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第七十七話 チビ

「アリバイがないのはあんただけじゃない!あんたしかバッカスを殺せた奴はいないのよ!」

「だからって俺がなんでその人を殺さなきゃなんねーんだよ!今日初めて会った奴を!そもそもあんたらだって四六時中一緒にいたわけじゃないだろ。目を離したりはぐれたりとかあったかもしれねーじゃねーか!」

「私もカーソスもずっと一緒だった!離れたことはなかったわ!」

 イザベラの言葉の刃が俺に突き刺さる。この場をどう攻略したらいいかわからない。そもそも俺は、どう言う経緯でバッカスが死んだかはわからないが、その犯人はわかっている。犯人はカーソスだ。だが、俺が犯人の正体がわかったのはステータスウィンドウを見たからだ。この場の他の連中には見えないし、カーソスにアリバイがある以上どうイザベラ達に納得させたらいいのかわからない。とりあえず現段階では俺の疑いさえはれれば、犯人の証明は考えなくてもいいとは思うのだがその現状のしのぎ方がてんで浮かんでこないのだ。

 あー、くそ!どうしたらいいんだ!

 と思っていたところに、フードの男の声が差し込まれる。

 「いい加減にしろ。うるさいぞ。現時点での特定は不可能だ。今はそんなことにかまっている暇はない」

「特定できないって、こいつしかいないじゃない!それに、こんないつ出られるかわからない状況だからこそ、仲間を殺した奴を野放しにしておくなんてできないわ!次は私かもしれないのよ」

「ここにいる者の中に犯人がいるならな」

「え?」

 男は他に犯人がいると思っているのだろうか。でも、犯人はカーソスだ。今までウィンドウ画面の情報が間違っていたことはないと思う。ただ、犯人という情報以外が文字化けしていたことは気になるが。

 だけど、これは俺の欲していた助けだ。男にどういう意図があるかはわからないが、この場から解放されるためにはこれに乗っからない手はないだろう。

「それ、どういうこと?私達の他にまだ誰かいるというの?」

「だから特定は不可能だと言った。現状お前たちの中でそいつが犯人の可能性が高いとしても、断定することはできない。決定的な証拠がない。それに今は議論をしている時間はない」

 無言の俺は置いていかれて、イザベラと男の間で話が進んでいく。

 だがそのおかげでそこから離れることができた。もう用はないというように、男はその場から立ち去る。その後ろを俺も追いかけて、迷路から出るとほっと息をついた。

 とりあえず冷静になりたい。俺への疑いを晴らす必要があるのなら、カーソスが犯人である証拠を探さないといけないしな。このままだと俺自身がすっきりしないし。

 と俺が気合を入れなおした時、今まで園内に流れていたの調子はずれの音楽が、切り替わった。まるで特撮もので流れるような明るく激しい曲だ。

「なんだ?」

 俺より先にいて離れようとしていたフードの男も足を止める。俺と男の視線の先には、小さめの舞台があった。

「ヒーヒヒヒヒ!さあ、俺達と一緒にくるのだぁ!」

「キャー!誰か助けてぇ!」

 ヒーローショーだ、と俺は思った。黒いザリガニのような着ぐるみが、小さな女の子を連れ去ろうとしている。普通ならそこで戦隊ヒーローとかが登場する場面なんじゃないかと予想したが、一向に誰かが出てくる様子がない。

 もしかしたらヒーローショーではないのか、という考えが過ったその時、ドゴォオオ!!!という激しい音が遥か後方から聞こえた。

「今度はなんだ?!」

 何かが崩れる音とともに、キシャァァァァァという何かの叫びのような音が耳をつんざく。声の主は、観覧車の隣の地中から岩埃を上げながら現れた、蛇のような頭をもつ巨大な魔物だった。

 その魔物は首を激しく振りながら進み、その尾が隣にあった観覧車に当たる。

「え、これ、ヤバいんじゃ……」

 観覧車はその巨大な輪を支えていた柱が簡単に折られたことで、ゆっくりと地面を転がり始める。そして困ったことに、その進行方向に俺がいた。

 最初はゆっくりだった巨大な輪が、まるでタイヤのように徐々にスピードを増して転がってくる。

「えええええええ!これどこに逃げたらいいんだよーーーー!!!」

 俺は全力で駆け出した。

 さっきまで近くにいたはずの男はいつの間にかいなかった。後ろからはメリーゴーランドをぺしゃんこにした観覧車が追ってきている。観覧車の進行方向から外れようとしても、こういう時に限って逸れられるような横道がない。

「えっえっえっえっ、うわぁぁくるなぁぁぁ!」

 俺は今かつてないほどのスピードを出せている気がする!たぶんオリンピックに出たら優勝できる!そもそもオリンピックが無事開催されるかわからないけど!

 だがもはや観覧車は間近に迫っていた。このままでは間に合わない。どうしたら、どうしたらいいんだ!

 もう間に合わないと俺もぺしゃんこになる寸前で、目の前に下にくだる階段があった。一か八か、おれはその階段の段差に身を横たえた。

 必死に身を縮こませた自分の全身の上を鉄の塊が通りすぎていく。なんならちょっと階段のコンクリートか岩かが削られたが、俺の身が削られることはなかった。

「た、助かった……」

  自分が小さな奴でよかったと胸を撫でおろす。と次の瞬間にはぶんぶんと首を横に振った。

「……いやいや、小さくてよかったなんて思ってないからな!」

 まだ俺の身長は伸びるはずなんだ。筋肉だってつくはずだ!






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