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第七話 必要なのはギルドカード

長くなったので二つに分けました。後編はそのうち投稿します。

あのチーズスープ殺人事件から5日経った。別に死亡者がでたわけじゃねぇから殺人事件じゃないが、俺は川の向こうの花畑を観光する羽目になったのだから、殺人事件でいいだろう。


帰ってこれてよかった。


俺は今日も精算台の前で頬杖をついていた。


ちなみにあの女の子は無事だった。倒れた俺をみて慌てたクロワのおっさんが、魔法水を取りに行っている間に姿を消したらしい。まあ、逃げたんだろうな。賢明な判断だと俺も思う。あれからこの店に姿を現すことはなかった


俺が目を覚ましたあとはこってり説教され、しゅんとうなだれていた。



おっさんが。



あんな危険な毒薬をこれからも作らせるわけにはいかない。だからその日から、まかないは俺が作るようになった。さらに、売れ残ったパンを持ち帰る許可も降りて、俺はこのバイトに満足している。


なぜかおっさんは料理が破滅的どころか破壊的ですらあるくせに、パンだけは絶品。食べたときの衝撃は忘れない。

外はカリッ、中はふわっとしていて、種類によっては日本人好みの外はカリッ、中はもちっという食感のパンをおっさんは作る。噛めば噛むほど味がでる、おっさんの絶品のパンは、よく売れた。


今は暇だが、早朝と夕方になると、それこそひっきりなしに客が来てパンは売り切れる。まあ、売切れれば俺が持って帰れる分はなくなるわけで、少し残念に思っていたら、おっさんはこっそりパンを焼いて、俺に渡してくれた。できたての熱いパンを渡しておきながら、これが売れ残りのパンだといわれても説得力がない。

結果的に俺は客よりも美味しいできたてのパンをいただくことになり、これでいいのかと思いつつ、少し得した気分に浸っている。そんなわけで、俺が店番をしていたとき、ガラス戸が開いた。


「いらっしゃいませー」

「あ、あの、クロワルドさんいらっしゃいますか?」

「またですか…」


入ってきたのは俺がここに来た最初のときに、クロワのおっさんに投げ飛ばされていた冒険者の男だった。


『彼もめげないねぇ』


この男は毎日ここに来てはパンも買わず、クロワのおっさんに会いに来ていた。


「はい。今日こそはなんとしてでも、クロワルドの剣をいただきたいと思います」

「…俺、あなたが来ても通すな追い返せっていわれてるんですが」

「そこを、そこをなんとか!」


男は懇願するように精算台に身を乗り出した。こいつもよくここまでやるもんだと思う。この男は毎日クロワのおっさんに会いにやってくる。

目的はおっさんの打った剣。これを譲ってほしいと毎日通い詰めてくる。本職はパン職人だと俺はきいてたはずなんだけどな。


「…何度いわれてもムリです。取次ぎはしません」

「…こんなに頼んでいるのに」


男は涙を流しながら精算台に顔をうずめる。このやりとりもそろそろ飽きた。毎日これじゃ、気が滅入りそうだ。だが、おっさんが取り次ぐなといった以上、通さない。

こいつが売り上げに貢献してくれれば、それなりに考えただろうが。まあ、このパン屋は毎日売り切れなんで、貢献されなくても問題ないがな。


「…そんなにクロワのおっさんの剣が欲しいんですか」

「ほしいよ!ほしいに決まってる!だってあの名鍛冶師、クロワルドの打った剣だよ!」

「…へぇ」

「冒険者で彼のことを知らない人はいないし、名だたる冒険者たちでさえも欲しがるクロワルドが打った剣!需要はとんでもなくあるのにどこで作ってるかわからないからさらにその価値が高いんだよ」


あー、確かにパン屋が剣打ってるとはあんまり思わないよな。しかし、おっさんはそんなに有名な鍛冶職人なのか。











男を追い返し、奥の部屋にいくとおっさんが相変わらず鉄を槌で打っていた。


「今日も来てたぜ、おっさん」

「ああ?あいつも懲りねぇな…」


振り返ることなく、おっさんは剣を打ち続ける。その表情は真剣そのものだ。おっさんに普通に話せといわれたから敬語はやめた。


『ふーん。何度みてもいい腕だねぇ』



へぇ、わかんのか?


