いちま~い、にま~い、さんま~い・・・。
「主殿、次はこちらの目録を確認してください。」
セバスに言われ目を通すと、新たな素材関係の目録だと言う事が解る。
「おいセバス!素材関係はさっき終わったって言ったじゃねぇか!」
「はい、レア素材関係はあらから終わりました。しかし、後は上級、中級、下位素材が残っております。
その次は、魔物関係の食材、農産物、海産物、調味料・・・etc」
「だー!もういい加減にしてくれ!俺はこの城に帰って来て既に三ヶ月この部屋に缶詰なんだぞ!
一体どれだけの間放置したらこんな風にめちゃくちゃになるんだ!!!!」
そう、俺はあの日の翌朝から既に三ヶ月もの間ひたすら現代で言う棚卸しと言う物をしているのだ。
社会人経験のある方々なら経験もあるだろう。しかし、経験の無い方の為にザックリと説明する。
一つ、現在の在庫の全てを集計、穀物など粒で数えられないものに関しては一律で重量にて計算。
一つ、余剰分の在庫がある場合は売却するなどして現金化して管理しやすくする。
一つ、不足しがちな物に関しては随時補充のスケジュールを作成する。
一つ、上記を定期的に行い無駄を無くす。
簡単に言えば、棚卸しを行う事で無駄な物を減らし、不足してる分を補うと言ったような事だ。
プライベートハウスのアイテムBOXに関しては基本的に時間経過はしない為
食料品などは取り出さない限り半永久的に保存が可能だ。
保管可能な量は溜め込もうとすればそれなりの大きさの街の一年で消費する量位なら余裕で入る。
だが、余裕があるからといくらでも詰め込んでいけばその内入れ替えをするスペースすら無くなってしまう。
理想的なのは、食料などの消耗品、生産系素材が各全体の五分の一、販売もしくは保管用の装備もしくはポーション類で同じく五分の一で残り五分の二に関しては常に空けて置くのが正解だ。
アイテムの保管場所を動かすのにもアイテム自体を外に出したままにしておくわけにはいかない為空いている場所に移し、その空けた場所に新たに必要なものを入れ替えると言った事の為にも空きは必ず必要になる。
種類毎に分けずに適当に放り込んでいた場合本来の半分も収納できなくなってしまうし
緊急で必要になった場合にも間に合わなくなる可能性もある。
なのだが、俺以外のヤツラが無頓着と言うより勝手に処分して良いものか判断に迷い俺が居ない間のアイテムは全て補完していたのが原因だ。
俺が到着した翌日にアイテムの保管場所の確認をした所食料庫の中に毛皮や武器が転がっていたりと
それはもう目も当てられない状況だった。
それから三ヶ月、種類ごとに保管庫に振り分けが終わり素材などの在庫量をチェックしているのだが
足し算程度はメイド達でも出来るものの少しでも数が多くなると知恵熱を出しそうになる勢いで悩んでしまうのだ。
その為、最初の2週間で掛け算割り算までの簡単な問題集を作り上げメイド達に覚えさえ
ついでに村の子供達をそそのか・・・もとい誘って学校の様な物を作り計算から獲物の解体や
簡単な下位ポーションなどの調合を教えつつ資産管理を任せられそうな人材を育てて来たのだ。
「そうですなぁ・・・。主殿一人で処理するのもそろそろ限界かもしれませんねぇ。」
「だから先月から俺一人じゃ無理だって言ってるだろ!
村の子供達はどんな具合だ?使い物になりそうな奴がそろそろ二~三人は都合できるんじゃないのか?」
そう、子供と言っても10~15歳程度が知識の吸収率も良く覚えも早い。
子供達の普段の農作業等の仕事はメイド一人出せば余裕でお釣りが来る為子供達が嫌がらないように三食昼寝付きで城に泊り込ませている。
村長達に関しては、無償で子供たちに勉強を教えて貰えるだけでなく万能なメイドという労働力まで提供されている為文句など出る筈も無く諸手を挙げて大喜びな状態だ。
「よし、セバス覚えの良いのに二~三人都合をつけて今日から一ヶ月やらせてみろ。
最終チェックは俺がするから良いとしてとりあえず、任せてみようじゃないか。」
「その件に付いては了解いたしましたが。主殿はどうされるおつもりで?」
「えっ!?俺にだって予定が・・・。」
「特にありませんよね?」
「ほら、俺って忙しいじゃん?」
「目録作りは子供達がやるんですよね?」
「だって、三ヶ月休み無しだったじゃん?」
「それに関しては、この城の主ですから致し方無いかと存じますが?」
「城って言うけど、コレ自宅だよ?」
「世間では領主様と言われていますよ?」
「なった記憶は無いけど?」
「戻られる前から、領主様はまだ不在ですか?いつ戻られますか?と常々言われていましたよ?」
「わかったよ!正直に言えば良いんだろ!遊びに行きたいんだよ!」
「正直に言えば良いんですよ。主殿ともあろう御方が情け無い・・・。」
「おいおい、ウチってどんだけブラックなんだよ・・・。」
「ぶらっく?なんですかな?それは?」
「あー、ブラックで思い出したわ。子供達の給料はどうすれば良いんだ?」
「その辺に関しては、特にまだ取り決めもしてませんが?」
「ん~、じゃぁ一人金貨二枚で良いか?」
「そうですねぇ・・・。月に金貨二枚だと少し少ない気もしますが・・・。」
「よし、ここは面倒事を任せると言う事で週に金貨二枚で良いよな?
俺なら金貨二枚貰っても絶対にやりたくないし。」
「そうですね。私も金貨如きに興味はありませんし。
むしろ金貨で済むならその分ドラゴンでも絶滅させてきた方が遥かに楽ですからねぇ。」
「まぁ、セバス。絶滅はよくないぞ?間引く程度にしておけよ?」
「主殿、冗談ですよ。」
「いや、セバスなら笑いながらやりかねないかと・・・。」
「心外ですな。主殿と一緒にされては困ります。」
「俺は笑いながらと言うより、準備運動にもならんぞ?」
「もはや本当に人族か疑いたくなりますね。」
「ステータスにはちゃんと人族ってでていたぞ?」
「故障でなければいいですね。」
「もう、俺が傷つくだけだからヤメテ。」
「残念です。」
「それはそうとセバスよ。」
「なんですか?」
「この辺に街は無いのか?」
「そうですねぇ・・・。
北の方に乗合馬車で二日ほどの所に元傭兵だった者が収めている街があるはずですが?」
「よし、ちょっと出かけてくるぞ。」
「お気をつけて行ってらっしゃいません。」
「ん。半月ほどで帰ってくるよ。」
棚卸しは何度やっても面倒で二度とやりたくないものの仕事なのでやらない訳にもいかず
ウチの会社では年に二回ほどお盆前と年末にやっております・・・。