連中に尋問されなければいけないんだ!」
「おやおや、あれだけ教育したはずが頭に血が上るとスグに素に戻ってしまうようですね?
これは追加で修行が必要かもしれませんねぇ・・・?」
ヤバイ・・・。セバスの奴ガチで楽しくなってきてるな・・・。
「師匠!遅くなって申し訳御座いません!何度身分を説明しても偽造だの偽者だの全く信用する素振りが無く、最終的に親父を呼び出したのですが久々に会う息子の顔すら忘れたようで
呆けてしまった者などに国の重役を任せれない為、すぐにでも引退させます・・・。」
「「「「「誰・・・・?」」」」」
誰だろう?
見た事の無い男が入ってきた。年の頃は20代半ば。
装備品に関してはかなり痛みが来ているのもあるがありあわせの物で作った自作のようだ。
「キサマー!ボクの事を豚と蔑んだ事をもう忘れたのか!
これだから愚民の子供は信用ならないんだ!
師匠!こんな奴見限ってウチの専属になりませんか?」
「ほうほう、貴方は私の主を愚弄した上で専属で修行をつけて欲しいと言うのですね?
入門コースで留めていましたが、次回は地獄コースへ飛び級しましょう。」
「「「「「えっ・・・???」」」」」
まさか、あの豚君がコレになったの?まさか前のは着グルミだったのか!?
明らかに顔立ちが整い、背も三割ほど伸びている気がする。
頭の悪さは変わっていない様子だが本当に同一人物か疑いたくなる。
「主殿申し訳御座いません。三ヶ月では初歩の初歩程度の教育しか出来ず、満足行く結果には程遠い成果しかあげられませんでした・・・。」
本気で残念そうに言うセバス。
そして、この三ヶ月間の事を走馬灯の様に思い出す豚君。
「まぁ、良いじゃないか。結果が残せなければ命が無いと言っただけだ。
ウチの餓鬼共はこの三ヶ月でそこそこ物になったはずだぞ?」
「主殿・・・。まさか禁断のアレはやっていないですよね?
あれをやられるとどれだけ頑張ってもそれ以上の成果なんて到底不可能ですよ?」
セバスの言うアレとは各種ポーションと俺からの強化魔法でドラゴンの巣で期間中ずっと巣篭もり。
平たく言えば自分よりはるか格上の敵と永延寝る暇も(寝たら死ぬ)惜しんでひたすら戦い続けると言う精神崩壊コースの事である。
「あぁ、大丈夫だアレはやってない。元々オーガを倒せた連中だからな。
で、一応の今回の結果報告をするとしよう。
メイドの報告では受付嬢のほぼ全てが最低ラインを何とかクリアーだそうだ。
セバス、お前の方はどうだった?」
「誠に遺憾ながら、結果としては及第点と言いたい所ですが正直少し届きませんでした。
戦闘に関しては、なんとかオーガや劣化竜とは戦いになるものの
魔法に関しての才能がほぼゼロに等しくいくら鍛えても生活魔法以上の魔法は無理でした。
他の生産関係ですが、彼の装備品は一応自作の物を使わせております。」
ふむ。やはり最初の見立て通りか・・・。
貴族連中は魔法の才能が無い子供は必要とせず(魔法が使えないと戦闘が地味な為)
本妻の子ですら妾の子以下の扱いになる。
「ふん!魔法が使えない位でなんだ!ボクは劣化竜だって倒せたんだからな!」
「おやおや、そんなに自慢して良いのですか?
相手が一匹だと思って調子に乗っていたら仲間の劣化竜が来て三度ほど死に掛けましたよね?
むしろ、私が居なかったら確実に死んでいましたよ?」
「そんな事言ったって・・・。
劣化竜が5体も出てきたら勝てるわけないじゃないですか・・・。」
「貴方が一体相手をしている間に他を倒してのは私ですよ?」
「師匠は規格外なんですから、一緒にされても困ります!」
「ふむ。私ですら規格外となると主殿は何になるのですかねぇ?」
「そ、そんな子供が師匠より強い訳がないじゃないですか!
所詮親から受け継いだボンボンですよ!」
おうおう、お前がソレを言うか・・・。
「あーちなみに、俺は領主になった覚えなんぞ無いぞ?コイツラが勝手に領主って呼んでるだけだ。
俺は湖の向こうの城に住んでるタダの錬金術師だ。」
「「「「ソレは絶対無い!!!」」」」
なぁ、俺も泣いて良いよな?
ジンタが泣きそうになっている丁度その頃魔界ではある騒動が巻き起こっていた。
魔王の代が48代目に変わってからと言うものほどんど人?前に姿を表さなかった魔王様が魔界各地
それも様々な場所で目撃されるようになったと言う事だ。
一時は死亡説まで流れ、魔界の果てでは49代目の座を狙って魔物共が血生臭い争いを繰り広げている最中に事は起こったのだ・・・。
「妾の邪魔をするなーーーーーー!!」
轟音と共に魔法を撃ち、寄って来る魔物共を殴り蹴り飛ばし縦横無尽に魔界中を駆け巡っていた。
え?理由だって?理由は簡単。
「魔鉱はどこじゃ?隠すと為にならんぞ?後は黒龍の巣も教えぬか!」
魔物の群れの中で知識のありそな魔物を片っ端から締め上げ情報を聞き出す。
魔鉱は程なく見つかり苦労して見つけた黒龍の巣の側には猛毒の実のなる木があった。
「うへへへへへ・・・。あったぞよあったぞよ・・・。」
涎を垂らしながら猛毒の実を見つけそれを一つ一つ大切にアイテムバックに収穫していく。
「お主達に命ずる、この木を一本でも枯らした暁には種族みな滅ぶと思うが良い・・・。」
黒龍達は心の底から思った。今代の魔王には絶対に逆らってはいけないと・・・。
本来、聖剣の類ですら傷を付けるのがやっとの黒龍の硬い鱗を素手で叩き割るような魔王。
そしてその目は血走り殺気に満ち溢れていた。
「やっとじゃ・・・。コレで念願の『すぃーつ』手に入る・・・。」
魔王がここまでして手に入れようとする『すいーつ』とやらが魔界に伝わるまでもう少し時間がかかるのであった・・・・。
ソレまでの間魔界では『すいーつ』なるものは伝説の武器なのか強大な力を持った魔物なのか真偽の程が解らぬ為噂が噂を呼ぶ事となるのであった。
確かに、その魅力に取り付かれた者にすれば強大なる魔物かもしれない・・・。
少し遅くなりましたが無事に更新完了です。
次話も仕上がり次第投稿しますのでよろしくお願いします。