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第三十二話 異世界で溺れたときの対処法

7月4日加筆修正

「うえー、これどうすんだよ」

 しょっぱい水にまみれ、水を吸って服が重く、そして気を失った人間を抱えて途方に暮れないほうがおかしいと思う。というか、基本的に自分が溺れているときは他人を助けちゃいけねーんだよな。他2人俺抱えてるけど。

 小学生のときに着衣水泳の授業が確かあって、あのときなんと教えてもらったんだったか。そうそう、泳ごうとすれば水の抵抗を受けて服が邪魔に思うかもしれないが、実際は服自体の浮力と保温効果は大事なもので脱いではいけないと言っていたか。そして基本的に溺れたときは泳いではいけない。いかに長く助けを待つのかが重要だとも言われたな。

 俺は背泳ぎの体勢で泳がず、とにかく口と鼻が水面に出るようにした。そしてあとの二人も同じ体勢に変えてやる。これ以上2人を抱えているのは無理だったから。

 そして自分がそこそこ安定したところで2人を叩き起こした。

「おい、起きろ!死ぬぞ!」

 何度か頬をぺちぺち叩くと、2人の瞼がゆっくりと開かれる。

「ええ?!今どういう状況?」

 俺が簡単に2人が気絶したあとの状況を説明しつつ、三人とも同じぷかぷか浮く体勢で手を繋いで離れないようにしていた。

「助けていただいてありがとうございます」

「いや、まだ助かってないからな。礼は無事陸に上がってからだ」

「とはいえ、これからどうする?」

「こけー」

「にゃー」

 おいやきとり、なんでてめーは一人だけ平気そうに浮かんでられるんだ。おまえいつ水鳥に転向した?

 ぷかぷか浮きつつ月夜を背に乗せている。月夜はまだぐったりしていた。

「どうするっつったって、ここで助けを待つしかないわな」

 てかっさっきから気になってたんだが、俺の傘海水に浸されて錆びねーかな。一応浮力はあるらしく、貴重な掴まりどころではあるんだが。

「助けっていっても、来ると思う?」

 俺は目だけで周りを確認する。海の水は見惚れるほど透き通った青だった。まるで南国のような海で、日がさんさんと降り注いでいる。その透明度のおかげでときどき自分達の下に大きな黒い影をみたりして緊張したが、今のところ襲ってくる様子はない。サメとかは血の臭いで寄ってくるらしいが、今のところ全員に怪我はないと申告を受けているので、血の臭いはないはずだ。

 だが、この何もない場所で直接日光に当たり続けるのは結構辛い。顔の周りに塩ができてしまいそうだ。

 広い広い海のど真ん中。陸地は見えず、絶望的と言える。

「無理だな」

「あはは、だよねー」

 アランが苦笑した。エレノアはなにかずっと考え込んでいるようだ。

 とにかく、俺達にできるのは浮かび続けることだけだった。ぷかーと浮かぶやきとりをみつめ、俺は考える。

「おい、やきとり。お前、巨大化して飛べるようになるまであとどれくらいだ?」

「こけ?」

「短時間でもいい。お前が巨大化して俺達を乗せさえできれば、少しずつでも移動できるだろ」

「こけー」

「なるほどね」

 アランが納得の声をあげると、やきとりは羽を膨らませる。そして光り出したかと思うと、再び巨大化した。

「よし」

 俺達はなんとかよじ登って一息つく。これで少しは進めるはずだ。陸地へ近づいているのか遠のいているのかはわからないが、全く進まないよりマシだ。とやきとりが飛び立とうとした途端、再びポンッと音がしてやきとりが小さくなった。

 あー、また海に投げ出される。

「うー、しょっぱい」

「きゃー」

「う…にゃー……」

 月夜もようやく自分で動くことにしたようで、犬かきならぬ猫かきにいそしんでいる。ただたしか猫って水苦手じゃなかったか?心なしか月夜は不快そうだ。

 さて、いくらやきとりで少しずつ進もうと思っても、今の様子だと徒労に終わりそうだな。現実的に考えて、水の上を歩くなんてこともできなさそうだし。あー、こういうとき空が飛べたらな。そういや俺今魔法が使えるんだっけ。空飛ぶ魔法といえば、魔法の箒とか……。

 俺の変な連想の中で、魔法の箒が頭の隅に引っかかる。

「魔法の箒か……」

 確か俺は教会で風系の魔法を使ったな。あの時の要領で、魔力に風の属性を付与して……。

 俺がもぞもぞと血液と反対に流れる魔力を腹の中で混ぜ合わせるイメージを膨らませていると、突如下から波の動きを感じる。

「ユートさん、下が!」

「あわわわわわわ!」

 エレノアの警戒の声で下をみると、今まで近づいて来なかった黒い影が迫ってきている。

「なんで急に!」

 くそ!これはどうする!

 迷っている間にそいつは俺の足に食らいついた。そしてその勢いのまま俺達は水面に叩き上げられる。

 ぬるりとしたそれから、全身の嫌悪感のままに抜け出し、そしてそいつを蹴り上げた。さっき持っていたイメージのままに風の魔力を傘にまとわせると、それにまたがって空中に浮かぶ。

「ユート君?!」

 そしてそれはふらふらのろのろと空中に漂い、俺は今度はしっかりと自分の足を噛んだ物体をみる。それは全身透明で赤い、ぽっかりと口をもった巨大な生き物だった。






《ステータス》


赤クジラ(実はクラゲ)


HP  555666/555666


MP  1010


LV 42


途中略


【魔法属性】 水 


【職業】


《クラゲ》






 なんじゃありゃ!






副題 Q、異世界で溺れたときの対処法とは?

   A、空を飛ぶ


小学生の時、着衣水泳の授業が一回だけあったのはななめ自身です。たしか服を膨らませて浮き袋代わりにもしつつ……的なことも教わりました。優人君が浮き袋をしなかったのは、彼のふくが学ランであって膨らましにくいのと、マントやら刃物セットやらが体に巻きついて膨らませられなかったからです。


 

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