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第五十五話 プリムラの鍵

「あらあら、まさかこの感覚、ダンのとこの?全然似てないわね!でもそう、私の子孫でもあるの。まさかこんな風に何百年後の自分の血筋の子と会えるなんて、もう生きてはいないけど、人生って何があるかわからないものねー」



 ミツハ?はからからと笑ってユキシロの背を叩く。そして俺のほうに視線を移した。



「あなたがこの場所をここまでこじ開けてくれたのね。ああ、まずは自己紹介が先か。私はあそこで暴れまわっているバカの仲間だった、カズハと申します。たぶん、私のことは何となく知っているのではないかしら。ここまで来たということは」

「カズハって、オスカーという勇者の仲間だったカズハか?」

「そうよ。体は私の血を受け継ぐ女の子みたいだけど、今あなたとお話ししているのはそのカズハ」

「なら、たぶん過去の記憶の映像で、みた」

「そう、この場所が狙った通りの動きをしてくれてよかったわ。

かつて私達は魔王を倒すために旅に出た。そして私達の勇者だったオスカーは魔王の元まで辿り着き、倒せなかった。魔王の力は強大で、圧倒的すぎたの。何人かまとめて貴族クラスの魔族とも対等に戦えるまで強かったオスカーが手も足も出なかったくらい。そして倒せぬことを悟った彼と聖女は魔王を封印した。それでオスカーは聖女を失った。聖女を……リラを失った彼は絶望し、この場所で朽ち果てた。そんな彼の成れの果てが、あれよ」

「赤クジラが……かつての勇者?」

「正確には、私達が生きた時代に赤クジラは本当に存在したわ。彼らはこの世界の淀みである瘴気を飲み込んで綺麗にしてくれる生き物だった。この場所が海に沈んだ後、成り立ち上瘴気を生み出し続けるこの場所を綺麗にするために赤クジラはやってきた。それ以来この場で死んだ者達の癒しの一端として、そしてこの場の浄化のためにいてくれたのに、長い時間生み出され続けた瘴気を取り込みすぎて、狂ってしまった。そんな赤クジラに憑りついているのよ、彼は」



 カズハの指した先には未だ鎖に拘束されながらも暴れまわる赤クジラがいる。確かにその一体を拘束してからというもの、他の赤クジラ達が襲ってくる様子はない。この不思議な空間の中浮いたままピクリとも動かなくなった。



「ここで死んだ人達が、いつか正しく転生の輪のある黄泉路へ旅立つまで、とこの場所を封じたけれど、オスカーの思念がここに執着しているせいで、彼に対して恨みを持ち続けている死者達は逆に逝けなくなっていしまっている。まさかこんなことになるなんて」

「まあ、恨みを持つ奴が目の前にいたら、おちおち寝てられないしな」

「そうよねー。ここまでオスカーがこの場所に執着するとは思わなかったのよ。なんでこの場所なのかもわからないし」



 とそこまで話した段階で、赤クジラを拘束していた鎖がパリンと砕けた。



「おっと、のんびり話している暇はなくなったわね。そして私の時間もここまで」

「ここまで?」

「あんまり私がこの子の体にいるのは良くないの。私はあくまで死者で、ここにいてはいけないのだから」

「そうか」

「その代わり、私の力を受け継いだこの子なら、骸骨達を抑えられるわ。そこのあなたもいるなら、完璧ね」

「はい」

「まあ、抑えるだけでは根本的な解決にはならないのだけど。それと、赤クジラの特性を教えておくわ。敵になったことがないから弱点とかはわからないけれど。あれは強い魔法耐性を持っている。特に水の耐性が高いわ。だから攻撃するなら他の属性をぶつけないと削れない」

「だが、他の魔法は赤クジラに届かない。届く直前に消える」

「それは何故かは私にはわからないわ。でも、何か方法があるはずよ。あなた達に託す……なんてのは都合のいい話だけれど、どんな形であれ、ここをもう終わらせてあげてほしい」

「あんたが望んだ決着でなくてもか」

「もちろんよ。だって私はもういないんだもの。どうするかは、今生きているあなた達が決めるのよ」

「……勝手な話だな。あんたらのせいで、今こんな事態が起きているんだから」

「あら、それは仕方ないわ。だってそれはみんな同じだもの。私だって生きていた時は過去の人達のやらかしたことや因縁に振り回されたし、でもそういう人達が生きた時代の上に私達は成り立っていたのだもの。今を生きているあなた達も、過去があってその場に立てているということを知っていてほしいわね」

