~~閑話~~惨劇の少し前
戦闘の起こる少し前、城の中で起こっていた事とは・・・
目を覚ますとそこは知らない天井だった。
私は何故かは解らないが、知らない部屋のベッドで寝かされていた。
何故此処で眠っていたかと思い出そうとするも頭痛と吐き気に見舞われ
旨く記憶を辿る事が出来ない。
私の名前は・・・・?
名前・・・・。
なまえ・・・・。
なま・・・???
そうだ、私に名前などはありもしないのだった・・・。
その事を思い出すと、これまでの記憶が一気に蘇ってくる。
「そうだ、私は教皇様に逆らい死を覚悟したところで獣人族の少女に助けられ?たはずだ・・・。
その途中で気を失って、どこかへ連れて来られたとは思うのだが・・・。」
自分の空腹の度合いからあの事件から、精精2~3日と言った所だろうか。
元々粗食には慣れ孤児だった事もあり空腹には慣れている物の喉の渇きを覚える。
「さて、水を何処かで頂けない物か・・・。」
「お目覚めになられたようですね?」
「はい、いましがt・・・・?」
かけられた声に思わず返事をしたものの、先程までこの部屋には自分しか居なかったはず
扉は自分の視界の中にあり開いた気配は無い。
そして、その声の主はシワ一つ無い黒地に白の刺繍をされたメイド服。
しかしながら、その顔はなぜメイドをしているか不思議になる位の美貌であった。
頭の中で思考をめぐらせて居ると、そのメイドらしきものは水差しとグラスをベットの脇のテーブルに置き、言葉少なく下がっていった。
「間もなく朝食の時間となりますのであまり部屋から離れないようにお願いします。」
余りにも整いすぎた容姿、そして美しい声
ここは何処かの王族の城ではないかと思うところだった・・・。
「しかし、一体どこなのだろう・・・?」
部屋の中は塵一つ落ちていないように見受けられ、窓こそ無いもの部屋の真ん中にはランプが置かれ
暗くはない。
魔石の力で光るランプの様だが、客間に置くものとしては些か高価すぎるようにも思える。
テーブルのある椅子に腰掛け水で喉を潤すと、部屋の中を改めて見渡す。
ベットの横には自分の杖が立てかけられて居るものの何故か羽織っていたローブだけが見当たらない。
確かに、絹製で安くは無いもののその他の装備に比べれば大した額のものでもない為
多少疑問に思うもののさして気にも留めていなかった。
「あまり部屋から離れるなと言われたという事は、監禁されているわけでもないのか・・・。」
そう思い、扉を開くと先の方が霞む様な長い廊下そして廊下の両サイドには同じ様な扉
扉には数字がかいてあり、自分の出てきた部屋には『32』と記されていた。
~~場所は変わり城の上部の一室~~
「にゃ~様、例の男が目を覚まされました。」
「んにゃ?あれは要らないから捨ててきてって言ったのニャ?」
にゃ~と呼ばれた獣人族の少女の下には先程の男が羽織っていたはずのローブが敷かれている。
「しかしながら、セバス様にご主人様の件で情報を探り出すようにと言われているはずでは?」
「わ、忘れていたわけじゃにゃいにゃ!でも、面倒だから証拠隠滅にゃ!」
「ほうほう、私との約束を反故にするつもりですかな?」
「ニャ!?セバスは何時も突然現れるにゃ!れでぃの部屋なのニャ!」
「ふむ、ではご主人様の痕跡を辿るのにソレが必要になるので提供して頂けませんか?」
セバスはニコニコしながらにゃ~のしたに敷かれているローブを指差す。
「何でニャ!これはにゃ~の戦利品ニャ!あげないのニャ!」
「全く・・・。コレが我々の中での筆頭だとは嘆かわしい・・・。」
「筆頭ってなんニャ?美味しいのかニャ?」
そう、にゃ~とセバスに黒棺この三人の強さはほぼ同程度。
黒棺は魔法に長けた戦闘を行い、セバスは魔法と近接戦闘をこなす中衛。
そしてこのにゃ~は魔法は苦手だが他の二人には負けない近接戦闘力の前衛と
なんともバランスの取れた三人であった。
ジンタの居る時にケンカをすると悲しむ為、序列と言ってもジンタの配下になった順と
至極単純ではあるが、にゃー、セバス、黒棺の順番である。
他の魔物や魔族など含めれば他にも居るのだがここでは、まだ出てきていない為
後に語る事になるかもしれません。
セバスは頭を抱えたまま、首を振る。
「貴女に難しい事を言った私が馬鹿でした。
