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第五十二話 箱と扉

ツェツィーリエは先に行ってしまったが、残された俺達はその場に佇んでしまう。なにせ道を案内してくれる魚が三枚におろされてしまった。未だこの先はくねくねと迷路が続いているように見える。



「ここからどうする?」

「どうしましょう」



 エレノアも首を傾げた。やきとりがぽてぽてと、月夜はすたすたとその場を観察する。そんな中でやきとりが迷路の壁の下にあったサンゴの塊の前で羽をバサバサとはばたかせた。



「こけー、こけこけ!」

「ん、なんだどうした?」



 やきとりがサンゴを示すのでそれを覗き込んでみると、サンゴの中に何匹かの魚がいる。その中に、黒い魚がいた。



「黒い魚……か。だけどこの魚がどうやって道案内を……」



 と俺が言いかける間もなくやきとりがサンゴの隙間に嘴でつつきだす。それをみた月夜が前足を伸ばしてサンゴの中で逃げ惑う黒い魚を追い詰め、そんな攻防に一瞬サンゴから出た黒い魚を白イルカがすかさず咥えて捕まえた。



「おおーー!!」



 呆気に取られる俺の横でエレノアが拍手をした。そして白イルカが黒い魚を離すと、その魚はサンゴに戻ることなく迷路を進み始める。




「と、とにかく追いかけるぞ!」



 黒い魚を追って辿り着いたのは、一番奥に何故か扉だけがポツンと立ち、その手前に箱がこれまたポツンと置いてある広い空間だった。俺達は周囲に警戒しながらまず箱に近づく。それは腕で抱えられるくらいの大きさの箱だった。まさに宝箱といったような出で立ちで、鍵穴がある。そのまま開けようとしても開かない。



「箱と扉……」



 エレノアが扉の周りをくるりと一周した。



「後ろにはなにもありませんね」

「そうか」



 ということはあの青色の猫型ロボットの道具の一つよろしく違う場所に繋がっているのだろうか。で、あれは未来の科学力の話だったが、この世界は魔法の世界だ。有り得ることだろう。

俺は扉の前に立ち、開かないかと扉を押してみる。開かない。



『押してダメなら引いてみよう!』



 引いてみる。開かない。



『……引き戸かもしれないよ』



 一応右にも左にも押してみる。開かない。



「……」



『いや、何でもないです』



 そもそもこの扉の形は引き戸っぽくない。西洋の城の門のような見た目だ。引き戸ってことはたぶんないだろう。



 だが扉をじっと観察したことで、うっすらと扉に刻まれた言葉に気づいた。



『願い』



 たったその一言。それだけが刻まれている。



「願い……」

「あ、これも聖語ですね」



 俺の視線に気づいたエレノアも扉を見上げる。



 願い。最近どこかで聞いたような?



「そういえば、ミツハさんが宝物庫の壁画についても願いだと仰ってましたね」

「そうか、それだ!」



 聞き覚えのある言葉はそのせいだ。ということは、何かこの場所と関係はあるだろう。ミツハはこの場所の仕掛けを作った二人の子孫だ。



 俺はあの壁画を必死に思い出す。こんな重要なものだとは思っていなかったから、そんなにじっくりとは見たりしていない。だが、あの絵は確か二人の人間が立っていた。そして、箱を持っていたような……。



「箱だ!」

「え!」



 あの壁画では二人の人間が箱を持っていた。だが、それ以外にあの壁画から読み取れたことは俺にはない。とりあえずこの情報だけで一度試してみるか。



「エレノア、この箱を持ってくれないか?」

「あ、はい」



 俺とエレノアが二人で箱を掲げる。だが何も起きない。



「……じゃあ、俺とお前の位置を逆にしてみよう」

「わかりました」



 俺とエレノアが立ち位置を変えると、扉が一瞬光った。だがまだ開かない。



「反応があったってことは、間違ってはないってことだな。ということは、何か足りないんだ」



 じっと床を見つめながら考えていると、ふと床の色が一部違うことに気づく。



「立ち位置はここか」



 俺はエレノアと一緒に床の色が変わった部分に立つ。すると扉からかちゃりという音がして、光輝いたと思ったらゆっくりと開いた。



「開きましたね!」



 俺達が扉に気を取られたその隙に、俺の手にあった宝箱が消える。



「なに?」

「道案内、ご苦労だったね」



 声の主はツェツィーリエだった。



「この宝箱はいただくよ」

「お前ら一体どこに!」



 月夜がツェツィーリエに影を伸ばすが、彼女はそれをさらりとかわす。恐らくどこかで待ち伏せをされていたのだろう。さっきの迷路内でも思ったが、俺はともかくエレノアや、月夜ややきとりまで気付かない気配の消し方は尋常じゃない。気配に敏感な動物が気付かないんだ。手下だってあれだけの人数がいるというのに。



「この場の仕掛けはあたしにも解けたんだけどね。あんたのやったこととあたしと違いはなかったと思ったんだが、なんで開かなかったんだか。まあいいや。じゃあ、この宝箱はあたしらがもら……」



 ツェツィーリエが言いかけた瞬間、彼女の抱えた宝箱は跡形もなく消えてしまう。



「こいつは……」



 ツェツィーリエがちっと舌打ちをする。



「お頭!」

「わかってるよ。まだ先には進まないといけないようだね」



 ツェツィーリエは俺をじっと見て何かを考えている様子を見せた後、何も言わずに開いた扉の先に素早く駆け込んだ。その手下達も彼女のあとに続いていく。



「あ、待て!」



 俺達も慌てて扉をくぐった。








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