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第五十四話 カズハ

「いい眺めだね」

「またあんたか!」



 今度こそ本物の宝箱を小脇に抱えたツェツィーリエが、海賊の手下達によって地面に押さえつけられる俺と、同じくナイフを突きつけられ腕を後ろに回されて拘束されているエレノアを見た。



「やっとですね、お頭!」

「勇者のお宝ならいくらで売れるんだか!」

「黙ってな!」



 ざわざわと騒ぐ手下達を黙らせ、俺に問いかけた。



「あんた、これの開け方を知ってるかい?」

「知らねーな」



 ちらりと、先ほど手に入れたプリムラの鍵のことを思い出すが、しらばっくれる。



「そうかい。じゃあ、そのポケットの中の鍵、もらうよ」



 ツェツィーリエが動けない俺のポケットに手を突っ込み、金色の鍵を取り出した。

 ちっ。そこから見られていたのか。



「これがあればあんたを生かしておく理由はないね。ここまでご苦労だった。ただ、冥土の土産にこれの中身、見ていくかい?」



 ツェツィーリエはプリムラの鍵を宝箱に差し込もうとした。だがそれは突如現れた巨体によって阻まれる。グオオオと重く響く音がしたかと思えばそれはツェツィーリエに突っ込んでいった。彼女はそれを咄嗟に横に跳んで避けるが、彼女の手にあった宝箱はそいつの大きな口の中に消えてしまう。



 ツェツィーリエも俺達も、その巨体を呆気に取られて見上げた。

 その巨体を素早く動かしながら、赤クジラは俺達をじっと見つめていた。



「あのクソ野郎!またあたしの邪魔しやがって……!」



 一足早く現実に戻ったツェツィーリエは舌打ちした。俺も何をどうすればいいのか考えようとしたが、無理だ、という答えが頭を占める。何故なら赤クジラは一体ではなかった。水聖殿と同じ三体でもない。ざっと数えて恐らく三十体の赤クジラが目の前に広がっていた。三体でもあれほどキツかったんだ。この数を相手にできるのだろうか。

 しかも、敵は赤クジラだけではなかった。この場に未だしがみついている、魔物化した死体達が骨をガシャガシャ鳴らしながら立ち上がり始めた。



 そう俺が考えている間にも事態は動いていく。赤クジラはその圧倒的な巨体でまず俺達を圧し潰そうと突っ込んでくる。



「お前ら散れ!固まるな!」

「うああああ!」



 ツェツィーリエの号令で手下達は俺達の拘束を解いて一斉に散らばる。最初は走りながら応戦していた手下達も、骨を砕いてもすぐ復活するうえに敵の数が多すぎて、しまいには骸骨達や赤クジラから追い回されて逃げ惑う。

そんな様子を横目に見つつ、俺も近づいてきた赤クジラから逃げるために体をひねった。水圧が肌に触れる。やはり地上のような見た目だし、外にいるような感覚がしていたが、あくまでここは海底のようだ。ついでに、ツェツィーリエの手から離れて転がっていたプリムラの鍵を回収する。

前門の赤クジラに後門の骸骨。今のところ引き返せるような逃げ道はない。敵の一体を避けても次々と別の奴から襲い掛かられる。



『あー、あー、逃げ足スキルのレベルがどんどん上がるシチュエーションだよね、これ』



 そんなのんきなことを考える余裕はない!



「ユートさん、上です!」



エレノアの叫びと共にふと足元で巨大化する影を見て見上げれば、俺の頭上から赤クジラが落ちてきた。多少はマシになるかと傘を開いたが横にいたやきとりが炎を吐き出した。それでなんとかなるかと思いきや、赤クジラにあの高火力の炎が効いている様子はない。開いていた傘のおかげでなんとか赤クジラを弾き返すことができた。

 月夜はそんな赤クジラを捉えようと影を伸ばすが、あのつるんとした丸っこい形のせいか、体に触れてもつるんと滑って捕らえられない。俺達に向かってきて近づいたときに刀を当ててみたが、それもつるりと滑ってダメージを与えられず、ぽよんとした弾力で弾かれる。

