第二十二話 するんじゃなくて、されるほう
もういっちょ!
蛇無双を期待されてた方、すみません!
1/6 蛇の名前を変更しました。
「兄貴―!!」
山賊の子分1が蛇に切りかかるが、白蛇は尾を振ってなぎ倒す。そして白蛇はぺっと山賊の兄貴を吐き出した。
「ぜぇ、くっそう!」
兄貴は実は魔法剣だった湾曲刀で、火を放つ。それは白蛇にあたったが、白蛇は屁でもないように受け止めたかにみえた。そのあと白蛇の中で魔力が高まり、おそらく魔法を放とうとしたんだろう。
だが、蛇はゆっくりとのた打ち回り始める。
同時に気づくのは、足元から這い上がるような悪寒が体内に入ってくる感覚。
「ユート、気を付けて!魔力濃度があがってる!狂化が、起こる!」
アランが叫んだ。
そして白蛇は、巨大化させた体をさらに巨大化させる。
「な、なんだ!」
「あ、あにきぃ!」
巨大化した白蛇は、礼拝堂の屋根を突き破った。天井から落ちる屋根や破片が、俺達に降り注ぐ。
そのとき、やきとりの体が炎に包まれた。そして真の姿に戻ったやきとりは翼を伸ばし、下にいた者達を瓦礫から守る。
「サンキュー、やきとり!」
白蛇は焦点の合わない瞳で山賊達をみる。
「ひぃ!俺を食べても美味しくないぞ!そうだ!こいつを代わりに食え!」
そういって自分の前に押し出したのは、サラだった。
白蛇が目を細め、大口を開けて近づく。
「「「「タロー」」」」
サラが食われる。まさにその瞬間届いた声に、白蛇はぴたりと動きを止めた。声のもとは、獣人の子供達で、じっと白蛇をみつめている。
やがて白蛇は頭を激しく振り、苦しむように暴れ出した。
同時に月夜も黒豹になり、白蛇に助走をつけて噛みつき、それを礼拝堂の外に押し出す。
俺はそれを追って外に出ると、周囲から何千匹の蛇に囲まれていた。
「月夜!ここはいい。縛れ!子供達を外に出すな!」
俺が命じると、月夜は礼拝堂内に戻る。山賊達に影縛りを使って動けないようにしていることだろう。あとで覚えてろよ。
そして子供達にこの光景をみせるわけにはいかない。あの白蛇を好いていたのに、これをみたらトラウマになりそうだ。
やきとりが俺の傍に降り立ち声をあげる。そして、苦しそうに体をくねらせる白蛇から俺を守っていた。
すると、ピロリン、と音がしてステータスが表示された。
《ステータス》
ラビリントスネーク(狂化)
HP 39670/39670
MP 677326/1500(魔力暴走)
LV 33
途中略
【魔法属性】 水
【職業】
《ラビリントスボス》
徐々に近づく大量の蛇が、一斉に俺に襲いかかった。
『優人君!魔法使うなら気を付けて!魔力暴走が悪化するかもしれないから。そして、今は使用禁止解くから!』
「了解」
神が焦っているのがわかる。それだけヤバい状況ってことだ。
「ユートさん!危ない!」
俺に飛びかかってきた蛇を切り捨てながら、エレノアは俺の隣に立った。
「サンキュー」
「はい!」
「時間稼ぎ、よろしく」
俺の言葉にエレノアは頷く。そして近づく小さな蛇達を切り捨てて行った。俺は慎重に自分の中の魔力を取りこぼさないように気をつけながら、術式を頭で描き、放つ。
「地の世界の住人よ。目の前の敵を屠れ!アンダーテイカ―!」
俺の前に地に泥沼ができ、そこから闇色の手が伸びる。無数の蛇はそこに引きずり込まれた。
しかし、小さな蛇に気をとられすぎていたんだろう。俺は、白蛇から放たれた巨大な水球にあたり、弾き飛ばされながらそれに取り込まれる。そして空中で一気に水に締め上げられた。
「ユートさん!」
やきとりが高い声で鳴く。怒りの声が、大地を震わせた。そして嘴の中から、今にも白蛇に配慮なしの炎を放とうとしている。
“やめろ”
俺は声なき声で叫んだ。
“殺すな。それは子供達を守ろうとしただけだ!”
