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第八十一話 時水晶

水晶が激しく発光して光が収まると、その場にはアレクセイだけいなくなっていた。

 一瞬にして人が消えた困惑に、約一名を覗いてその場に動揺が広がる。。

 いったい何が起きたのか。どうしたらよいのか。なにかとっかかりを見つける前に。そう、それこそ最初の標的を見失った剣先を、すかさずもう一つの標的に切り替え、ファウストを切り上げようとしたエレノアの前にアレクセイは再び現れた。

「おやおや、ずいぶんお早いお帰りで。どうです?会いたい人には会えましたか?」

「……」

 ファウストとエレノアの間に現れたアレクセイは、エレノアの剣を左手の指二本で受け止めていた。

「っ!」

 これまでエレノアの戦いを見てい俺からすれば、エレノアはとても強い少なくとも剣技での戦闘で劣勢に立たされていたことは見たことがない。そんなあいつの剣を簡単に素手で受け止められるなんて。

 エレノアはぐっと力を込めているようだが、アレクセイはびくともしない。だが、一方のアレクセイはエレノアをじぃっと見つめた後、ため息をついた。

「そうか、君は彼女の……。それで時水晶ときずいしょうが反応したのか」

「なんの……話をしているんですか?」

 エレノアの問いには答えず、アレクセイはふいっと視線をずらし、ファウストと話し出す。

「彼女とは会えなかった」

「おや、失敗でしたか」

「いや、時間自体はとべた。だが、彼女のいる時代には行けなかった」

「なるほど。時間軸も考えなければならないということですね」

 そのとき、ぶわりと黒い触手のような、煙のようなものが周囲から噴き出す。

「おお、これは!『変質』!いいですねぇ。この場所は興味がつきないですねぇ!」

「はぁ。行くぞ。あれらには手を出すな」

「おやぁ?見逃すのですか?」

「事情が変わった」

「ふむ。なるほど。……まあ、あなたがそういうなら従いましょう」

「……今日は大人しいのだな」

「ええ。手を出さないだけ・・であれば、私にも益がありますので。ヒヒヒヒヒ」

「そうか」

 一度目を閉じたアレクセイは、エレノアと向き直り彼女の腕を掴む。

「くっ!」

「ともに来るか?」

「お断りします!」

 エレノアはその手を振り払おうと力を込めるが、びくともしない。だがアレクセイはさらに腕に力を込めたように見えた。その時、俺の頭のどこかでぶちりと、何かが切れた音がする。

「その手を離せよ」

 俺の足元から徐々に激しくなる風が吹きあがる。ゴオッと風の塊が走り抜け、アレクセイとエレノアの間に叩きつけられると彼らの手が離れた。

「おお!無詠唱のうえ『変質』の影響を受けていない!これは素晴らしい!」

 ファウストが一人ではしゃいでいるが、誰もそちらに目を向けない。解放されたエレノアはそのままふわりと崩れた屋根から離れ、俺の隣に降り立った。

「大丈夫か?」

「すみません、ありがとうございます」

「いや、なんかよくわからんがあんたが来てくれて良かった気がする」

「……いいえ、恐らく私が来たせいで彼らの目的が達せられたのかもしれません」

「?」

 俺が疑問を差しはさむ余裕もなく、地面が揺れ出し上から石が崩れ出している。そんな中でもアレクセイが離れた片手を眺め、今度は俺に視線を合わせてきた。

「そういうことか」

 俺はその視線の強さに背筋が凍る。

 そんな衝撃を受けているうちに、アレクセイとファウストは同じ光に包まれると、一瞬で消えた。

「早く動け!」

 フードの男が鋭く叫ぶ。

 そうだ、固まってる場合じゃない!

「でも、どこに……」

「こちらです」

 緊急事態発生中のその場にそぐわない、色を感じない知らない声がかけられた。振り返れば、遊園地を歩き回っていた白い自動人形が立っている。

「ユートさん!」

「うえっ!」

 俺の頬すれすれに俺の身長ほどの岩が突き刺さった。

 考えている暇はない。俺とエレノアとフードの男は、その自動人形が導くままついていく。やがてどこかの入り口にたどり着き、そこに入った瞬間ぶわりと風が下から舞い上がって体が浮いた感覚があったあと、視界が変わった。目の前に広がるのは白と緑と光の世界だった。爽やかな風が優しく体を包み、ミントのような香りが鼻をくすぐる。

 一瞬前の環境のギャップが大きすぎて、脳が処理を受け付けない。

 つい先ほどまでいたエレノアは姿を消し、フードの男だけが俺と同じように困惑を浮かべている。

 キラキラとした小さな光が無数に浮かんでいて、それが微精霊だったか、とようやく頭が回り出した。

 一歩踏み出せば、想定していた感触と違って膝が砕けかけた。まるで雲の上のように地がふわふわしていて、白い綿の上を歩いているようだ。周囲に生える木々の葉は緑色なのに、幹は白樺のように白い。

「やっと来てくれたのねぇ、アルディリア!」

ふわふわと漂う微精霊の中からそれらとは一線を画す存在感の彼女が、恐らく女性で彼女で会っていると思われる存在が、俺に話しかけてきた。


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