そんな風に赤クジラにばかり注意を払っていれば今度は骸骨達が弓やら槍やら剣やらで攻撃してきた。体勢的に刀では対応できなかったので、槍で狙ってきていた骸骨三体を傘で横に薙ぎ払う。矢はやきとりが消し炭にする。骸骨は肉体がないためか、薙ぎ払った感覚は軽い。だが、人の骨の折れる嫌な感触は手に伝わる。

これは、終わりが見えない。そんな嫌な予感が頭をよぎった。

その場にいる全員が避けたり押し返したり逃げたりするのに手いっぱいだった。どれだけ切って、魔法をぶつけても有効打と思われる攻撃が見つけられない。それに俺はあまりこの戦いを長引かせたくなかった。何故ならどういう仕掛けかはわからないが、赤クジラは毒を使う。今この状態で麻痺にでもなったら本当に終わりだ。あれの防ぎ方もよくわかっていない。解毒薬などもない。

そんな頭の片隅の焦りのせいだろうか、俺は骸骨に足をひっかけられて尻もちをついた。その骸骨は月夜が巨大化して骨ごとバリバリとかみ砕いてしまったが、態勢を立て直す前に横から赤クジラが迫る。そんな俺と赤クジラの前にエレノアが立ちはだかった。エレノアはまっすぐに赤クジラを捉え、剣を構える。



「エレノア!逃げろ!」

「はああああああ!」



 エレノアはその剣一つで赤クジラの腹を引き裂いた。俺の時は弾かれたのに、これも剣の技量の差なのだろうか。赤クジラは腹の中からぶわりと黒い靄のようなものを溢れさせ、何か白いものが転がり出てきて、赤いゼリー状の体は下にゆっくりと沈む。



「倒せた……のか?」



 俺は今のうちにと立ち上がって見つめるが、やはりそんな風にうまくいくわけではなかった。裂けた赤いゼリー状の体がもぞもぞと動き、やがてぱっくりと横線一つの口が生まれて小さな赤クジラが復活する。



「こいつら分裂もするのか!」



 と俺が叫んだ時、他の連中を追い回していた赤クジラが一斉にその黒い靄にまとわりつかれている小さな赤クジラに襲い掛かったように見えた。



「え、共喰い?」



 三十体もの赤クジラが頭らしき部分を下にしてその小さな赤クジラに食らいついているように見える。まるで赤い柱のようだ。



「あー、あれは共喰いとは違いますよ。あれは瘴気を飲み込んでるんです」



 突如響いた聞き覚えのない声に俺がばっと横を見ると、地面に座り込んでいる、白い着物を着て髪をハーフアップにした男が、全身何かしらの粘液まみれになりながら頭をかいていた。



「お前、誰だ。どこから現れた?」

「ああ、私の名前はユキシロと言います。ご存知かは知りませんが、水聖殿に所属しているものです」

「さっき赤クジラから出てきた白い奴か!てかミツハのとこの?」

「ミツハをご存知で?それは話が早い」



 ユキシロという男は立ち上がり、俺と向き合った。



「もしかしたら聞いているかもしれませんが、だいぶん前に赤クジラが水聖殿を襲った時にクジラに飲み込まれまして、先ほど助け出していただきました。ありがとうございます」



