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とある薬師の受難  作者: 散歩道
17/43

その頃教会で起こった事件とは・・・。

遡る事、ジンタ達一行が泉へ到着する三日前の事である。

場所は教会本部、この場に居るのはただ二人。

一人は何処かで見た事のあるおっさん。

そう、ジンタにおっさん呼ばわりされるも見た目は20代後半だろうか

確かにこの世界の人族の平均寿命は60台程である事を考えれば十分おっさんにはなるであろう。


見た目はスラリとした細身で、その顔には片眼鏡をかけ如何にも仕事の出来るオトナと言った感じである。


相対するは、見た目も醜悪と言って良い程に肥え

厳しい寒さの冬は過ぎたがまだ夏には程遠い季節にも関わらず大量の汗をかいている。


「教皇様、誠に残念なお知らせなのですが例の冒険者は我々の誘いには乗ってきませんでした。」


「なんじゃと!!我々教会の庇護は要らぬと申したのか!?」


荒々しい息を吐きながら、その醜い顔がさらに醜く歪む。


「えぇ、従わぬならと思い先に確保した冒険者を引き合いに出したもの

『好きにすれば良い』と一言で切り捨てられました。」


「それで、キサマはノコノコと引き下がってきたのか!」


怒りをあらわに、醜い豚は手に持っていた錫杖をおっさんにぶつける。

鈍い音共におっさんの額には一筋の赤い筋が出来るも

おっさんは痛みを堪え次の言葉を紡ぐ。


「従わぬならば、力ずくで情報をと思い最大限の攻撃を行いましたが

彼の無詠唱の障壁に阻まれ私の攻撃では有効だが無いと判断しました。」


「普段の鍛錬を真面目にやっておらぬからじゃ!

詠唱せずに発動した障壁如きに阻まれるような事になるのじゃ!!」


怒りのままに喚き散らす豚にさすがのおっさんも頭にきたのだろう。

無言のままジンタに放った物と同じ光の矢が一本だけ(無詠唱は本来の威力は出せない。)

豚の足元に突き刺さる。


「ひぃぃぃ!ワ、ワシは教皇なるぞ!そのワシに手を出してどうなるのか解っておるのか?

者共!反逆じゃ!コヤツは敵に寝返った反逆者なるぞ!!」


「教皇様、彼の者に放ったのは詠唱に最大限魔力を込め数も10本の聖なる矢でございます。

我々の神への信仰心も含め威力は教皇様が良くご存知のはず・・・。」


「えぇぃぃ!今更弁解など聞きたくもないわい。コヤツは教会に牙を向く不届き者じゃ。

神の名の下に今すぐ断罪するのじゃぁぁぁ!!」


何を言っても聞き入れぬ教皇、取り巻きの魔術師の詠唱により光の矢、火炎弾、風の刃

様々な属性の魔法が打ち出される。


「やれやれ、いずれこうなる運命だったのでしょう。あの田舎の教会が懐かしいですね。

村人達と日々畑仕事に汗を流しながら、神への祈りを捧げた毎日。

どこで間違ってしまったのでしょう・・・。」


そう、彼は野心を持って教会の上層部にまでなりあがったのではない。

たまたま嵐の日に通りがかった教皇一行の雨宿りにと通りがかった貧乏な農村の教会(元は孤児で神父に拾われ神父亡き後そのまま教会の神父になった)に居た所を信仰心と魔力の高さに気づいた教皇によってこの街まで連れてこられたのだ。


その後、上層部の連中の醜い権力争いの中下っ端だったが為遠方の布教に出ていたタイミングで

上層部同士の暗殺や毒殺などの殺し合いの渦から運良く外れ、押し上げられるように上層部に上がってしまっただけの言うなればただ運の悪い男だった。


「今度人に生まれる事が出来たのなら争いの無い平和な世の中が嬉しいですねぇ。」


自分の運命を受け入れ、防ぐ手段の無い魔法の雨のなか目をつぶる。



どうした事だろう、体に魔法の衝撃がいつまでもこない。


来ないのだが、体が妙な浮遊感がある。


そうか、自分は死の衝撃に耐え切れず死を迎えたのだと悟る。


悟った瞬間にその間違いに気が付く。


凄まじい爆音、衝撃波そのどれもが自分の遥か下の方から襲ってくる。


何故下の方から?


そう思い、恐る恐る目を開けると足元に地面は無い。

無いのだが落ちては居ないと言うか誰かに抱えられている事に気が付く。


「あ、目を開けたニャー!

