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第四十五話 いつだって怒りが

 次の日の朝、目が覚めるとアランは同じベットですやすやと眠っていた。



「はあ、狭いけど仕方ないよな」



 なにせベッドは一つしかない。使わせてもらってるだけありがたいことだ。窓の外は朝もやが漂い、徐々に明るくなりつつあるところだった。夜明け直前といったところか。

 俺はさらっとマントだけ羽織り、甲板に行こうとした。特に理由があったわけではないが、甲板から日が昇るのを見ようという気になった。



「ああ、まだ寝てていいぞ」



 俺が部屋から出る気配にうずくまっていた月夜が微かに顔を上げた。俺の言葉に再び目を閉じる。

 廊下に出れば早朝だからか少しひんやりする。その時、なんとなく胸騒ぎがした。体の底が微かにざわざわする感覚だ。



「なんだ?」



 だが、俺はそれを無視した。少し寒かったから身震いしただけかと思えば納得する程度のものだったからだ。

 甲板に出て横を向くと、自分の乗っている船に並んで、もう一つ船があった。多くの人の声や物が当たる音がする。

 昨日船長が言っていた補給船だろう。午前中とは言ってたが、こんなに早くから運び込みをやっているのかと、ちょっと興味を惹かれて覗き込む。

 覗き込んだ先には両船の船員達らしき男達が荷物を交換しているようだった。その中には昨日エレノア達と魚を捕まえてトーテムポールをしていた男達もいる。

船底の船倉まで続くいていた格子は開けられ、そこから荷物を吊り上げて上まで運び、逆に積み込まれるものは同じ場所から下されている。

 確かにこんなに大きな荷物を忙しく運んでいれば、乗船客がうろうろしていたら邪魔だろう。


 俺も部屋に引き上げるかと(きびす)をかえそうとしたところで、運んでいた荷物が手から滑り落ちてがしゃんと音を立てた。



「おい」



 バキッと痛い音が響いた。もう一つの船からさっとこちらに移ってきた女は恐ろしい声音を落とすと箱を落とした男を殴りつけた。倒れ伏したその男の額からは血が一筋流れる。



「それ、こちらの奴隷なんですから傷つけないでくださいよ。船長にごまかすのは面倒なんですから」



 そう女に話しかけたのはテレンスだった。女はふんっと鼻を鳴らす。



「だから殴るだけにしてやっただろ。うちのだったら殺してたさ。おい、いつまで寝てんだい。さっさと中身を確認しな!壊れてたりしたら本当に殺してやるよ」



 すると倒れた男はよろよろと立ち上がり、箱のフタを引きはがす。出てきたのは大きな白い球体だった。まるでダチョウの卵のようなものだ。中身がどうにもなっていないのを確認してからその白い球体を箱に戻してフタを釘で打ちつけると、再びなにも言わず運び始めた。その男は獣耳があった。獣人だ。そして伸びた前髪の隙間から見えたその瞳は虚ろだった。

 手当てとかそういう場合じゃない。その場に漂う危なげな雰囲気に、このままここにいるのはマズイと頭は判断してるのに、体がうまく動かない。それでも後ろに一歩体を引いたときに、その女と目があった。

 しまった。

 そう思う間もなく女は俺に迫り、俺の腹に拳を叩き込む。



「ぐっ!」



 口から血が飛び出した。痛い。全身をくの字に折り曲げ倒れる。



「あんたこれ見たね」



 女は冷たい声で言うと腰から湾曲刀を抜き放ち一気に振り下ろした。



「待ってください!それは客の奴隷です。殺すのはまずい!」

「そんなこと言ってる場合か」

「くっ!」



 俺を切り刻む直前で止められた刃はまだ突きつけられたままだ。

 死ぬかと思った。いや、まだ危機は去ってない。

 ちくしょう、この女何なんだ。






ツェツィーリエ・ディラ・イリューシュナ


HP  7000/7000


MP  700/700


TA  600/600


LV 52



途中略





【魔法属性】 風 


【称号】 伯爵令嬢 女海賊 船長 密猟者 


【スキル】


直感 LV46 逃げ足 LV77 風読み LV41 操船 LV62


【職業】


《伯爵家令嬢》《海賊》《船長》







 海賊……!

 薄目を開けてみれば目の前に表示されているステータスウィンドウ。だが、この船を襲っているというわけではなさそうだ。だとしたら……、密輸……か?



「それは奴隷です。何も言うなと命令すれば誰にも言わないでしょう」



 しばらくテレンスと睨みあっていたツェツィーリエは湾曲刀はそのままに俺の服に手をかけた。



「うわっ」



 そのままマントを取られ、シャツも半ば割けつつはぎ取られた俺の上半身をみて、ツェツィーリエは鼻を鳴らす。



「いくら奴隷でも奴隷印がないんじゃ従わすことはできないね」



 テレンスは目を見張った。



「下も確認してもいいが、奴隷印は基本的に下には押さないからね。省くか」



 そう言うと再び湾曲刀が俺に迫る。しかし、俺の前に身を滑り込ませた者がいた。その人物から血が噴き出る。肩がぱっくりと割れて、俺の顔に血がかかった。

 それは、獣人の船員だった。話したことはないが、エレノアやアランと関わり、顔見知りではあった少年だ。

 少年はゆっくりと、その場にくずおれた。



「な、なんで……」



 思考が停止しようとする。血の臭いが、現実感のなさが現実逃避させようとする。だけどその時、聞こえるはずのない声が聞こえた。



『思考を止めるな!』

「くっ!」



 逃げたくなる気持ちを振り払い、何も考えたくなる衝動を底力に変えて体を動かす。その時湧き上がるのは怒りだ。自分に対しても、この女に対しても。

 冷静な頭が戻ってきた瞬間、あの魔導書が俺の前に浮かんでいた。そして俺の必要なページが開かれる。



「親しき者に救済を 悪しきものに断罪を アギオ・フェルノーレ!」



 選択したのは聖属性と火、水、風属性が融合した雷属性の魔法だった。魔導書の導きのままに魔法を放てば、ツェツィーリエに対してバチバチと弾き飛ばし、疲れがとれるような風が血を流す少年に注がれた。



「おっと、獣人のクセに魔法が使えるのか!」



 ツェツィーリエはバックステップで、雷によって焼けた腕をぺろりと舐めた。しかしそのあと顔をしかめ、視線を空に向ける。



「ちっ。だから嫌だったんだ。おいお前ら!荷物は今の分だけでいい。ずらかるよ!」

「はいよお頭!」



 そのあとは唖然とするぐらい素早く海賊の手下達は船に戻っていく。

 俺がツェツィーリエが見た方向に目をやると、黒い点々が空にいくつか浮いていて、それはだんだんこちらに近づいてくる。

 そしてそれが何かわかると、俺は声を上げた。



「みんな起きろー!ドラゴンが襲ってきたー!!!!」



 それはドラゴンの大群で、確実にこちらを目指してきていた。


















いつだって怒りが自分を奮い立たせる起爆剤

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