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第五話 バイト探しは無料求人情報誌で

『おはよう!よく寝れた?』

「……体中が痛い」

『ああ……』


天然テントから出た俺は、朝日が目にしみながら川で顔を洗った。


『雨はしのげるとはいえ地面に寝てたんだもんね。そりゃ痛いでしょう』


ウィンドウ画面に表示される神のコメントに頷きながら、俺は目をこする。

神のいうとおり、テントの中は何も敷かれていない。慣れない体勢で地面に寝たおかげで、今体中が痛い。寝違えたかもなぁなんて思いつつ首をさすりながら、俺は昨日残しておいた焼いた肉を食べた。残りは干し肉にする。腐らせるなんて言語道断だ。今の俺にとっては特に。


「……金が要る」

『ん?』


俺はウィンドウ画面を睨みつけながらいう。


「とにもかくにも金が要る!」


俺は考えた。神のいうことを信じるならば、魔王を倒さなければ元の世界には帰れない。だがしかし、魔王はまだ封印されたままだという。

ならば、今の俺はこの世界で生き残る術を手に入れるべきだ。

つか、たとえ魔王が今活躍していたとしても、とりあえずは金を稼がなければならない。RPGで活躍する勇者だって、金で回復アイテムや武器を買っている。現実を生きる俺としてはそこに食費などが含まれる。長期戦になるなら家も欲しい。服も必要だ。


こんなサバイバル生活を続けることは、正直いって日本でぬくぬく育った俺には不可能だ。とりあえず風呂に入りたい。今はまだ我慢しているが。

この世界に風呂があることを切に祈る。


『ふ~ん、なるほどね。確かに必要かも。で、どうするの?』

「とりあえず、町にいく」





















もし、俺と同じように異世界にきて放り出された人間がいたら、俺は忠告したい。いくら金に困っていたとしても、乞食になるのだけはおすすめしない。


「はぁー、はぁー、ぜぇー」


『スキル《逃げ足》を習得しました』


ウィンドウに表示された文字をみて、それも仕方ないと思った。とりあえず呼吸を整えることに専念する。金を稼ぐ手段として試したのが、乞食になることだった。

だが結果は悲惨なものだった。


今俺がいるエネルレイア皇国の治安は、おそらく悪くはない。日本の治安のよさに慣れている俺がそう思うのだから、治安の水準はそこそこ高いといえるだろう。だが治安のいい日本にすらホームレスはいた。

似たように、この国にも浮浪児は存在し、あいつらは生きるためにネットワークを作っている。

つまり、この街では既にあいつらのなわばりがあったわけだ。当然、乞食となって物乞いをするにしても、そのなわばりのリーダーに話をつけなければならない。そして俺はそれを知らなかった。

だから物乞いをした瞬間、ボロを来た子供たちに強引に連れて行かれ、そのなわばりのリーダーのもとへ突き出されることになった。


なんとか許可をとろうと思ったが、そのリーダー格の少年曰く、もし物乞いをするなら収入の四割を差し出すこと。物乞いをするなら相手の憐憫を誘うために腕を切ることを条件に出された。


もちろんその条件を呑めるわけがない。


だがあいつらは大真面目に話していた。あの目は本気だった。手にはのこぎりを持っていた。あれは痛い。


俺には相手のステータスがみえる。だからこそ、相手の力量もすぐわかった。相手は強くてもLV8くらいで、もしかしたら俺でもなんとか抗えたかもしれないが、さすがに20人以上の相手は無理だ。俺のレベルも低いしな。


そんなわけで今は、死に物狂いで逃げたあとだった。


『……大丈夫?』


大丈夫なわけあるか。


習得したスキルはありがたく使わせてもらうとする。絶対このスキルはどこかで使うことになるだろう。俺は心で返事しながら息をはいた。


ウィンドウ画面は俺の他にはみえない。だが、俺が今まで通り普通に神と話していれば、端からみれば変な人物だ。

ここは街中だから、会話には気をつける。とはいえ、案その二がつぶれた今、他の手を探さなければまずい。

まずは物乞いで小金を稼いで服を替えてから仕事を探したかったが、これはもうこのまま突撃するしかないな。今でもジロジロくる視線を感じつつ、俺は歩き出す。


俺が着ている学生服は、とにかくめちゃくちゃ目立つ。学生服なんて白と黒の違和感のないシンプルな服だと思ってたんだが、とにかくこの世界では異質らしい。デザインが問題なのか、色の組み合わせが珍しいのか知らんが、とにかく奇妙なものをみる目でみられる。


俺が乞食をやろうなんて考えたのもこの学生服のせいだ。乞食になろうと思う前に、俺はいくつかの店で雇ってくれるよう頼んだ。あくまで乞食になるのは案その二だったんだ。客として入る分には、誰も嫌な顔はしない。だけど働きたいと申し出ると、俺の服を全身みたあと、必ず断られる。

第一印象って大事だよな。特に就活するときの服装ってのは大事だ。つまりはそういうことなんだろう。


そして俺には働く場所には絶対ある条件が必要不可欠だった。


それはまかない、だ。


働き始めてもすぐ給金はでるわけではないだろうし、俺も毎回ワイルドボアを狩るわけじゃない。つか絶対ムリだ。体力がもたん。となると、まかないは必ず必要だ。生きるために。しかしそうなってくると働く場所も自然と絞られるんだが、土地勘があるわけでもないので、店自体を探すのにも苦労している。

あー、求人雑誌でもあればもう少し楽なんだろうけどな。


『……』


俺が何度目になるかもわからないため息をついたとき、突然強風が吹いた。そして俺の顔に吹き飛ばされたなにかがぶつかる。


「ぶっ。なんだ、これ……」


それは一冊の冊子だった。表紙には[求人雑誌]と書かれている。


『それがあれば少しはマシになるかな?』


……これ、神が起こした奇跡なのか?


