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第二十六話 自主性を大切に

とりあえず魔導書等は一旦おいておくとして、全体の被害状況を確認しよう。


果樹園は無事だが畑は軽く荒らされた状態。礼拝堂はほぼ廃墟。食糧庫と井戸は半壊。宿舎は半壊……というより3分の1壊ってところだ。けっこうまずいな。


「と、いうわけで、俺とエレノアは滞在期間を延ばせるわけじゃねぇから、人手のあるうちにできるだけ修繕をしたいと思う」

「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

「にゃー!」

「コケー!」

「「「お、おー」」」


中庭に全員集合した。


「でもその……やきとり、さんにも手伝っていただいていいのでしょうか?」


ああ、そういえば真の姿をみせたわけだし、神鳥ってことはバレてるのか。


「コケー!」

「やる気満々だからいいんじゃないか?」


やきとりは短い脚を繰り出し、空中でシュシュシュっと飛び蹴りした。


「えーと、主にアランとアウローラさんがいろいろ検討した結果。とりあえずまずなによりも必要なのは水だ。よって、井戸の修繕から始める。ただし井戸の修繕は危険なので、やきとりの監視のもと、白蛇と山賊達にやってもらう」

「「「え~」」」

「当然だろ。拒否権はない」


山賊達は項垂れる。


「次に大事なのは食糧庫だ。状態をみてだが、中に入れそうなら子供達とエレノアで使える食糧と使えない食糧の選別と、運びだしを行う。今の季節は気温が高いから、早くしないと食糧が腐るかもしれない。慎重かつ迅速さが必要な重要任務だ。いけるか?」

「「「「「「「「りょうかいであります!」」」」」」」」」

「了解であります!」


子供達とエレノアが一斉に敬礼する。子供達は遊びになると真剣になる。


アウローラさんは未だに不安そうにそれをみていた。本当はこういう危険な作業からは子供達を遠ざけたいが、それをエレノアが反対したのだ。


「アランは礼拝堂を直せる可能性があるっていうことで、そっちに集中してもらう。もし人手が必要なら周りに声をかけてくれ。うまく人を回すから」

「ありがとう」

「アウローラさんは先にアランの手伝い、そのあとは食糧庫のほうに回ってもらう」

「はい」

「俺と月夜は1人でできる備品の修理!じゃあみんな、頼むぞ!」

「「「「「「「「おー!」」」」」」」

「「「お~」」」


一斉にみんな配置につく。


さて、俺も仕事せんとな。


山賊がやり残していた椅子の修繕から始める。だけど……。


「これ、新しく作り直したほうがいいって椅子のほうが多くないか?」


壊れ具合的にはそうだが、なにせ木材がない。せいぜい直せるものを選んで直すくらいだ。

とりあえずそれを優先してやるとして、俺は働いた。








「必要なのは、設計図なんです」

「設計図……ですか?」


アランとアウローラは礼拝堂の上の図書室にむかっていた。


「足元気をつけてくださいね」

「はい」


アウローラの先導のもと、アランは慎重に二階へ上った。


「設計図が保存されているとすれば、おそらく図書室だろうと思うんです」

「わかりました。この戦いで、破損していないことを祈りましょう」


図書室の扉は壊れていた。そして、中は本棚が倒れ、少しだけ本が散乱している状態だった。


「……礼拝堂よりはマシといった感じですね」

「そうですね」


とはいえ、歴史あるブルイヤール教会に収められている本だ。まだ紙が普及する前の、今よりずっと高価だった時代に作られた、貴重な記録も存在する。


「これ以上破損が進む前に、一度外に運び出したほうがいいかもしれませんね」

「そうですね」


2人は頷くと、せっせと本を運び出す。

下にいた優人に声をかけ、紐で下した本を受け取った彼はそれを宿舎のほうに運んだ。


「あ、あった!」

「え?!」


声を上げたアランの手には、方眼紙があった。


「それが、この教会の設計図ですか?」

「はい!これで、なんとか!」






設計図で礼拝堂を修理するということはどういうことだろうか。


アランは設計図をみながら、礼拝堂の地面に巨大な円陣と、その中に様々な図形、そして文字を書きこんでいった。その際使用されるのは、彼自身の魔力だ。魔力を込めて、地面にそれらを書き込んでゆく。


そしてその文字を書きこむ前に、必ず計算をしていた。


「なー、アラン。それ、なにしてるんだ?」

「あ、これ?これは、この礼拝堂の壁は白煉瓦(しろれんが)なんだけど、その一つ分の大きさを計算して、それをこの魔法陣に書き込んでるんだよ」

「計算が必要なのか?」

「この設計図は普通に大工さんが建てる用に書かれてて、魔法陣で建てるために書かれてないからね。いろいろ変換が必要なんだ」

「へぇ。普通に魔法使うみたいに、こう……呪文とかでできないのか?」

「できないことはないけど、僕には無理かな。魔法って便利な力だけど、無償で扱えるものではないからね。魔法一つ使うにしても、計算や理論が必要なんだ。もちろん、魔法自体は感覚で使えることが多い。でもそれが魔法陣になると、こういう作業が必要になってくるんだよ。複雑な魔法を使うときは、感覚で魔法を使うより成功率が高いから、魔法陣のほうが使い勝手がいいんだ。それぞれメリットがあるんだよ」

