第七十三話 火曜日21時
腹ごしらえを終えたところで、再びそれぞれ探索にむかった。
地下空間の遊園地をぐるりと周れば、やっぱりここは普通の遊園地にしか思えない。様々なアトラクションがあり、所々に休憩のためのベンチがあり、出店やレストランがある。こんな異世界で【俺にとっての普通の遊園地】があることが違和感なわけだが、逆にこれがあることの理由に思い当たる節がある。もしかしたら歴代の勇者がこの場所に関わっている可能性だ。だとしたら、俺の帰るためのヒントがあるかもしれない。
そういえば俺の知る遊園地とは少し違う部分が一つあった。
それは、ててててて、と今も俺の前を横切る白いコケシみたいな形のロボット。例えるなら昔から人気のたしか『星間戦争』ってアメリカ映画に出てくる背の高い人型ロボットと低いロボットの低いほうみたいな形のロボットだ。それと、五歳児くらいの形をした人型ロボットがちょいちょい遊園地内を移動しているのを見かける。特にこちらを襲ってくる様子もなく、どちらかというとアトラクションを維持管理しているように見える。人ではなくロボットがそれを担っていることが、俺の知る遊園地とは違う部分だった。
そもそも今まで旅した中で、この世界の技術というのは魔法で支えられているようなものばかりだった。だからこういう機械のようなものを見るのは初めてだ。
歩けば歩いていくほど、来園者がいない遊園地が動いていることの虚しさのようなものを感じる。しかもここは遺跡の中だ。この遊園地が遺跡とともに作られたものかはわからないが、遺跡の下にあるなら遺跡が作られるより前とかにあったんじゃなかろうか。だとすればかなり昔に作られた遊園地がこうも錆びたり朽ちることなく保たれているというのは、恐らくあのロボット達のおかげなんだろうが、そこまでしてこの遊園地を動かしているのはなんのためなのだろうか。
ただ歩いて考えていても埒が明かない。
とりあえずどこかアトラクションに入ってみるか、と思ったときに一番近くにあったアトラクションの看板には、『マイナス20℃の世界迷路』とあった。
中に入ると、寒いわけではなくペンギンとかが壁に描かれた迷路が続いていた。青と白で彩られた壁に囲まれた迷路をぐるぐると歩いていると、突然むわりと鉄の臭いが鼻に届く。ふっと下をみると、血を流して倒れている男がいた。
「!」
俺が駆け寄ろうとしたところで、背後から人の気配がする。
「え、バッカス?!」
「きゃー!」
いつの間にか後ろにいたイザベラとカーソスが声を上げていた。
目の前に倒れている人間と叫びで一瞬動揺しかけるが、いつの間にやら浮かんでいた魔導書が俺の頭に一発かます。
「いった!いきなり何なんだ!」
角では無かったがそれなりの厚さのある本にしばかれるのはなかなかの衝撃だ。だが魔導書は血を流している人間を見ろとでもいうように揺れている。
そしてそれ確かに魔導書の言う通りだ。本当にそう言ってるかは知らないが、早く手当をしなければ。
俺はうつぶせに倒れているバッカスの全身をさっと見た。血は、首から流れていた。これはヤバいんじゃないか、と予感が走ったが無理やり押さえつけ、声をかける。
「おい、おいしっかりしろ!」
軽くゆすっても反応はない。腕をとって脈を確かめても、皮膚の下に動きはなく彼が事切れていることを伝えるのみだった。
「……死んでる」
「!!」
俺は立ち上がって首を左右に振った。
「ダメ、ダメよ!何突っ立ってんのよカーソス!早く治癒術をかけて!」
「イザベラ……」
イザベラはバッカスを仰向きにして、心臓マッサージをはじめる。
「お願い!目を開けて!タリス!タリス―!魔法薬を持ってきてよー!!」
イザベラの声は大きく響いたが、バッカスが目を開けることはなかった。
副題 じゃーじゃーじゃーじゃーん。→→↓じゃーじゃーじゃーじゃーん。→→→↑
おわかりいただけただろうか。