メイドが一人・・・。メイドが二人・・・。
前回から少し間が開いてしまいましたが何とか更新にこぎつけました。
同日、夜明け前の薄暗い湖の反対側にある古ぼけた佇まいの城の様な建物では別の物語が起こっていた。
「大変ですだぁ!!起きてくだせぇ。」
壮年の男性が大きな声を上げながら門を叩く。
ギィィと木の軋む音を立てながら門が開く。
門が開くとメイド服を着た女性が出迎える。
「あら?村長様どうかなさいましたか?」
夜明け前にも関わらず、女性の声は凛としたもので気分を害したような雰囲気は全く感じられない。
「へぇ、夜中から牛や馬達が落ち着かず犬猫もソワソワして落ち着かないんで
村の男衆で付近の見回りをしたんですが・・・。
森が異様に静まり返ってるんでさぁ。
死んだ爺様の昔話では、同じ様な事が大昔に起こった事があって
夜明けと共に魔物の群れが村に押し寄せてきたって話でさぁ・・・。」
あくまでも昔話の領域をでず、憶測でしかないのだが
夜行性の動物や魔物も多く生息している森が静まり返っていると言うのも
何かの前兆の様な気もしなくは無い。
「解りました。セバス様に相談してまいります。」
メイドは一礼すると踵を返し、城の中へと戻っていった。
「村長様はこちらでお待ち下さい。」
声のする方を振り向くと、先程中へ入っていったハズの女性が門の脇にある扉を開き手招きをしている。
知らない人が見れば、二度見をして驚く所だろうが
村長は、慣れた様子で招かれた扉へと向かう。
「しかし、なんですなぁ。何度お会いしても全く見分けが付きませんなぁ。」
はっはっはと笑いながら勧められた椅子に腰掛けると急いで走ってきて火照った体にはあり難い冷たい飲み物が出てくる。
「大した物ではございませんが、セバス様が来られるまで少々お待ち下さい。」
エールを出さないのは、万が一を考えたメイドの気遣いだろうか良く冷えた果実水であった。
「この時期に冷えた飲み物が出るだけでも驚きですよ。さすが領主様ですだ・・・。」
その言葉にメイドが首を傾げる。
「村長様?セバス様も黒棺様も我が主の従者でございますよ?
そもそも我が主は我ら配下の者は居ても領民が居たとは聞いた事がありませぬが?」
その言葉に村長はハッと息を呑む。
「も、申し訳ございません。我々が勝手にこの城の近くに移り住みまして・・・。」
村長が謝罪の言葉を口にするもメイドはさらに言葉を続ける。
「住む事に関してではありませんよ?そもそも、ここは城ではございません。
我が主様の自宅兼工房にございます。」
メイドが続きの説明を仕掛けたところで突如その動きが止まる。
「貴方達は些か口が軽すぎではありませんかね?」
「セ、セバス様!も、申し訳ございません・・・。」
メイドの顔は驚愕に染まり、この世の終わりかの様な表情である。
「セバス様ワシがあれこれと要らぬ事を言ってしまったがためなのです・・・。」
「まぁ、良いでしょう。
村長、結果からお話致しますが貴方方にとっては最悪の事態の様です。
山の麓の方で大量の気配が固まっている様です。
魔物同士の小競り合いなのか隣国が攻め込んできたのかは不明ですが
数時間の内にこの辺りまで到達する事でしょう。」
「な、なんと!急いで村の者達を避難をさせねば・・・。
セバス様、貴重な情報をありがとうございます。
生き延びられたら、このご恩は村民総出でお返しいたします。」
「ふむ。貴方達は何処へ逃げるのですか?
人の足、それも女子供や老人に逃げ切れるモノでは無いと思うのですが?」
「どこと言われましても宛がある訳ではありませんが、家畜を置いていけば少しは時間が稼げるはずです。
何度か行商に来ていた者達の話でここから歩きで二週間ほどの所に街があると聞いていますので
そちらの方へ行こうかと思います。」
「それは、得策ではありませんねぇ。
村人総出で行くとして、食料などを積み込む時間も荷馬車もとても足りませんよ?
