第十九話 聖女様の剣術指南
すみません、投稿の順番まちがえました。
第十九話 聖女様の剣術指南
第二十話 さえないメガネ
12月24日 エレノアの武器を変更しました。
が正式です。
3、2、1.
「コケコッコ~!」
「めざましうるせぇ!」
「ゴゲッ」
俺は八割がた夢現のまま、朝の訪れとともに声を上げた目覚まし時計を叩き潰した。
「あ、悪い」
つい日本にいたときの癖で手を動かしてしまった。俺は目を擦り上体を起こす。
『首つかまーれて、絞めらーれて、たたーきつぶーされる~。鶏冠をちぎーられてー声あげーれば、目覚まし扱い~?』
だからそれだと歌聞こえねぇんだってば!
『あははー』
俺は布団をめくると、月夜が健やかにまだ眠っていた。
窓の外はまだ、薄暗かった。
滞在5日目。
まだ眠いとはいえ、今寝ると寝坊しそうなので起きることにする。顔を洗うために中庭の井戸へむかうと、ブンッブンッという音がきこえた。
「あれは……」
中庭にいたのは、エレノアだった。彼女はただまっすぐ前をみて、剣を振っていた。
「誰?」
迷うことなく俺にむけられた視線に一瞬体が硬直した。だが俺だと視認した瞬間、笑顔になった彼女に、俺は肩の力を抜く。
「おはようございます!ユートさん!」
「ああ。おはよう。なにしてるんだ?」
「体が鈍るといけないので、少し鍛錬を。といっても、剣を振るだけなんですけど……」
剣を振るだけといいつつ、彼女はかなり汗をかいていた。
「どれくらい振ってた」
「えーと、二時間くらいでしょうか」
「二時間?!」
やきとりが鳴くかなり前からだ。エレノアが握っているのは、彼女の武器の片手半剣だった。
「なあ、それちょっともってみてもいいか?」
「え、これですか?どうぞ」
俺は片手半剣を受け取る。
「おもっ」
「刀身だけで3㎏あります。鞘もついているので……4㎏ぐらいでしょうか」
「こんなのを二時間も振ってたのか」
それで涼しい顔してるって……。
俺は少し考える。
「……。なあ、俺に剣術教えてくれないか?」
「え?」
俺が返した武器を受け取りながら、彼女は驚いた顔をした。
「え、でも私……人に教えられるようなものでは……。それにあまり強くありませんし、まだまだですし……」
「いや、あんたは充分強いだろ。山賊のときみてるし」
レベルからみても、俺より強いし。
だが、エレノアは困ったような顔をする。
「うーん。ユートさんは、どの程度の剣術をお求めですか?」
「どの程度……」
「護身術程度とか、まともに戦えるまで、とか……」
「魔物と戦えるくらい……かな」
「それだと際限がありません。魔物は上には上がいますし……。残り6日間では……。ユートさんは剣術をされたことがあるんですか?」
「いや、まったく」
「そうですか」
エレノアはまた考え込む。
「恩人から武器をもらったんだ。だけど、扱い方を知らなきゃ宝の持ち腐れだろ?なんとか1人で扱えるくらいまでなりたい」
「扱えるくらい……ですか」
エレノアは片手半剣を腰に下げた。
「わかりました。ユートさんの剣筋をみたいです。一度、打ちあってみませんか?」
「わかった」
俺は部屋から仕込み刀をもってくる。
「仕込み刀……ですか」
「ああ」
「とりあえず、構えてみてください」
俺は侍が刀を構えるようなイメージで刀を握って立つ。
「……。遠慮せず、かかってきて下さい。そのまま刃は私にむけて」
「……!」
俺は柄をぎりっと握る。人相手に刃をむけるのは、躊躇いがある。
「大丈夫です。絶対にあたりませんから」
エレノアはいつものような、優しげな表情をしていなかった。眼光鋭く、俺を観察している。
俺は意を決して刀を振りぬいた。
「はぁっ!」
だが俺の刀は軽く避けられ、いつの間にかエレノアは俺の後ろにいた。
「体に力を入れすぎです。そのままやってると、体力がもちませんよ」
エレノアはそのまますたすた歩いて一定の距離をとるとむきあい、今度は剣を抜いた。
「このまま、しばらく打ち合います。思うように刀を振るってください」
俺はまた、刀を構えた。そしてそのまま、何度も打ち合う。大抵はエレノアに受け流されて、俺は力に抗えず地面に転がった。
「いっつー」
「大丈夫ですか?」
「ああ、このまま続けてくれ」
一瞬心配そうな顔をするが、俺が続ける意志を告げるとまた厳しい顔になった。
何度も何度も、刀を振っては躱され受け流され、転んで立ち上がる。そんなのを繰り返していた。
47回目の打ち合いだった。
俺がまた斬りかかりエレノアは俺の攻撃を受け流したが、俺は体を捻って軌道を変え、彼女の後ろに回り込むと刀を横に薙いだ。しかし、いつの間にかエレノアは目の前から消えていて、はっと後ろに刀をむける。後ろから斬りかかっていたエレノアの剣を受け止めるが、俺の手から刀が弾き飛んだ。
