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第二十一話 日本人の嘆き

ちょっと内容が不安のお話。申し訳ない。


1/6 いろいろご提案をいただいたので、蛇の名前を変更しました。

俺達が教会に戻った時、中庭で子供達が集まっているのをみつけた。


「なにしてるんだ?」

「あっ!おにいちゃん!」


サラが嬉しそうに立ち上がって、手を振る。近づいてみると、彼らは小さな白蛇を囲んでいた。


「しさいさまが、あそんでおいでっていったから、あそんでるの!」

「へぇ」


やきとりは少し離れたところに立つ木の枝にいた。あそこなら子供達の手も届かないしな。

月夜は……またあの図書室だろう。図書室であの本をみつけた日から、月夜はあの本の傍をはなれない。なんか因縁があるのかもしれねぇな。


なにで遊んでいるのかと覗き込むと、一匹の白蛇を囲んでいた。子供達は蛇をいじめているのかと思いきや、その白蛇の前には俺が作ったコンソメスープが盛られた皿が置いてあり、白蛇はそれを飲んでいる。


「白蛇ってめずらしいね。いったいどうしたの?」


アランが首を傾げると、ケビンが答える。


「このヘビ、おれたちがここにきたときからよく教会にあそびに来るんだ!きょうはおなかがすいてるみたいだったから、ユートにいちゃんのごはんはおいしいから、このヘビにもあげようと思って!」


「うーん。ヘビにコンソメスープって大丈夫なのかな?」

「どちらにしろ、もう手遅れだけどな」


アランが苦笑する。


だが子供達は楽しそうにヘビがそれを飲むのを見守っている。

俺はなんとなく、ステータスをみてみることにした。



《ステータス》


ラビリントスネーク(好物コンソメスープ)


HP  39670/39670


MP  1500/1500


LV 33


途中略


【魔法属性】 水 


【職業】


《ラビリントスボス》




「……」


ボスって職業なんかい?!

てゆーか、これ大丈夫なのか?いや、大丈夫じゃねーだろ!


俺はぎょっとして蛇に視線をむける。蛇は夢中でスープを啜っていた。


「おいっ、そいつからはなれっ……」

「ねぇおにいちゃん!」


羊人族ようじんぞくのメリーが俺の腕をきゅっと引っ張った。


「これで、わたしたちもリューグージョーにいけるかな?」

「は?」

「どうぶつとなかよくしたら、リューグージョーにおに……おに……オニタイジ(鬼退治)にいけるんでしょ?」

「いや、それなんか違う……」

「なあ、ユート!またウエジマトトタローのお話してよ!」

「ぐほっ!……」


俺はさらに抱き着いてきた、というより突進してきたジョセフを受け止めた。ジョセフの抱き着く攻撃。それに耐えて頭を撫でながら、少し考える


「それは、浦島太郎か、桃太郎の話かどっちだ?」

「タローのほう!」


『もういろいろ混ざっててなにがなんだか……』


まったくだな。


「いや、そんなことよりも……」

「じゃあ、このヘビさんの名前タローね!」

「わー、いいね!タロー、タロー、たくさんおたべ」


ど・う・し・て・そ・う・な・っ・た!


「あははー。いい名前だね。タロー」


アランもそれに混ざる。


蛇は蛇で、子供達に頭を撫でられると気持ち良さそうに目を細めた。


「……」

『なんか、大丈夫そう?』


結局蛇はなにもせず、スープを飲み終わると去って行った。


「おいユート!風呂にはいろーぜ!ローラねぇちゃんが、あめがふったから、風呂にはいってもいいっていってた!」

「なんだって?」


蛇を見送った鳥人族ちょうじんぞくのアレクは、偉そうにふんぞり返っていった。だがそんなことよりも気になるのは……。


「風呂……風呂があるのか?!」

「え、うん」


俺はよし、と拳を握る。


俺は、俺はずっと風呂に入りたいと思っていたんだ!


川での水浴びに始まり、よくてお湯に浸した手拭いで体を拭くくらいしかできなかった約1か月。心は風呂を求めてやまなかったが、どこにもみられなくて我慢していた。それが、今報われようとしている。


俺に桃源郷が出待ちしている!


