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第五十九話 連れ去られる勇者

 自動的に表示された女のステータス画面を見て敵意があるのかと一瞬身構えたが、よくよくその金の瞳を観察すれば敵意よりも警戒が強く宿っていることに気づいた。

 背中に流れる外向けにはねた白灰の髪と、ギラギラ輝く瞳が野生的な印象を与えた。そんな女の、状況の把握のため彷徨っていた視線が俺に固定される。

「獣人?」

 ノラがそう呟いたときに、突如地響きが起こった。

「ノラ様!」

「……チッ。来やがったか!次から次へと!!」

 ノラの後ろに待機していた数人の冒険者らしき格好をした奴らが身構えてノラに指示をあおぐ。

 ノラの視線は俺達の方とは逆に向けられた。そちらに視線を向けても、俺にはなにもわからない。

『優人君、索敵、索敵!』

 ああ、なるほど。

神に促されて索敵で気配を探ると、無数の魔物の反応がこちらに近づいていることがわかる。

「魔物がこっちに向かってる?それも大量に」

「えっ!」

 俺の呟きに反応したエレノアが声を上げた。

 気配は感じる。たぶん魔物の気配だ。だけど、何かがおかしい。それが何かをもう少しと魔力を伸ばして探っていると、音もなく近づいていたノラに胸倉を掴まれた。

「うおっ!」

「てめぇ、何者だ」

「な、何者って……」

「てめぇ、変な臭いがするな。なんて言ったらいいのか……。ああそうだ。不審だ。不審な臭いがする」

「不審な臭いって、不審に臭いなんてあるのか?」

 じろりと探るように睨みつけられ、どう答えていいか迷っていると、ノラは俺から視線を外して周囲に指示を飛ばす。

「戦えない者は建物の中に!おい、ハロルド、お前達は町の裏側を頼む。その他にも何人かハロルドにつけ!今ギルドカードで連絡を取れるのがお前しかいないからな」

「はいはい、わかったよ」

「西と東にはそれぞれサバスとバートがいけ。お前たちはなにかあればポルッポを飛ばせよ。割り振りはわかるな?」

「まかせてください!」

「合点承知の助!」

 いつの間にか俺達を囲んでいた男女様々な冒険者達が慣れた様子で散っていく。ていうか合点承知の助って、今日日きかねぇぞ!

ノラは俺を掴んで投げ飛ばした。

「ちょっおい!」

「おい、こいつを牢に放り込んでけおけ!あとでじっくり話を聞く」

「了解でありますー」

 白い獣人を抱えたまま、おそらく冒険者であろう腕の太い男に引きずられた。おい、首に腕を回すな!しまってる!しまってる!力加減を考えろ!

「ユートさん!」

「は、はなせぇ!」

 エレノアがその手を伸ばすが、無情にもギルドの扉は閉じられた。そしてそのままカウンターの後ろの扉から地下に降りて、牢に投げ入れられる。ちらりと見えたカウンターに座っていた女性は受付嬢か?その女性は目を丸くしたまま俺を見送っていた。いや、見送ってないで助けて。

「よし、しばらくそこにいろよ。よし、俺らもノラさんを手伝いに行くぞ」

「おう」

 そう言って男達はこちらをちらりとも見ずに去って行ってしまった。

「……」

 呆気に取られて反応するのが遅れたが、どう考えてもひどくないか。いきなり不審の臭いがするとか言われて、牢屋に放り込まれて。地面にはボロボロのワラっぽいものがパラパラと置かれていたが、こんな量ではクッションの役割を果たせず、放り込まれたときに咄嗟に地について擦り剝けた手をみた。傷ついた筋から微かに血がにじんでいる。

 俺が手のひらをみて考え込んでいると、ぺろりと白い物体が俺の手をなめた。

「おい、汚いからやめとけ」

 俺の言葉にびくりと怯えた様子を見せた白い毛玉は、こちらをみながらジリジリと後ずさる。

「あー、違うぞ。お前が汚いって言ったんじゃない。こんなのなめたらお前にばい菌が入るかもしれないだろ。だからなめるな」

 白い毛玉はゆっくりと丸めていた体を伸ばして俺を見る。毛玉と見えていたのは、細い体を包み込めるほどフサフサの尻尾のせいだった。体を伸ばせば、そのガリガリに細くなった手足と、いくつもある古傷と打撲の痕がみえる。そしてなにより俺が驚いたのは、その獣人の子の顔だった。

「……サラ?」

 俺がその名を呼ぶと、その獣人は首を傾げた。

「……いや、違うか。サラの尻尾は茶色だもんな」

 まさしく狐色と呼べる色の尻尾を持っていた獣人の少女。しかし目の前にいるのは白い布切れのような服を着た、白い神とアメジストのような濃い紫の瞳、そして肌の色も驚くほど白い。だからサラとは別人のはずなんだが、顔は瓜二つと言っていいほどに似ている。

 他人の空似なんだろうか。たしかに世の中には同じ顔をした人間が三人はいるというが、あれは地球の話だ。あれがこの異世界にも当てはまるんだろうか……・

『優人君、ステータスウィンドウ表示してみたら?』

 おお、びっくりした。そういやまだいたんだったな。

『え、ひど!まだってなんだよー。僕がいざ反応返さなかったら寂しいくせにー』

 とにかく、俺はウィンドウ画面を表示できる様意識した。

『え、スルー?!やめてよー。相手してよー』


《ステータス》



セラ


HP  26/666


MP  532/666


TA  3/3


LV 3


途中略


【魔法属性】 火 闇 光 氷


【称号】 三つ子 伝説の種族 銀狐 実験体 逃走犯


【スキル】 索敵 LV3 嗅覚 LV40 野生の目LV26 


【職業】


《銀狐》《魔法の素養を持つ人》《獣人》





「……三つ子って、もしかして」

 俺はサラに渡された腕の組紐に視線を落とす。

「サラって、兄弟いたのか?」

『さあ、どうだろうね。でも可能性は高いかもね』

 セラは独り言を言う俺に首を傾げて見つめていた。痛々しい傷痕に思うところあって俺がそっと手を伸ばすと、セラは伸ばした俺の腕にある、サラからもらった組紐にそっと触れる。

 先ほどまで濁っていた瞳が透明度を増し、視線はその組紐に熱心に注がれ続ける。俺はよくわからないが、もしかしたらセラにとって大事なものなのかもしれない。

 やはり、サラとなにかしら関係があると思っていいかもしれないな。

「とにかく、なにか治療をしないといけないな」

 ゲリールが唯一使ったことのある治癒魔法なんだが、これで事足りるだろうか。とにかくいろいろ考えるよりもやってみようと、俺が魔力を練り上げた時、視界が激変した。

「……な、なんだ?」

 牢屋中に蛍のような、しかし蛍よりは強い光を放つ粒が視界いっぱいに浮かんでいた。

『どうしたの?優人君』

「なんか。光のちっさいのがいっぱいふよふよと……急に……」

『え、優人君微精霊見えてるの?!』

「精霊?!ここまで来てそんな新要素入れてくんなよ!!」

神が見えてるのかと言うことは、たぶん一般的には見えないやつだよなこれ!セラに至ってはさっき以上にきょとんとして俺をみてるしな!絶対見えてないなこれ!

そんな俺が荒ぶれば荒ぶるほどその光の粒は俺に密集しだした。

なになになんだこれ?!

そして俺がなにか言うことも出来ず、光が凝縮して閃光が走る。

思わず目を閉じて、しかしなにも起こらないのでゆっくりと目を開けると、俺はなぜか牢屋にはいなかった。


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