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第七十八話 蟲毒

 自分が小さな奴でよかったと胸を撫でおろす。と次の瞬間にはぶんぶんと首を横に振った。

「……いやいや、小さくてよかったなんて思ってないからな!」

 まだ俺の身長は伸びるはずなんだ。筋肉だってつくはずなんだ!

 俺の上を横切って行った観覧車の輪は岩壁に突撃して激しい音を立てた後、ぐわんぐわんと傾き回りながら倒れた。回るたびに地響きが起きて一瞬体が浮いたような気がするが、気がするだけだ。気のせいなのだと結論付けて、首を巡らせれば、反対側には見たこともない魔物が暴れまわり、電撃がぱりぱりとそれにまとわりついているのが見えた。だがその電撃はどうも魔物から発せられているのではないように見える。

「誰か、戦ってるのか」

 電撃という時点で、思い当たる人物がいた。

 俺が、それこそ観覧車ほどの大きさの魔物に近づくと、やはりフードの男がタリス達を庇いながら戦っていた。タリス達はそれこそ武器を手にしているが、フードの男の戦いに入れない様子だ。

戦いに目を向ければ、戦っていた相手は非常に奇妙な魔物だった。それこそ地上でみたキメラに一瞬似ているような気がしたが、目の前の魔物はもっといびつで禍々しい印象を受ける。上部のほうに確かに目はあるのに、くちのようなぽっかりとした穴は下のほうにある。背からはサソリのような尾が三本生えていて、水晶のような棘が背を覆い、目より下からはコウモリのような翼がある。なんか、いろんな魔物が混ざり合ったようだ。

 俺が走って魔物の視界の範囲に入ると、濁った変色した血の色をした魔物の目と遭う。するとぴろりんと音が鳴り、ステータスウィンドウが表示された。




蟲毒こどく


HP  〇★▽/?◆□


MP  △△/◇×●


TA  !#“/☆彡%


LV $&#




【魔法】 %$!!“〇▼■□*!




 なんか難しい漢字が表示されたかと思えば、カーソスの時と同じように文字化けしている。いや、今回は文字化けというよりいろんな文字が重なりすぎて読めない状態だ。

 俺がそんな風に少し表示に気を取られた瞬間、俺は蟲毒から吐き出された光線を視界の端で捉えて、あ、ウィンドウ画面が勝手に表示されるのって俺に敵意が向けられた時だ、と今更ながら気づく。だが、気づいたところで体の反応は追いつかない。俺がせめてと目を閉じずにいると、俺の前にフードの男が滑り込んできた。

 見えない壁に弾かれ、光線の軌道が変わるがフードの男の顔をかすめる。彼はもちろんそれをさけたが、フードには触れてしまったようで、光線はフードを石化させボロボロと崩れ落ちた。そして、輝く白い髪が零れ落ちた。そして彼の赤い瞳をその場の誰もが捉えた時、突如爆発してあふれ出た感情が体を縛り付けた。

「う……そ……」

「白い髪に、赤い目!」

 タリス達の目は、魔物よりも彼にくぎ付けになった。だがそれは良い感情によるものではない。

 彼はとても美しかった。肩で整えられた髪も、その瞳も、男の美人。まさに佳人かじんといったようだった。なのになぜ、こんなにも心が恐怖する。近づいてはならない、危険だ、と頭のなかで警鐘が鳴り響く。

 おそらくこの場にいるもの全員が感じている感覚。なぜその容姿をみただけでこんなに怖いのか。恐怖もあるが、何より嫌悪のようなものもある気がする。そう、たとえば檻の外にいるライオンと対峙してしまったかのようだ。怖い、なにをされるかわからない。生殺与奪の権利は相手にある。そんなような感覚だ。

 俺達の様子に、彼はちっと舌打ちしてこちらに背を向けた。

 動けなくなった俺達よりも、対処をしたほうがいいと判断したからだろう。それはもちろん正しい。蟲毒はこちらの事情を汲んではくれないのだから。全員が動かなければ死、あるのみだ。

 そして、俺は自分の中で勝手に強制的に湧きあがるこの本能的な恐怖に納得できないでいた。フードの男が作ってくれた時間の間に、俺は理性を総動員して恐怖を押し込める。だってあいつはこちらに牙を剥いて飛び掛かるライオンではない。こちらに背を向け、バジリスクと俺達の間に入り戦っている。怖いものは怖いが、彼はなにも怖いことなどしていないのだ。恐怖に呑まれるべきではないと、唇を噛みしめて俺は理性を総動員する。

「理性を舐めんなよ!」

 俺達は本能と理性、その両方を備えて生きている。本能っていうのは強い。本能のままにとか、正解を引き当てるには本能に身を任せたほうがいいこともある。じゃあ本能だけに従っていればいいならなぜ、理性があるのか。それは理性もなければ自分を滅ぼすからだ。一番怖いの本能よりも理性の暴走だ。だから理性は使いこなさなければならない。

白い髪や赤い目がなんだってんだ!怖いさ、怖いんだよ、怖いけど!あいつは別に俺らの敵ってわけでも、めちゃくちゃ害があるやつでもないじゃないか。少なくとも今の時点では!急に容姿を見ただけでこんな感覚に捕らわれるなんておかしいだろ!

 俺らの様子を見て、そのまま逃げてもいいのに一人で蟲毒の相手をしてくれてんだぞ。俺らに背を向けて!

 今は本能じゃなく、理性が勝たなければならない瞬間だ。

 強張る筋肉と冷えて滞る血管に深呼吸して空気を送る。ついでに言えば俺の中からあふれてしまっている魔力にも意識を伸ばす。

 蟲毒って確か、呪術的なものだったはずだ。ムカデやらクモやらゲジゲジやらを一つの壺に入れて、蓋を閉じる。餌がないから中の虫達は互いに食い合い、生き残った奴が特別な力を持つ奴になるって話だったはずだ。


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