『あの……優人君?キャラが迷走してるよ?』


「すぐ風呂にいこう!」


そして辿り着いた風呂!

ついにきた風呂!


桃源郷は、食糧庫から少し離れた奥にあった。そこは一戸建てのような建物で、子供達がわーっとその中に入っていく。


「ここが、風呂か」

「だね。僕もお風呂は久々だなー」


アランも嬉しそうに笑う。部屋に入ると、まずは脱衣所があった。既に子供達は思い思いに服を脱いで籠に放り込んでいる。

ここで面白いのは、さすがに女子は服を畳むが、男子は脱いだら脱ぎっぱなしなところ。獣人だろうが人間だろうが、変わらない。


だが俺はそこで気になるものをみつけた。明らかに大人の女性の服が籠にはいっていた。


「おい、おまえら、ちょっと待て!」


だが、子供達は構わず浴室の扉をあける。そして目に飛び込んできたのは、白い肌を晒して桶を握っている女性2人。


すなわち……。


「あわわわ、アウローラさん……」

「エレノア……」


彼女達2人も目を見開きながらこちらをみつめている。


「「き、きゃー!」」


2人の魔力に反応して水柱がたつ。


「「失礼しました!」」


俺達はびしょ濡れになりながら慌てて脱衣所から出た。

そしてバタンッと扉を閉めると、2人してずるずると崩れ落ちた。


すぐに水柱に隠されてしまったが、瞼の裏に残るのは、白く柔らかな肢体と驚いて紅潮していた頬。


「やべ……」

「うん。謝ったら許してくれるかな?」

「「はぁ……」」


2人同時にため息をついた。


だけど……。


「意外と……着痩せするタイプなんだな」

『みるとこはちゃんとみてるんだね……』












とりあえず、風呂から上がったエレノアとアウローラさんは、顔を真っ赤に染めながら俺達とむきあっていた。


気まずい。非常に気まずい。


「すいませんでした。ちゃんと確認していれば……」

「こちらこそ……。お2人でお出かけになっている間に……と思って、なにもいわず先に入っていた私達が悪いんです。子供達にも、説明しておかなければなりませんでした」

「いや、俺ももっと早く気づいていれば……」

「とんでもないです!お見苦しいものをおみせしてしまって……」

「それに、とにかく隠れなきゃ、と思ったら魔力が反応したとはいえ、お二人をぬらしてしまって、すみませんでした」

「それは当然の心理ですし、お気になさらず」


相変わらずかかか、と湯気が立ち上りそうなほど赤面している2人に対して、俺達はとにかく頭を下げる。


「終わりがみえない」

「そ、そうですね!」

「これは事故でしたし……」

「私達も、お2人を濡らしてしまいましたし……」

「それでは、おあいこということで……」


『よくある平手打ちとかなかったね』

「あんたはなにを期待してんだよ」



とりあえず、許しはもらえたのであらためて、俺達は風呂に入った。


「これは……」


俺は思わずがっくりと項垂れる。

そこにあったのは、俺が思い浮かべていた湯船の風呂ではなく、小さな湯船に水がいれられたかけ湯……いや、湯ではないのでかけ水だった。もはや行水だ。


だが、アランや子供達は気にせずどんどん、水を体にかけて体を洗っている。

と、そのとき、浴室をトコトコあるいていく1羽の鳥がいた。


「やきとり?」


そしてやきとりはぴょんっと小さな湯船に飛び込む。本鳥(ほんにん)は気持ちよさそうにそこでぷかぷか浮いていた。するとだんだんその水から湯気が上がり始める。


「これは……!」

「こけ~」


指をいれてみると、それはちゃんとした湯だった。


「でかした、やきとり!」


水を体にぶっかけるよりずっといい!


