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第十二話 ば・る・す!

かなり長くなりました。超展開は自覚しています。すみません。


11月25日 リリアの登場シーンで加筆をしました。リリアへの仕返しについて優人君が話す内容を加筆しました

私はうろうろと自室を歩き回りました。


「どうしよう。でも……、チャンスは今日しかないよね。ああ、でも外に出たことないし……」


一旦落ち着こうと椅子に座ったものの、そんなことで落ち着けるわけはなく、私は頭を抱えました。いろいろ考えて、考えて、考えて。


「お城を出るには、パレードがある今日しかないよね!」


私は聖女の役割をまっとうしなければなりません。そのためには、この城にずっといるわけにはいきません。


「そう、今日しかないんだもの。今日しか。だったらいつやるの?」


今でしょ!


私は立ち上がり、着なれた絹のドレスを脱いで着替えました。








『で、倍返しだ!とかいっちゃったわけだけど、具体的になにするの?』

「決まってんだろ。顔に一発、フックジャブだよ」

『それ一発じゃ済まないよ!』


俺は城門の様子がみえる、ソエルの森のしげみに隠れていた。

今日は勇者お披露目パレードの日だ。おっさんの店をやめてから、一日経った。


『なるほど。それじゃまだまだ手ぬるい気もするけど、優人君がそれでいいなら僕はなにもいわないよ』

「あんまり被害が出ることするのは本意じゃないからな。おっさんを殺すつもりはなかったみたいだし。それにどんだけ腹が立っても相手が女ってのは変わらねぇし。それに、俺が今仕返しとして使えるカードは力押ししかないだろ。でも、正直言って聖を説得して旅に付いてきてもらう、なんてのは自分のことだけでも精一杯で難しいからできねぇ。そうなると、リリアにはこのまま聖の面倒をみててほしいから、あんまり事を荒立てたくない」

『ふーん』


「現実問題、リリアを失墜させたりとかするのはマズいってことだ。俺ができるのはささやかな反抗ってところかな」


とはいったものの、女に手をあげるのすら抵抗がある。緒方家のルールが俺にはしみついているからな。

“女に手をあげるべからず。ただし時と場合による”

うん。後半の言葉は素晴らしいよな。と、そんなことを考えているうちに腹がきゅうとなった。


「あー、腹減ったなー」

「にゃー」


俺の近くにいた月夜が同意する。まる一日なにも食べてない。


『まあ、忙しかったからねぇ。食糧は心もとない量しかないし、今食べたら旅の間もたないしね』


とはいえ、ここ最近はちゃんと三食しっかり食べてたし、いきなりの絶食はなかなかキツイ。

なにが忙しかったかというと、昨日俺と月夜は無数に作られた落とし穴を埋めることに全力を費やしていたことだ。

その原因である無数の落とし穴を作ったのは誰か。


俺だった。


少しでも多く食糧を確保するために、イノシシやウサギを捕まえる落とし穴をせっせと掘っていた日々が懐かしい。


『もうあれ優人君のライフワークだったよね』


まあな。


結局は一度も捕まえることができず、ムキになって作りすぎたのが裏目にでたわけで。無駄に罠を作りすぎたためにソエルの森はちょっとした危険地帯になりつつあった。これまでは、俺が罠の成果確認のために見回りをしていたことで誰か引っかかっていたらすぐわかったが、ここを離れるのならこのまま放置するわけにはいかない。


ソエルの森にはそこそこ人が出入りしてるしな。


そんなわけで、急遽落とし穴の穴埋め作業に一日を使ったわけだ。しかも結局全ての落とし穴を埋めることはできなかった。しかたなく、危険地帯には『この先危険』看板を設置している。


『で、どうやって城に忍び込むの?』


今日は勇者のお披露目パレードだ。ならパレードが出発すればそっちや街に警備が集中するはずだ。となれば、城の警備は手薄になる。その隙に門番から鎧を奪って潜入するという計画だ。


『なるほど』


そのとき、城から街にラッパの音が鳴り響いた。そして城門が開かれ、パレードの御輿が出てくる。出待ちしていた国民達が割れんばかりの歓声をあげて迎えた。


「月夜。耳大丈夫か?」

「にゃー」


俺より耳の良い月夜を心配したが、大丈夫なようだ。なかなか歓声は頭に響く。

ここからではあまりパレード自体はみえないが、じりじりとそれらが去るまで待った。

御輿が進んでいくと、見物客もまたぞろぞろと移動していき、城門は静かになる。


「よし、今だな」


俺は城門に立つ門番の2人のうち1人にこっそり近づいて、傘で思いっきり殴った。金属製の兜に打撃は意外と効く。もう1人の門番は月夜が魔法で眠らせた。

俺がレベルアップしたことで、月夜も徐々に制限が解かれ、少しなら魔法が使えるようになっていた。


そして門番から鎧を脱がせ、それを着ようとしたところであることに気づく。


「……」

『優人君、身長が……』


うるさい!


