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第百十七話 あらゆる場所で

「そう。大精霊たる妾達も、あなた達意思あるものも、山も木も石も水も、光や闇でさえ、母の体を構成する要素。究極的に言えば、あなた達にとってもあの方は母と呼べるかもしれないわね」

「あれが……」

 イネスはそれまでにない硬い表情で、大いなる意思が消えた場所に視線を注ぐ。

 彼としては、思うところが多く存在するのだろう。

「さて、妾達の事情はこんなところよ。……あらあら、そんな顔をしないで」

 沈鬱な面持ちの雪の女王と、テルマ達を見て、シルフは穏やかに笑う。

「あなた達が悲しむことはないわ。妾は風から生まれた。そして風に還るだけ。自然の循環の中に戻るだけで、存在しなくなるわけではないのよ。風はこの世界のあらゆる場所に存在している。目には見えないだけで、あなた達のそばにいることもあるかもね」

「でもでもでも……。……キエル、なにか思い浮かばない?」

 テルマは眉根を寄せながら、頼りになる弟を見上げるが、彼は首を横に振る。

「【母】とやらがこの世界そのものだというのなら、あれをどうにか……例えば戦って倒したとして、この世界そのものが消滅することになる。しかもさっきの姿は端末って話なんだろ。あれをどうこうしたところで、相手にとっては痛くも痒くもないってこったな。お手上げだ」

 イネスは肩をすくめた。複雑な思いが胸のあたりでざわつく。機械の体で心臓などないというのに、心はここにあると主張するのかと、新たな発見をしながら。

「いやいや、戦うとかそういうのは無しで、……例えば説得するとか!」

「【母】にはそんなん通じひんで。説得材料がそもそもあらへんやろ。そうやな……。人間で例えるなら、長くなって切った爪が、捨てんといて!って頼んできても、その言うこと聞いたりする?」

「え、つ、爪が……?想像するの難しいけどー」

「そうやろ。あんたらやうちらが【母】を説得するってのは、それぐらいあり得へんことってことなんよ」

「あり得へんことというか、例えの対象が私には難しかったというか……」

 テルマは苦笑した。やはり大精霊というのは人間と感覚が違うから、うまく共感できない部分もあるのだろうか。

 とそこまで話したところで、シルフは話を切り替えるように手を叩いた。

「さて、それよりもあなた達はどうしてここに?なにか用があってここに来たんでしょう?」

 テルマ以外の二人が顔をあげる。

「ああ、水精霊の御座ネストがここにくっついた気配があったから、様子を見に来たんだよ。残しておきたいもの以外はラティンタジェルを潰して埋める予定だから、そのことを伝えに来たってのもあるがね」

「潰すのか」

 イゼキエルがイネスに尋ねる。そのことを確かめるためにイゼキエルはここまで来たのだから。

「おう。あそこを残していた目的は達成したからな。余計な情報は消しとかねーと」

 ユートに会えた時点でイネスの心残りは解消された。異世界の技術であり、もはやイネスには管理することもできない技術がどういう影響を与えるかわからない。

 しかもあの二人組の悪事に既に利用されたともなれば、これ以上の流出は望ましくないだろう。

 趣味と実益を兼ねた巨大ロボは、炎の妹が生まれたことで雪の女王の力が安定した時点で、用済みだ。ルインの町に横たわっているものも、いずれこっそり回収する予定である。

「そうか」

「そういえばお前、遺跡探索に来てたんだよな?お前なら、手伝ってもらった礼も兼ねて、欲しいものがあるなら何でも持って帰っていいぞ。なんとなくしっかりしてそうだから心配しなくてもいいと思うが、管理はしっかりしてくれよな」

「わかった」

 ほんの微かに、テルマだけが気付けるくらい、イゼキエルの声が弾んでいた。

 喜んでいるらしいイゼキエルに、テルマはにっこりと笑う。

「よかったねー、キエルー」

「そういえば、魔技師の子。あなたの研究してたものはどうするの?ここに置いたままにしておいていいのかしら」

「ああ、まだここに置いておいてくれたのか」

 この家の隅っこに積まれた本をシルフが指す。

「あの本は?」

「ああ、ここに住んでた魔女についての研究レポート。俺が生前やってたやつな。千年も経つとさすがに劣化が激しいだろうが。あー、まあところどころ読めるか」

 イネスはゆっくりと本を拾い上げた。



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