ちょうどいい湯加減になったところで、俺も湯をかける。俺が望んだ風呂ではなかったが、久しぶりに気持ちよかった。


「うわー、あったか~い」


子供達もぬくぬくとしている。いつもそうしているのか、子供達はお互いの頭を洗いあっていた。人間と獣人の子供達が、だ。


「……やっぱり、こういうのがいいなぁ」


メガネを外して少し違和感を感じるアランは、そんな彼らを微笑ましそうに見守る。


「人も獣人も、こんな風に仲良くできるのに……」


そう呟いたあと、アランも鳥人族の子供の頭を洗うのに参加した。


「おにいちゃん!わたしがあたま、洗ってあげる!」


サラがこっちこっち、と輪の中に引っ張った。


俺が座って、サラが上から湯をバサーッとかける。そんな洗い合いが続いて、俺も何人か洗ってやった。

だが難しい。獣人は耳や尻尾がついているため、そこの洗い加減が非常に難しい。けっこうデリケートな部分なんだな。

特に鳥人族の子供は背中に羽が生えている。いってしまえば、天使のような姿だ。その羽を洗うのも、なかなか大変だった。


俺はふと、小さな湯船をみた。

やきとりが目を回してぷかーっと浮いていた。


「いや、なんでだよ!」


おまえ神鳥だろ!火の鳥だろ!なんで火の鳥が熱に負けてんだよ!


自分で湯を温めていたくせに、のぼせたらしい。

俺は親指と人差し指で摘まんで、やきとりを引き上げた。ぐったりとしている。


「……茹でた鶏肉は、おろしポン酢だよな」

「こ~け~」


今夜の夕食は、和食になりそうだ。


『食べちゃダメだからね?!』








残念ながらポン酢がなかったので、やきとりは夕食になりそこなった。と、半分本気の冗談はともかく、俺は今日みたエレノアの姿を思い出す。


「なあ、エレノアの胸元にあったあの印みたいなのって……」

『僕はみてないけどね!でも、それは聖女の証だよ』


俺は自室のベッドにすとん、と座る。


やきとりは外に体を冷やしにいっている。火の鳥の尊厳はどこいった。

月夜はまたあの図書室だ。


「具体的にさ、聖女ってどうやって勇者を見極めてるわけ?(ひじり)が勇者じゃないって、エレノアは気づいたんだろ?」

『さぁ?わかんない』

「……」

『……』

「……あんたさ、もう神やめろよ」

『え、なんで?!

あれは、エレノアが気づいたっていうのは微妙だった気がするけどな……。それはともかく聖女ってさ、僕の専門外の分野なんだよね』

「は?」

『勇者に関しては、僕ほど詳しい存在はないよ。だって、一番初めに勇者を召喚したのは僕だから。まあ、現在はエネルレイア皇家に委託してる形なんだけど。でも聖女はね、僕が勇者を召喚したそのときから、いつの間にか生まれてたんだよね』

「じゃあ、聖女っていったいなんなんだ?」

『僕にもよくわからない。ただ、“聖女”って称号は、人間が勝手につけたものだよ。勇者が召喚されると、その旅路の中で必ず命がけで勇者に尽力する人間がいた。歴代のどの勇者においてもね。それが大抵女性だったから、信仰とかと結びついて印を持つ者は聖女と呼ばれるようになった』

「……」

『一番最初に召喚された勇者は、聖女に出会ったのは偶然で、最初はものすごく仲が悪かったんだよ。当時の聖女は女盗賊だったしね。勇者は身ぐるみ剥がされて、最悪な出会い方だった。だけど、なんの運命の悪戯か、何度も遭遇するんだよね。何度も何度も別れて行動したけど、なんやかんやでまた会ってしまう。その過程で2人は仲良くなっていったけど……』

「なんだよ、その典型的な話は!」

『事実なんだから仕方ないじゃない!つまり、聖女が意図的に勇者に近づいたわけじゃないってことがいいたいわけ。そもそも勇者の存在をこの世界に広め、確立したのは彼が魔王を封印したからだからね。本人だって自分は勇者だって思って行動したわけじゃない。僕の主観だけど、歴代の勇者と聖女すべてが、もはやそれは必然とでもいうように出会った』

「……」

『まあ、歴代の“聖女“のなかには男性もいて、そのころはもう聖女って地位は確立してたから、男でありながら聖女って呼ばれていた可哀そうな人もいたけど、勇者との仲は最終的に良好だったよ。聖女という地位が確立してからは、事前に聖女が探し出されて勇者召喚に立ち会い、出会ったそのときからお互いの存在を知っているわけだから、見極める必要性はなかった』