「……その通りだな」

「あなた、素直ね。とてもいい子。でも、そうね。この場のことは、申し訳ないとは思っているのよ。だからせっかく会えたんだもの。謝っておくわ。ごめんなさい。でも、あとはお願いするわね



 カズハはそこまで言ってくるりとユキシロを振り返る。



「それじゃ、この子を……ミツハをよろしくね」

「はい」



 そう言ってカズハは目を閉じ、くずおれる彼女をユキシロが抱える。ミツハがゆっくりと瞼を震わせ、目を開いてユキシロを視認し、何か言葉を交わしたようだが、二人が抱きしめあっているのを眺めている余裕はなかった。



 カズハがいなくなった途端、骸骨と赤クジラが再始動してしまったからだ。



「うおおおおおおお!!!」

「おりゃーーーーーーーー!!!」



 俺達が話している間、血まみれのツェツィーリエの治療をしつつ骸骨と戦っていた手下達は、再び赤クジラの相手もしている。さっきまで割と逃げ腰だったのに、ツェツィーリエが倒れてしまったことで逆に奮起していた。あ、治療していたのはあの白イルカか。お優しいことで。

 だが、何人かは麻痺で動けない様子の者もいる。



 まあそいつらの相手は手下達に任せるとして、俺の相手はこいつだ。



 一体の赤クジラ。さっきまで暴れていた赤クジラは、明確に俺に狙いを定めた。あらかたの治療が終わったのか、白イルカが宝箱を咥えて俺に渡す。



「サンキューな」

「きゅー」



「君、骸骨達の相手は私達に任せて。ミツハがいれば、いけると思う」

「わかった、そっちは頼んだぞ」

「はい。今こそ、我らに伝わる本当の役目を果たさなければなりません」



 そうしてミツハは舞い始め、ユキシロはその舞いに合わせて横笛を奏でる。幻想的な曲を背中に、俺は傘と魔導書を構える。



「あんたは、この箱を開けられたくなかったんだな」

「……」

「でも、もういい加減、あんたの大切な人から逃げるのもダメだって、わかってたんだろ」

「……」

「だから、この鍵を作ったんだ。そんで、俺に渡した」



 赤クジラは答えない。だが、俺が箱に鍵を差し込もうとした瞬間、赤クジラは動いた。

 例の勇者がこの場所に執着した理由はこの箱にあるんだろう。

 あと、俺は忘れていたがステータス画面を表示させた。










 そう、こいつはあくまでクラゲなんだ。

 もっと冷静にじいっと目に力を込めて見ると、赤クジラの周りに細い糸のようなものが見えた。毒の正体はこれだ。迂闊に近づくとあの海賊の手下と同じことになる。



「だったら近づかずに攻撃するしかない!」



 こいつとまともに対峙するには素早く動けなくちゃならない。そのために、俺は白イルカの背に乗りながら魔導書を構えていた。



「悪いが頼むぞ!」

「きゅー」



 白イルカに乗る俺に並走して、月夜とやきとりも追いかける。何発か魔法を放つが、全て赤クジラに辿り着く前に掻き消える。



「どうすりゃいいんだ」



 風属性、闇属性、火属性、地属性。それぞれの魔法が効かない。



「きゅー、きゅーきゅきゅー」

「は?なに、なにが言いたい?」



 白イルカが赤クジラから逃げながら何か訴える。



『まだ試していない属性があるってさ』



「まだ試していない属性?……あ、水か。だけど、水は……。いや、やってみるか」



 後ろに向かって水球を放つ。その様子を振り返りながら見ると、赤クジラに当たった。



「あたっ……た?」



 魔法が当たる前に消えるってのは、魔法耐性って奴の効果じゃないのか。

 もう一度目を凝らして見てみる。すると、うっすら見える触手に触れると魔法が消えた。あの触手が魔法を消しているのか。



