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第三十一話 頭上を横切るファンタジー

 風に煽られながら、必死に傘を開いて柄に右手でしがみついた。ヤバい、開いたら開いたで風に煽られてぐるぐる回転した。気持ち悪!

 未だに重力に逆らい上昇を続けていた俺の体はとうとう雲を突き抜けた。

 何なんだよこれ、どんだけの力で放り投げられたんだよ。つかあの俺らを放り投げた巨大な鳥はなんだったんだよ。あーでもそんなこと考えてる場合じゃねーな。

「おい、離すなよ!」

「……はいっ!」

 左手でエレノアのベルトを掴み、エレノアは月夜を腹から抱え、月夜はアランのメガネを咥え、アランは必死にメガネを両手で握っている。空中で離れてしまったら終わりだ。

 というかなんでメガネなんだよ。眼鏡で男性1人分の体重に耐えられると思ってんのか!

 雲を突き抜けたということは、その分太陽に近づいたということで、めっちゃくちゃ眩しい。が、焼け死ぬということもなく上空はとても寒かった。あと空気が薄い気がする。凍える手でエレノアを掴むのも結構キツイ。気持ち悪くない体勢を維持できなくて、骨が激しく軋んでいた。

 ようやくと言っていいのか、上空へ上がる力に耐えていると、一瞬空中で静止し、そして今度は落下の重圧がかかり始めた。ヤバい、キツイ!だんだん圧力が増して体が押しつぶされそうだ。

「ユートさん!」

 エレノアが視線でどうしましょうと訴えかけてくるが、そんなの俺が知りてーよ。こっからどうする?

「きゃー!」

 加速する落下速度に、段々増えるG。このままだと確実に死ぬ。自分の落下地点がだんだん予測できるようになり、眼下には広く青い海が広がっていた。

 地面よりゃマシだが、水面だってこの速度で叩きつけられたら全身複雑骨折じゃ済まない。

 考える時間は多少あるものの、どれも不幸な結末しか思い浮かばず、背を流れる冷や汗すら煽られる風で吹き飛んでいく。

「なんか魔法ねーのか?」

 こうなったら超常の力に頼れないかと考えた瞬間、俺達の落下に追いつく存在が現れた。それは紅の羽から金色の光を放ち、やがて俺達を背に乗せて再び舞い上がる。

 温かくやわらかい羽毛に囲まれてほっと息をつくと、俺は頭を上げて礼を言う。

「やるな、やきとり」

 俺の声に答えて、やきとりは雄たけびを上げた。

 ブルイヤール教会に飾っていた絵画のとおり、輝く凛々しい姿の巨大化したやきとりがそこにいた。

 振り返ってみれば他の連中も無事にやきとりの背にいる。ただ意識は保っていられなかったようで、エレノアを含めアランも月夜も目を回して気絶していた。

 そういや人間は落下すると気を失うらしい。よく崖から自殺するドラマとかがあるが、実際飛び降りると意識がないので比較的楽なのだとか。まあそれだとスカイダイビングしている人達がなんで意識を保っていられるのかという話になりそうだが、そこらへんは俺もしらん。聞きかじりの知識だからな。

 とりあえず、よく意識を保ったなと自分を褒めておくことにする。だが、この状態も長くは続かないだろう。

「おいやきとり、お前この状態でいられる時間はまだ少ねーんだろ」

「ピギャー」

 仮契約のやきとりが本来のこの姿でいられるのはそう長くないはずだ。だったらはやくどこか降り立てる場所を探さないと。

「どこか陸地をさが……」

 俺がそう言おうとしたとき、自分が巨大な影の中に入ってしまったことがわかった。雲かとも思ったがそれも違う。見上げれば、とても巨大な、巨大化したやきとりなんかよりも数倍大きな、ドラゴンと呼べるようなものが頭上をゆったりと横切り、そして動きはゆったりしているのにものすごいスピードで通り過ぎて行った。

「……」

 思わず言葉を失い、高度を下げるやきとりのおかげでそのドラゴンはあっという間に遠ざかって消えてしまった。

「あれは……」

 言い知れぬ感情が湧き起こったが、今はそれどころではないと意識を目の前に戻す。

 水面に近づき陸地を探そうとしたとき、またポンッと音がなってやきとりの姿が消える。

 俺達は海に投げ出され、幸い水面との距離はそれほどなかったので怪我はないが、油断していたところで鼻に水が入り、つんとした痛みに身悶える。

 あ、あいつら気絶してるんだった!

 エレノアとアランと月夜が沈んでしまわないように、俺は再び手を伸ばした。





ファンタジー=ドラゴン

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