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第二十四話 小さな勇者と子守唄

今回シリアスです!ギャグのへったくれもなきお話。


1月27日 独白の部分を加筆しました。

「ツクヨちゃん……だったかな?君はユートについていたほうがいいんじゃないの?」

「がう」


アランの言葉に月夜は頷いたあと、ちらりと山賊達をみた。


「コケ」


それにやきとりが、こちらは任せろとばかりに応えると、月夜は頷いて、黒猫の姿に戻り礼拝堂を出る。


優人が去ったあとの礼拝堂では、未だに魔力による重圧(プレッシャー)が残っていた。


「アウローラさん、大丈夫ですか……?」

「……」


優人が去ったあとも全く動かない彼女に、エレノアが背をさすりながらきいた。

アウローラは無事だから動じなかったわけではない。あまりにも強い重圧(プレッシャー)にあてられて動けなかっただけだ。


アウローラは軽く首を横に振る。体が強張り、うまく動けないようだ。


「ツクヨちゃんが抑えていても、これだけの魔力が荒れてるから仕方ないですよ」


アランも真剣な顔でさっと周囲をみた。

優人がどのようにあの白蛇の狂化をとめたのかはわからない。だが、ある程度予想はできる。

そんな体質はきいたこともないし、方法もわからないが、彼は魔力を吸収した。

そして今の現状をみるに、その魔力は彼の中にある。魔力耐性を得た存在である魔物の白蛇が狂化するほどの魔力が彼の中にあるということは、非常に危険だ。


アランの研究が正しいとするならば、優人は魔族になってしまう可能性がある。

証拠に優人は自分の中の魔力を撒き散らしている。今はかろうじて制御してはいるが、それはなにかによって安定させられているからだ。そんなことができるのは精霊くらいであり、該当するのはあの黒猫くらいだった。あの鳥は神鳥だから、精霊ではない。


だからこそ月夜をアランは優人のもとにいかせた。月夜がいなければ、この教会にいる人間にも悪影響が出る可能性がある。それだけでなく、今優人はかなり苛立っている。それに呼応して魔力も荒れているのだ。


現にアウローラに影響が出ている。


「アウローラさん。おへそに力を入れて深呼吸してください。吸って―吐いてー」


エレノアの指示通り、アウローラは深呼吸をしようとするがうまくいかない。それでもエレノアはそれを続けるようにいう。

そしてエレノアはアウローラの両手を前に出させると、それに自分の手を重ねてパチンと叩いた。


「はっ」


アウローラは一気に呼吸が楽になり、緊張を解く。


「ちゃんと呼吸ができますか?」

「はい……ありがとうございます」


アウローラはほっと息をついて座り込んだ。エレノアもその様子をみて安堵する。


「うぐおぉー」

「ぐはぁっ」

「あ、あにき?」


一方の山賊達のうち2人は、今更ながらに苦しんでいた。それをみたやきとりの目が三角になり、その2人に飛び蹴りをくらわせる。


「うおおぉぉぉ!」

「ぐはぁ!……あれ?」


一気に呼吸ができるようになった山賊2人は顔を見合わせる。


「あ。あにきぃ!よかった!」


魔力にあてられなかった山賊が、涙をながす。すると彼は頭に衝撃を受けた。


「うぐぉ!なんだ?」


振り返ってみると、闇人間がのっぺらとした顔がすぐそばにあった。


「うわわわぁぁぁぁぁっ!」


未だに消えていなかった闇人間達は、手に鞭をもって山賊達を引き摺りだす。そしてぺいっと瓦礫のそばに連れて放り投げると、バチンっと鞭をふるった。


「「「え?」」」


山賊達を囲む闇人間達以外の闇人間は、みな瓦礫を片付けたり、どこからもってきたのか、箒片手に掃除していた。

しかもそれらに指示を出しているのはやきとりだ。


「お、俺達もやれと?」


闇人間はあたりまえだろう!というような感じで彼の頭をはたいた。






それらの光景からは目をそらし、アランは座り込んだアウローラに手を差し出す。


「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます」


そのとき、ふっと重圧(プレッシャー)が軽くなった。優人の苛立ちが落ち着いたのだろう。


「ユートさんは、大丈夫でしょうか?」

「今はそっとしておいたほうがいいかもしれませんよ」


迂闊に今感情を荒立てると、彼の抱える魔力(バクダン)がどうなるかわからない。それに、アランは彼に関しては、自分やアウローラが触れるべきことではないように、感じていた。


