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第二十三話 口止め

1月27日 頭突きのシーンを追加しました。

「んで、いろいろ話をきこうじゃねぇか」


俺は手の関節をバキボキ鳴らしながら、お互い抱きしめあっている山賊3人を見下ろした。残念ながら俺は今機嫌が悪い。


「なんでこの教会を襲った?目的は!」

「ひぃっ」


子供達には部屋に戻ってもらい、壊れた礼拝堂の中には俺、エレノア、アウローラさん、アランしかいない。

もちろんこの山賊の他に敵がいないとも限らねぇことはわかっているから、俺はスキル索敵を全開にしていた。これでなにかがこの敷地内に入ればすぐにわかる。


白蛇の暴走した余剰魔力を吸収した俺の魔力量は大幅に増え、索敵範囲も増えている。さらにスキルを全開にしているということは、索敵に使う魔力を全開にしているということであり、怒りで荒ぶる俺の魔力が放つ威圧感に、この場にいる者は押し潰されそうな重圧を感じていた。


感じながらもそれに耐えている3人は、なかなか凄いとは思うが。

まあその重圧プレッシャーは目の前の主犯の3人にむけられたものだから屁でもないかもしれない。俺の怒りと敵意の矛先はこいつらだからな。


「ううぅぅ、がうっ!」


俺の傍にいた、未だに黒豹姿の月夜は威嚇する。


「わかった!わかったよ、いうよ!3日前、俺達はただそいつアランを襲ったあと、あの女エレノアに気絶させられて、気づいたら周りは霧だらけだったんだよ!んで出口を探して迷ってたらこの教会をみつけたんだ!」

「で、で、で!そしたら兄貴が獣人の子供をみつけたんですよ!獣人は高く売れるから、捕まえようって話になって……」

「んなことはこの状況とあんたらみてたらわかるってんだよ!あんたらの裏に誰かいるとかねぇのか?!あんたらだけの独断の行動なのかよ」

「ひいいぃぃ!そうです!俺達だけです!思いつきの行動です!」


俺はまだよく知らんが、逃げ出した獣人を捕まえて再び売る専門の奴隷商もいるという話をアランからきいた。


「アランを襲ったのもあんたらの独断か?」

「そうです!たまたまいいカモみつけたとか思って襲っただけです!」


俺のアンダーテイカ―で呼び出された闇人間達が、脅すように3人を取り囲む。つか、今回は月夜の力は借りてねぇのに、なんでいんだよ。


「うわああああぁぁぁ!嘘いってねぇってー」


「んで、アランはあのときなんで襲われたか心当たりはあるのか?」

「んー、ありすぎて、彼らが誰かに依頼されて僕を襲ったのか、普通に山賊ってお仕事を遂行しただけなのかわからないなぁ。だから、僕に関しては気にしないで。僕のことまで気にしてくれてありがとう」


アランはふんわりと笑う。


なんで山賊に襲われるなんて事態になったのか、ちょっと気になったんできいてみた。まあ、わからないんじゃしょうがない。

話を戻す。


泣き叫ぶ3人に、嘘はなさそうだと思う。


「んじゃ、こいつらどうする?この場所がバレるのは問題ありだろ。簡単に逃がすわけにはいかないが、ずっとここに拘束しとくわけにもいかない」

「え、ええ……」


アウローラさんは困ったように視線を彷徨わせた。


「とはいえ、放置するわけにもいかないよ」


アランが3人の傍に寄って、つんつんとつつく。


子供か!


「一応きいておこうか。あんたら、ここでみたことは一切他言しないと誓えるか?」

「「「誓います!」」」



《ステータス》



山賊の兄貴(好きなアイドル セネカ)


HP  360/380


MP  32/40


LV 27



山賊の子分2(好きなアイドル カメル)


HP  520/520


MP  26/26


LV 12



山賊の子分3(好きなアイドル マリー)