目を開けないからてっきり間に合わなくて死んじゃったかと思ったニャー!」


自分の頭の上から声がする。

その声はどう聞いても幼さの残る声ではある。

だがそこに疑問が浮かぶ。


幼い声、だが自分はフルプレートとは言わないが軽金属系の鎧をローブの下に装備し、

その手には、ミスリル製の錫杖を持っている。


自分の総重量に気づき声の主を声が幼いからと子供だと思ってはいけない事に気づく。

むしろ、見た目以上の力の持ち主と言う事でおっさんの脳裏にジンタが浮かぶ。

まさか、彼の仲間なのか?だが、自分の事を助けるような関係ではなかったはず。


あれこれ思考を巡らすも答えは出るはずも無い。

そうこうしている内に、足元から怒号が聞こえてくる。


「神聖な教会に亜人が入り込むとは何たる不愉快な!警備の者共はなにをしておるんじゃ!」


そう叫本人は、オークより醜悪な豚。亜人の方が遥かにマシと言う突っ込みは

言わない約束である。


亜人?と思い上を見上げる。

自分の脇を抱えどうやっているのか不思議ではあるが天井から逆さまにぶら下がっている

亜人の少女が目に入る。


亜人の少女の顔は先程の声からは想像出来ない程に怒りに満ちている。


「亜人?ニャーの事ニャ?ニャーを亜人如きを一緒にするニャー!!!!」


壁がと言うより、建物全体が振動しているのかと思う位の大声と同時に足元に土の槍が縦横無尽に突き出す。

数々の悲鳴と共に血飛沫が一箇所を除いて吹き荒れる。


その一箇所とは彼女を亜人呼ばわりした教皇である。

だが、教皇その人は微動だにせず立ち尽くしてブツブツと焦点の合わない目をして何かを呟いている。


「あニャ?やりすぎちゃったかニャ?」


余りの恐怖に人?としての心が壊れてしまったようだ。


「ちょっと疲れたから降りるニャ。」


そう言うが早いか、天井(20メートルはある)から飛び降りると着地の衝撃所か降り立つ音さえホトンドしなかった。


「なぜ私を助けたんですか?」


「にゃ?用があるから助けたに決まってるニャ。あんた馬鹿ニャのかニャ?」


「用事ですか?」


「そうニャ、ニャーは旨く説明できニャいから一緒に来るニャ!」


言うが早いかおっさんの返事も聞かず、おっさんを小脇に抱え飛ぶように走り去る。

想像してみると妙に笑える姿なのは間違いない。


どうみても10代前半の猫族らしき少女の小脇におっさんが抱えられている。

実にシュールな絵だろう。


「わ、私にも準備が・・・・。」


などと一応言ってみるも、返ってきた返事はこうだ。


「そんなもん、ニャーには関係ニャいニャ。」


まさに横暴と言った所だろう。


教会から飛び去る姿を見かけた者は口をそろえてこう言っていたと言う。


「小さな影が、空を走って行った。」


さて、空を飛ぶと言うなら何も不思議は無いのだが口から出てきた言葉は『走る』だ。


「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ニャ?」


「何故、我々は落ちないのでしょうか?」


「そんなの簡単ニャ。右足が落ちる前に左足で左足が落ちる前に右足でニャ!」


「なるほど・・・。って納得できる訳無いでしょうが!」


「うるさいから少し黙ってるニャ!」


ガスッ!


鈍い音と共に手刀がおっさんの首筋に振り下ろされる。


おっさんに耐え切れるハズも無く意識は闇の中へと落ちる。


それから三時間ほど経ったであろうか。


猫族らしき少女は湖の畔にある奇妙な建物の前に居た。


「ニャーのお帰りニャー!」


そう言った途端巨大な鉄の扉がギシギシと軋みながら内へと開いてゆく。


「お帰りなさいませ。」


開いた扉の先には20人程であろうか、黒地に白の飾りの付いたメイド服に

身を揃え一糸乱れぬ統率されているかのような佇まいにてお辞儀をする。


言葉とは裏腹にその言葉には感情が全くと言って篭っていない。


彼女達は自分達に与えられた仕事を淡々とすのみである・・・・。


猫族の少女に抱えられたおっさんは未だに意識を取り戻す様子はみられず

小脇に抱えられたままである。


おっさんの運命はいかに・・・。

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