『まあね』


よくやった神!


俺は即座にその冊子に目を通す。


『は、はじめて優人君に褒められたっ……!なんだろう、この胸の中に溢れる気持ち……』


気持ちの悪い神のコメントは無視しつつ、俺はその求人雑誌に載っている、条件のあてはまる店にしるしをつけた。とりあえず一軒目に行くことにする。なんとしてでも早急に仕事を探さなきゃいけないからな。











俺はパン屋の前に立っていた。店の名前は[クロワさん]。いっそクロワッサンにしてくれ。

そんな軽いつっこみはおいておいて、俺は店のガラス戸を押して開けた。


すると


「でてけっつってんだろうがこのボケナスぅっ!」

「ぐわっ!」


思わず固まる。


店に入った瞬間、パン屋でよくあるあの白い服を着た腕の太いおっさんが、RPGの旅装束っぽい服を着た男を片手で吹き飛ばした瞬間に居合わせた。おかげで店内に並べられてたパンは無残にも衝撃で地に落ちる。というか、この男微妙に頬を染めていないか?いや、俺の見間違いだろう。絶対に。


「で、ですけど!ここまで辿り着いたのに……」

「おめぇさんの腕じゃ俺の剣は扱えねぇ!さっさと帰んな!」


パン屋のおっさんは腕を組んで、上半身を起こして見上げる男を睨んだ。だが俺の視線は落ちたパンにむけられていた。投げ飛ばされた男はパンを踏みつけながらも平然としている。食べ物を粗末にする奴は、万死に値する。


「あんたら、いい加減にしなよ」

「ああ?」


パン屋のおっさんの目が俺にむけられた。


「このパンはこの店の商品だろ?地面に落ちた商品は売り物にならねぇだろうが。これらどうするつもりなんだよ?もったいねぇだろうが」

「え……」


おっさんがはっとして店の現状を認識したみたいだ。


「うおおおおお!俺のパンが!」

「それと……」


俺は倒れていた男に近づき、潰れたパンを指差す。


「食べ物を粗末にしてんじゃねぇよ。あんたもああなりたいのか?」

「ひっ?!」


顔を近づけ睨みつける俺に、男はおびえたように立ち上がり出て行った。決してさらに顔が赤くなっていたとか、そんなことはない。決して。


なんか顔を隠しながら出て行ったけど、なにもない。あれはたぶん、おびえていたんだ。うん。


『レベルアップしました』


は?


なぜか突然表示されたウィンドウ画面の文字に、目が点になる。



《隠しステータス》



緒方優人 オガタユウト


HP  26/29


MP  8900/8900


TA  82/150


LV 5


EXP 40


NEXT 15


金 0


途中略


【剣技】 《(まとい)


【魔法】 覚えていません。


【魔法属性】 地水火風光闇 以降増可


【称号】 異世界の旅人・〔本当の〕勇者・捨てられた勇者・神に加護されし者・乞食になった勇者


【スキル】


直感 LV1 逃げ足 LV1


【職業】


《勇者》






なんでなにもしてねぇのにレベルがあがるんだよ。


『うーん、たぶんほら、怒りで実力があがるとかあるよね?たぶん、君の怒りで実力の一部が解放されたんだと思うよ。魔力が特に値あがってるし……。魔力は感情の影響受けやすいからね』


そんなことでか!


『そんなことでか、っていうけどさ、さっきの君相当怖かったよ?顔がほんとにヤバかった。うん。まあ、あの彼はそれにおびえて出て行ったわけでは、なさそうだったけど……』


俺の家は食べ物に関してはうるさいくらいしつけられたからな。あんだけ粗末に扱われりゃ、腹も立つわ。

そんなことを思っている隙に、おっさんは落ちたパンを拾い上げていた。あのパン、できれば持ち帰らせてほしい。


「……で、おまえさん、パン買いに来たのか?」


逃げて行った男への興味は失せたとばかりの切り替えだった。おもしろいな、このおっさん。


「いえ、ここで働かせていただきたいと思いまして……」

「ん、働きたい?」


雇ってほしい身はこちらのほうだ。俺は話し方を敬語にかえる。おっさんは急に言葉を改めた俺を気にもしていない。


「雑誌に求人出されていましたよね?店番求む。まかないつき、と」

「んー……。ああ!そういや出したな!だがあれ、一年前だぞ?」

「え?!」


俺は持っていた求人雑誌を確認する。日付は一年前になっていた。


「あ」


俺はそばに浮かぶウィンドウ画面を睨んだ。


『てへっ』



絞め殺したろか。














副題 勇者なのに、乞食

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