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第八十四話 赤い目

「ほれ、妾がなにもせずとも」

 シルフが口元を手の甲で隠しながら目を細める。

 じゅぶじゅぶという湿った音に振り返ると、男の周りの地面が沼のようにぬかるみ、沈みこみ始めていた。

 朽ち果てるってそういうこと?!そんなすぐに起こることなの?!

「俺の友達だ!」

「!」

 俺はシルフに叫んだ。

叫んだからには世に放たれた言葉を修正することはできないが、よくよく考えると俺友達がいたことねぇんだよな。教室でもぼっちだったし、そうなるとこれが初めての友達宣言?え、恥ず!てか、友達宣言て考え方がなんかはずい。小学生か俺は!

 縁深きもの=友達、仲間、家族を指すというなら、どうやら招かれていて無事でいられるらしい俺の友ということにすれば、この場はおさまる。

 状況的にそう言ったほうがよかろうということで言ったことだが、どうにもそのワード自体が気恥ずかしくなり頬に赤みが差す。

「と、友達だから、消える必要は……っ!」

 恥ずかしかを頭を振って散らしてとにかく話を進めようとした瞬間、後ろでバキッと何かが割れる緊迫感の開始を告げる音と共に、ぴろりんと間抜けな音が響く。



 イゼキエル・ニクス・フルメン


HP  666/666


MP  106000/150000


TA  666/666


LV 81


金 2000万シギン


【魔法】 エインスペル(光/補助)

     ゲリール(治/回復)

     ウィンドスラッシュ(風/攻撃)

     ライトニング(雷/攻撃)

     フィスレイ(雷/攻撃)

     レイシェル(雷/防御)

     以下略


【魔法属性】 地水火風光闇氷雷治 以降増可


【称号】 魔力に愛されしもの 淀む瞳 魔王 シスコン 孤独ではない孤独 デルトナ学園生徒 元首席アンテデュクス次席 魔術師 魔導研究者 血に沈むもの


【スキル】


直感 LV79 直観 LV66 逃げ足 LV50 索敵 LV65 鑑定 LV88 審美眼LV 44  観察眼LV55 


【職業】


《魔王(になるはずだった者)》《学生》《魔術師》《魔法使い》《魔導士》《研究者》《シスコン》



 俺はウィンドウ画面を開くような意識をした覚えがない。自動的に開かれるのは、敵意を持たれた時だ。つまり。

 つと視線を背後に向ければ、男の赤い目は再び燃え上がる怒りをたたえ、俺を睨みつけていた。

 あ、お怒りなんですね。

 今まで何を考えているのかわからなかった男の顔に、ありありと『余計でふざけたことを言うな』と書かれている。友達と言われることが嫌なのか、がそう言ったことが不快なのか、むしろそれの両方なのかは知らないが、わりとここに来て怒りを浮かべるまでは涼しい顔ばかり(フードを被っているときは表情は見えにくかったが)だったので、よほどの地雷だったのかと遠い目になる。

 そして不快な俺の発言を続けさせないためなのか、彼はぬかるむ領域よりもさらに外縁の地面を見えない圧でへこませながら、シルフのミニ竜巻をも引きちぎり立ち上がった。たぶん魔力を使った芸当なのだろう。ああでも、友達って発言が効いたのか、泥濘に沈み込む現象は止まっている。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 荒い息と突き刺さる視線に振り返りたいが、シルフは俺の背後に気を反らす様子もなく、俺に会話を投げかける。

「縁深きものとは友達と言ったけれど、妾は友達ってどういうものなのかわからないのよ。アルディリアが以前言っていた言葉ということしか覚えてないの。でも、この人とは今日会ったばかりよね?名も知らぬ相手を友と呼べるの?」

 その言葉から、シルフがいつからか正確にはわからないがずっと俺達を見ていた、もしくは監視していたことがうかがえる。

「名前なら知ってる。彼は、イゼキエル・ニクス・フルメン」

「ふーん」

 バチンっとイゼキエルから太い電光が走ったが、それをシルフは風の盾で弾き返す。そしてそのまま身の丈ほどある風の玉でイゼキエルを押しつぶした。しかし彼はそれにすら魔力の障壁を張り、耐えている。先ほどまでは怒りに燃えていたにも関わらず、少し冷静さを取り戻したようだ。

 イゼキエルを拘束しているのはシルフなのに、彼の視線は俺に向いている。俺への警戒心はMaxなんだろうなと思いつつ、彼の視線から問いかけのようなものを察する。

 まあそうだよな。なんで名前知ってるのかとか気になるよな。

 それよりも気になるのは、彼の赤い目が徐々に濁ってきているような気がすることだ。なぜか、それを進めてはいけないと頭の中で警鐘が鳴る。

 そして俺は、半ば予想と勘ながら、なぜ名がわかったのか理由を話せそうだと思った。なんかきゅぴーんとひらめいたんだよな。もしかしてって。

 俺はイゼキエルに顔を近づけ、小声で言った。

「あんたの名前、テルマから聞いたんだ。あんたって、テルマの弟だろ」

 その瞬間、イゼキエルの目が光を戻し、シルフの拘束も霧散した。

 その様子をみて、俺のひらめきが正しかったことを知る。

 さっき表示されたウィンドウ画面をじっくりとみる暇がなかったが、シスコンって文字が目に入った。テルマもどうやら溺愛している弟がいるとは彼女の話からわかったし、その弟が魔法が得意とも言っていた。そしてイゼキエルが俺の正体を疑ったとき、テルマのことを知っているようだった。しかも彼女のダウジングを信頼している様子で。

 となると、イゼキエルがテルマの弟じゃね?とひらめいたのだ。名前も違うし、違う可能性も高かったが、当たってよかった。

『スキル直感とスキル観察眼がレベルアップしました』

 ウィンドウ画面が再び開かれる。

 とりあえずイゼキエルの疑いの眼差しが完全に消えたわけではないが、落ち着いたようだ。

「さてと、そちらも落ち着いたようだし、妾の話をしてもよいかしら?」

 シルフの中でもイゼキエルの排除の件は落ち着いたらしい。

 このまま俺が話を進めていいのか迷い、ちらりとイゼキエルをみるが、彼は無言を貫いた。じゃあまあいいかと、話を進める。

「そういえば、なんか用があるんだったよな?」

「ええそう」

 シルフはまるで明日の天気の話でもするような口調で言った。

「アルディリア。あなたとの契約が切れるわ。もうすぐ冬がくるわよ」




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