「でも……」

「ユートの体が変化したことが気になっているんですか?」

「はい……」


アランは地面に置かれた本に目をやる。


「すべては、明日にしませんか?」


エレノアは上を見上げていった。穴のあいた天井からは月がみえる。


「……そう、ですね。子供達が気になります。早くいかなければ……」






「こ、こけぇ……」




3人はその声の主をみた。


はたはたと涙を流すやきとりの視線の先には、無残にも壊れ破れた神鳥の絵画があった。




3人は、視線を逸らした。













俺は腹の中のマグマを必死で宥めながら、宿舎の、子供達の部屋へむかった。いつもは2階に4人一部屋で過ごしているが、今は固まって一階の広間にいる。


広間の扉を開けると、子供達がびくっと震えたのがみえた。


「ユート……にいちゃん」


ジョセフがほっと安堵の息をついた。


「大丈夫だったか?怪我はしてないか?」


子供達は頷く。

全員が広間に集まって、毛布に包まっていたり、傷ついた白蛇や揺り籠の中で眠る赤ん坊の様子をみていたりしていた。


白蛇は今はすやすやと眠っている。


俺はサラのそばにいるケビンをみた。ケビンの顔は無表情だった。

俺は彼に近づき、頭をくしゃくしゃと撫でる。


「よくみんなを守ったな。かっこよかったぞ」

「……」


ケビンの目に涙が溜まる。


「みんなねてたから、おれだけが気づいたから、ローラ姉ちゃんにつたえにいかなきゃとおもったけど、そのまえにあいつらがきたんだ」

「うん」

「そしたらねてるミーナたちをか、か、カツギアゲテ、外にでていこうとしたから……」

「抵抗したんだな」

「うん。そしたら、みんなを袋にいれようとしたから、おれが袋をかみやぶったらたたかれて……」

「うん」

「……母さんが、妹はまもらなきゃいけないっていったんだ」

「そうか」

「おれはみんなよりとしうえだから、ここにいるみんなは家族だからぁ、おれがまもらなきゃっておもったんだぁ……」

「うん」

「でもぉ、おれこわくて……ほえることしかできなくて……」

「だけとかいうな。がんばったな。おかげでみんな無事だ。おまえのおかげで俺達もすぐ駆けつけられただろ?」


ケビンは俺に額を押し付ける。彼の体は震えていた。


まだ6歳の子供が、大の大人3人に立ち向かったんだ。

助けられたとはいえ母親と引き離されて……。この教会にケビンの妹はいないから、その妹も行方不明か、まだ母親の傍にいるのか……。いずれにしろ血の繋がりがなくて不安だったろう。だが、ここにいる者達が家族だから、と戦ったんだ。

おまえは俺なんかよりもよっぽど……。


「おまえは勇者だよ。ケビン」

「え?」


ケビンが顔をあげる。


「ゆうしゃって、このゆうしゃ?」


ミーナが絵本をもってくる。“勇者物語”と書かれたそれは、何代目の勇者かは知らないが、昔あった世界を救う物語だ。


「いやいや、ケビンのほうがもっと立派な勇者だよ」

「ほんと?」

「ああ。だって勇者は、みんなを助ける存在なんだろ?」


少なくとも、目の前にいる奴よりも、な、


ケビンは顔を輝かせる。


「うん!」













自分の部屋に戻った俺は、ランプをつけるとベッドの上で蹲った。


再び怒りが体の中で燻る。

細密模写(ブロマイド)如きと子供達の命の価値の重さを比べると、細密模写のほうが重いってあいつらはいってるわけだ。


ふざけんな!


あのときエレノアが止めてくれなければ、俺はきっと殴り続けていた。あのまま怒りに任せて暴力を振るえば“あいつ”と同じだ。“あいつ”と同じ人間にだけはなりたくない。

あのまま続けて傷つくのは俺だと、エレノアのいうとおりだった。


手を強く強く握りしめて、激情を耐える。


「人間……か」


果たして、動物の耳と尻尾をもってしまった今の自分は、人間といえるのだろうか。


いや、それは気にするべきことではない。気にするべき、ことではない。


自分の体が変わってしまったことも、俺は受け入れなくちゃいけない。取り乱しちゃいけない。今騒いだって嘆いたって、事態は変わらねぇんだから。


俺は必死に眠ろうと努めた。深く眠って明日起きれば、頭もすっきりするだろう。








はっと気づいた時には、目の前に1人の男がいた。俺は倒れていて、下の感触は畳だ。


ああ、これは夢だ。


頬が痛い。体が痛い。目の前の男によって殴られたからだ。何度も、何度も。


覚えている。俺は殴られているとき、お前じゃない、と考えていた。すると、殴る人物が変わる。女性になった。

俺はほっとした。そう。どうせ殴られるならこの人がいい。だって殴るときが、いつも俺をみないこの人が唯一、俺のことをちゃんと視界に入れて、みてくれるときだったから。


無視されるよりも、殴られたほうがいい。


そう。これは過去の記憶だ。怒りに任せて殴られ続けた記憶。あの場所から救い出してもらってからも、夢として何度も何度もみた俺の記憶だ。


痛かった。ずっとごめんなさいと謝っていた。過去の感情と寄り添いながら、これは夢だと自覚している自分の現在の意識は、起きたときまた最悪な目覚めをしなきゃいけないのか、と諦めていた。


するとそのとき、歌がきこえた。どこからきこえるのかわからない。ただその歌は、子守唄だと思った。日本語ではない歌だ。澄んだその声は柔らかく、なぜか温かくて、ふかふかの布団に包まれるような感じがした。


周りをみれば、“あいつ”も、あの人もいなかった。部屋が変わり、俺は川の字で寝ていた。両側には、現代には珍しく、浴衣を着て寝ている男女がいた。


俺がよく見知った人だった。もう頬も、体も痛くなかった。



























副題 主人公は普通の高校生ですよ!


手を出しても、足を出してもやりすぎてしまいそう。なら、頭突きは!という主人公の発想。頭突きは暴力に入らないそうです(笑)

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