鎧はがっちりとほぼ全て金属でできていた。つまり伸縮性がなく、俺の身長ではこの鎧に合わないため着ることができない。


『えっと……』

「いい。言葉はいらない」


これは涙じゃない。俺は泣いてない!


俺は鎧を着ることをあきらめ、もう一度門番に鎧を着せると、そのまま立たせた。無駄に丈夫にできている鎧はバランスをとるとちゃんと立つ。


「これで、門番はちゃんと仕事してるようにみえるよな」


俺はそのまま、城門内に潜入した。とりあえず城に入れるところを探す。


『そういえば、優人君はリリアがどこにいるのか知ってるの?』

「知るわけねぇだろ。これから探すんだよ!月夜がいればにおいとかでなんとか……」

『……ああ、なるほど。でも肝心の月夜ちゃんいつの間にかいないんだけどぉ……て、え?!おやか……じゃなかった。優人君!空から女の子が!』

「は?」

「どいてください~!」


頭上から降る声のほうをみれば、少女が三階の、バルコニーがあるとある部屋から飛び降りる姿がみえた。


「は?!」


俺はとっさに受け止めようと腕を出す。そして案の定、潰された。


「ぐえぇ!」

「はっ!ごめんなさい。大丈夫ですか?!」


少女は地に打ちつけた背の痛みに悶える俺の上で心配そうに訊いた。


「とりあえず、どいて」

「はぁわっ!ごめんなさい!」


少女は慌てて俺の上から降りる。


『大丈夫?優人君』


無理。背中かなり痛い。


「あわわわわ、どうしよう。とりあえず治癒魔法をっ」

「「「「姫様~!」」」」


少女が飛びおりたバルコニーには大勢の騎士が俺達を見下ろしていた。どうやらこの少女は彼らに追われているらしい。


これ、マズくないか?


『かなりマズいねぇ。みつかっちゃったよ』


おいおい、マジかよ。


「姫様!そこから動かないでくださいよ。絶対ですからね!」


そう言い残すと、バルコニーから騎士が消える。これは今が逃げ出すチャンスだ。

そう思って立ち上がったそのとき、再び上から声が降ってきた。


「「「「おりゃー!」」」」

『ええええぇぇぇぇぇ?!』

「?!」


一階に下りてからこっちに来ると思っていた騎士達は、助走をつけてそのままバルコニーから飛び降りてきた。


「待てといわれても無理です!」


少女と俺は同時にさっと身を翻して逃げる。


「こら待て貴様っ!何者だっ?」

「俺関係ないんだけど!」


俺は敵認定されたらしい。


『まあ、不法侵入しているからみつかれば追いかけられるのは当たり前なんだけどね』


あんたはどっちの味方なんだよ!


とりあえず走りに走る。

少女は思ったより足が速かった。俺は体力がないからすぐバテはするが、速さには自信がある。


『スキル逃げ足を持ってるくらいだしね』


だが彼女はそれにしっかりとついてきていた。しかもさっきからごめんなさい、と何度もつぶやきながら。

追いかけてくる騎士達はざっと15人。反撃も無理そうだ。ここは大人しく逃げたほうがいいな。


そう判断すると、俺は城門にむかって走る。しばらく逃げていて気づいたが、この少女も同じ方向に逃げているようだ。

城門から飛び出し、ソエルの森に入る。少女も森で撒くつもりのようだ。しかし騎士達はしつこかった。森の中もしっかりと追いかけてきている。


「……仕方ねぇな!」


撒くついでにあの暗殺者達の回収をあの騎士達に任せることにするか。


俺は少し前を走っていた少女の手を掴み、そのまま走る。


「こっちだ」

「えっ?」


俺はとある場所目指して走る。そしてあの『危険地帯』と書かれた看板がみえたところで通り過ぎざまそれを引き抜き、少女を導きながらそこを走った。すると、あとを追いかけてきた騎士達がそこを通ろうとしたところで、地面にぽっかりと穴があく。