そろそろ食事の時間ですから、オヤツも程ほどにしておきなさいよ。」
「わかったにゃー」
先程とは一点にゃーは笑顔で答える。
「じゃ、コレしまっといてニャ!」
にゃーは扉のそばに居たメイドに大きさ3メートルはあろうかと言う魚?を放り投げる。
「全く、貴女の食欲には飽きれます。」
「にゃーは成長期なのにゃ!」
「貴女、それの意味をわかって言ってますか?すでに50年以上言い続けてますよ?」
「セバスは細かい事まで覚えて居すぎなのニャ!」
「まぁ、良いでしょう。私は村人達の分の食事も用意するのでコレで失礼します。
貴女もメイドが呼びに着たらすぐに来るように。イイデスネ?」
「わかったにゃー!」
そう、ジンタの居る頃からの決まり事で食事は用が無い限り全員で揃って食べると言う習慣なのである。
~~場所は変わって城壁の内側~~
そこには様々な獣人、魔物が入り乱れていた。
それぞれが人語を話しながら何やら急ピッチで作業している。
「オイ!コレハドコダ?」
「コッチハ、ハシラガタリナイゾ?」
「コッチハ、ヤネガナイ」
「イソゲ、イソゲ、ゴシュジン ニ オコラレル」
全ての魔物達が人語を話せるわけではなく、通訳というより監督の様な役割の者が
種族間のやり取りをして、配下に命令しているのだ。
彼らは、本来此処には住んでは居ない。
離れた場所に彼らの住処となる場所があるのだ。
件の事があり、セバスが転送陣の魔法で連れてきたのだ。
彼らのゴシュジンとはセバスであり黒棺でありにゃーの事である。
ジンタの気まぐれで争いに負けた部族、他の魔物に排除されかけた魔物
そう言ったはみ出し者達を集めた集団だ。
その中にはゴブリンやコボルトなどのいわゆる雑魚と言われる者も居る
そして、オーガやトロールなどの中堅クラスの冒険者でも手を焼く様な
魔物すら居る。
その全てが、協力し合い小屋の様な物を建てているのだ。
その全てが何故いざこざも無く作業が出来るのかは疑問が残るものの
数の暴力と言うべきか3時間ほどで15個程の小屋が出来る。
「どうやらもうすぐ終わるようですね?」
何処からとも無く現れたセバスが一匹のコボルトに声をかける。
「セバス サマ シゴト オワリ?」
「えぇ、貴方達も良くやってくれましたよ。」
セバスはそう言うとニコニコしながらコボルトの頭を撫でる。
コボルトも尻尾をちぎれるかと言うくらいに振って喜ぶ。
「そう言えば、貴方達の村はどうですか?問題はありませんか?」
「モンダイ?ソウ シオ タリナイ エサ イッパイ アル」
「そうですか。塩は送り返す際に持たせましょう。」
「セバス サマ アリガトウ ゴザイマス。」
「貴方達が旨く生活出来ている様で私も御主人様に喜んでもらえる事でしょう。」
「セバス サマ ノ ゴシュジン ミタコト ナイ」
「そうですねぇ。我々も長い事お待ちしていますが。まだ帰って来られませんねえ。」
「セバス サマ ノ ゴシュジン カエラナイ?」
「いえ、ただ長い旅に出ているだけですよ。
あの村で生まれた者達や最近村で生活を始めた貴方達は知らないかも知れませんが。
御主人様は旅がお好きなのですよ。」
コボルトの質問にニコニコと答え、姿こそ違えどそれこそ孫とその祖父の様なやり取りである。
「「「セバス サマ シゴト オワッタ!!」」」
「そうですね。皆様ご苦労様でした。
村で困った事があれば直ぐに連絡するように。
村の平和も我らの御主人の願いですからね。
争いの無いようにお願いしますよ。」
そう言うと、セバスは先程のコボルトに塩の入ったアイテムポーチを渡し転移陣を開く。
開いた転移陣に魔物達はゾロゾロと入って行き最後にコボルトが振り返り手を振りながら消えていった。
「コレで準備は終わりのようですね。」
「セバス様、村長が村人達を連れて戻ってまいりました。」
「ふむ、とても良いタイミングだったみたいですね。貴女は私と一緒に出迎えを。
他の者は食事の準備の仕上げを済ませなさい。」
メイド達はそれぞれ深くお辞儀をすると一人を残して消えて行く。
「さて、これから更に忙しくなりますよ?」
「ご命令とあれば何なりと・・・。」
前回より少し間が開いてしまいましたが、何とか更新できました。
休みが不定期の為、更新がバラバラですがご容赦願います。