第六十九話 やっふー!
フードが去ったせいで明かりもなくなってしまった。
「魔導書!これでいけるか?!フレア(極小)!またこれかよぉ!」
俺が魔導書を呼べば、ふわりとそれは俺のカバンから出てきて俺の手に収まる。とりあえず視界を確保する魔法を意識すればページが開かれ、その名を叫んだ。ぼんやりとした光が浮かび上がる。
さっきあのフードが入っていった先の入り口は小さい。あそこまでいけばこのティラノサウルスっぽい大きさのドラゴンは通れずに俺は助かるはずだ。
俺は走りながらすり抜けようとがんばるが、相手も俺の前に回り込んでくる。
俺は今更ながら横目で表示されるドラゴンのステータス画面を見た。
ワームドラゴン(ドラゴンってついてるけどドラゴンとは違う種族)
HP 4000/4000
MP 775/775
LV 50
「おおう、ドラゴンじゃないのな!そしてイメージはジュラシックパーク!」
行ったことねーけど!
回り込んでくるなら正面突破と、ワームドラゴンの足の間をスライディングしてすり抜け、そのままの勢いで小さな入り口に滑り込む。
俺を追って頭を自分の足の下に突っ込んだワームドラゴンは、本人も予想外であっただろうでんぐり返りをしたあと口だけでもと突っ込んできた。だが、入り口の石枠に阻まれ、俺のギリギリで止まる。何とも言えない生臭い息が全身にぶつけられたが、俺はさらに押し進んでこないかを気にしながらその先の通路に足を進めた。
「よくよく考えるとこの魔法って火だよな」
俺の隣で火の玉のごとく浮かんでいる火は、魔法で作られたものとはいえ酸素は燃やしているだろう。
「ここ、通気口とかあるんだよな?燃やしてたら窒息とかないよな」
一度考えると悪い考えは振り払えない。てなわけで、魔導書をみて違う魔法を唱えてみた。
「ルーメン(極小)」
ふわりとLEDっぽい白い光が浮き上がり、俺の前を照らす。俺の薬指の先から血液がその白い光に流れ込んでいる気がする。でもケガをして血が流れた時のような熱が流れたり集まっている感じはしないから、不思議な感覚だった。
「この魔導書もだけど、浮いててくれるのは便利だよな」
ずっと持っていなくていいのはすごく楽だ。
呪いの元凶?と思えば持っていたくはないし、置いてきてもいつの間にかカバンの中に戻ってくるのは困るが、便利なアイテムと割り切れば嫌いきれもしない。
複雑だが、離せないのならこのままの気持ちでいい気もする。
「正直、今の状態だとこの魔導書が心強かったりするしな」
クロワのおっさんにもらった仕込み刀である刀は一応マントの下に背負っているが、意外とこの遺跡の中は天井が高かったり低かったり、横幅が広かったり狭かったりと差がある。となると俺の力量で刀を振れば壁にぶつかって振り切れなさそうという事情がある。実は傘を背負ってたことで、最初に地面にぶつかったときはより痛かったという事情があるんだが、それでも両手は開けておきたいし、刀を抜くのも避けたいとなると背負うのが一番合理的だろうという結論に落ち着いてそのままだ。
となると、呪文を唱えれば攻撃できる魔法が一番今のところ使い勝手がよく、魔導書があれば何の魔法を使ったらいいのか迷いにくい。
今のところ必要に迫られないと魔導書が魔法を導きだしてくれることは少ないし、魔導書が選び出した魔法でないと使い方がわからないので、完全に頼り切りになるわけにもいかないものではある。
とりあえず魔導書は構えたまま狭くなった通路を進んでいくと、通路の奥から速足でフードが戻って来た。
「え、どうした?」
俺が困惑しているとフードは俺に構うことなく通り過ぎ、元来た道を戻っていく。
「おい、ちょっ待てよ!」
イケメン俳優のセリフを真似たわけでもないが、この状況打破の手がかりを逃がすわけにはいかない。
フードを追いかけた俺は、さっきのワームドラゴンがいる少し開けた部屋でフードがかみついてくるワームドラゴンを片手で投げ飛ばし、電撃の魔法で黒焦げにするところをみた。そのまま先に進むフードだが、俺は思う。
「やっぱりさっき俺をおとりに先に進みやがったな!」
そんなに簡単に倒せるならさっき倒せばよかったんじゃないかよ?
そんな文句もあのフードには届いているわけもなく、行きは怖くて帰りがよいよい♪というあべこべを進んでいく。
時折魔物には出会うが必死にフードについていった。階段をのぼったり下りたり、はしごをのぼったりおりたりちょっと大変ではあった。
でも、途中で遭遇した魔物がさ。
クリボッチ(寂しくないよ)
HP 4000/400
MP 20/20
LV 15
っていう、三角のキノコに靴履かせたような魔物がいたり、
ノシノシ(手を振ってるわけじゃないよ)
HP 400/400
MP 20/20
LV 20
っていう後ろ二本足で立つ亀がいたりしたわけだが、これ大丈夫なんだろうか。何に対してとかわかんないけど、なんか誰かに怒られたりしないだろうか。緑の土管を見てしまったためにちょっと連想してしまって不安が過る。
まあ、キノコの顔は下がり眉だったり、後ろ足で立ってるけど前足は小さな荷を運ぶ車を押してたりと、ちょっと不思議な奴らではあったんだけれども。
その内赤い帽子の配管工とか青い帽子の弟とか出たりしないよな。
そんな風に思考が脱線しかかったときに、フードが立ち止まっているところが見えた。
よくよく見るとフードの周りには数人の男女が集まっている。
彼らは全員壁を叩いたり触ったりしているようだ。
「ここが出口で間違いないよな」
「ああ、そのはずだ。マッピングでも合っている。だが、出口が消えた」
「そんなぁ……」
フード以外の男女が困惑を露わにしていた。
「……離れていろ」
一通り壁を調べ終わったのか、フードが周囲に指示を出す。その他の男女はその指示通りに少し下がった。
俺の立ち位置はあの男女よりも離れている。大丈夫だよな。
「古より使われし神の雷。エクリエール!」
ドカンと雷撃の音がして、砂埃が立つ。それが収まれば壁に穴が開いているだろうと思ったが、壁は無傷だった。
「え、これでも開かないの?!」
その場の動揺はさらに増したようだった。