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第四十一話 船の上の日本料理店

 俺が何をしようとしているかを説明すると、割とあっさりと船長の許可は下りた。船の厨房に立った俺はクロワのおっさんがくれた、ほとんど肌身離さず持っている刃物セットと今まで採集した木の実や薬草を入れたビンを並べ、一番の難関である肉と向き合う。腐りかけなのは逆から考えるとむしろ熟成していると言える。残る肉の問題は臭いと塩味だ。



 俺が今まで集めた実や草はそれ単体が持つ効能や特徴についてはウィンドウ画面でわかった。だが、これがスパイスや薬味などに使えるかどうかは表示されたことがない。



「確かこれがカラスミ草、こっちがジャンネランス。ガルムマルサにルナグラス」



 この世界の薬草だから当然聞き馴染のない名前のオンパレードだ。だが、それぞれ臭いを嗅ぐと、日本で料理に使うこともあるハーブ類と似たにおいを感じることもある。



 俺は油漬けにしておいたベルーの実を絞って油を出すと、鍋に半分ほどの油を得ることができた。一個の梅の実サイズのみからこれだけ油が出てくるのが驚きだ。

 そのあと肉を赤ワインで洗った。そして細かく刻んだ薬草をまぶし、そして小麦粉もまぶして、卵がないので代わりに溶かしたバターに浸す。



 そして調理台に硬すぎて食べにくいパンを置き、俺は船長から借りた、なんで船長がこれを持ってたかははなはだ疑問であるが、ハンマーをパンに向かって振り下ろす。



「ユート、大丈夫?」

「あわわわわ」

「やべー、ハンマー重い」



 一発振り下ろすだけで手がびりびりする。エレノアとアランが厨房の外から心配そうにこちらをみていた。



「おい、それは俺がやる」

「え」



 今まで仁王立ちでこちらの様子を静観していたシェフが俺の手からハンマーを取り、そして振り下ろす。



「おお、すげー」



 それは見事なハンマー捌きだった。俺がやると狙いが定まらず、粉々になりはしても飛び散っていたパンが、粉々になりながらも飛び散らない。これは確かに、俺がやるよりも良さそうだ。手伝ってもらえるというのなら、ありがたくそれを受ける。



「じゃ、じゃあここはよろしくお願いします」



 シェフは無言で頷いた。



「やきとり、出番だぜ!」

「こけ」



 とことことやってきたやきとりは、口から釜戸に向かって火を噴きだし、俺はその上に油の入った鍋を置く。そしてしばらくじりじりと待った。



「よし、そこ!その温度で維持!」



 やきとりが火力をそこで定める。



 そしてシェフが粉々にパンを砕いたことでできあがったパン粉をまぶして、それを油に投入する。



 じゅわっと心地よい油の音が響いた。水の撥ねない油の音は心地よいくぐもった音を奏でる。あとは火加減に注意しながら中に火が通るのを待つだけだ。

 赤ワインに浸したことで、塩分は落ち肉は柔らかくなっているはず。薬草で臭みを消し、硬くて食べにくいパンは揚げられることでサクサクの食感を生み出す。



 俺はじっと油の音に耳を傾け、衣の浮き沈み具合と箸から伝わる肉の振動で揚げ具合の情報を得る。



「よし、今だ!」



 ほくほくとした綺麗なきつね色。香ばしい香りが厨房に広がり、覗き込むエレノアとアランもすんすんと鼻を動かす。



「いい香り……」


「よし!」



 まな板の上にさっくりと揚がった日本でいうところの牛カツに包丁を入れて皿に並べ、アランとエレノアの前に持って行く。



「ほら、ちょっと食べてみてくれよ」



 二人の前に置いたさらに、二人は釘付けになりごくりと喉を鳴らす。そしてフォークをゆっくりと近づけ、刺した。それは口に運んで噛んだ瞬間、さくりとした軽い音がなる。



「っ!!!!!」

「これはっ!」



 二人はそれを口に入れた瞬間、目を見開いた。



「お、美味しい!」

「なんだろう、このさっくりとした食感のあとに肉の柔らかさと旨味がふわりと舌に乗るこの味は!揚げ物なのに油がとてもさらりとして胸やけにならないし、微かなハーブの爽やかな香りが口の中にさりげに広がって、肉の臭みも全くない!」


『アランは、食事のレポーターの称号を得ました』



 ええー、まさかのそんな称号をここで得るのかー。



 と俺が遠い目をしていると、後ろで皿に残ったカツを食べたシェフがぼそりと



「うまい」



 という。



 うん、ウケはよさそうだ。これで今日はまだ食べられる食事ができるだろう。俺ももう一度カツを一切れ口にすると、ふむと頷いた。



「うーん、やっぱ卵でやるほうが衣が美味いだろうな。まだちょっと塩が強いけど、これなら食べられるか」



 と自分で評価していると、そのとき食堂がばっと開いてそこには旅人達がいかつい顔で立っていた。



「その料理……俺達にも食わせてくれ!」



 最前列にいた旅人がそう叫ぶと、一気に食堂に人がなだれ込んできた。



「ええー」

「お、俺達もその料理食いたい!っすっげー良いにおいがする!」

「わ、私も!その料理分の代金を払ってもいいわ!」

「あ、ずりーぞ、俺も!俺も払うからそれ食わせてくれ!」



 ええー、マジかー。













誰か私に料理の作り方教えてください。

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