 クジラに飲み込まれてたって……そういや赤クジラが襲ってきたときにそんなような話をミツハ達がしていたな。エレノアが切り裂いた赤クジラに飲み込まれてたのか。



「よく無事だったな」

「いやー、赤クジラは消化器官を持っていなかったようで……助かりました。ただお腹はすきましたが」



 と俺が話している間にエレノアが駆け寄る。



「え、ユキシロさんて、ミツハさんの婚約者の?!」

「は、婚約者?!」

「あー、はい。いずれ彼女とは夫婦になる予定です」

「てかエレノア、お前いつの間にそんな情報を仕入れてたんだ」

「ここに来る前にミツハさんに聞いたんです」



 そんな話をしていると、当然のごとく骸骨が押し寄せてきた。



「のんびり話をしている場合じゃないな!」

「そのようですね」



 ゆっくりと話している暇はないが、話を聞く価値はあるだろう。俺達は全力で骸骨から逃げつつ、ユキシロと並走する。

エレノアはその機敏さで次々に骸骨を切り伏せ、骸骨の持つ槍を奪っては振り回し、弓を奪っては正確に頭蓋骨を打ち抜く奮闘ぶりをみせていた。



「ユキシロさん、だったか?」

「ユキシロで、いいですよ」

「あんたさっきの口ぶりだと、あの赤クジラに詳しいのか?」

「うーん、まあ多少はですね。さすがに赤クジラの中にワダツミ家の縁者がいるといろんなことを見るようになるというか……」

「半分も言葉に意味が分からないだが!」

「うーん。それには私の家系の話をしないといけなくてですね……。あ、横からきますよ!私はミツハの従弟。ワダツミ家の傍系であるミズチ家の当主なんですが、まあ私のご先祖様がかつての勇者様とともに戦ったダン・ミズチなんですよ。この場所はミツハの先祖であるカズハ・ワダツミとダン・ミズチが封じた場所なんです。あなたはこの場所に正規のルートで来たんですかね?」

「一応仕掛けは解いてここまで来たが……。それが正規ルートかはわからないな。エレノア、後ろ気をつけろ!」

「ああ、じゃあちゃんと正規ルートですね。ここに来るまで迷路があったでしょう。あれ、侵入者を拒む目的もありますが、本当の目的は逆なんです」

「逆?」

「ここに封じられた魔族や人間の未練が残る魂を、そして魔物化してしまった遺体達を外に出さないための場所なんです」

「……なるほど」



 確かに記憶らしき映像ではそんなような話をしていた。



「なんのために?」

「そこまでは読み取れませんでしたが、ご先祖達はとにかくここにいる骸骨達は外に出してはいけないと思ったようですね。そういう思念が、赤クジラの中にいるときに流れ込んできまして、いろんなことがああなるほどと得心もいったわけで」

「そういうことか」



 俺にも似たような現象が起きたのを考えれば、今の話も納得できる。



「じゃあ、赤クジラについて何か知っているというわけではないんだな?」

「少しだけなら。赤クジラはあの瘴気に反応してるんです。私も赤クジラに飲み込まれるまで知りませんでしたが、彼らは瘴気を取り込んで体内で浄化しているらしいんですよ。ただ今は本来されるはずの浄化ができていないらしくて、それが見境なく襲う暴走の原因かな、とは思いますけど」

「瘴気って、あの黒い靄か」

「そうです。ああ、あなたには見えるんですね」



 さっきのエレノアが赤クジラを引き裂いた際に溢れ出した黒い靄。あれは赤クジラがこれまでにため込んだ瘴気だったのだろう。だが、その黒い靄は魔法を放つ海賊達からも生み出されているように見える。



「そうです。瘴気ってわりと普通に生れ出てしまうんです。特に魔法を使うと。魔法を使って瘴気が出てしまうなら、魔法を使って赤クジラを倒そうとするのは悪手ですね逆に煽っていることになる」



 俺は魔導書を持ちつつ火の魔法を唱えた。



「フレアカッター!」



 俺の魔法からは、瘴気は発生していない。魔法を使えば必ずしも発生するというわけではないらしい。だが、瘴気のことは覚えておいたほうがいいだろう。そういえば船上のツェツィーリエの時も、ミツハの時も、赤クジラは黒い靄に反応していたように見えた。どちらも瘴気に反応したということなんだろう。



 俺の放った初級魔法は赤クジラの体に飛ぶが、やはりその体に当たる前に霧散してしまう。戦いながら赤クジラの攻略法を探していると、今度は骸骨達が後ろから襲ってきた。俺は目の前に浮かぶ魔導書の次のページが開かれ、そこに書かれた魔法を唱える。



「氷原の女神よ、導を示せ!グラキエス」



骨がピキンと凍り、砕けた。これら蹴散らすことは、俺の魔法でもできる。だが、すぐに蘇ってしまうので数が減らない。逃げながら戦うにしてもアンダーテイカーとか大技を使うのは無理だしな。



