表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/122

第八十六話 冬

「そもそもさ、そもそもだよ」

「……」

「アルディリアって誰だよ!」

「……」

 イゼキエルの目が点になる。

「めちゃめちゃ連呼されてたしさ。精霊についてもよくわからんから否定もしなかったけど!俺はアルディリアって奴知らないし、人違いだと思うんだよ」

「……」

「それに契約ってなんだよ。冬が来るってどういうこと。冬が来たらなにかまずいのか?てか季節を来ないようにするってできんの?!」

「………………相手は精霊だ」

「精霊ならできるってことか……」

 俺の問いかけに根負けして、長い沈黙のあとぽつりとイゼキエルは答えた。

「それに、頭のどっかで、無視しちゃいけないって気がするんだよな」

 頭を抱えてうずくまった俺の頭上からため息が落ちる。

「精霊との関わりに覚えはないのか」

「……一応使い魔として精霊と契約してたりはするけど、それが契約だったりシルフとかと関りがあるとはあんまり思えないんだよな」

「精霊を使い魔だと?」

「え、なにかおかしいのか?そういや、従魔とも言うんだっけ」

「そういう問題じゃない。要は召喚した精霊と契約したということだろ。契約した精霊のことを使い魔、もしくは従魔と呼称はしない」

「え、そうなのか。あ、いやあれだ。俺の使い魔は珍しいって聞いたな。闇の精霊でもあるが、魔獣でもあるんだ。森でたまたま出会って、名付けたことで使い魔になった。だから召喚ってやつもしてない」

「そういうことか。魔獣であるなら使い魔と称しておかしくはない。それ以外に精霊と関わった覚えはないのか」

「ないな」

「覚えていないだけという可能性は」

「うーん。実は四か月ほど前までは魔法がない場所にいたからなぁ。そもそも精霊とか、召喚とかと関わることはなかったはずなんだよな」

「魔法がない?どんな辺境の田舎でも魔法は使われているのに、お前どこから来た」

「あ、えーと。めっちゃ遠くだよ。島国で、ほとんど森に覆われてる小さい国。閉鎖的なとこだからさぁ。魔法とかなかったんだよな」

「……」

 あっぶねぇ!そうか、この世界で魔法は隅々までいきわたってる技術なのか。迂闊にしゃべらねえように気を付けないと!

 まあ日本は鎖国とかしてたし、嘘は言ってない。鎖国してたのはずいぶん前の話だけど。

「……まあいい。とにかく、本当に覚えがないんだな」

「うん、ない。でも現状がこうってことは、月夜との契約がやっぱり関係すんのか?俺が気づいていないだけで、あれが召喚だったとか」

 そういや月夜が現れた時、注連縄みたいなロープがあった。あれを切っちまったのが実は召喚ってやつだったとか?」

「その可能性は低い」

「え、なんで」

「……」

 なんでそんなことまで詳しく説明しなければならないんだ。イゼキエルがそう思っているような表情でいたが、俺のねばりに諦めたようにため息をつく。

「お前がその使い魔と契約したのが4か月前なら、それが召喚によるものではないからだ」

「なんでそう言い切れる?」

「ここ6年程、精霊召喚が成功したことはない」

「え、そうなの?」

「原因は不明だが、精霊が召喚に応えなくなった。以前はそれなりの数いた精霊術師はかなりの数が廃業している」

「ほーん。あ、そうか。6年前から召喚できなくなったってことは、4か月前の俺のも精霊を召喚したわけじゃないってことか」

「今日の様子をみる限り相当好かれているようだから例外だった可能性はあるがな。だが、恐らく……」

「だよな。あれは、【俺】を好いてくれてるわけじゃないからな」

 本当に人違いなのか、それとも俺を通して別人をみているのか。どちらにしろ、俺自身でないのは確かだ。

「てなると、そのアルディリアって人が冬を止めたって話から推測を……ぐっ!」

「!」

突如頭痛が俺を襲う。頭の中が割れるように痛い!

だが、その痛みの中で見えたのは、町の中が猛吹雪に埋もれていく光景だった。見覚えのある石壁が真っ白い雪に消されていく。それは生易しいものではない。そこにある命が一瞬にして凍り付くような極限の世界。息をすれば肺が凍り、一歩踏み出せば足が冷え固まってボキリと折れる。命あるものを全て刈り取るような、そんな冬の光景がフラッシュバックした。

「ぐぅぅぅ!」

「おい!」

「……………………………………いってぇ」

 脳を駆け巡る光景が収まると、頭痛も引きはじめる。痛みを口に出せるぐらいには回復した。

「……あれは、ルインだ」

「は?」

「今、たぶんシルフが言う【冬】が来た光景を……みた」

「どういうことだ。なぜそんなものをみる」

「わっかんねぇ。でも、今見た光景の中に、ルインで見た壁泉もあった。だからルインに【冬】が来るんだ。ほとんど雪で埋まってて、とても人間が、人間だけじゃなく動物や魔物もそこいられないような状態だった。

 だって凍るんだよ。しかも突然来る。それまでは比較的暖かかったのに、一気に氷点下だ。その落差に耐えられる奴はいない」

「それが本当にシルフのいう【冬】だという証拠は」

「……ねーよ。けどさ、この状況でこんな頭痛と一緒に見せられた光景が、無関係とも思えねーだろ。別に今俺寝てて夢をみたとかでもないんだぜ」

「……お前が自覚してないとしても、シルフと因縁があるだろうお前がみた光景なら、それが奴らの言う【冬】である可能性はある、か。他に読み取れたことは」

「いや、今わかるのはそれくらいか。場所がルインだってことと、暖かかった気温が一気に下がるってことくらいだな。なんつーか、急にくるみたいなんだよ、その冷気」

「……。ならば今【冬】が来たとしたら、死ぬな」

「!そうか、それならそのアルディリアって人が止めようとしたのもわかるな」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