「「「「うわああああぁぁぁ!」」」」


危険地帯の落とし穴に何人か落ちたがまだ何人か追いかけてきていた。


『あと6人!』


俺は暗殺者達が首から下が埋められている場所に導く。これでこの騎士達に彼らの処理を任せられるだろう。


「うわぁなんだこれは!」

「お前らは早く救助を!俺達は姫様を追いかける!」


『あと3人だよ、優人君』


そこを通り過ぎると、魔物に追いかけられた時用に作っておいた罠の引き金である、木にぶら下がっていたロープを走りながら引いた。

すると、小石やら丸太やらが彼らの頭上から落ちる。足止め用だし、撒くにはちょうどいいだろう。


『もはや忍者屋敷並みだよね。この森』


俺の家だからな。


『優人君の実家は忍者屋敷だったの?』


そこからさらに走って追手が来ないことを確認すると、ようやく俺は足をとめた。


「ぜぇ、はぁ……」

「あの、大丈夫ですか?」

「……」


俺は全力疾走したあとの激しい息切れをおこしているっつーのに、目の前の少女は息切れ一つしていない。


「あの、助けていただいてありがとうございました」

「気にするな」


ついでだったからな。


「あ、怪我をされていますね。ごめんなさい」


少女は俺の頬に手をかざすとなにかを唱えた。


「癒す力もつ優しき光、ゲリール」


すると、俺の頬から全身に温かいなにかが流れた。これは……。


『初級魔法、ゲリールだね。ちょっと魔力使いすぎだけど』


俺もなんとなく理解できてしまった。この少女の魔法は効率の悪い使い方をしていると。おかげで切り傷を治す程度の魔法が、背中の痛みまで消した。

薬の件といい、今の魔法の件といい、俺はなにかおかしい。知らないはずのことを知っている。

まあ、今考えることじゃないか。


「サンキュ。痛みひいたわ」

「いえ。私のせいですし……。あの、私はエネルレイア皇国第一皇女、エレノアと申します。お名前を伺ってもいいですか?」


俺は彼女のステータスを表示させた。



《ステータス》



エレノア・フェレーナ・エネルレイア


HP  4470/4470


MP  312/470


TA  325/330


LV 43


途中略


【魔法属性】 水光聖治 以降増可


【称号】 聖女・エネルレイア皇国第一皇女・対を成すもの・愛すべき天然?忌むべき天然?・おバカちゃん・捜すもの・リリアの姉・ハーフエルフ・聖女林


【スキル】 聖語読解 LV125 魔法陣読解 LV99


【職業】


《聖女》《魔法使い見習い》《剣士》《巫女》






皇女ってことは嘘じゃなさそうだな。

というか


「一国の皇女がそんなに簡単に名乗っていいのか?」

「え……?はっ!そうですよね。皇女っていろいろ利用価値がありますもんね。え、どうしよう、もういっちゃったし……。……えと、あの、あなたは悪い人ですか?」

「少なくともあんたを利用して良からぬことをする、なんてことは考えてねぇよ」

「あ、そうですか!よかった!」


エレノアはほっとしたように笑った。


いや、簡単に信じすぎだろ。


「まあ、あんたが姫様って呼ばれてたから、ある程度は予想ついてたけどな」

「なるほど。そうですよね」

「……はぁ。俺はユート・オガタ」

「え、ユート……さん?」

「そう、俺の名前」

「もしかしてあなた、勇者さんじゃないですか?!」

「……え?」

『え?』


俺は内心動揺した。エネルレイア皇国第一皇女ってことは、リリアの姉ってことだろ?俺が本物だと知られてるなら、リリアも気づいたってことで聖が危ないんじゃないのか。


「私、本物の勇者さんを捜してるんです!」

「……勇者なら、今頃パレードに参加してるだろ?」

「違うんです。彼は勇者じゃありません。私は彼にききました。召喚されたとき、もう1人召喚された方がいたそうなんです。その方は黒髪に黒目で背が彼よりも低くてオガタ・ユウトという名前の人で、彼こそが本当の勇者なんです」


え、ウソだろ。俺バレてる?