HP  545/550


MP  55/66


LV 27



はーい、ステータス表示されました。こいつら俺に敵意有り。全部嘘だな。


「つか、あんたらの仲間、もう1人いたよな?どこいった?」

「知らねえ!……ですよ!気づいたら俺らしかいなかったから」

「ふーん。とりあえず、この礼拝堂を壊した罪は償わせねぇとな。それだけじゃねぇけど」

「それ俺達のせいじゃねっ……」

「ああ?!間違いなくお前らのせいだろうが!」


半壊状態の礼拝堂には瓦礫がたくさん落ちていた。宿舎のほうはまだ破壊を免れたが、食糧庫も井戸も破壊された。

足元には色のついたガラスの破片が散らばっている。


「歴史的にも重要な建築物だったのに……あっ!」


歩き出したアランが瓦礫に躓つまづきこける。するとアランの胸ポケットからはらりと数枚紙が飛び出した。


「そ……それは!」

「セネカちゃんの限定細密模写ブロマイド!」


よくよくみると、飛び出した紙にはそれぞれ1人づつ女性が描かれている。しかも写真並みの精密さをもった絵だ。


「ど、どうしてそれをあんたがもってるんだ!」


山賊の兄貴が今までの怯えはどこにいったのか、という勢いで立ち上がった。


「それは歌手集団アイドルグループAKPのステージ限定細密模写ブロマイド!実際に彼女らのコンサートに行った、全会員6987人の親衛隊メンバーのうち、厳しいじゃんけんに勝ち抜いた、3人しかもっていないもの!」


まさかアランもアイドル親衛隊だったのか?!


その場にいた全員の視線が一斉にアランにむく。


「あ、えっと……。僕の友達がこの細密模写ブロマイドの描き手なんだ。それで、僕がよくお金掏られるから、金に困ったときはこの絵を売れっていってもたせてくれたものなんだけど……」

「「「な、なんだってぇぇぇぇぇ!」」」


礼拝堂内にむさい声が響く。


「あああああああんんた!あの天才細密模写画家、ルイン・ヴェルクラムの友達ぃぃぃぃぃ?!」


おいおいおい、事態が変な方向に行ってんぞ!


「うん。わぁ、ルインのこと知ってるの?友達が有名ってなんだか誇らしいね」

「知ってるもなにも!あの細密模写ブロマイド描かせたら右に出るものはいない!まさに絵の中に本人がいるかのように、本人がもつ雰囲気や微妙な表情さえも写し取る、あの天才画家!AKP親衛隊の中にはさらにルインの親衛隊がいるほどの画家!彼女に犯罪者の似顔絵を描かせれば、2週間以内に犯人が捕まるという、あの!あのルイン・ヴェルクラム?!」


おい!後半の話なんかおかしいぞ!


「あー、何回か描かされたっていってたね。本人はものすごく嫌がってたけど」


アランはにこにこ笑う。


「あ、そうだ。君達この細密模写(ブロマイド)欲しい?」

「「「欲しいです!」」」

「じゃあ、もしこの場所のこと黙っていてくれたら、これからもずっとこの細密模写(ブロマイド)、ルインからもらったら君達にあげるよ。どう?」

「「「ぜひ!お願いします!誰にも言いません!」」」


お辞儀の角度は90°。息はぴったりと揃っている。


「あ、あのぉ、その細密模写ブロマイド、早く拾ってもいいですか?セネカちゃんがずっと地面に放置されるなんて、なんだか忍びなくて……」


こいつら急に敬語になったぞ!


俺はすらりと刀を抜いて、地面に落ちた細密模写ブロマイドにむかって突き立てようとした。


だが俺の刀は細密模写に届く前に止められる。刀の刀身を握って止めたのは、山賊の兄貴だった。


「セネカちゃんだけは、助けてください。刀なら、俺が受け止めます」


山賊の兄貴の手からは血が滴り落ちる。兄貴の顔は真剣だった。


「……」


俺は刀を地につきさし、そして拳に力を込めて、再び殴り飛ばした。目の前が真っ赤に染まった気がした。


「うっ!」


二撃目を加えようとしたところで、冷たい手が俺の手を包む。力を入れられてるわけじゃねぇのに、俺の手はとまった。


「一度振り上げてしまった手は、とめられないんじゃないですか?」


俺と同じ黒い瞳が、真っ赤に染まった世界で唯一他の色をもっていた。エレノアが静かに俺をみつめている。


「それで傷つくのは、ユートさん自身じゃないんですか?」


その言葉で、赤い世界は終わった。世界に色が戻ってくる。


「……」


一気に冷えた頭をそのまま山賊の頭にぶつける。


「いっ?!」

「忘れるなよ。もしあんたらがなにかおかしなことしたら、その紙切れがどうなるかわからねぇからな」


細密模写(ブロマイド)に刀をむけてから納める。

俺は礼拝堂を出るために歩き出す。


あれほど大事にしているなら、充分取引の材料になるだろう。だけど……。











俺は礼拝堂を出た。

苛立ちは、収まらなかった。










「やべ……歯、折れた……」

「「あにきぃ」」


副題 人質じゃなくて、紙質(かみじち)

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