「ふーん」

「ユートは魔法を使うとき、感覚で使ってるの?」

「そうだな。頭の中に魔法陣を思い浮かべて使ってるな」

「え……?」


アランが俺を振り返った。


「それは……」

「ん?」

「いや、なんでもない。そうだユート。あなたは土の魔法属性をもってる?」

「ああ。もってるぞ」

「そう!じゃあ、相談があるんだけど……」


アランは俺に耳打ちする。


「ふーん。なるほどね。俺は賛成だな」

「でもそうなると、かなりの土属性の魔力とコントロール力が必要になるんだ。ユートなら大丈夫だとおもうんだけど」

「ああ、協力する。そうだな。月夜にも頼んでみるか」

「ああ、彼女も土属性なんだね?」

「まあな」


俺達は互いに頷く。


「それじゃあ、とりあえず礼拝堂のほうが終わったら、そっちに取り掛かろうか」

「ああ、わかった。じゃあ俺、他のとこ手伝いにいってくるな」

「ごめんね」

「なにいってんだよ。椅子の修理なら外でもできるし、礼拝堂のほうが先だろ」

「うん。ありがとう」







俺は食糧庫のほうにむかう。そこでは、エレノアと子供達、そして助っ人の月夜が分担して、作業していた。いうなれば、バケツリレーというやつだ。


「これ、ダメだ。あぶないにおいする」

「じゃあ、これはダメな箱だね」


ケビンがキャベツらしきものの臭いを嗅いで、それを人間のアンナに手渡した。


「なにやってるんだ?」

「あ、おにいちゃん!」


アンナがにこっと笑う。


「おれ鼻がきくから、食べてだいじょうぶなのとダメなのとでわけてるんだ」

「それで、わたしがダメなのはこっちの箱にいれて、食べられるのはこっちの箱にいれるの!」


「なるほどな」


隣の、これまた半壊の穀物倉庫には、アレクがうろうろと飛んでいた。

少し高い位置にあるから、鳥人族である彼が適役だ。


「アレクー!そっちのほうはどうだ?」

「あ、ユート!」


小さな体とはいえ、よくその大きさで空が飛べるもんだと感心する。


「うーん、なんか乗ったらくずれそうなきがするー」

「マジか」

(ラシーナ)も粉もちらばってるから、それも拾わなきゃ」

「じゃあ。私の出番だよ…ね?お姉ちゃん」

「はい!はい!わたしも!……あってるかな?」

「そうですね。お気をつけて」


ひょいっと顔を出したのは、猫の耳と尻尾を揺らした、ミーナだった。もちろん、彼女は猫人(ねこにん)族だ。もう1人は、鼠人(きゅうじん)のカレン。猫と鼠の彼女達は一番の仲良しだ。


地球にはトマとジェニーというアニメがあったが、そこから考えなくてもおもしろい組み合わせである。


エレノアがにこやかに頷くのをみて、2人は食糧庫に登った。


猫の特性をもつミーナは、高いところから落ちても怪我をしない。それに鼠ゆえかは知らないが、他の同年齢の子供よりも小柄なカレンは、体重が軽い。だからこそ、危ない食糧庫の作業に適している。


そのほかにも、獣人の特性を生かした作業の割り振りがなされ、彼らは一生懸命働いていた。そして、それは彼らが自分で割り振り、エレノアにおそるおそる伺いをたててから行う。


「……あの子達になにをいってくださったのですか?」

「え?」


振り返ると、アウローラさんがじっとエレノアをみつめていた。


「私はただ、考えなさいっていっただけです」

「そう……ですか。たったそれだけで……」


アウローラさんは目を伏せる。


「私も少し、改めなければなりませんね」


俺には半分くらいしかわからない会話。しかし、この2人は理解しているらしい。肩を落としてこの場を去るアウローラさんを見送った。


「私が望んでいるのは、猫の手、なんです」


エレノアは微かに笑んで、包丁を使う仕草をする。


「……」


俺は笑う。


今はなんとなくしかわからない。これからもわからないかもしれない。だが、いつかわかる日がくるかもしれない。


「……あの子達には、私みたいにならないでほしい」


ぼそりと呟かれたその言葉をきいて、俺は考える。


そういえば、こいつも亜人なんだったか?


奴隷とされる亜人でありながら、皇女でもある。まあ、こいつもいろいろあるんだろうな、というところで、俺は考えるのをやめた。










「エレノア、大丈夫か?」


所変わって食糧庫地下。半壊状態のそこは、地下への階段も半壊状態だった。崩れている部分があり、なかなか下りるのも難しい。それを支えているのは、月夜の魔法だった。


「ユートさん」


エレノアは泥で顔を汚した顔で見上げた。


「下から水が染み出しているんです。早く運び出さないと……」


確かに足元は濡れている。

貯蔵してある食糧を次々に並んだ子供達が手渡して、地上へ運ぶ。



「おまえら、足元気をつけろよ」

「うん。だいじょうぶ!」


メリーが室内を照らすランプをもっていう。


納められていたチーズやミルク、野菜などを、バケツリレーの要領で地上へ運んでいく。運ばれた食糧は、ケビンによって判定される。


「これは、一回ここ自体も修理しないとダメだな」

「修理……できるんでしょうか?」

「まあ、アランに相談だな」


エレノアが頷く。すると、彼女は悲壮な顔を浮かべて小さく叫んだ。


「ああ!」

「どうした?」


視線の先には、卵が置かれた場所がある。そして、それらの卵はすべて、地に落ち割れていた。


「っ!」


俺の目の前は、真っ暗になった。












最近タイトルが思い浮かばない。

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