「……わかった、赤クジラを攻撃できない理由が!」



 つまり、水属性以外の魔法はあのオーラでかき消されるんだ。そして唯一届く水属性は赤クジラ自体の魔法耐性によって効かないんだ。となると……。



「俺一人じゃ、無理だ。なあ、エレノアのとこまで行けるか?」

「きゅー!」



 白イルカは骸骨を押しとどめるために戦っていたエレノアの方に近づく。



「エレノア!」

「ユートさん?!」



 俺が手を伸ばすとエレノアは迷うことなく俺の手を取り、白イルカに掴まる。



「ユートさん、どうしたんですか?」

「俺一人じゃ無理だと思って、お前にも手伝ってもらいたいんだ」



 そういって思いついたことを話し、再び赤クジラにその攻撃をしかけてみる。だが、それでも足りない。



「おい、あたしも混ぜな!」



 ツェツィーリエが若干ボロボロな様子で俺達のところにやって来る。



「それは助かる」



 それから俺達はなんとか逃げ回り、壁を崩したりして砂煙をあげて、赤クジラの視界から身を隠した。

作戦その一。触手があるので攻撃は遠距離から。

まずは身を隠して距離を取る。

作戦その二。あの触手のせいで触手エリアは水属性以外通らないので、真の攻撃を水属性の魔法でコーティング。

作戦その三。特大の超強力な魔法を水属性の魔法の中心にする。



「えらく単純な作戦だね」

「だが、相当な魔力と技術力がいるだろ」

「確かに」

「俺とエレノアだけじゃ届かなかったからな。威力もいる」



 さっき試してダメだった。



「そしてエレノア、お前とやきとりが核となる魔法を放て」

「え、私ですか?!」

「さっきは俺の闇魔法だったが、お前、赤クジラを切ったときどうやった?」

「え、夢中で切ったとしか……」

「あの時お前、聖属性の魔力も一緒に叩きこんでたんだよ。だから切ることができたんだ。俺もいろいろ考えて思い返してわかったことなんだが、たぶんあいつにはお前の攻撃のほうが効く気がする」

「……わかりました」



 聖属性をエレノアが持っている、というだけではなくて、こいつは聖女だから余計に効くと思う。あれがかつての勇者なら、聖女という存在はきっと重要だろうから。



「それで、あたしは?」

「あんたはエレノアとやきとりの魔法を赤クジラまで届けてもらう。風の魔法で押し込む、できるだろ?」

「ああ力技ね。」

「そしてイルカに水属性の魔法でエレノアとやきとりの魔法を覆ってもらう」

「あんたは?」

「俺と月夜はおとりだ。まあ、できる限りの援護はするが。特に水魔法」

「ふーん。あんた、いい男だね」

「は?」

「一番危険な役目はあんたってことだろ」

「……一番大変なのはこいつだ」

「にゃー」



 俺は足元の自分の使い魔に視線を落とす。



「他人が放つ魔法の微調整やら操作やらをやるんだからな」

「へえ。いい使い魔を持っているんだね」

「ああ」



 打ち合わせはこんなもんだ。



「さ、あとはやるだけだ」



 俺は箱を持って赤クジラの前に立った。もう白イルカに捕まって逃げることはできない。



「さ、来い!」



 エレノアとやきとりが特大の魔法を練り上げる間、赤クジラの気を逸らしておかなければならない。赤クジラ改め勇者クジラは狙い通りに俺を追いかけ始めた。



「こんなに足を鍛えることになるとは、な!」



 そこからは逃げ回ることに集中する。絶対にあっちを見るなよ!

 骸骨達はミツハ達のおかげで復活はしていない。だが、抑えている間は舞い続ける、吹き続ける必要があるようで、ずっとそれらを続けている。これもあんまり長すぎると体力がもたないだろうな。