「つーことは、エレノアは別の思惑があって城を飛び出したってことか?」

『どうだろ?なにか感じるものがなかったとは、僕にはいいきれないし。ただ一ついえることは、聖女は必ず勇者に会うことができるってこと。実際できてるしね』

「……」


俺は寝転んで、天井を見上げた。


わからんことはわからん。エレノアが、俺の正体に気づいているかもわからん。だが、性格的に気づいていないような気はする。


俺がそれらのことを考えていると、突然狼の鳴き声がきこえた。


「なんだ?!」


何度も何度も響く、緊迫した声。


俺はとび起きて傘を引っ掴むと、その声がするほう、礼拝堂に駆け付けた。扉を開けた瞬間、男達に捕らわれている子供達が目に入る。


「ユートにいちゃん!」

「ユート!」


礼拝堂には既にアウローラさんとエレノア、アラン、月夜とやきとりがいた。彼らも何人か子供達を庇っている。


山賊の近くにいながら幼い子供達を守っているのは、人狼族のケビンだった。さっきと違って口元が狼のそれになっている。助けを呼んだのはあいつか!


「ミーナ!カレン!」


山賊の手に捕らわれている子供達に、アウローラさんが悲鳴をあげた。

エレノアが隙を狙い、剣を抜こうとすると山賊の1人が子供達を離し、俺にむかって走ってくる。


「おーっと、そこから動くなよ。こいつがどうなってもいいのか?!」


山賊の兄貴は俺の首に湾曲刀を突きつけた。首に腕も回されがっしりと固定される。


「くっ」

「人質になってもらうぜ、坊主」


見上げると、髭を生やした顔。


「あんた、あのときの山賊か!」

「あんときゃ世話になったなぁ」


抜け出そうともがくが、びくともしない。

状況把握のため視線を走らせれば、山賊の残り2人が獣人の子供達に猿轡をかませロープで縛り、または抱えていた。


「てゆーか、なんで俺が人質なんだよ?!」

「お前が一番弱そうだったからな!あと小さいから運びやすい」

「はぁ?!」


冷静に考えて、子供を捕まえていたんだからそのまま人質にすればよかったはずだ。まあ、子供達を離してもらえて結果オーライだがな!つか小さいいうな!


『基本この世界の人間が君から感じ取れる実力って、通常ステータスのほうだからね。実際は強い君でも、みんなからは弱くみえるんだよ。小さいことについてはノーコメントで』


んなとこで弊害出してんじゃねぇよ!


不思議がる俺をみて、山賊がにへ、と笑う。


「なんだおまえ、獣人のこといってんのか?あいつらが人質になる価値があるとでも?」

「は?」


この山賊の狙いは獣人の子供で、捕まえて売るつもりだったんじゃないのか?なら、なんで人質の価値がない?


そのとき、アウローラさんが激情を抑えるように問うた。


「このようなことをしてどうするつもりです?この回帰の霧の溜まり場では、逃げることはできませんよ」

「だったら、ここでしばらく世話になるだけだぁ。まずはメシ、用意しな!」


冗談じゃねぇぞ!んな人質として四六時中こんなむさい男といるなんて絶対嫌だ!それだけじゃねぇ。


俺が月夜と視線を交わし、刀を抜こうとしてそのとき、山賊の手を噛んで逃げ出したサラが、兄貴に飛びついた。


「おにいちゃんを離して!」

「うるせぇ!」

「サラ!」


だが、サラは兄貴が払った腕で吹き飛ばされる。そしてそのまま湾曲刀を山賊は彼女に振り下ろそうとする。


「サラ!」


俺が叫び、アウローラさんが悲鳴をあげた次の瞬間、急に巨大化した蛇が現れ、山賊の兄貴の頭をぱっくりと飲み込んだ。




《ステータス》


ラビリントスネーク(尊敬するひと コンソメスープの作者)


HP  39670/39670


MP  1500/1500


LV 33


途中略


【魔法属性】 水 


【職業】


《ラビリントスボス》















副題 勇者なのに、人質


12月26日 1時~3時の間にとある企画を活動報告にて限定公開する予定です。ネタばれがありますので、それでもいいという方は、よければみてみてください。

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