それに街に行くまでには当然魔物や盗賊も居る事でしょう。」
「ですが・・・・。
このままここに留まっていても村人諸共全滅するしか・・・。」
「私は、結果を知らせただけで逃げろとは一言も言ってませんよ?」
その一言に村長は首を傾げつつも思いを巡らせる。
この城にはメイドと、目の前のセバス、それに目も眩むような美しい黒棺と呼ばれる女性。
それに、稀に見かける猫族の女性のみだ。
セバスは、元冒険者なのかは解らぬが鍛え抜かれた感じではあるが自分より遥かに年上に見える。
黒棺と猫族の女性それにメイドは論外であろうともう。
「し、しかしそれでは・・・?」
「今すぐに村人達をここへ連れてくると良いでしょう。
ここの内壁部分をお貸しいたします。」
「し、しかしここには城を守る兵士達すら・・・。」
「逃げて死ぬか、篭城して死ぬかの違いでしょう?
どうせなら楽な方で良いではありませんか。
それに、もう余り時間もありませよ?
村人達には最低限の荷物で急ぐ様に伝えなさい。」
そう言うセバスの顔はやけに嬉しそうに笑顔であった。
村長は疑問に思いながらも、村へと急ぐのであった。
~~そして、数十分後の村~~
「おかーさーん!そんちょうさん帰ってきたよ!!」
年の頃は5つ位だろうか、村の入り口で座って村長の帰りを待っていた子供達の内
一人の女の子が村長に気づいて母親を大きな声で呼ぶ。
そう、村長は城に向かう前に村人達には最悪を想定して荷造りをさせていたのだ。
村人全員で30名程の小さな村でもかなりの量の荷物になる。
戻ってから準備したのではとてもじゃないが間に合わない。
間違いであればゆっくり戻すだけなのだから、ある意味正解だろう。
何人かの大人達が村長の所に駆け寄る。
「村長、領主様はなんと?」
「どうでした?」
「なにかマズイ事になるんですか?」
「詳細は不明じゃが、魔物の群れか隣国の兵士達かは解らぬが
何者かがこちらに向かってくるようじゃ。」
「それじゃぁ、急いでにげないと。」
「村長、じ様や、ばぁ様は荷馬車に乗せてあるだ。」
「子供らは別の荷馬車に乗せる予定だ。」
そう、最悪の事態を想定して老人達が最後尾になるのだ。
非情かも知れないが戦う力を持たない村人達には他に方法はないのである。
「いいか、ワシ等が勝手に住み着いて領主様と呼んでおるのじゃが
あの方達は、別の方に仕える身、この辺りを治めて居る訳では無いのじゃ。」
「そ、村長突然どうして・・・。」
「そうとも言えるが、あんなデカイ城に住んでるんだ。領主様で間違いないべ。」
その言葉を聴くと村長は先程のメイドの顔が眼に浮かぶ。
「良いか、二度と領主様と呼ぶんじゃねぇべ。
魔物では無くてあの方達のご主人に始末されても文句は言えねぇんだぞ?」
村長の真剣な目に村人達も頷く。
子供達は何の事かわからず大人達の真似をして頷いている。
「いいか良く聞くんじゃ。このまま逃げても何割逃げ切れるかわからねぇべ。
そこで、セバス様からの提案でワシら村民みんなを内壁の中に入れてくれる事になったべ。」
「そ、村長!それは本当で!?」
「あぁ、じゃがあの城には兵隊はおらん。攻め込まれれば全滅するかもしれん。
魔物の群れなら通り過ぎるまで我慢すれば生き残れる可能性は高いんじゃ。
村はもう一度作り直しかもしれねぇが、全滅するよりましだべ。」
「じ様やばぁ様もいいんだべか?」
「あぁ、そうじゃみんなで来いとお許しがでた。」
「「「おぉーーー!!」」」
こうして、村民達は総出で城の内壁へと避難するのであった。