第六十四話 ギルドマスター
今回短いです。すみません。
「ということは、そんなすごい組織の一番偉い人と、次に偉い人達しか持ってない許可証を、アランさんは持っているってことですよね?」
だんっと机を叩き、テルマは身を乗り出した。
「うーん、そうですねぇ」
アランは苦笑いだ。
「アランさんって、何者?」
テルマはさらに身を乗り出し、アランに迫る。アランは困ったように眉を下げた。
「僕は、縁あってギルドマスターさんと知り合いだったんですよ。いろんな役割があるとはいえ、冒険者ギルドの基本的な仕事は変わらず魔物退治や対処です。現時点でもギルドに依頼される内容は魔物関係が7割ぐらいですからね。だから、魔物を研究している僕に、専門家としての意見を求められたり、実際に依頼に同行することを冒険者ギルドから依頼されるようになったです」
「へえ、魔物の学者さんなんだ!」
「はい」
テルマは身を引いたが、興味津々というのが伝わってくる。
あ、俺に話したような、魔物の研究と同時に魔族の研究をしてるってことは言わないんだな。
「まあ、冒険者からの依頼をこなしているうちに、かなり冒険者ギルドについて事情通になりましたし、依頼される度に許可証を発行するのも面倒だからこれを持っておけ、とギルドマスターに渡されたので、ありがたく使わせていただいているんです。僕のフィールドワークとしてもかなり助かりますしね」
「そうだったんだー。アランさんはギルドマスターの知り合いだったってことだけど、実際のところギルドマスターってどんな人ー?」
「え、どんな人、ですか……」
「それだけすごい人だったらどんな人なのか気になるー!私は見たことないし、たぶんこれからも会えたりすることはないだろうしー!」
「う、うーん」
アランがさっき以上に悩んでいる。
なんだよ、あんまり話せるような内容ではないのか。
「あの人は、なんと言い表せればいいんですかね。飄々(ひょうひょう)としているんですけど……。うーーん」
「え、そんなに悩んじゃう人なんですかー?」
「あの人を言い表すのは難しいんです。あらゆる言語を使いこなし、見識の高い人ではあるんですが、圧倒的に謎の多い人といいますか。……私の友人が言うには、えーと。女たらしの、クズ、らしいです」
「お、女たらしのクズ?」
「ええ。ついでに言うと男性にもかなり厳しい人です。冒険者をまとめている人ですから、とても強い人で逆らえる人もあんまりいませんしね。あの第6次人魔戦争で伝説に残る活躍をした、なんて噂もありますので」
「第6次人魔戦争って、だいぶん昔の話ですよねー?弟がそんな話をしてたのを聞いたような……」
「約600年前の話ですね」
「え、ギルドマスターっておいくつの方なんですか?」
「本人曰く、トップシークレット、らしいです」
なんだよそのマンガのキャラみたいな設定のオンパレード。
と、話の脱線が進んでいたところで、店員が料理を運んできた。
「お待たせいたしました。バルスカとスルカ、そしてメモアです」
正体不明の料理だ。どきどきしながらテーブルの上に置かれた皿に注目していると、ついに料理の全貌がみえる。
「ひっ」
熱々の耐熱皿の中に紫のミンチと、目玉みたいな丸い何かがいくつか入ったグラタンのようなものだった。
目玉が怖いんですけど。目玉焼きならいいけど、目玉は怖いんですけど!
なんか、料理のどこをみても視線が合う気がするんですけど、これ動いたりしねーよな。
いや、ミンチっぽいのが紫なことも思うところいろいろあるけどさ。
「ここのバルスカはおいしいんだよー。見た目はちょっとあれだけど」
「え」
「どうしました?ユートさん」
「いや、あんたらから見ても見た目はアレなんだなってのにちょっとホッとした」
「あははー。まあ、目玉にみえるもんねー、これ」
「え、目玉じゃないのか?」
テルマがフォークで目玉をぐさりと刺した。
「ほら、これ柔らかいのー」
「これは、目玉茸という、キノコなんです」
「え、キノコなのこれ!」
エレノアがにこりと頷いた。
「見た目はちょっとアレなんだけど、この目玉茸から出る出汁がおいしいのー。だからどうしても外せないんだよね」
「そ、そうなのか」
「それじゃあ、いただきましょうか」
「いただきまーす」
3人がスプーンでためらうことなくバルスカをすくって食べた。
「うんうん、おいしい!ここの料理は焦げるという外れがないからいいよねぇ」
「このお店の料理人の腕がいいんでしょうね」
3人が談笑しながら口に運ぶのをみて、俺も食べてみようとスプーンですくったときにふと思う。あれ、この3人が気になるのは目玉だけ?紫のミンチについてはなんにも思うとこないのか?
これからの食事事情を想像するとげんなりするので、頭を振って考えないようにした。