だが口に入るのは空気ではなく水ばかり。水越しに彼らがみえるが、俺のために手加減なしで戦い始めている。
エレノアは蛇の尾を掻い潜り、尚且つ胴体をぶつ切りにするように真っ二つに切った。白蛇から緑色の血が吹き出す。
俺が視認できたのは、そこまでだった。
苦しい。酸素が欲しい。
俺はそこで、意識を失った。
目の前にあるのは、森だった。
見上げると、女性が俺の手と手を結んで歩いていた。
いや、“俺の”じゃない。
俺の意思に反して、俺は口を開いた。
「お姉ちゃん」
びっくりした。口から出たのは、女の声だった。そうだ、今のこれは俺の体じゃない。表の意識が交代する。
「なあに?」
お姉ちゃんと呼ばれた女性が、優しく見下ろしたのがわかった。だが、なぜか視界が眩しくて、その顔をしっかりとみることはできない。
「今日はなにを採るの?」
「今日はねぇ、レンヤ―の実と、ネルネル草、ハルカ苔よ。他にもみつかれば採るわ」
「どんなお薬になるの?」
「三つを合わせたら、媚薬。レンヤ―の実とネルネル草なら気管支の炎症を治す薬。ネルネル草とハルカ苔で、吹き出物に効く薬ができるわ」
「ふーん。また、街の人達に売りに行くの?」
「そうよ。吹き出物の薬はよく売れるでしょうね」
女性はくすくすと笑った。
するとそのとき、目の前にアコーンテイルという、どんぐりの帽子を被ったような魔物が現れ、襲いかかってきた。しかし、女性が手をすっと振ると風が刃となってその魔物を切り裂く。
そう。姉は確か、無詠唱で魔法が使えた。
姉は倒れた魔物の傷に薬を塗ろうと手を出して、急に起き上がった魔物に手を噛まれた。
「お姉ちゃん!」
「狂化しているのね、可哀そうに」
そういいながら、姉はアコーンテイルにとどめを刺した。
「アコーンテイルの尻尾もね、薬になるのよ」
そういって淡々と魔物から素材を採集する。
「お姉ちゃん。この子、可哀そう」
「そうね。だけど、どうすることもできないのよ」
どうすることもできない。
この言葉が、あのときの私には重く響いて。だから、魔物の狂化について研究した。もとに戻す理論をたてるとこるまでは辿り着いたけど、結局それを実行する術がなかった。
そんな意思が、俺の中に残った。
その理論は、今の俺なら使える。
なぜか、そう思った。
目を開けると、俺は相変わらず水に取り込まれていた。
水越しに確認すると礼拝堂だけではなく、かなりの建物が壊されていた。白蛇がなぎ倒したんだろう。
やきとりは何度も火を放つが、蛇はすぐに水を吐きだし消している。
だが、やきとりのほうが優勢のようだ。
エレノアのほうは、ぞろぞろと近づいてくる蛇達を薙ぎ払っていた。なんとか礼拝堂に入らないように防いでいる。
月夜が、俺の下に駆けてくるのがみえた。そして咥えているのは、あの月夜がいつも寄り添っていた魔導書。それを俺にむかって投げる。
俺が手を伸ばすと、その魔導書は水球を抜けて俺の目の前までやってきた。
手をかざすと、本が開く。
苦しい。苦しい。苦しい。水は、いらない。
俺の周りに魔力が溢れ出す。そして目を開ける。
苦しいなら、酸素を引き寄せればいい。水が邪魔なら、蒸発させてしまえばいい。
水球の中に、小さな火花がバチバチと無数に起こり始める。水のなかで手持ち花火が火を噴きだすように、それはだんだん激しくなる。
俺の体の周囲は、空気に包まれ始めた。火と風属性を帯びた魔力が、弾ける時を待っている。
「ふぅぷはっ!ごほっ!ぜぇぜぇ」
ようやくありつけた空気に、俺は思いっきり酸素を吸い込む。軽くむせたあと、目の前に浮いている魔導書に手を乗せた。なんとなく、こうしたら使えそうな気がした。パラパラとページがめくれ、とあるページでとまる。
そこに書かれてある魔法陣を頭に描き、唱える。
「風と共に燃え盛れ。フレアテンペスト!」
一気に蒸発した水は、高温の蒸気となって消え失せる。俺も蒸し焼きになりそうだったが、自分の周りを今度は水で覆うことで凌いだ。
“第一封印解除”
“呪い発動します”
急にそんな声が頭の中できこえた。
「よー、後輩!ん?なんだ俺を一番にみつけたのか!運がいいんだか悪いんだかだな!」
「は?あんた誰だよ」
「俺はな、第18代勇者やってたもんだ。あんまり時間がないんでな!さっさと説明終わらせんぜ。勇者の遺物を探せ!以上だ!」
「はぁ?!ちゃんと説明しろよ!」
「あーん?めんどくせぇな。いいか、よくきけよ!俺はお前の先輩勇者で、俺の仲間の魔導師に俺の力を込めた魔導書を作ってもらった。今お前がもってんのがそれだ。そんでそこに俺の意識も込めておいた。それが俺だ。以上!」
「もう一声!」
「ああ?仕方ねぇな。いいか、歴代の勇者は大体自分の力を込めたなにかを、後輩のために残している。それを集めろ。かなり力になるはずだ」
「俺は魔王を倒す力は欲してねぇよ?」
「マジか。そいつはすげぇな」
