空腹は最高の調味料?
ギルドハウスでの一悶着の後のお話です。
「お客さん、昨日はずいぶんと疲れた様子で戻ってきたねぇ。
若いからって無茶をしたら体に毒だから気をつけなさいよ?」
昨日ギルドハウスで一悶着あった後、宿に戻るなり夕食も摂らずに爆睡をかました結果夜も明け切らない内に腹が減り目が醒めてしまったのだ。
空腹で寝付けず仕方なしに手持ちの干し肉を齧って居た所で女将さんに見つかりありあわせの物で夜食?を喰わせて貰っている所だ。
残りもで作ってもらった雑穀シチューの様な物と携帯食料と良い勝負の残り物の黒パンだがこんなに旨いとは思わなかった・・・。
「面目ない・・・。」
「若い内に苦労するのは良い事だけど、遊びに夢中になりすぎると
ウチのダンナみたいに身を滅ぼすよ?」
「ダンナさんって衛兵なんでしょ?そんな人が身を滅ぼすなんて・・・。」
「アタシは代々此処で宿屋件酒場を営んでいる家計だけど、
ダンナは昔冒険者だったのさ。
駆け出しの頃なんて、その日に喰うものにも困る位の稼ぎで
ウチでしょっちゅうタダメシとまではいかないものの、雑用する代わりに
今のあんたみたいに残り物で飯食わせてやってたのがついこの間のように思えるよ・・・。」
「うへぇ・・・。」
「あんたは、昨日この町に着たばかりって話だけど仕事は決まってるのかい?
ウチは、文無しを泊めておける程繁盛している訳じゃ無いから早いトコ
無職を卒業しておくれよ?」
「え~と、自分は少し錬金術と魔法が使えるのでそれでなんとか食えるとは思います・・・。」
本当は当面食うに困るような状況では無いのだが、宿に引き篭もり状態だと
変な噂が立ちかねない・・・。
などと雑談をしていると何やら騒がしい音が外から聞こえてくる。
「女将さんスイマセン、急ぎでお湯と包帯になるような布切れを用意していただけませんか?」
「おやまぁ、又新人がクエストでミスでもして怪我をしたのかネェ・・・。」
そう言いながら女将さんはカウンターの奥へと入っていく。
こりゃ、夜も明けきらない内に大事になってきたな・・・。
「あんた、ぼーっと座ってるだけならお湯の準備でもしてくれるかい?
さっき魔法が使えるって言ったんだ、お湯くらいできるだろ?」
おっと、さっきの言葉が自らの墓穴を掘る結果となるとは・・・。
まぁ、お湯くらいは大した労力でも無いし、困ったときはお互い様って奴だな・・・。
「いてぇ、いてぇよぉ・・・。」
「女将さんこんな時間にスミマセン・・・。
教会の治療院もまだ開いてなくてそのまま放っていたら血が出すぎて命に関わり兼ねないんで・・・。」
そうは言うが怪我と言っても、骨が折れてる訳でもなく腕が千切れているわけでも無い・・・。
かすり傷とは言いがたいが重症と言うほどの大怪我でも無いのに
大げさだな・・・。
あれか?ホントに駆け出しの冒険者か?
いや、コイツ確か何処かで見たことがあるような・・・・。
「おい!、ベンの野朗が大怪我したって聞いたんだがまだ生きてるか?」
「あ、兄貴!?まだ死んではいないんですが傷が深くて血が止まらねぇんですよ。
一応治療院に行ってはみた者のまだ時間が早く誰も出てきてくれなくて・・・。
それで、困って女将さんの所に駆け込んだしだいです・・・。」
あれ?これで大怪我ってどうゆう事だ?
こんなもんEXヒールか中級ポーションですぐに治る傷じゃねぇか。
でも、俺の認識が間違ってたらめんどくさい事になりかねないな・・・。
ここは、ヒールと下位ポーション(最高品質)で誤魔化すしかないかな・・・。
ヒールは込める魔力を多くすればEXヒールの6割近くの回復量になるだろうし
傷も下位ポーションでも最高品質なら塞がるだろう。
中級なら傷も残らないだろうがそんなものを出せばめんどくさくなりそうだ・・・。
「お湯の準備が出来ました。」
「あんた、見かけによらずに仕事が速いね。
傷が広がらない様に縛るからこの布を細くしてくれるかい?」
「どこかで聞いた声だと思ったら昨日の兄ちゃんじゃねぇか!」
あ、昨日の順番待ちの最中にすれ違ったクラインとか言うおっさんじゃねぇか・・・。
てことは、他の二人は昨日の取り巻きか・・・。
やっぱり、面倒事じゃねぇか・・。
でも、ここで知らぬ存ぜぬは得策とは言いがたいからさっさと治して逃げるかな・・・。
「女将さん、傷口をお湯ですすげば良いですが?」
「あぁ、お湯と言っても少し冷めた位が良いネェ。
どれどれ?うん、この位なら良いだろう。
いきなり冷たい水をかけると激痛で気を失うかも知れないからネェ。」
ふむふむ。
ゲーム時代じゃ、痛覚なんて無かったから解らないが確かに現実世界で
切り傷に水をかけられたらそりゃ激痛だろうなぁ・・・。
「お湯をかけるから、舌をかまない様に布でも咥えさせておいてくれ。」
「お、おう・・・。」
クラインのおっさんの呼びかけを無視して指示をだす。
「女将さん、大したもんじゃ無いですが手持ちにポーションがあるので使いますね?