 骸骨に絞って考えれば相手は死者だ。だったら死者に効きそうなことを片っ端から試してみるか。あと結界が赤クジラに効果があることは実証済みだ。だが俺は結界の魔法を知らない。更に赤クジラを相手にしようとすれば骸骨達まで手が回らず、骸骨達を相手にすれば赤クジラに対応できない。試してみるにも両方を相手にするなんて以ての外だ。こうなったら……。



「ツェツィーリエ!」

「なんだい?!今忙しいんだけど」

「協力しないか」



 ここまで戦ってわかる。このまま骸骨と赤クジラ両方を相手にしていたらやられる。ここまで逃げ回るにもかなり体力を使った。このままではジリ貧だ。



「あたしはあんたの敵だよ。これまでのことを忘れたのかい?」

「忘れるわけねーだろ!ここで死んだら末代まで祟ってやるよ」

「言ってくれるねー!」

「だがあんたはバカじゃないだろ。この状況で下手な裏切りや非協力よりも、俺達を利用するために協力したほうがいいって思うはずだ」



 ツェツィーリエはこの瞬間まで手下達をまとめ上げて生き残っている。敵は敵だしいろいろ思うことはあるが、敵の敵は味方理論がこの場では通じないだろうか。一時休戦の上協力できれば頼りになる存在であることは間違いない。



「……いいだろう。一時休戦だ。なにか策があるのかい?」

「それはこれからだ。だが、いろいろ試したいことがある。ああ、一つわかってるのは、赤クジラは毒を使う。どう毒を相手に接種させるのかはわからないが、その毒を食らうと麻痺する。気をつけろ」

「麻痺ね」

「お前の手下達で骸骨のほうを抑えることは可能か?」

「無理だね。あいつ等じゃあ荷が重い!」

「お頭!でもここままじゃ全員死にますよ!なんとか抑えてみせます」

「待ちな!まだ策ができてないのに突っ走るんじゃない!」



 その通りだ。言い方は悪いかもしれないが、今の状態で突っ走られて動ける人間が減るのは痛い。



「じゃあ、赤クジラは?」

「あいつは魔法が効かないらしい。だが頭上を泳ぎ回られたんじゃ武器が届かない。唯一そこらへんに転がっている石は当てられるが、大したダメージにはならないからね」

「そっちも結論は同じか」



 だったら、どうする?



「あんた達は結界が使えるか?」

「初級程度のならね。だが、あれだけの数を抑えるには、そんなに長くはもたないよ」

「わかった。結界は有効であることは確定だ。それでとにかく時間を稼いでくれ。俺は骸骨をどうにかする」

「りょーかい!」



 ツェツィーリエは手下達に指示を出し始める。



 その間に死者に効きそうなことで思い浮かぶことを順にやっていくことにした。



「まず一つ目!清めの塩!」



 俺はカバンの中から調理用の塩を取り出す。そして骸骨達にばらまいた。



「うががががあががが」

「ダメか!」



 普通に骸骨達は元気に武器を振り回している。



『塩っていうか、ここそもそも海水だしねー。塩が効くならとっくにきいているのでは?』



 確かに。



「二つ目、お経。何妙法蓮華経。南無阿弥陀仏。観自在菩薩 行深般若波羅密多時」



『法華系と浄土系と禅系が入り乱れてるよ!』



 何が効果あるかわからないだろ!下手な鉄砲でも数打ちゃ当たるんだよ!てかさ、神さ、ほんとお前なんなの?!



 と神へつっこみをいれたが、現実問題心持ち骸骨達の動きが鈍くなった気がする。こういうのに効くのはやはり宗教系なんだろうか。



「骸骨達を抑えるなら、私がお役に立てますよ。ただ、抑えられて半分です。ミツハがいれば……」

「半分でもやらないよりマシだ。そっちは頼むぞ」

「わかりました!」



 ユキシロは懐からさっと横笛を取り出して唇にあて、息を吹き込むと中からべちゃっと粘液が出てきた。



「……まともに吹けるようにするのにあと五分ください!」

「おいーーーーー!!!!」



 時間稼ぎのための行動に更に時間稼ぎがいるとか、これどうすんだよ。確かにあんたさっきまで赤クジラの中にいたんだったな。その粘液は赤クジラのか?