 そしてついにそのときが、来た。聖属性の魔法の周りに水属性の魔法で覆い、それが赤クジラに向かって放たれる。それが渦を巻く風によって勇者クジラに押し込まれた。



「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



 勇者クジラが声をあげるが、やはり勇者クジラの体に迫るところで魔法が逸れそうになる。それを俺も手を翳して、月夜と共に支える。



「とどけええええええ!!!!!」



 そのとき、結界の槍が二本勇者クジラを貫いて動きを止めさせた。ふと下を見ればミツハとユキシロも魔法を勇者クジラに向けていた。



「もうここで、お眠りなさい」



守り弾くという性質の結界を攻撃に使うという逆転の発想だが、それを大人しく受け入れたように見えたことで俺はもしかして、と気づく。

 動きを止められ、全員の合わせた魔法を受けた勇者クジラはパンっと弾けて消えた。そして白い淡い光が降り注ぐ中で、ゆらりと陽炎のような人影が地面に蹲る。



「あんたは、本当にあの聖女が大切だったんだな。赤クジラに結界が効いたのも、それが聖女の能力と同じものだったからか」

「……彼女は俺を変えたんだよ。臆病で、弱虫で、情けなかった俺自身を」



 その人影は初めて俺と会話らしい会話をした。

赤クジラの攻略法を考えている時におかしいと思っていた。この場所は迷路と結界で封じられているのに、赤クジラは水聖殿までやってくることができた。迷路を通ったにしては壊れている様子がなかった。ならこの頭上の結界を通ったということになる。



だが赤クジラに結界は効いた。それは恐らく、勇者が憑りついていたからだったんだろう。



「だから、この箱がある、正しくはこの箱の中身があるこの場所に執着したのか」

「だって、彼女があんな最後になると知っていてずっと僕に付き合ってくれていたとしたら、辛い思いをずっと抱えさせていただなんて。たとえ知らなかったとしても、あんな痛みだらけの、絶叫をあげさせてしまうような最期にさせてしまったなんて。彼女がどう思っていたのか、知りたくなかった。ずっと恐怖を抱えて俺のそばにいたんだとしたら、俺は……」

「でも知りたかったんだろ。だからこそ、この鍵を作り、俺に渡した」

「……どうなんだろう。ずっとずっと逃げ続けたくせに、そんな鍵を作ってしまった」

「今日、初めて私の勇者様とお会いできた。私はなんて幸運なんだろう。過去の聖女達は勇者様と会えなかった方達もいるのに。……でも、私は幸せだけど、オスカー様をこの世界の事情に巻き込んでしまった。とても申し訳ない」

「エレノア?」



 エレノアは突如語りだした。だが、それが誰の言葉なのか俺は理解する。そして俺はプリムラの鍵で箱を開け、そこにあった本をエレノアに手渡した。エレノアはその日記を広げて語り続ける。



「明日はいよいよ魔王の元へ向かう。やっとここまで来ることができた。でも、魔王をちゃんと倒すことができるだろうか。今までの勇者様と聖女達が挑んでも倒すことのできなかった相手だだから不安は残る。けれど、私はオスカー様を信じている。たとえどんな結果になろうと、オスカー様は命をかけてわたしが守る。それが私の役目で、そして私自身の望みだから」



 エレノアはぱたんと日記を閉じ、今度はオスカーをまっすぐ見つめた。



「ああ、オスカー様は無事だろうか。私の魔法は間に合ったのかしら。でも、封印の呪文を唱える声が聞こえる。よかった、オスカー様はまだ生きている。オスカー様、ごめんなさい。あなたをお守りできなくてごめんなさい。約束も、したのに。守ることができないようです。でも、あなたが生きてくださるならそれでいい。この、魔王を受け入れ封じる痛みも、耐えて見せましょう。ああ、声が抑えられない。これではオスカー様が気に病んでしまう。でもどうしてかな、オスカー様を悲しませたくないのに、でもきっと私の声を聞いたオスカー様はずっと私のことを心に刻んでくださるでしょう。そうであれば、ちょっと嬉しい。こんなこと、思いたくないのに。私は本当にひどい人間ですね。聖女と呼ばれてても、浅ましい。けれど、どうか、私のことを覚えていてください。そしてどうか、幸せに……」



 そこでエレノアの言葉は途切れる。それを聞いて、オスカーは泣き崩れた。



「君のいない世界で幸せになんかなれないよ」

「そうだとしても、聖女リラはあなたの幸せを願い、あなたを恨むこともしていなかった。ただあなたを傷つけるとわかっていても、自分のことは覚えていてほしいと願うだけだった。聖女の勇者様への想いを、甘く見ないでください」