『すこーしね。ステータスみてみなよ』


俺は神のいうとおり、ステータス表示を意識する。






《ステータス》



クロワルド・エディール


HP  3100/3176


MP  300/324


TA  520/600


LV 53


EXP 153460


NEXT 12798


途中略


【魔法属性】 地火 


【称号】 パン屋のおっさん・五大鍛冶職人・名鍛冶師・毒性料理の継承者 以下略


【スキル】


鍛冶 LV92 料理人(ぱん) LV89 以下略


【職業】


《鍛冶師》《パン職人》《親方》《冒険者》






スキルレベルが…。


『ね?』


俺はあらためておっさんの手元をみる。何度も打たれて形を変え、また熱せられる鉄の塊。それをじっとみていると、急におっさんが立ち上がった。


「そうだ!忘れてたぜ。おい、ユート。お前、明日身分証明書持って来い」

「…は?」

「お前をうちの店員として城に申請しなきゃならんからな。身分証明がいる。用意しておけよ」


おっさんはそれだけいうとまた剣に向き合う。おいおい、どうすんだよ!俺は身分証明なんか持ってねぇぞ。


『ど、どどどどうしよう!身分証明…、住民票?!戸籍?!学生証?!』


どれも今の俺は持ってねぇよ!


『…あ、ギルドカード』


ギルドカード?


『そう。冒険者ギルドにいって、ギルドカードを発行してもらうんだ。ギルドカードは身分証明にもなるんだよ。タダだし、名前とか登録するだけだし、おすすめかも!』


いや、むしろそれしかないだろ。


「おっさん、悪いけど今日早退させてもらいたい。ちょっと用事ができた」

「おーう。んじゃ、こいつができたら俺が店番するかね」


おっさんは愛おしそうに目の前の鉄…いや、既に剣の原型ができているそれをみる。


「…ごめんなさい」

「気にすんなよ。用事があるんだろ?」

「ああ」

「じゃ、行って来い。あー、でも今日はお前のまかないを食えないのかぁ。それは残念だな」

『優人君料理上手だもんねぇ』

「…。なにか作ってから帰る」



俺は厨房にむかった。










「ここが冒険者ギルドか」


木造の2階建ての建物に冒険者ギルドと書いてあるそれをみあげた。中に入ってみると、奥にカウンターがあり、そこで受付をするみたいだ。掲示板には依頼が張り出されている。カウンター以外にはテーブルとイスがいくつか置かれ、ちょっとした食堂になってるみたいだ。


……ガラの悪いおっさんが多いな。


中には女性もいるが、圧倒的におっさんが多い。


『ここは冒険者ギルドエネルレイア皇国支部だよ。本部は別の国ね』


へぇ。


俺は受付の前に立った。


「こんにちは。今日はどんな御用ですか?」


受付の女性がにこやかに話しかける。


「ギルド登録をしたい」

「かしこまりました。ではこちらの用紙にお名前と性別など、この枠に囲まれた部分をご記入ください」


差し出された紙には、名前や性別を書く欄があった。それを順番に埋めていこうとして、ふと気づく。俺、字は読めるけど書けねぇじゃないか!


『そ、そうだったのー?!どうしよう。あ、そうだ』


神のコメントのあとに、この世界の文字らしきものがウィンドウ画面に浮かんだ。


『これの通りに書けばいいよ』


ナイスだ、神!


『うん!』


俺は神が用意した字を真似て紙に書いていく。最後の欄には、死亡時の連絡先、と書かれていた。

本当なら、ここに自分が死んだときに知らせてほしい住所を書くんだろうな。

家族か、友人か、恋人か、そういう関係の奴らの住所を。



俺はそこを空欄のまま提出した。



「ではユート様、これで仮登録完了となります。こちらが仮ギルドカードとなります」

「…仮登録?」

「はい。本登録は、とある依頼をこなしたあととなります。ここは冒険者ギルドですので、最低限の依頼をこなすことが認められなければ、冒険者ギルドの一員としてお迎えすることはできません」

「なるほど」


いわれてみれば確かにその通りだよな。受付嬢は優しく微笑んだ。


「ですがご安心ください。この依頼は簡単なものですので、おそらく問題なく完了できると思われます」

「わかった。で、その依頼は?」

「ソエルの森にある、クランティアル洞窟の中に生えるヒカリゴケダケというキノコを採集してきてください。一つでもここに持ち帰ることができれば、本登録へと移らせていただきます」


なんだ、俺の庭じゃねぇか。というかこの仮ギルドカードとやら、スマホじゃね?










お待たせしました、勇者と異世界物といえば、ギルドですよね!

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