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第七十二話 夢の国?

 タリス達は柱に括り付けたロープを掴み、下りて行った。

 閉じ込められて外に出られないっていう不安は恐怖に繋がる。だからあえて考えないようにすれば、歴史があるらしい遺跡の未知の部分に足を踏み入れるのは少しわくわくすることじゃないだろうか。もしかしたら、この先に本当に貴重な宝があるかもしれない。

 そんな興奮が一欠片ほどあったことは確かだ。タリス達が下りて、俺達が下りるのも問題ないという声が届いた時から、ロープを伝って地に足をつけるまではそう思っていた。

 だが、いざ下りて目の前に広がっていたものを見た時、俺はどう感情を処理したらいいのかわからなかった。

 目の前に広がるのはものすごく広い空間だった。しかも地下にいるというのに、どういう原理かライトがたくさん設置されているために眩しいほどだった。

ゴォォっとレールを滑る音、明るい音なのに短調の曲、カラフルな色。

ライトに照らされて浮かび上がったのは、ジェットコースター、観覧車、コーヒーカップやメリードーランド。

 そう、これはつまり、遊園地だった。

「……いや、なんで?」

 思わずそんな言葉が口から出る。俺以外の人間達は、これはなんだ?という表情だった。その中でもフードの男は臆した様子もなくスタスタと進む。

「お、おい」

 タリス達もフードの男に続く。

 うーん。なんか、すっかりあのフードの男に頼り切りになってるような気がするんだが。

 俺も俺で追いかけると、タリス達はキョロキョロと遊園地の中を見まわしていた。チケット売り場みたいな入り口はなく、いきなりメリーゴーランドがある。左手にはゴーカートがあり、無人のまま小さな車が動き回っていてシュールだ。

「これは、もしかしたら古代技術による仕掛けじゃないのか?」

「こんなの初めて見るし、これも大発見なんじゃないの?!」

 そんな興奮する冒険者達は方々に散らばっていき、いつの間にかフードの男も消えていた。ぽつんと残された俺は、客がいないのに動き続ける遊園地に不気味さを覚えながら足を進めた。

歩けば歩くほど、遊園地と言えばと思いつくアトラクションを通りすぎていく。なんなら中身のない着ぐるみが風船を配る姿勢で固まっていたり、白い機械人形のようなものが動いているのは見かけたが、今のところ俺自身に対するアクションはない。十五分ほどここは一体何なのか考えつつ歩いて、歩いているだけでは進まないと結論付けた。

「ふぅ」

 ぐぅうう。

 一度目を閉じて深呼吸をすると、自分の物でない空腹を訴える音が耳に届く。

 振り返ると、そこには腹を押さえたバッカスと、苦笑しているタリスがいた。

 そういえば、俺もこの遺跡の中に入ってかなりの時間歩き回っている。腹が鳴るほどではないが、空腹に近い状態だ。

「腹ごしらえするか?とはいえ、いつここから出られるかわからないから、手持ちの食材も節約しないといけないが」

「むむ……。そうだな。イザベラ達を探すか」

 そう言って立ち去っていく。

 俺は肩から下げるカバンの中身を思い出す。

 あー、食料なぁ……。そういや、食べられるものってあんま持ってねーな。船で活躍した油とか、いくつかの薬草、調味料は持っているが、それ以外はない。どうしたものか。

 俺は一瞬考えたあと、魔導書を呼び出した。呼ぶと言っても手を空にかざすだけで魔導書はどこにあっても俺の前にふわふわ浮いたまま姿を現す。

 魔導書の内容を見ながら、俺はこれまで通って来た道に思い当たるものがあり、歩き出した。

 遊園地の端につくと、そこはゴツゴツとした岩壁だ。どころどころ立方体の石が積みあがっているところもあるが、基本的には洞窟のなかの巨大な空洞のような風情だった。俺達はどうやら外には出られないようだが、逆に地上から地下に割り込んでいる物は存在する。岩壁の割れ目から伸びる木の根っこを、俺は撫でた。魔導書にこの木がパイレの木であると、表示される。魔導書からの知識と、自動的に現れるウィンドウ画面からの情報を重ねて、俺の記憶を絡めると、うん、なんとかなりそうな気がする。

 そんなこんなでぐるりとこの遊園地の外周を歩いた後、中心部へ戻る途中に甘く香ばしい臭いが鼻をかすめた。

「……。このにおいって……」

 香りの導くまま歩を進めると、有名なテーマパークである夢の国で、園内のいくつかの場所である、手押し車のような形のガラスケースの中で上から降り落ちる白い塊。あれはポップコーンだ。甘いにおいの正体は、キャラメルだろう。手押し車の会計を行う台の前には、そこだけ雰囲気の違う白いボディの人形が立っている。