冷や汗が背を流れる。ところが少女は自分の言葉で首を傾げた。


「あれ?でもユート・オガタさんなんですよね。雰囲気は似てるけど、オガタ・ユウトさんとお名前は違うし……。ということは別人?!ごめんなさい!私、早とちりして!」

「……」


バカだ。このお姫様はバカだ。


俺の名前逆になってるだけだろ?!


『あははははは!確かに!たぶん洋一君から日本形式の名前を教えてもらったんだろうね。まさか、オガタをファーストネームだと思ってるとは』


笑ってる場合か!


『洋一君は大丈夫だよ。彼のこともちゃんと見守ってるけど、リリアがそのことに気づいた様子はなさそうだ』


そうか。


「ヨーイチ様が勇者じゃないってどういうことだ?」

「えと、あの、私聖女なんです」

「聖女?」

「はい。本来は、聖女が召喚された勇者様をお世話し、支え、守る役割を果たすのです。そしてその存在は、勇者と対をなすもの。リリアからヨーイチ様を紹介されたとき、この方は違う、と思ったんです」

「へぇ。じゃあ本物の勇者をみつけたとして、あんたはそいつをどうするつもりなんだ?」

「私、謝りたいんです!」

「は?」

「ロイド達に問い詰めたら、リリアはその方を追い出してしまったようなんです。本来なら勇者召喚に関する事柄は聖女である私の役目なのですが、私の力不足のせいでリリアに任せてしまいました。そのことを不満に思ったわけではないのです。ですが、その方が勇者様であろうとなかろうと、こちらの勝手でお()びしたのに、追い出すのはおかしい。だから一言謝り、せめてご不便があるなら今更ですがお世話させていただきたいのです」


ロイドって誰だっけ?


『リリアについて君の召喚に手を貸してた魔導師の1人だよ。水晶玉持ってきた』


ああ、あいつ。


『で、どうするの?謝りたいっていってるけど』


決まってんだろ。


「へぇ、そうなんだ。まあ、頑張れ」

『あ、いわないんだね』


当たり前だろ。


話きいてると聖女って特別な人間っぽいが、リリアにその役割を取られるくらい、こいつの立場は強くなさそうだ。そんな人間に世話になるのは逆に危険な気がするし、なにより俺は元の世界に帰る方法を探すんだ。旅に出るのに、城に戻ってどうするんだよ。