あとはヒール位なら使えますので、治療院に行くまでも無いかと思いますが・・・。」
「あんた!?ヒールも使えるのかい・・・!?」
なんか無駄に愕かれてるが面倒だから放置だな・・・。
「世界の理を統べる彼の者の力の欠片を持ちて傷を癒せ『ヒール』!」
うん、詠唱は適当だ。本当は詠唱なんて必要無いがあれこれ質問されてもめんどくさい。
ヒールをかけると案の定傷のほぼ8割は塞がり皮膚にうっすらと傷跡が残るのみだ。
だがこのままだと傷が開く恐れもあるためにアイテムバックから先程のポーションを取り出し傷口にかける。
「うぐっ!」
うん。飲むと死ぬほど苦いから当然傷口にかけたら痛いよね・・・。
自分の時は魔法だけで治そう・・・。
するとどうだろうか、うっすら残っていた傷口も一本の筋が残るのみ。
ちとやりすぎたかな・・・?
「おい、兄ちゃんコレじゃポーションの代金には程遠いかもしれんが今支払えるのはこれだけだ、足りない分は稼いでくる・・・。」
そう言いながらクラインのおっさんは汚い皮袋を突き出してくる。
「そうですねぇ・・・。
そんな端金受け取るのもどうかとおもいますが・・・・。」
「あんた若いのに結構エグイ事言うネェ・・・。」
あ、女将さんが白い目で見てくる・・・。
ここは誤解されないように女将さんにだけわかる様にウインクをする。
「だから、こうしましょう今回の件は貸し一つって事でどうでしょうか・・・?」
「貸しか・・・、解った。俺達に出来る事があればいつでも言ってくれ。
俺達だって冒険者の端くれだ。助けて貰った恩を踏み倒すような真似はしねぇ。」
「「あ、兄貴!」」
「おい、怪我したのは俺だ!兄貴達に責任は無いんだ!!
頼む!治療の代金の分借金奴隷でも何でもかまわねぇから・・・。」
ふむ。お涙頂戴パターンか・・・。
これがモフモフだったら誘惑に負けそうなんだが・・・・。
「おっさんの奴隷なんていらねぇし、クラインのおっさんがそれで良いって契約も済んじまったしな。」
チラッと女将さんを見ると赤い顔をしてクネクネしてる・・・。
あれ?これはヤバイパターンじゃねぇか?
後でしっかり誤解を解いておかないとな・・・。
~~~数時間後の酒場~~~~
「なんだいなんだい!紛らわしい事をするんじゃないよ!」
いや、だってあんた人妻だろ・・・。
若いのにウインクされた位で勘違いってどんだけチョロインですか・・・。なんだかんだで誤解を解くのに二時間ほどかかりげんなりな俺ですが
誤解も解けて一安心。
日も昇り昼も近い頃合になった為昼飯を食うことにしたものの
俺ってこの街にきてから何もしてない事に気が付く・・・。
早く家を見つけないと本格的にホームレス生活が確定となる・・・。
「これを食い終わったら少し情報収集に行ってきますよ。」
「良い心がけだね!若い者がいつまでも無職じゃ良い嫁さんもらえないよ?」
おおぅ。女将さんの中では俺は完全に無職扱いらしい・・・。
嫁さんかぁ・・・。
リアルの生活じゃ想像もしなかったもんなぁ。
モフモフも悪くないがまずは生活出来るようになんとかしないとな・・・。
無職認定は辛いものがあると思います。
自称自営業とか・・・。
でもブラック企業に勤めるといっそ無職のが気楽かもとも思いますが
すぐに生活の為と割り切る自分がいます・・・。
次回もなるべく早く上げれるようにしたいと思いますが
よろしくお願いします。