「くっ!」
俺は激しく呼吸しながら、地に膝をつく。
「今、私の気配を感じて動かれましたね。気配を探りました?」
「ああ」
エレノアが後ろに回ったのを察知できたのは、俺がスキル索敵を使ったからだ。
「ユートさんの剣筋はいいと思います。訓練すれば、比較的早く強くなれるでしょう。ですが……」
「はぁはぁぜぇ」
俺がこれだけ激しく息をしていても、エレノアは呼吸一つ乱れていない。
「ユートさんって、魔法は使えますか?」
「少しだけな」
ゲリールとアンダーテイカ―だけだ。しかも一つは使用禁止令が出てる。
「じゃあ、これ使えます?」
エレノアは手を出すと、掌の上から炎が出る。ところがいきなり火力が上がった。
「あわわわわわわ!」
「おい!」
エレノアが慌てて魔法を解除した。
「前髪焦げてんんぞ」
「え?あう……」
エレノアは前髪に触れ、項垂れた。
「あんたさ、いっつも魔法使うとき魔力を消費しすぎなんだよ。もっと少ない量でやれば失敗しないから」
「え?」
「ほら」
俺はエレノアの手を取り、彼女の中の魔力の流れを感じる。それに同調し、掌に魔力を集めると、魔法術式を思い浮かべる。
「わあ!」
すると、エレノアの手から数㎝離れたところに小さな火の玉が浮いた。
「自分が制御できない量の魔力を術式に込めるから、いつも失敗すんだよ。いいか、この量ならうまく発動するんだ。この感覚を覚えろ」
「すごい……」
「は?」
エレノアの目に涙が浮かぶ。
「私……初めてまともに攻撃魔法が使えた!」
「はぁ?」
じゃあなぜ俺にそれをみせようとした?
エレノアは火の玉を消すと、もう一度火の玉を作る。
「小さき火よ、玉となりて敵を討て。ファイアーボール」
すると、また火の玉が浮かび、今度は小さなそれが手を離れてふわふわと漂う。
「すごいすごい!」
エレノアは子供のように手を叩いてはしゃいでいた。
「ユートさんは、魔法が得意なんですか?!」
「え?得意っていえるほど、魔法を知らないんだが。その魔法も初めてみたし」
「えぇ?!」
エレノアは俺の両手をぎゅっと握る。
さっきの真剣さはどこへいった。
「すごいです!ユートさんは天才です!私にこれほど早く魔法を習得させるなんて今まで誰もいませんでしたし!一度目にした魔法をすぐ使えるなんて!」
いや、なんか魔法をみると、なんとなく使い方がわかるだけなんだが。
『それを天才っていうんじゃないの?』
なんだ、いたのか。
『いたよ』
なんとなく、拗ねた口調でいわれた気がする。
「ユートさんは、魔法をメインに戦ったほうがいいのではないでしょうか」
「え?」
「さっきから思っていたんです。せっかくの仕込み刀なのに、それをメイン武器にするとそれを生かせませんし、生かすにしてもなかなかの技量が必要です。ですが、魔法をメインに使って、サブ武器として仕込み刀を使えば、たとえば相手が近づいたら仕込み刀で反撃すれば、効率がいいかと。そのほうが、仕込み刀という特性も生かせると思いますし!」
なるほど。
「そしてユートさんは、どうしても斬りかかるとき躊躇いがありますね」
「……」
「別にそれが問題になるとは限りません。相手を殺さない程度に痛めつける方法を学べばいいんです。たとえば、対人間戦では足を狙うとか。特に、カウンターを中心にして訓練すれば、実用的だと思いますよ」
エレノアはにこにこと語る。
「必要なのは観察です。どこが弱点なのか、どこを切れば相手の構えが崩れるか。それができれば、大きな力になります。それを頭の片隅にでも置いておいてください。
私の師匠からの受け売りで申し訳ありませんが、必要最低限の訓練法を教えます。それを毎日こなせば基礎力がつきますし、あとは実戦あるのみです。残り6日間は私と打ち合いをしましょう!」
「わかった」
「では、さっそく続きいきましょうか」
「ああ」
俺とエレノアはまた武器を構えた。
何度打ち合ったかはもう覚えていない。
俺は体力の限界がきて、地面にぶっ倒れた。
すると、どこからか声がきこえる。
「たてー!たつんだ、ユートにいちゃん!」
『どこの段平さん?!』
叫んだのは、人狼族の少年、ケビンだった。いつの間にかわらわらと子供達が見物に来ていたらしい。
「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
『乗っちゃうんだ!事実だけど!』
正直、二度寝したい気分だった。
副題 やきとり、いじられ歌
歌詞を変更しました。お騒がせしました。