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第百十五話 呼びかけに応えられないということ

ありがたいことに、捨てられ勇者は帰宅中は、3巻が9月1日にTOブックス様より発売します。待っててくださった方はありがとうございます。待ってなかった方は見捨てないでください。初めて知った方は、よろしくお願いいたします。

 線引きをするような態度に、テルマは首を傾げた。

「えっと、なにかあったんですかー?」

「……あんたらに話すようなことじゃないんよ。気にせんといてほしいの」

 テルマはずずいっと精霊達に近づく。

「ええー、だって、この状況ってすっごい気になりません?気にせんといてって言われたら、気になるのが人情ってもんですよ。それに、理由もわからずそういう態度を取られたら、こちらも戸惑いますし、お互いに事情を知れば、解決方法だって、一緒に考えられるでしょう?」

「あんたらは人間やん。うちらが今抱えてるんのはこっちの事情で、世界の裏側の話やねんで。知らんほうがあんたらのためでもあるんよ。それに、あんたらに話して解決策が見つかるとも思えへんし。今日会ったばかりのあんたや、知り合ったばっかのそっち二人も信用できんやん」

「何言ってるんですか!種族が違うからこそ、新たな発見や知恵がもたらせるかもしれませんよ?三人寄ればベネディクトの知恵って言うじゃないですか。ここには七人もいるんですよ!それに、さっき後ろの二人は恩人って言ってましたよね?」

「恩人とは言ってない」

「え、なにか助けられたって言ってませんでした?だったら、頼りにしてもいいのでは?」

 いつの間にかウナと顔がくっつきそうなほどテルマが近づき、ウナは身を引いている。

 その後ろで、イネスがこっそりと隣にいるイゼキエルに小声で尋ねた。

「ベネディクトって誰?」

「昔知恵の聖人と言われた人物」

 なるほど、とイネスは頷いた。

「それになんだか、ウナさん悲しそう」

 困り眉で問いかけるテルマに、ウナはウナは目を閉じる。そしてそれまで浮かんでいた感情の一切を表情から消した。

「ウナ、愛娘はともかく、後ろの二人は既にこちら側と言ってもいいと思うわ。魔力の子には少し申し訳ないけれど」

「あなた達に話しても、なにも変わらないわ」

 言葉遣いまで心を閉ざした様子のウナに、シルフは苦笑した。話さない、関わらせないのも水の大精霊の慈悲だとわかっている。けれど、精霊の愛娘は引く気配はないし、彼女が引かない限りは、魔力の子と呼んでいるイゼキエルも立ち去らないだろう。最初に会ったときの無感動さや拒絶感が薄らいでいるのは先だっての事件での関わりもあるだろうが、姉がいるからでもあるのではないかと、シルフは思える。

「……妾がもうすぐ消えるから、それを惜しんでくれているのよ」

 シルフが苦笑をにじませたままそう言った。

「シルフが消える?」

 一番に声をあげたのはイネスだった。人間よりの彼らの中で一番付き合いの長い彼だ。大精霊が消えることの意味について、彼の頭は回転しているのだろう。

「……大精霊が消えるなんてことあるのか?」

「大精霊が消える、というよりも、妾が消える、ということよ。正確に言えば、風の大精霊であるという自我が溶けて、この世界の風に混じるということ。消滅ではなく、この世界を取り巻く風に還るのよ」

「ええっと、つまり、私達が今シルフさんと呼んでいる精霊さんはいなくなっちゃう?」

「そうねぇ。自我が限りなく薄くなるから、例えばあなた達がシルフと呼んでも、妾自身がそれを妾だと認識できないし、応えられない。あなた達も、どの風が妾なのか、わからなくなると思うわ。特に風だもの」

「え、それはとても……寂しいですね」

「寂しくはないわ。完全に消えるわけではなく、あなた達の周りのどこかにはいるのだから。それに、新たなシルフが生まれる。妾が薄くなるだけで、シルフという大精霊は継がれていくのよ」

「でもそれは、【あなた】ではないでしょう?呼びかけても応えてもらえないのは、寂しいですよ。だから、ウナさんも悲しんでるんじゃないんですか?」

 それまでじっと成り行きを見つめていた雪の女王もうんうんと頷いている。

「……はぁ」

「ふふふ。妾達が生まれた頃は、こんな風に感じることはなかったのにねぇ。そんなに深くは無いとしても、あなた達意思あるものとの交流で、こういう感覚を持ってしまったというのは、不思議なことだわ」

「え?」

 ウナはため息をつき、シルフは微笑む。

 自然そのものである精霊は、本来自我の消滅に関して思うことはない。生まれて薄くなって還って再び生まれる。この流れこそが自然だからだ。

 だが、その中で個という自我が、長い時を経て様々な交流を通し、同胞が呼びかけても応えなくなるということを、応えられなくなるということを、寂しく、悲しみ、惜しむ心が育っていった。

 ウナもシルフも、まさか自分達がそんな感覚を有するようになるとは思ってもいなかった。



副題 水の大精霊は関西弁

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