「……そうか」



 そう呟いて、その陽炎は消えた。それと同時に、その場にいた赤クジラ達が全てぱんっと弾けて消える。



『とうに限界を迎えていたんだね』

「だが、それだけじゃ終わらなさそうだな!」



 赤クジラが弾けると、彼らの中にため込まれていた瘴気が一気にばらまかれる。本能的に、それは良くないものだとわかる。



「瘴気は……私達にもどうしようもない」

「……」



 ユキシロがそう呟いた。俺は頭上を降り注いでいた黒い靄に触れる。すると何となく、それがどういうものなのか理解できた。魔導書にも説明書きがあったし、具体的にこれをどうすればいいのかも何となくわかる。



 俺はあの霧の教会でしたように、その瘴気を取り込んでいく。



「ユートさん?!」

「んにゃー?!」

「きゅー!!」

「こけーーー!!!」

『ユート君?!ダメだよ。それは絶対に体に悪いどころか、毒と同じなんだ!』



 周囲の驚きの声を無視して、俺は吸収と把握、分離、整頓に集中する。要するに瘴気とは様々な属性の魔力がまぜこぜになってしまったものだ。絡まった糸をほどくように、体内に取り込んだ瘴気もほどいていけば、それは自然に循環する魔力に戻る。



 ひととおり瘴気を取り込んで瘴気を魔力に戻すと、俺は目を開けた。

 漂っていた瘴気は消失している。



「赤クジラの浄化と同じことを?」

「あなたは一体……」



 ミツハとユキシロの問いには答えず、俺は残る一つの問題に目を向けた。ミツハ達のおかげで地に伏した骸骨達は、起き上がることこそないが、未だ魂はここにある。

 俺の視線に気づいたミツハが、



「もうここの魂達は黄泉路の道がわからなくなっていると思います」

「どうすればいい?」

「わかりません。黄泉路に導いてくれる存在でもあればいいのですが……」



 そのとき、上からゆっくりと小さな紫色の物体が下りてきた。何だろうかと手を伸ばせば、それは俺が船上で作ったナルスに棒を刺した牛だった。それは俺のてに収まると、ふわりと浮かび、その場に倒れた骸骨達から淡い白い光の玉が浮かび上がる。それはふらりふらりと牛の背におさまった。よくあれだけの量の魂が乗れたなと思うくらいの光を背に乗せ、牛はまたゆっくりと昇り始める。



「お前が送ってくれるのか」



 その牛は本当にゆっくり、ゆっくりと昇って、やがてその姿が見えなくなった。












「ミツハ様!一体どこにいらっしゃったのですか!」

「ってユキシロ様?!」

「おーいみんな!ユキシロ様が戻られたぞ!」



 水聖殿に戻ると、ミツハに仕える者達が終始慌ただしく動いた。



魂達を見送った後、ふと気づけばツェツィーリエ達はいなくなっていた。俺達は取り敢えず水聖殿に戻り、そして一旦休憩した後、アランと合流し地上に戻る道らしい、水の湧き出る場所に案内される。


「いろいろ世話になったな」

「いえ、お世話になったのはこちらの方です」



ミツハとユキシロは寄り添いながらそう言った。そして、俺に白イルカを差し出す。



「この子があなたについて行きたいと言うので、ユート様が許してくださるならどうかお連れください」

「は?」

「きゅー」

「こけ?!」

「んにゃ」



俺と使い魔達は驚きの声を上げた。


「連れてくって、俺の使い魔になるってことか?」

「きゅー!」



白イルカは頷いた。俺はじっと白イルカを見つめる。



「本当にいいのか?」

「きゅ!」

「……じゃあ、名前をつけないとな」

「きゅーーー!!!」



 白イルカは嬉しそうにくるくると回る。俺は白イルカの白い体と、薄紅色の頬を見て思いつく。



白桜はくら。お前の名前は白桜だ」

「こけーーー!!!」



 なんでやきとりお前が泣くんだよ。



『名前の差だよ。なんで自分だけちゃんとした名前じゃないんだってね』



「そりゃお前が仮契約だからだよ」


『こんなところでも正社員と派遣社員の差が……ううっ』



 お前さ、本当さあ!なんかつっこみがいっつも生々しいんだよ!



「まあそんなわけで、またな」

「はい、どうぞまた来てください。あなた方でしたらいつでも歓迎いたします。エレノアさんも、アランさんも」

「はい!」

「他の乗船された方達は責任をもってまた地上に送らせてもらいます」

「よろしくな」



 そうして水の湧き出る噴水に足をつけると、ぐるりと視界が回った。









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