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世界を終わりに導く悲劇

義賊の少女は、怯えてる。

作者: 悠木おみ

「魔女は、世界を閉じる。」から「魔女の弟子は、真実を知る。」の間にあった逃亡中の見習い義賊の少女の独白。

 寒くて、目が覚めた。



 ボクたちは王国に追われて、逃げてる。

 だからホントはあまりよくないかもしれないけれど、火を焚いて、交代で見張りながらテントで眠ってる。


 ちょっと前までは違った。

 瘴気に充てられて凶暴化した魔獣とか、その元凶の魔王とか、その討伐の旅でもやっぱり野営も多かったし、絶対快適なんて言えなかったけど、ここまで怖くも辛くもなかった。


 性格はあんまよくなかったけど。

 気位も異様に高かったけど。


 それでも底が尽きないんじゃないかってくらい魔力を持ってた魔法使い(魔術師って言ってたけど、違いなんて知らない)のおかげで、野営でも安全な結界で、暖かい中で眠ってられた。

 結界や保温ができるのは魔法使いだけじゃなくて、むしろ神官さまの得意分野、専門分野みたいな感じらしいけど、神官さまだけじゃ夜の間中結界や保温をし続ける魔力が持たないみたいだ。


 そこで初めて、ボクは魔法使いのすごさを知った。

 今は、魔法使いが一緒にいないということを、実感した。



 あの日、魔法使いがいた最後の日。

 魔法使いはいくつもの黒く光る魔石を、勇者くんと神官さま、聖女ちゃんに渡していた。

 勇者くんの剣に何度も何度も魔法をかけて、神官さまには分厚い本と、収納袋(魔法使いが持っていたものより、ものが入らないみたいだ)を渡して、聖女ちゃんには何十枚も束になっている模様の書いた紙を渡して、魔女は消えた。


 夜明け前に魔法使いの知り合いだっていう男の子に叩き起こされて、男の子に先導されながら、魔法使いと魔法使いの弟子以外のみんなと城下町を走り抜けた。

 逃げてくださいって言われて、魔法で作った馬の形をした土人形で、ボクたちは王都を脱出した。


 いくつか町を経由する中で、ボクたちは王国に指名手配されたことを知った。

 魔法使いは、悪い魔女として火炙りにされて、殺されたことを知った。



 わからなかった。どうして、ボクたちが指名手配されているのか。

 どうして、ボクたちが裏切り者として追われているのか。


 どうして、魔法使いが火炙りにされて、殺されなくちゃならなかったのか。


 手配の中に、勇者くんと魔法使いの弟子の分はなかった。

 それもまた、嫌な感じだ。

 別に勇者くんと弟子くんだけが手配されなかったことが嫌だというわけじゃない。

 そもそも、“魔法使いの弟子”は旅を始めてだいぶ経ってから、それもたまたま立ち寄った村で仲間になった。

 魔法使いにしつこくへばり付きながら懇願して、泣き落として、それを見ながら魔法使いは珍しくもうんざりした表情を浮かべて弟子にした。

 一番は魔法使いだったけれど、ボクや勇者くんたち、みんなの得意なことを教え込んだ弟子くんは、魔法使いにしては規格外的に接近戦にも強くなった。うん。それでも、魔法使いには勝てなかったけど。


 途中で別れる予定が、結局魔王との戦いにもついてきて、魔王とも戦った。


 そんな弟子くんが手配されなかったのは、魔王討伐の“精鋭隊”として城に凱旋した中に入ってなかったからだ。

 もちろん義賊で、弟子くんよりだいぶ前に仲間に入ったボクも城には凱旋しなかったけれど。

 見習いとはいえボクはもともと義賊。義賊団の盗みの仕事こそまだしたことがなかったけれど、義賊団なかまが貴族や悪徳商人たちから盗んだものを、元々の持ち主に返したり、盗んだものを換金したお金で食料や布地を買って孤児院に届けたりはした。

 もちろん、偵察や囮としての侵入も。それから、脅されている女性に頼まれて、貴族の屋敷から手紙を盗んだこともある。


 だから、勇者一行としては顔を公には見せていないボクは、義賊として働いた仕事の罪で手配が出た。

 まぁそれは仕方ない。

 手配されるのが、捕まるのが、逃亡生活が嫌だったら、こわかったら、そもそも義賊の活動なんかに加わらず、国にポツポツと小さくある集落のどこかに、こもっていたらよかったんだから。

 実際、ボクの生れた村の、特に女の子なんかはそういう人が多い。ボクは兄貴たちの影響もあって、同じ年の女の子としては活発で、活動的な方だ。


 その無鉄砲さが、ボクが勇者くんたちに出会うことになった原因なんだけど。

 それはまた、おいておく。


 この逃亡生活が始まってから、勇者くんと神官さまはいつも難しい顔をしていろいろ話し込んでいることが多くなった。

 ボクたちには意見を求めないけれど、肌がひりつくようなピリピリとした感じが、常にまとわりついているみたいだ。

 戦うことが何よりも好きで、戦うことにしか興味がない、戦闘狂の騎士くんも、見たことがないくらいピリピリしている気がする。こんなことは本当に珍しい。


 聖女ちゃんだって、口にはしないけど不安そうな表情を浮かべている。


 聖女ちゃんは自分が嫌疑をかけられた事よりも、勇者くんや神官くんが消耗していることの方が気になっているみたいだ。

 どこまでも人の心配しかしない。

 手配の内容は、この中の誰よりも聖女ちゃんが重いというのに。


 僕は当然のこと、盗賊として。

 騎士くんは武器の横流し、情報の漏えい。

 聖女ちゃんは第一王女の殺人未遂。

 神官くんは犯人隠秘。


 それから、火炙りにされた魔法使いは、邪神信仰の罪で裁かれた。


 ボクを含めてみんな死刑相当の重い罪をかけられているが、この中で最も重いのは王族、第一王女の殺人未遂で手配をかけられた聖女ちゃんだ。

 王族殺しは、大罪だ。たとえそれが未遂であっても。

 見つけ次第、即座に処分することすら、命じられている。




 ぷるりと、体が震えた。

 寒いのもある。けれどのこの寒さは、体じゃない。怖い寒さだ。


 ぱちぱちと燃える炎の音を聞きながら、僕は毛布をギュッと握りしめて、無理やり目を閉じた。

 そうすることが、眠るために一番良いと思ったから。


 朝になったら、またたくさんの距離を移動する。ボクたちは、ボクたちの手配から身を守るために、中立国へ向かっているのだから。



(はやく、はやく、中立国へ行こう。もう魔法使いも、弟子くんもいないけれど、中立国で体勢を立て直して、ボクたちの手配を解くんだ)

仲間内に一人はいてほしい、技能(鍵開けとか、罠解除とか、索敵、探索)特化の軽(?)犯罪者の少女。

狂暴化したランクの高い魔獣に襲われていたところを、魔王討伐の旅に出ていた勇者たち(聖女、神官、騎士、魔術師)に助けられた。


テンプレート的に、この少女は勇者が好き。微妹属性で懐っこいので、ライバルであるはずの聖女ちゃんとは仲良し。ただし、魔術師とは折り合いが悪くてあまり仲が良くない。

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