 そのにおいに誘われてだろうか、タリス達がポップコーンの周りでうろうろしていた。

「すっごい美味しそうなにおいなんだけど、これって食べていいのかしら?というか、食べ物なの?」

「わからないが、空腹には効くにおいだよなこれ」

「……干し肉もビスケットも干し野菜も味は慣れたが、飽きた」

「しかしこれが食べ物だとしたら、こんな場所で調理されたようなものを口に入れるのは危険でしょう。いったん持ち帰って調べてからのほうがいいのでは……」

 俺もこんなところで急に現れたポップコーンは、食べるのは危険だと思うなぁ。

「……」

 俺は彼らから少し離れた場所で、持ち歩いていた木くずに油をかけ、火打石で火を起こした。地下空間だが、空気はたぶん十分あると思う。今のところ魔物のような敵には遭遇していないが、火を焚けば寄ってくるかもしれない。だから、あいつらが近くにいるほうがいざという時に安心だろう。

 油のおかげで勢いがついた火にすかさず、食べ物以外用にもとっていた木の根っこをくべる。あんまり水分を含んでいないようだったし、うまく火が安定する。

 その上に鉄鍋を置き、火にくべたものとは別の木の根っこを、おっさんからもらった包丁で叩く。

 そしてそれをベルーの実を絞った油をかけて、イカを調理する要領で端を引っ張るとずるんと木の皮がむける。中から出てきたのはアロエの中身のようなプルンとした根っこだ。まあ、こういうゼリーっぽくなったのは油を吸わせたからなんだけどな。

 そしてその拳ほどの太さのある根を輪切りにし、格子状に刃を入れる。

 柔らかくなった木の根っこを鉄鍋で焼いていく。じゅわじゅわと焼ける木の根っこはプルンとした見た目から変わり、焦げ目がつくとキュッと縮む。

 それにしおを混ぜた、これまた岩にこびりついていた苔をソースのようにしてかけると、なんちゃってホタテ貝柱の醤油焼きの完成だ。

 一口ほうりこむと、うん、ちゃんとホタテっぽい。程よい弾力と、あのホタテの一本一本の繊維も似ている。ソースによって磯の香りもするから、普通においしい。

この世界に来る前はエリンギをホタテに見立てて、なんちゃってホタテのソテー的なものを作っていたから、それの応用みたいなものだな。苔のソースは醤油ではないんだが、このマリーノ苔は陸地で生えるのにすり潰すと磯の香りがして、塩を混ぜると醤油っぽい味になる。

 盛り付ければホタテにグリーンソースをかけているように見えるが、味は醤油という見た目と味が違う感じにはなるが、食材のない中でこれは会心の出来なのではないだろうか。

 俺がうまうまと食べていると、視線を感じた。

「「「「……」」」」

「なんだよ」

「いや、うまそうだなと思って……」

 痛いくらい注がれていた視線の主はタリス達だった。俺のホタテの貝柱の醤油焼きに彼らの目はくぎ付けで、ごくりと唾を飲み込んでいる。

「はあ、あんたらも食べるか?」

「いいのか?!」

 こんだけ見つめられると食べにくい。

 タリス達にも木の根っこを用意しようとして、俺は少し警戒を覚えた。

「これはあんたらにもやるけど、その代わりあんたらの食料もくれよ」

 木の根っこ自体はここで調達したものだが、調味料や道具は俺のものだ。いつ出られるかはわからない状態で、人にわけられる余裕があるわけではない。それにこいつらも最初食事の話をしていた時俺も近くにいたのにあえて無視したのは、あいつらも俺に分ける余裕はなかったからだろう。この状況でこちらが差し出すだけなのはあまりよろしくない。

「おお、いいぞ。だが、俺達のは干した硬いやつばっかりだけどそれでもいいか?」

「それでもやりようはある。何を持ってる?」

 タリス達が干し肉と干し野菜とビスケットをだしたので、それぞれ少しずつもらった。

 俺作のなんちゃってホタテの貝柱の醤油焼きは好評で、彼らはあっという間に平らげてしまった。

 まあ、この状況で温かい料理を食べられることはないだろうし、いたく感動していたのもわからないではない。

 腹ごしらえを終えたところで、再びそれぞれ探索にむかった。




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