 とりあえず俺は覚えている限りの経を唱えながら、合間合間に魔法を唱える。

 だが、いち早くこの場の攻略法の入り口に辿り着いたのはエレノアだった。



「ユートさん、武器です!骸骨達から武器を奪えば復活するまでの時間が増えます!」



 エレノアは骸骨達の手から剣を弾き飛ばしたり、槍を叩き折って骸骨の腹のあたりを蹴り飛ばす。一体、二体、三体、四体。あっという間に数十体の骸骨が地に伏す。そして彼女の言うように骸骨が立ち上がる様子はない。



「武器だな、わかった!」



 俺も魔法の狙いを骸骨の武器に定める。やきとりや月夜も同じように蹴散らしてくれる。そんな時、背後でツェツィーリエの叫びが聞こえた。



「避けな、アングレ!」

「うああああ!」



 振り返れば手下の一人が叫びながら箱を抱えている。さっき赤クジラに飲み込まれたそれはどこかで吐き出されていたらしい。それを拾った海賊の手下に赤クジラが迫っていた。手下は腰を抜かしたのか体が動かないのか、避けられない様子で叫び声をあげる。いや、違う。あれは俺と同じ麻痺だ。海賊たちが助けに入ろうと走り出すが、間に合わない。



 叫び声をあげていた手下はちらりとツェツィーリエを見て、そして手に持っていた宝箱をツェツィーリエに向かって投げた瞬間、赤クジラに押しつぶされて、血が舞った。赤クジラはそれには気にも留めず、今度はツェツィーリエに狙いを定める。



 それを見てツェツィーリエはふっと笑い、宝箱を上から地面に叩きつけようとした。するとそれまでいろんな奴の相手をしていた赤クジラ全てが一斉にツェツィーリエに猛スピードで駆け寄る。



「さっきから様子をうかがってりゃ、この箱が狙いなんだろ!」



 その箱が地面に届く直前、赤クジラから黒い靄がぶわりと広がり、その靄がツェツィーリエを包み込んで、ツェツィーリエはごほっと血を吐いた。



「ぐっ!」

「お頭!」



 地面にぶつかった箱は壊れることはなく、だが赤クジラは激しく反応して、まるで激怒しているかのように暴れまわり始めた。まるで地に転がった宝箱に誰も近づけさせないとでもいうように、宝箱の周りでもはや骸骨達にもお構いなしに地面を赤クジラが転げまわる。



 その時、軽やかな笛の音が響いた。その音を聞くと骸骨達が機能停止したかのように動きを止める。

 それと同時に海の果てから流れ星のような光が目の前に落ち、そしてその光の中からミツハは立ち上がった。ミツハはその場の様子に驚いた様子もなく、暴れまわって地面に穴を開ける赤クジラを見てため息をついた。そして手をかざすと金の鎖が赤クジラを縫いとめる。



「まるで子供の癇癪ね、オスカー」

「よかった、呼べた」



 水聖殿で会った時とはなんだか雰囲気が違うミツハに、ユキシロは近づいて頭を下げた。



「ミツハを呼べるだけでも上々と思っていましたが、まさかあなたまでお呼びできるとは思いませんでした。はじめまして、カズハ様。直系ではありませんが、あなたの血も恐らく僕の中に流れているので、あなたの子孫のユキシロと申します」



 ミツハはじいっとユキシロを見つめると、手を叩いてぱっと笑った。



「あらあら、まさかこの感覚、ダンのとこの?全然似てないわね!でもそう、私の子孫でもあるの。まさかこんな風に何百年後の自分の血筋の子と会えるなんて、もう生きてはいないけど、人生って何があるかわからないものねー」



 ミツハ?はからからと笑ってユキシロの背を叩く。そして俺のほうに視線を移した。


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