そしてなによりも、この女に関わるとろくなことがない気がする。


『あー、優人君の場合はそうかもね~』


「あ、あの……ものすごく図々しいお願いなんですが、この森の出口を教えてもらえませんか?私、城から出たことがなくて……」

「……」

「ごめんなさい!私が巻き込んだのに……」

「はぁ」


俺はため息をつく。リリアに一発は諦めなきゃダメかな。


「わかった。森を出るまでは案内してやる。街のほうにいきたいのか?それとも街道のほうか?」

「街道でお願いします」


いく方向一緒かよ。


「わかった。こっちだ」

『なんやかんや付き合ってあげるんだね』


……なんか、この姫危なっかしいんだよ。


『月夜ちゃんはどうするの?』


あいつは俺の居場所がわかる。そのうち追いかけてくるだろ。


これも契約の効果の一つらしい。

そう思って森を少し進んだそのとき、俺は森の中の、ほんの少し開けた場所で、地面をつついている鳥をみつけた。


「どうされたんですか?」


俺は無言でその鳥に近づくと、その首根っこを掴んだ。


「コ、コケェェ?」

「よし、夕飯の食材ゲット」


その鳥は見紛うことなき、鶏だった。

俺は空腹だった。ポルッポの肉も悪くはないが、たまには懐かしい味も食べたいというものだ。


「コケ!コケ!」


バサバサ羽ばたかせて逃げようとするそいつを、俺は離さない。


「え、それ食べるんですか?あれ、でもそれもしかして……」

『ゆ、ゆゆゆゆゆ優人くん!それ食べちゃダメだよ!それ僕の従魔(ペット)だから!君にわかりやすくいうと火の鳥っていうか、鳳凰っていうか!』

「はっ!だだだだダメです!食べちゃダメですそれ、聖獣ですよ!」

「は?」


俺は手にもつ鶏を見下ろす。チャボっぽいその体はまさしく鶏だ。まあ、羽の色だけは綺麗な金と紅蓮色をしているが。


「火の鳥っつーことは燃えるんだろ。燃える肉は焼き鳥じゃねぇか。食べる以外になんとする」

「ココココココケェェ……」


鶏は涙を浮かべた目で俺を見上げた。だが、その程度で屈していては俺は鳥を捌けない。


「ユートさん、食べちゃダメです!神鳥(しんちょう)が可哀そうですよ」


その言葉が放たれた瞬間、俺は固まった。そしてゆっくりと振り返る。


「……誰の、身長が可哀そうだってぇ?」

「ゴ、ゴゲェ……」

「ひっ!」

『優人君締まってる!首締まってるから!』


エレノアは怯えたように体を硬直させた。手に力が入りすぎて鶏が瀕死だ。嘴の先から炎が漏れている。


『優人君落ち着いて!身長じゃなくて神鳥(しんちょう)!字が違う!字が違うから!』


ウィンドウ画面には


『   身長→×

    神鳥→○  』


と表示されていた。それをみて俺は落ち着く。


「悪い、取り乱した」

「い、いえ……落ち着かれて何よりです」

『身長が優人君の地雷ワードなわけね』


はい、スルー。


「んで、神鳥ってのは?」

「はい、その鳥は神の使いたる……神鳥です。気配でなんとなくわかるんです」


そんな怯えなくてももうしねぇよ。


『いや、あれは怯えるよ。めっちゃ怖かったもん』


「でも、どうしてこんなところに?」


エレノアは首を傾げた。


で、どうしてこんなところに?


俺も心の中で復唱する。


『僕の従魔に来てもらったんだよ。僕はあんまり君に干渉できない。こうやっていろいろ話すことはできても、直接それ以外の手助けをすることはできない。暗殺者が襲った時も、僕が君を守れなかったようにね。だから護衛みたいなものとして、君の旅にその子も連れて行って』


ふーん、護衛、ね。


俺は鶏の首から手を離した。すると鶏は恐る恐る俺に近づく。


「あら?もしかして契約を望んでいるんですか?」

「コケェ」


それは俺を見上げた。なんか前にもこんなことあったぞ。


『本契約は僕と結ばれてるんだけど、仮契約ならできるから契約を結んであげて』


契約法ってのは……。


『もちろん、名前をつけることだよ』


俺は鶏をじっとみて考える。鶏は期待するようにみつめ返す。


「よし、おまえの名前はやきとりな」

「コ、コケェ?!」

「え?!」


仮契約なんだろ。深く考えた名前をつける必要はねぇよな。


『まあ、いわれてみればそうかもしれないけど……』


「神の使いと契約を結ばれるなんて、ユートさんはすごい方なんですねぇ」


そんなしみじみといわないでくれ。



《ステータス》



やきとり


HP  3200/3200


MP  6090/6090


TA  386/386


LV 38(98)


途中略


【魔法属性】 火光聖 


【称号】 聖獣・神鳥・神の使い・神の従魔・火の意志もつもの・まぬけ・やきとり


【スキル】


直観 LV100 索敵 LV98 


【職業】


《聖獣》《神の使い》《鳥》




そのとき、軽い爆発音が聞こえた。


「今の、城のほうからだな」

「っ!」

「気になるのか?」

「……いえ、今戻るわけにはいきませんから」


そうはいうものの、気になって仕方ないのはみていてわかる。


『優人君、実は言い忘れてたんだけどね、城にはリリアはいなかったんだ』


は?


『だってリリアだもん。パレードのほうに参加してるに決まってるでしょ』

「……」


もっと早くそれをいえ!


『全部教えたり、あれはダメ、これはダメ、っていってたら子供は育たないんだよ。大事なのは自分で思い至り、行動に移す自主性だ』


俺はあんたの子供かよ!


『だからね、ほら』


突然やきとりが光りだした。そしてその光は大きくなり、光がおさまると、目の前には巨大化してキラキラと輝く光の粒子をまとい、長い尾を風に遊ばせる壮麗なやきとりが佇んでいた。


