いざ戦場の地へ
「こりゃ、また数だけは恐ろしい位に膨れ上がったもんだなぁ・・・。」
湖の対岸の方からは恐ろしい数の魔物の軍勢が押し寄せてきている。
種類はそれこそ多種多様、ゴブリン、オーク、コボルトにハーピーなどの雑魚モンスターから
果ては劣化竜含め本当に色々な種類の魔物の軍勢である。
「しかし、統率と言う物が全く取れていない気がするな。
こりゃ攻めてきたと言うより溢れ出てきたと言う方がしっくり来るんじゃないかな?
まぁ、こちらとしてはそっちの方が遥かにやりやすいんだけどね。
統率の取れた軍勢だとゴブリンすらある意味脅威になりかねないしね。」
ブツブツと誰かに聞かせる訳でも無く独り言を呟きつつ薄汚れたハーフコートと
学生服モドキだった格好から彼本来の装備品へと着替えていく。
着替えると言っても、アイテムBOXから取り出す際に装備する様にと取り出すだけで
今までの装備していた物と入れ替えで装備されるからゲームの仕様が生きている事に
有難味を感じる。
「さて、装備はこんなもんで大丈夫だろうな。」
先程までの、貧乏学生はどこへ行ったのか面影すらない。
見た目こそ童顔の為この世界では12歳で成人すると言われるが
成人したて、もしくは成人前と言っても問題無い様な顔立ちを除き
額には大きな魔石の様な物が付いた額当て、純白のローブから伸びる両の腕には色違いの篭手
両足には鱗の付いた革で作られたブーツが覗いている。
そして、極めつけは二つの蛇が首を絡ませ額の魔石のような物の数倍はあろうかと思うような
光り輝く真ん丸い宝石を咥え込んでいる。
杖、篭手、ローブに関しては到底人智では理解できぬ技法。
いわゆる伝説級の遺物である。
それ以外の装備品に関しても何故強化に成功したのか?ある意味バグでは無いのかと言うほどの
とてつもない性能の装備品である。
彼自身、このゲームが全盛期だった頃の価値に換算すれば普通の企業の社長の退職金位に
余裕でなると言われた経験もある。
しかしながら、所詮ゲームであるという事で与太話の類としてしか信じていなかったのだが
実際には、知り合いの知り合い、その又知り合いと言うように
仲間を通じて話が来ていたのが事実である。
と、与太話をしている間にジンタは自分の周りに羊皮紙を丸めたような物、
緑、黄色、赤などなど様々な色をしたポーションを並べ始めた。
「貧乏性が祟ったお陰かスキル上げで作った呪文書やポーション類もそれこそ腐るほど在庫があるから手当たり次第ぶちまけても尽きる様子はなさそうだな・・・。」
そう、多色のポーションはそれぞれが毒や麻痺に加えてそれ自体が爆発するボムポーション
それに若干の連続使用制限はあるものの攻撃魔法の込められた呪文スクロールである。
ポーション類に関しては消耗品であるが故のコストを度返しさえすれば効果は抜群。
スクロールに関しては作る際の材料として魔石の粉をインクと合成した物を触媒に
羊皮紙に呪文を封じ込める為呪文毎に必要な魔力を消費する代わりに
使用時には魔力がほぼ不要で(戦闘職でも威力は落ちるが使用可能)魔力を纏った手でスクロールを握りつぶすだけと言う作成に難はあるもののある意味凶悪なアイテムである。
それが、自分の作った分+仲間のスキル上げの材料を提供する代わりに完成品は無料で回収と言う
方法を取り在庫自体はそれぞれがおかしい桁になっている。
「さて、そろそろ呪文の射程圏内に入りそうだな。」
呪文の詠唱を開始すると共に両手には色の違う紐で括られたスクロールを持つ。
その上足元にはポーションの瓶が転がされている。
「そうら、どんどん行くぞー!!」
掛け声と共に、次から次へとスクロールを待機時間毎に握りつぶし
火の玉、氷の槍、風の刃、岩の塊と言った魔法が飛び交う。
足元に転がったポーションに関しては魔法を放ちつつ足で次々に蹴り飛ばしていく。
現実ではとても無理だと思われる放物線を描き魔物の軍団へと様々なポーションが飛び込んでいく。
魔法の雨、毒や麻痺その上爆発。
通りすがりの旅人や商人が同じ光景を目にすれば悪魔の所業と思うに違いない光景である。
スクロールやポーションを耐え切るほどの魔物に関してはそのつど腰に下げた杖を持ち
スクロールに込める事の出来ない高位の魔法をピンポイントで打ち込んで行く。
山のような軍勢が壊滅したのはそれから実に三時間半もの時間が経過した頃であった。
「あれ?もうおしまい?これからだって言うのに・・・。
折角体も温まって直接殴り飛ばしに行こうかと思ったのになぁ・・・・。」
これぞ俗に言うバトルジャンキーもしくは廃人様である。
時間の許す限り永遠と同じ事を繰り返しても苦痛と思わず
むしろ快感すら感じているような人種である。
現実世界の廃人様全てにこの件が該当するとはけして思わないで頂きたい。
苦痛に感じながら必要に迫られて継続するのが本来の人であるはずと思われるが
今回のジンタに関しては好きな事にただ没頭しているだけで
特に深く考えての行動と言うわけでは無い様だ。
~~~ジンタの戦闘の始まる少し前の湖の城~~~
「セ、セバス様言われたとおり最低限の荷物だけ持たせて村人全てを集めてまいりました。」
「おや、思いの他早かったですねぇ。
今から我々も朝食になりますので皆さんも食堂へ来ると良いでしょう。」
「そ、そんな!皆様の貴重な食料を我々に使うなんて!
僅かではありますが我々も食料は持ってきていますので・・・。」
「では、言い方を変えますね?
貴方達が毎年山の様にココへ持って来る食料がいい加減倉庫を圧迫して
困っているので消費するのを手伝いなさい。
これは提案は無く命令です。
我が主が戻られた際に倉庫の惨状を見られでもしたら我々がお叱りを受けるのです。」
キツイ口調ではあるものの何故かその表情は笑いを堪えているようだ。
「も、申し訳ございません!今すぐ皆の者を食堂へ向かわせます。」
村長はそう言うと、内壁の中で待つ村人達の下へと走っていった。
「ふぅ。人間とはなんと面倒な生き物なんでしょうか・・・。
まぁ、今までこの城に難癖を付けに来た協会やら貴族に王族に比べれば
あの程度は可愛い物ですが・・・。
で、話は変わりますが貴方も朝食は如何ですか?」
顔の向きはそのままに背後に居る者にセバスは声をかける。
すると、まさか自分の事に気が付いているとは思っても居なかった彼は
慌てて自分の目を覚ました部屋に急いで戻ろうとして
足をもつらせ盛大に音を立てて転んだのであった・・・。