第七十四話 犯人
「お願い!目を開けて!タリス!タリス―!魔法薬を持ってきてよー!!」
イザベラの声は大きく響いたが、バッカスが目を開けることはなかった。
その後バタバタとタリスとノル、そして一人で行動していたはずのフードの男も現れた。三人共同じように現れたということはどこかで合流していたのかもしれない。
「いったいなにがあったんだ。さっきまでちゃんと一緒にいて、しゃべってたのに!」
タリスが地に横たわる仲間の元へ駆け寄り涙を流す。
「傷の形から、刃物のようなもので切られたように見受けられますね。争ったような傷痕もないですし、魔物に襲われたというのは可能性が低いかと思うのですが……」
「じゃあ、誰か魔物以外のものに襲われたということですか?!」
ノルは周囲を見まわした。もしかしたら、自分達以外にもなにか得体のしれないものがいるかもしれない。
「わかりません。でも私たちはここまで歩いていて、私達以外のものは見ていません。動いているものといえば、あの白い人形のようなものでしょうが、襲ってくるようなものにも見えませんし、隠しているだけかもしれません。あるいは、私たちの誰かが……」
「そんなのあり得ない!俺達は仲間だぞ!そりゃオレオレ詐欺やったり引っかかったり、だまされたり借金を負わされたりしてたし、迷惑もかけられたけど、それを許せるくらい気のいい奴だったし、ここまで一緒にやってきた仲間じゃないか!」
「それは……確かにそうですが……」
オレオレ詐欺やったり……?
そこまで静かに見守っていた俺も、ちょっと思った言葉を飲み込むくらいの空気は読める。
「それに俺達は基本、二人か三人一組で行動してただろ?」
「じゃあ、なんでバッカスさんは一人でこんなことに。イザベラさん達と行動してましたよね?」
「そう、私とカーソスと、バッカスと行動してたわ。でも途中で、用を足したいっていうから離れて……。しばらく待っても来ないから、バッカスが向かった方向を探してここがあったから、まさかここにいるんじゃないかと思って入ってみたら、こんなことに……」
「じゃあ、バッカスさんは自分から離れたんですね」
「そうよ」
「……バッカスさんは用を足すと言って離れたのに、なぜこの建物に入ったんでしょう」
ノルが顎に手を当てた。まるで見た目は探偵さながらの仕草だ。
「……そういわれれば、なんでだ?」
ノルの疑問に、タリスは首を傾げる。
「そもそも、ここで争った形跡もありませんし、首の傷以外は致命傷になりそうなものも、軽傷も含めて見受けられません。一撃でバッカスさんは絶命したということでしょうか?」
「そんな、バッカスは体力自慢のしかも耐久力はかなりの男だぞ。それが首の一撃ですぐやられるなんて信じられない」
「死因は失血死だ」
「え?」
それまで黙っていたフードの男がバッカスの体を検めながら、言葉を紡ぐ。そして懐からガラスの小瓶を取り出し、周囲に振りまいた。
緑色の光る液体がばらまかれると、光を散らして消える。
「今のは?」
「……」
男は無言で薬をかける。
『シャナの試薬…魔法の残滓に薬が触れると、千切れた魔法陣が見えるようになる薬。魔法を使用した痕跡を探すときによく用いられる。シャナという妖精の髪をもとに作るため、材料が希少』
ぴろりんという音と共に、その薬の説明が入った。
「凶器は刃物だな」
「……なぜ断言できるのですか?もしかしたら魔法によるものかもしれませんよ」
「……」
男は相変わらず問いには答えない。カーソスは諦めたように肩をすくめた。タリスが何とか話を進めようと会話をつなぐ。
「……はあ。とりあえず、凶器が刃物であるとすれば、犯人は魔物ではなく人という可能性が高い」
「もしこの中に犯人がいるとしたら、私とイザベラはずっと共に行動していたので、省かれます」
「ぼくもタリスさんと、それからフードの人とも途中で合流して行動していたので、一人になったことはありませんよ」
「ということは……」
全員の視線が俺に注がれる。
「は?俺?」
「だって、第一発見者……」
「一人で行動……」
「待てよ!なんで俺がそんな殺人なんて!」
とんだとばっちりに巻き込まれてるんだが?!その時イザベラがゆらりと立ち上がった。
「……あんたが殺したの?」
「違う!」
「あんたが殺したの?!」
「違うって言ってんだろ!」
イザベラが涙目で叫ぶが、濡れ衣もいいとこだ!
『じゃーじゃーじゃーじゃーん。じゃーじゃーじゃーじゃーん』
突如現れたウィンドウ画面には、そんな言葉が浮かんでいる。もちろん音は聞こえないがそれでも俺はわかった。
え、火サス?!火サスなの?!
いや、そういうことじゃない。また神の茶々かと思えばコメントは浮かばないし、なんで音なしの効果音文字表記が出てくるのか意味がわからん!無駄な機能だけつけんなよな!そんなことより現状打破するなにかはないか。そうだついでだ。ウィンドウ画面になにか反論のヒントはないのか?!
と意識すれば彼らのステータス表記が浮かび上がる。
タリス・メイルズ
HP 101/165
MP 60/70
TA 15/16
LV 39
途中略
【剣技】 颯香流
【魔法】 ファイヤーボール(火/攻撃)
アクアカッター(水/攻撃)
ノースクエイク(地/攻撃)
シェイハリン(火/補助)
【魔法属性】 水火
【称号】 やんちゃ坊主・流れ者・冒険者リーダー・颯香流使い手
【スキル】
逃げ足 LV8 索敵 LV28 調香 LV30
【職業】
《剣士》《冒険者》
イザベラ・アウトハウンド
HP 29/30
MP 72/77
TA 21/400
LV 33
途中略
【剣技】 波音流
【体術】 自己流
【魔法】 エインスペル(光/補助)
ゲリール(治/回復)
ウィンドスラッシュ(風/攻撃)
(/攻撃)
【魔法属性】 地風光治 以降増可
【称号】 村娘・おのぼりさん・中級冒険者・女戦士・踊り子・凶器の足
【スキル】
直感 LV22 逃げ足 LV8 索敵 LV16 ダンス LV55
【職業】
《村娘》《ダンサー》《戦士》
カーソス
HP 〇★▽/?◆□
MP △△/◇×●
TA !#“/☆彡%
LV $&#
【魔法】 %$!!“〇▼■□*!
【称号】 犯人
【スキル】
無
【職業】
《殺人犯》
え?
俺は思わず目を白黒させる。なんで最後の奴だけこんなに文字化けして……。しかも犯人って書いてあるし!ドラマならネタバレだし!……いや、犯人がわかっても古畑〇三郎なら有りか?いや、そんなことじゃなくって!
突然の犯人発覚に俺は混乱した。でもたぶん、このステータスウィンドウの内容は信じていいんだよな。嘘は表示されないだろうという。なんでかはわからない確信はあった。
てか、犯人がわかってもアリバイがないのは俺だけ。それはどうやって覆せばいんだろうか。
副題 ファンタジーなのにミステリーはじまっちゃう?