「うわぁ。綺麗ですね」


今の姿なら、神鳥といわれても頷ける。

やきとりは足を折って俺に背をむけた。


「乗れっていってるのか?」

『リリアに一発いれておいで』

「にゃー」


そのとき、ちょうど月夜が帰ってきた。


「猫?」

「よし、いくぞ」

「え、どこへ?」

「さっきの爆発音、俺も気になるからな」











空を自由に飛びたいな、というのは人類の夢だが、ここまで壮観な飛行はそうないに違いない。

やきとりの背に乗って空を飛ぶのは思いの外気持ちが良かった。こいつが火の鳥なせいか、体がぽかぽかする。

上から見下ろすと、城はどうやら部屋の一部が爆破されたように壊れていた。


「あの部屋はリリアの部屋ですね。よかった、あの子は城にいないから。でも、他の人達は大丈夫かな」

「城に戻るか?」

「……いいえ」

「そうか」


月夜は無感動にそれを見下ろし、鼻を鳴らした。


『……あれ、月夜ちゃんの仕業だよね。実は主の身を危険に晒されて、かなり怒ってた?』






俺はやきとりに指示を出してパレードのほうにむかった。爆発音とはいっても、それほど大きなものではなかった。少なくとも、このパレードの歓声という名の騒音がかき消すくらいの大きさだった。


いずれ情報がいくとは思うが、まだリリア達は気づいていないようだ。


「エレノア、しばらく目を閉じてろ」

「え?わかりました」


エレノアは素直に目を閉じる。


「月夜、エレノアの耳を塞いでくれ」

「にゃー」


月夜がエレノアの耳を塞ぐのを確認すると、俺は一気に旋回してパレードの御輿に近づいた。それに気づいた観客達が、一斉に驚きの声をあげる。


俺は、ある程度顔を隠すためにフードを被ってリリアのいる御輿に一気に近づくと、やきとりに炎を吐かせた。


「っ!」

「よお、久しぶりだな、リリア」

「あなたは……」


咄嗟に水の壁で身を守ったようだ。エレノアと同じ色の髪は最初に会ったとき以上に飾り立てられ、まとうドレスは純白。しかし、リリアの髪とドレスは焦げていた。そして御輿に移り、思いっきりリリアの頬をひっぱたいた。


「おっさんの痛みはこんなもんじゃねぇぞ」


俺の目的達成だ。リリアは一瞬呆然としたあと、憎悪を浮かべた表情をした。


「……?」


俺は目をこすった。一瞬リリアの髪が赤毛になったようにみえたからだ。


「なにがあったんだ!」

「久しぶりだな、聖」

「……緒方?」


リリアとは別の御輿にいた聖がそこから降りて現れる。観客達はざわざわと指さして騒ぎ、護衛の騎士達も集まって槍を俺にむける。


「俺はこの国を出る。だけど、おっさんにはもう手を出すなよ。あんたが俺にしたこと、聖に知られたくなかったらな」

「っ!」


いろんな話を総合して考えると、リリアが俺を狙ったのはリリアが俺に対してしたことを聖に知られたくなかったんじゃないかと予想した。カマをかけたがどうやら正解みたいだ。確かに今、聖に悪感情をもたれるのは避けたいだろう。


リリアは顔を赤くしたり蒼くしたりしながら、わなわなと震える体を押さえた。衆人環視の中で髪を燃やされるというのはさぞかし屈辱だろう。髪は女にとって命といわれるし、皇族ならなおさらだ。


「聖ー!俺、旅に出るから」

「え?」

「じゃあな」


「っ!待ちなさい!その鳥はっ……!」


俺がやきとりの背に飛び移り、ぽんとやきとりの首を叩くと、やきとりは一声鳴いて一気に羽ばたきを強める。

ものすごい速さで地上が箱庭にみえるくらいの高度にくると、俺はようやく一息ついた。


「月夜ー、もう手を離してもいいぞ」

「にゃー」

「ん?なんだったんですか?」

「気にするな」


素直に目を閉じていたエレノアを森の出口に送るためにそちらにむかう。すると突然強風が吹いた。


『ヤバい時間切れだ!優人君早く!早く地上に降りて!』

「は?」


神のコメントに驚くと同時に、やきとりがぽんっと小さくなった。つまり俺達は標高何千mだか知らないが、そこで空中に投げ出されたことになる。

俺は咄嗟に全員を掴んで引き寄せ、傘を開いた。


すると少しだが、落下速度が遅くなる。だが傘を開いたことで強風に煽られ、流されていった。




『優人くぅぅぅぅぅぅぅん!』









わかる人にはわかってもらえると思うあのセリフ。わかった方はぜひ教えてください。


そしてリリアへの仕返しの件、ななめ(作者)に石投げないでくださいね!お願いしますよ!


副題 半沢勇者期待していた人を裏切ってすみません




このお話が今月の最後の投稿になります。ありがとうございました。

あと一話で勇者の箱庭編、完結です。






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[一言] 称号まぬけは神鳥が可哀想だよ!
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