「だけど、元の世界に帰る方法を探してる。今ある魔法陣を使う以外で」
「はーん。そんならやっぱり勇者の遺物を探すことだな。今までの勇者の記録とかもわかる品があるかもしねぇ。勇者召喚に一番詳しいのは、やっぱ勇者だろ。ちなみに俺がみつけた勇者の遺物の場所なら、この本に書いてある。参考にしろ。じゃあな!」
「あ、ちょっと待て!まだききたいことが!」
「そういや忘れてた。検索検索っと。ん?お前、獏バクか珍しいな。んじゃ、旅がんばれよ!」
「おい!」
頭の中の会話は一瞬だった。
とりあえず俺は頭を切り替え目の前の戦闘に集中する。
地に下りた俺は、だっと駆け出しながら刀を抜いた。襲いかかる小さな蛇を切り捨て、白蛇に近づく。
「ユートさん!」
今ならわかる。この小さな蛇は実体がない。ただの魔力で形作られたものだ。だから、ただ切るだけでは意味がない。だが、切ったあとの瞬間だけは、蛇がただの魔力に戻る。その隙に、それを俺は取り込んだ。
「エレノア!回復魔法を使えるくらい、まだ魔力残ってるか!」
「え、は、はい!」
俺は刀を握り直すと、白蛇に一気に近づく。やきとりが白蛇の注意を引いてくれているおかげで、俺は気づかれない。
魔力を多く取り込みすぎて魔力暴走が起きることによって、狂化が起きる。ならば、その魔力を外に出してやればいい。
俺は近づきながら白蛇の魔力を吸収するが、手応えがない。吸い込んでも吸い込んでも、減らない。
なら、その原因がなにかある。
俺は刀の刃を返し、纏で大量に魔力を刃にまとわせる。そしてそのまま白蛇の腹を峰で叩き上げた。
ぐっ、ごぶっ!
白蛇はなにかを吐きだそうと、えづく。そしてぶはぁ、と吐きだしたのはそこそこ大きな宝箱だった。
ダンジョンとラビリントス名物。ボスを倒すと出てくる宝箱って奴か。
それを吐きだしたあと、白蛇は力を使い果たしたように倒れる。地響きが起きた。
《ステータス》
ラビリントスネーク(瀕死)
HP 234/39670
MP 1500/1500
LV 33
途中略
【魔法属性】 水
【職業】
《ラビリントスボス》
ステータスも戻っている。
俺は息をついた。すると、ピロリン、とステータスが表示される。
『レベルアップしました』
《隠しステータス》
緒方優人 オガタユウト(呪)
HP 13/44
MP 3454000/344980(危)
TA 328/328
LV 43
途中略
【剣技】 《纏まとい》
【魔法】 アンダーテイカ―(地闇/攻撃)
ゲリール(治/回復)
ファイヤーボール(火/攻撃)
フレアテンペスト(火風/攻撃)
【魔法属性】 地水火風光闇治 以降増可
【称号】 異世界の旅人・〔本当の〕勇者・捨てられた勇者・神に加護されし者・乞食になった勇者・勇者になった勇者・旅立つ勇者・ホラーメイカー・半沢勇者・料理人・ちんちくりん・魂の記憶の探索者・獏人・呪われし者
【スキル】
直感 LV10 逃げ足 LV8 索敵 LV9 鍛冶 LV3 魔力吸収 LV測定不能
【職業】
《勇者》《魔法使い》《鍛冶師》《薬師》《ジェネラルコック》《治癒術師ヒーラー》
「ユートさん!大丈夫ですか!」
エレノアが駆け寄ってくる。
「俺よりも、先に白蛇を!」
「はい!」
いつの間にか最初の小さいサイズに戻っていた白蛇の、エレノアが切った尾をくっつける作業をする。
どこぞにいっていた白蛇の尾は、月夜が探し出してきてくれた。
「「風の前の灯に、命の息吹を吹き込まん。リタブリスメン」」
俺は、余剰分の魔力も含めて消費し、回復魔法をエレノアと共に使う。すると、白蛇の胴と尾が繋がり、傷も癒えた。
「ふぅ……」
俺は息をつくと、くずおれた。全身の疲労感がハンパない。だが、俺にはまだやることがある。
俺は体を奮い立たせて立ち、教会の中で月夜に縛られたままの山賊の顔に、拳を叩き込んだ。
「ぐほぉ!」
「命を。こいつらの命をなんだと思ってる!」
呼吸が荒い。
「おにいちゃん!大丈夫?」
サラが俺に駆け寄ってくる。だが近づくにつれて、サラは驚いたように目を見開いた。
「おにいちゃんも、私達と同じだったの?」
「え?」
サラが俺の頭を指差す。俺も頭に手をやると、なぜかそこに突起物があった。それを引っ張ると、なぜか痛みを感じる。
サラが興味深そうに、それを触る。
「ユートさんに、耳が……」
エレノアも呆然と呟いた。
おい神!一体どういうことだよ!
『ただ今(仕事で)留守にしております。ピーっという発信音のあとに、メッセージをお願いします』
留守番電話かよ!
「……………………………………」
いや、発信音ならねぇのかよ!
ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
副題 後輩なのに、先輩勇者に呪われる
タイトルの正式なのは、モフモフするんじゃなくて、されるほう