第七十話 勇者の遺物を使いこなせ1
「え、なんでこんなとこに獣人がいるの」
という会話からはじまり、また俺が人間だと主張したり、許可証がどうのという説明をしたりして時間を割いた結果。俺が把握したのは、ここが俺の目的地だったラスという名の遺跡であることだった。俺が最初に会ったフードの男と、いつの間にか増えていた五人組は知り合いではないらしく、五人組はこの遺跡を探索に来た冒険者パーティーだった。パーティーのリーダー、剣士のタリスを筆頭に、魔法使いのカーソス、治癒師のイザベラ、解除師のノル、戦士のバッカスとそれぞれ名乗った。
俺が人間であることの証明はできないが、そういう呪いはあり得るというカーソスの言葉で、とりあえずこの場は落ち着く。
「似たような恰好してるからあいつのツレかと思ったのに、そっちも知らねーのか」
「さっき会ったばかりだからな」
あのフードの男に親指を向けるタリスに、俺は肩をすくめる。
「まあ、緑金の許可証を持ってたから身元はしっかりしているはずだけどな」
「へえ、そんなに信頼性が高いのか?」
「銅だったらともかく、金は身元がしっかりしてないと発行されねーんだよ。しかも許可された人間以外は持てないようになってるしな」
「へえ、持てねーんだ」
「それに、遺跡の入り口でもギルド職員が中に入れるやつかどうか検査してる。抜け道とかがない限り、許可証のない奴は入れないはずだしな」
ギルド職員が遺跡に出入りする人間を監視しているということか。
うーん、あの土管が抜け道ってことになるんだろうか、俺の場合。
フードの男はかたくなに名乗らず、許可証を見せるだけでこの場を押し切ったようだ。ある意味すごく、訳ありってことも臭わせていることになる。
俺がフードの男を見ていると、遺跡の上階へ戻る入り口があったらしい壁をひとしきり触ったり、魔法をぶつけたりしてもなにもなかったことでしきりに考え込んでいた。すると、壁に手のひらをかざし、すいっと滑らせる。すると、ホログラムのような魔法陣が現れ、それをじっくりと見つめ始めた。
あれは確か、『解析』と呼ばれるものだ。それもスキルなので、できる奴とできない奴がいるはず。俺もできるが、魔法陣を浮かび上がらせたところで読み解けないのが難点なんだが。
フードの男が浮かび上がる魔法陣をみつめたあと、何度かそれに触れていた。まるでタッチパネルを操作するように、陣の中が入れ替えられたりしているのが遠目で見える。ひとしきりいじくりまわしたあと、男はつと、俺の後ろの廊下を指した。
「?」
「進むしかないか」
その場の全員が疑問符を浮かべているのに、フードの男はそう呟きを落としてなんの説明もなく指さしたほうへ歩き出す。
「お、おい!なにかわかったなら教えてくれよ!」
タリスが追いすがるが、フードの男はなにも答えずずんずんと進んでいく。リーダーがついて行ってしまうのだから、他のメンバーもそれにつづくことになり、俺もそれを追いかけることになる。
俺は彼らを追いかけながら先ほどのフードの男の行動を思い出す。そういえば、魔法陣自体ではなく、魔法陣に繋がる二本の線のようなものがうっすらと伸びていた。その線の方向をフードの男は指していた気がする。
それと、上階に上る階段があったという場所が消えて壁になってしまったというのは、考えられるのはあいつらの記憶違いか、解析スキルをつかったことから考えるとなんらかの魔法が関わっているかだ。
俺は前の連中を見失わないギリギリの距離を保ちながら、カバンからしばらく奥に詰め込んでいた白紙を取り出す。
それは、ブルイヤール教会で手に入れた、かつての勇者が作ったと記録されている、勇者の遺物である[繋がりの地図]だ。教会に置いてきたはずが、これも魔導書と共にやってきていた。
この地図、しばらく旅をしている間に何度か広げて確認してみたのだが、俺が通った場所を記録しているようだった。つい先日までいた海底でも活躍した地図だ。
この地図を見ると、確かに先ほどいた場所に階段の表記がされている。魔法をぶつけても壁が壊れなかったところをみると、なんらかの魔法的要素で道が塞がれたと考えていいんじゃないだろうか。
「さっき魔法をぶつけても壁が壊れなかったでしょ。てことはあの壁は何らかの結界魔法が使われてるんだと思うんですよ。だからその魔法の仕掛けを今辿ってるんじゃないかな?あの壁周辺には僕の勘が働くような場所もなかったし。仕掛けを解除するには元をどうにかしないといけないでしょうね」
「そういうことかよ」
散々文句を言いながらもなにも答えてもらえずに憤慨していたタリスに、解除師のノルが推測を話す。
そういや解除師って初めて聞いたなと思えば、魔導書がふわりと開いた。
『解除師……ダンジョンやラビリントスの中の仕掛けや罠を見抜き解除する職業。鍵開けなどもするため、その技能はシーフに類似するが、犯罪者と区別するため解除師と呼ばれる』
なるほど。だからフードの男の行動がわかったってことか。