第六十三話 ギルド
前4話分ほど改稿しており、ストーリーの流れが若干変わっております。ご注意下さい。
その場がしんと静まり返る。え、根本的な話過ぎて引かれたんだろうか。そんなこと言われたって、俺は漠然とアニメとかのイメージしかないんだよ。この世界のギルドってどんなものかとかわからない。そこらへんの説明役ができそうな神は、さっきから呼びかけても答えないし。
「いや、なんとなくは知ってるし、イメージもできないことはないんだけどさ。このギルド証に旅券機能がないって、ノラ……さんが言ってただろ。そんなものまで発行できる冒険者ギルドって、何なんだろうなと思ってさ。そもそもギルドってそんなに強い力を持ってる存在なのか……とか。……ナニカヘンナコトヲイッタデショウカ」
「ううん。改めてそう聞かれるとどう説明したらいいかわからなくって」
テルマが戸惑うように視線をさまよわせる。
「うーん。簡単に言うと冒険者が所属してる団体?」
「そ……れは、俺もわかってるな」
「だよねぇ。……うーん、でもそういえば冒険者ギルドって冒険者的仕事以外もしてるよね。お金の管理とか、食堂とか、武器の調達とか、研究とか、それこそユート君が言う旅券の発行とかまでやってるしー……。改めて聞かれるとどこの国でもその運営ができるってすごい力だよねー」
「冒険者ギルドとは、冒険者達の相互扶助組合である。元は冒険者という職種が危険なものが多かったために、そんな冒険者達を助けるための組織であったが、請け負う役割が増えたために組織自体の役割も増え、現在では公的機関の役割や、様々なギルドの窓口ともなっている……と、本とかの説明ではなってましたね」
エレノアが思い出すように口元に人差し指を当てる。アランがそれに頷いた。
「その通り。その理由はギルドの歴史を紐解いていかないといけないかな。そもそもギルドというのは職業の相互扶助組合なんだ。一定数の同業者のいる職業は必ずギルドが存在すると言っていいと思うよ。例えば鍛冶ギルドとか、商人ギルドとかもある。商人ギルドとかは同じ商人ギルドだけど3つくらいあるんじゃなかったかな。身近なものだと郵便ギルドもあるね。もともと彼らがなんでそういう組合を作ったかというと、一番の理由は政府との交渉とか、国際情勢に対処するためなんだ」
「おおう、難しそうな話になってきたな」
「そんなに難しい話じゃないよ。たとえば農家の人が、野菜を作っていたんだけど、その肥料の税金を国が引き上げてしまった。でも農家さんが一人で国に訴えても税金は下がらないよね。でも、一人でダメならたくさんで訴えたらどうだろう。国も耳を傾けてくれそうな気がしないかい?もちろん他にも同じ職業同士で助け合ったら便利なことがあるから、ギルドというのが生まれたんだよ。だから、最初は精々一国の中でぽつぽつといろんな職業のギルドがある程度だったんだ」
「なるほど」
「ところが冒険者ギルドができてから状況が大分変わったんだ。そもそも冒険者……なんて呼ばれてるけど、要するに何でも屋さんみたいなものだったんだよ。最初は未知の場所を探索したりして、それこそ宝を見つけたり新天地を発見したりとかが仕事……だったんだけど、それらが高じて魔物への対処とか、単純に戦闘力が高いから傭兵を頼まれたりしてね。人間が引いた境界線なんて曖昧なものだから、国同士の問題とかあったときに、どこにも所属してない団体があると動きやすかったり。旅券の発行業務とかはその最たるものだね。仲の悪い国同士での行き来の許可は、国自体ではやりにくいけど、中立の立場の冒険者ギルドならしがらみなく許可できる。いくら仲が悪かろうと交易がないと国の発展は厳しいから、要するに任せる先としてちょうどよかったんだよ」
「ふーん。いろいろあるんだな」
「そうそう。商人たちも行ける場所と行けない場所があると商売の幅が減るからね。冒険者ギルドの権限の及ぶ範囲であればどこでも行けるのはすごくありがたい。それに商人達も護衛に冒険者を雇ったりもするから、効率もいい。そんな理由で冒険者ギルドの役割はどんどん増えていったんだ。たとえば新技術の特許申請や、銀行業務、旅券の発行や、今回の許可証の交付なんかもね」
「そうそれ。でもそれってすっごい影響力だよな。世界をまたがって顔がきくってことだろ。もともとは国と対等に交渉するための組織だったのに、そこまで力を持つと逆に敵視されたりしないのか?」
「そう。冒険者ギルドは、それまでのギルドという存在の在り方をかなり変化させるほどの影響力を持った。国ごとにあったギルドも世界規模で繋がったりするようになったりね。だからユートの言う通り、冒険者ギルドの影響力を恐れた国ももちろん存在した。そこをいろいろ交渉したりシステムを整備したりと、現在のギルドマスターさんがうまく調整したんだよ。公共性の高い役割を担うなら、どこの国の影響も受けないぐらいの公平性が必要だしね。だからいつも世界中を飛び回っている忙しい人だよ。あの人のバランス感覚がなければ、冒険者ギルドは世界中から危険視されて潰されてたかもしれない」
「そ、そんなにか」
「もちろん、そんな0か100かって極端なことにはならないと思うけれど、どうなっていたかはわからないだろうなぁ」
「ふーん。じゃあ冒険者ギルドがギルドの中でも一番大きな組織っぽいな」
「名実共にそうだろうね。一応ギルドはギルドで5大ギルドっていうのがあって、大小様々なギルドのまとめ役をやっているけれど、規模で冒険者ギルドより大きなものはない」
「ということは、そんなすごい組織の一番偉い人と、次に偉い人達しか持ってない許可証を、アランさんは持っているってことですよね?」
だんっと机を叩き、テルマは身を乗り出した。
「うーん、そうですねぇ」
アランは苦笑いだ。